第13章 山南敬介と今井恭子
山南敬介脱走3日前の朝。
わんわんとのりおは、いつもの様に山南の下に稽古に向かった。
新撰組の行事がなければ、稽古は毎日行われていた。
しかし今回はいつもと違った。
山南は2人の剣術のセンスを褒め称えた。
「2人は呑み込みが早い。もう私が教える事はないです」
2人は顔を横に振る。
「いやいやまだまだですよ」
「そんな事はないですよ。後は自分人身で腕を磨き己の限界突破を目指すのです」
「限界突破?」
「そうです」
山南はそう話すと持っていた手拭いで目を覆い隠す。
「さぁ鈴木さんその竹刀で私に仕掛けてください」
「え?」
わんわんは驚いた。
「目隠ししてる相手に攻撃しろって言われても...」
「大丈夫ですよ」
山南は微笑んだ。
言われるがまま竹刀を構えた。
山南は立ってるだけだった。
わんわんは困惑したが、言われるがまま山南の脳天目掛け竹刀を振った。
竹刀が頭に当たりそうなくらいで山南は1歩下がり、わんわんの1撃をかわした。
2人は驚いた。
見えない状況下でわんわんの放った竹刀を、紙一重でかわしたのだから当然である。
山南は手ぬぐいを外した。
「どうですか?あなた達はまだ目だけで、相手を追ってませんか?」
「はぁ...」
「剣術は周りの状況、相手の癖を把握し、自身の体全体を使って感じることが大事なのですよ」
「体全体ですか?」
「そうです。目だけを頼りにしてはダメなのです」
わんわんとのりおは吸い込まれるかの様に、山南
の話に耳を傾けた。
「相手から出る殺気を感じ、動いた時の空気を感じ、自然体で動かなければなりません」
「む、むずかしい」
「当然です。それを極めるには何十年かかりますからねぇ」
「何十年...」
「そうです、そのためには毎日毎日稽古を重ねていかなければなりません」
「先が長い...」
山南は2人目を見た。
「あなた方なら大丈夫です。私はあなた達の無限大の力を信じてますから」
山南が2人に何を教えようとしていたかは、この時の2人にはよくわからなかった。
そしてなぜ突然この様な事を言い出したのか不思議に思っていた。
この日の夕方に坂本、わんわん、のりおは自分達の邸で酒を酌み交わしていた。
麻美は近くのお店に買い物に出かけ、恭子は寝室で寝ていた。
そして今朝の山南との出来事を坂本に話した。
坂本にはわかっていた。
山南が隊を抜ける事がせまっている事を。
そして2人に話す事にした。
「なぁ?麻美と恭子に内緒にして欲しいんだけどさ」
「え?」
「お前らに言っておくわ」
「何をさ?」
「山南さん近いうちに新撰組抜けるよ」
「ええええええええええええ!!」
2人は同時に声を出し驚いた。
「抜けるってどうゆう事だよ!」
「そのままの意味だよ」
「でも抜けたらやばくないですか?確か隊を抜けたら切腹なんじゃないですっけ?」
「うん」
坂本は静かに頷いた。
「ちょっと待てよ!それお前知っててこのまま見過ごすつもりなのか?」
「仕方ないじゃないか!」
「もっさん!こればかりは見過ごせませんよ!」
「歴史を変えるわけにはいかないんだよ!」
2人は珍しく人の事で坂本と言い争いになった。
それもそのはず、坂本達は山南から何から何まで世話になって、しかもわんわんとのりおに関しては毎日剣術を習っており、剣術の師匠でもある。
その他にも山南の人柄や器の広さに人として尊敬していた。
「山南さんは脱走してどうなったんですか?」
坂本は少し間を置いてゆっくりと答えた。
「連れ戻されて2月23日に切腹する」
わんわんとのりおは驚愕する。
「おい!そんな話聞かされて俺らが黙ってると思ってんのか?」
「そうですよ!!」
「お前ら守屋や拓司と同じ道行くのかよ!!!」
わんわんは坂本の胸ぐらを掴んだ。
「あんなバカ共と一緒にすんなよ!」
「そうですよ!あんなのと一緒にしないでください!」
「だとしてもダメだって!!!」
「はいはい。もっさんは正しい正しい、偉い偉い。だけど今回は俺らの好きにさせてもらうからな」
今回ばかりはわんわんとのりおは引く様子もない。
坂本は大きくため息をつく。
「わからずやめ。まぁこうなる事はわかってたけどね。俺は歴史を変えるつもりはないからな!」
「ああ。わかってるわ」
「ただ、お前らが勝手に動く事に関しては俺は止められない」
「え?」
「山南さんは中山道と東海道が交わる、手前の大津で沖田さんに捕まったと言われてるけど、お前らが先回りして山南さんと会って逃さない様にね!」
わんわんとのりおは笑顔で返事した。
「オッケー」
2人は翌朝に大津に向かい先回りした。
今回ばかりは坂本も山南を助けたいという気持ちが強すぎて、歴史を変える事を容認してしまった。
それぞれがそれぞれの意思で動く事になる。




