2.美味しいスイーツは欠かせない
コートドール侯爵家の広大な庭の中にある、咲き誇るダリアに囲まれたガゼボ。ここはフラニータのお気に入りの場所である。
本日の3人の少女のお茶会は天気に恵まれ、この自慢のガゼボにアフタヌーンティーが用意された。
「聞きました?まあ聞きましたわよね」
「聞かずとも聞こえてきますわ」
「知らない人などおりませんわ〜」
「「「リレスタン様とエリザ様の婚約破棄」」」
「まさかですわ〜」
「まさかでしたわ。しかも学園の中庭で周りに人が沢山いる中で、リレスタン様が婚約破棄すると宣言したと聞きましたわ」
「しかもマリ様を次期王妃に相応しいとか言ったらしいですわよ〜。妃教育も受けてない男爵令嬢が王妃に相応しいって本気でおっしゃってるのかしらね〜?」
「それで、スペンサー家はどうなさったのかしら?」
「スペンサー家はもちろん不貞をしたリレスタン様有責の破棄なら認めると陛下に話したそうよ。ここだけの話、陛下からの謝罪とともに婚約白紙に落ち着いたそうよ」
「破棄ではなく婚約白紙になったのですね」
「まぁ本当は婚約継続を陛下は望まれたそうなんだけど」
「するわけないわよねぇ。元々王家の血の流れているスペンサー家ですもの。影響力も大きくて、今さら王家に入っても僻みが増えるだけでなんの得もないものね〜」
「スペンサー公爵閣下はお怒りだったけれど、結婚しなくて幸いだったといくつか条件をつけて婚約白紙ということにしたみたいよ」
「あらまぁ、実質王家はスペンサー家に頭が上がらなくなったわね〜」
「そしてエリザお義姉様は隣国へ行かれるわ」
「皇太子様のことがありますものね、やはりそうなりますわよね」
「寂しいけれど、お義姉様が幸せそうだから良かったわ。実は、というかやっぱりだけど、お義姉様は隣国の皇太子様のことお慕いしていたみたい」
「でもよく陛下がお許しくださいましたわね?さすがに妃教育を受けていながら隣国へ行くのは難しいと思っていましたわ」
「それが、条件のひとつよ。幸いまだリレスタン様が立太子していなかったおかげで妃教育は止まっていたの。隣国に出られないような情報はまだ教わっていなかったのよ。だからスペンサー公爵閣下がエリザ様が隣国に行くのを認めるようにという条件を婚約白紙の条件につけたのよ。閣下はエリザお義姉様のお気持ちを分かってらしたんだわ」
「エリザ様にとっては良い結果になったってことね〜」
「でも分からないのは、どうしてリレスタン様とマリ様が婚約ではなく、ロザリンド様と婚約という噂が出ているのでしょう?」
「リレスタン様が婚約破棄宣言をしたその日に、ロザリンド様とご両親のアルカナム公爵夫妻が我が家にいらしてね、セドリック兄様との婚約を白紙にしたいと言ってきたの」
「え?どうして」
「それがね、マリ様を王妃には無理だし、そもそも第一王子の立場すら危ういでしょう?だからロザリンド様と婚約して後ろ楯を得て、マリ様は側妃にとアルカナム公爵家は考えているようよ」
「それをリレスタン様はお認めに?」
「どうかしらね。そこまでは分からないけど、マリ様を王妃にと言ったということはご自分の立場が揺らぐことを分かっていなかった可能性があるから、アルカナム公爵の話に乗るかもしれないわ」
「ロザリンド様とアルカナム公爵夫妻の王妃への執念はすごいわねぇ。ちょっと怖いくらいだわ〜」
「婚約者候補にはなっても、お家から王家へ嫁いだ方はいまだいないからなのかしらね」
「かもね。婚約白紙の話をしに来た時も目が血走っていて怖かったわ」
「側妃でも妾でも、他に愛する人がいても良いのね〜。ロザリンド様は王妃という立場だけを愛してらっしゃるのね〜」
「セドリック様とロザリンド様の婚約も白紙なのですね?ロザリンド様有責の破棄ではなく?」
「アルカナム公爵がロザリンド様に瑕疵をつけないためにどうしても白紙にと。うちも条件をつけて白紙に同意したわ」
「その条件とやらは聞いてもよろしいのかしら〜?」
「そんなに大層なものではないわ。これまで婚約者であるロザリンド様にうちが支払ったお金を慰謝料として払っていただくことと、今後一切ロザリンド様はセドリック兄様に関わらない事。夜会等での必要最低限のみしか話しかけることも許さないと」
「話しかける事すらも制限をかけるなんて、セドリック様もきっと本当はお辛いのでしょうね」
「違うわイヴァンナ、兄様はロザリンド様に露ほども興味が無いわ。ご自分に興味を持たず、王妃の座を狙うことに命を燃やしているロザリンド様を婚約者にしておくのは都合が良かっただけ」
「そうなのですか?」
「そうよ。この条件をつけたのは、ロザリンド様が王妃になれる可能性が低いからよ」
「あら?リレスタン様が条件を飲んだら可能性はあるのではなくて〜?」
「だとしても、リレスタン様が立太子されるかは分からないわ。ロザリンド様はリレスタン様がお好きなわけではなく、王妃になりたいのよ。なれなかった場合、彼女が兄様と再び婚約したいと言ってくる可能性を潰しておきたかったのよ」
「あぁ、なるほどね〜。あのロザリンド様なら言いかねないわね〜」
「まぁロザリンド様のお兄様、アルカナム小公爵様は本当に素晴らしいお人柄で、先日我が家に一人で頭を下げにいらしたわ。両親と妹が失礼をしたと。ロザリンド様を我が家に今後関わらせることはない、と約束してくださいました」
「本当に親子とも兄妹とも思えないわよねぇ。一人だけ真面目というか、まともというか。次期公爵は安泰そうで良かったわ〜」
「兄様もそこは安心してましたわ。アルカナム公爵家が潰れても国としては困りますし、我が家と結婚という縁はなくなりましたけど、次期アルカナム公爵様とは仲良くやれそうで良かったとおっしゃっていたわ」
「アルカナム公爵家がお取り潰しになったら困るわ〜。だって今日のスイーツはアルカナム公爵領の特産のフルーツを使ってるのよ」
「そうでしたのね。このフルーツタルト絶品ですわ」
「ほんと絶品。やっぱりアルカナム公爵領のフルーツは美味しいわ。んふふ、実は兄様の婚約白紙に伴って、小公爵様とお約束したのはもう一つありますの。フルーツの取り引きに関してですわ」
「まぁ、なんて素敵な話なのかしら〜。それって美食で知られるベルメーレン公爵領で更に美味しいフルーツを使ったものが食べれるってことでしょ〜?」
「そうよ、期待していてちょうだい」
「楽しみですわ」
「ところで、このセイボリーのサンドイッチのパン、とても美味しいわ。いつもとは違うわよね?」
「さすがアニス。実はこれラグナル様から頂いたの。なんでも最近知り合った方の支援されているお店のパンで、美味しいからって持ってきてくださったのよ」
「まぁ、ラグナル様が?パンがお土産なんて珍しいけれど、とても美味しいわ。どこのなのかしら?」
「今日アフタヌーンティーをすることを知っていたからパンを持ってきてくださったのよ〜。スイーツは二人の好みが分からなかったからって」
「やっぱりラグナル様はフラニータのこと大切にしてくださっているのね」
「まぁ、そうなのかしらね〜?どこのパンか聞いたのだけど、ラグナル様もお知り合いから譲っていただいたからお店は分からないとおっしゃっていたわ。貴族御用達のお店ではなく平民が利用するパン屋だからとは言ってたわねぇ」
「へぇ。ねぇフラニータ、実はアルカナム公爵家からのフルーツでフルーツサンドを作ろうと思っているの」
「フルーツサンド?」
「フルーツと生クリームを挟んだサンドイッチよ。それに合うパンを探していたの。ぜひこのパンのお店を教えて欲しいとラグナル様に頼んでもらえないかしら?」
「分かったわ〜、ラグナル様に聞いてみるわね。その代わりそのフルーツサンド、できたら食べさせてね〜?」
「もちろんよ!お茶会で必ず出すわ」
「まぁ、私も食べれますわね。楽しみですわ」
噂話とスイーツはいつの時代も、どの年代も、お茶会にはかかせない。
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