第13章 山南敬介と今井恭子
1865年2月10日
近藤勇を筆頭に江戸試衛館の面々が京に来て約2年が経過しようとしていた。
最初近藤らが京に来た目的は将軍の警護である。
その数約250人と言われてる。
だが募集をかけた中心人物の清河八郎が幕府を騙し、京に着いた途端に尊王攘夷の先駆けとする浪士組に変えてしまったのだ。
そこに異議を唱えた近藤勇、芹沢鴨などが脱会。
そのまま壬生浪士と名乗り京に留まった。
しかしそこでも近藤派と芹沢派で割れ、最終的には近藤派が芹沢派を粛清し、近藤体制の下1本化となった。
池田屋事件以降、知名度が上がり隊士が増えていった。
志を持った人間でも欲が出てくると、その志も悪い方向に流れて行ってしまう。
近藤もその1人である。
幕府や会津に認められ、周りにチヤホヤされて有頂天になり、古参の進言も聞き入れなくなっていた。
新撰組には身分制度などはない。
実力があれば、新参でも上に上がれる。
しかし近藤は金持ちや身分の高い親や親類がいる者を、どんどん出世をさせて自分の周りに置いた。
そのため内部での揉め事も少なくなかった。
土方も頭を抱えていた。
土方は近藤を兄の様に慕いここまで着いて来た。
近藤を幕府の旗本まで出世させるのが目標である。
しかしここまで近藤が変わってしまっては、いつかしっぺ返しがくるのか心配でならない。
芹沢鴨がそうであった様に...
同じ事の繰り返しであると考える土方だった。
新撰組の状況の中、もう1人新撰組の先を心配する男がいた。
山南敬介である。
山南は今の新撰組を心の底から心配していた。
それと同時に自分の今の考えが新撰組の考えと変わってしまっていた。
何よりも名だけの地位。
もはや自分の居場所はここではないと感じていた。
そんな中、山南は恭子のお見舞いに邸を訪れていた。
恭子は養生のため、1日中布団の中で過ごしていた。
だが本日は体調も良く、縁側に出て座り込みながら外を眺めていた。
麻美に縁側まで通された山南は恭子と目が合うとニコリと笑い会釈をした。
山南も笑顔で軽く会釈する。
「どうですか?調子は?」
「はい。だいぶいいですよ」
麻美は山南に座布団を用意して気を利かし2人きりにした。
縁側に座ってると野良猫が2匹入って来た。
恭子が笑顔で「おいで」と手を差し伸べると猫は恭子に近づき、首を恭子の手で摩った。
2匹の猫はすぐさま恭子に懐く。
それを見た山南の心は癒された。
(なんとも不思議な女性だ)
恭子は猫の頭を摩りながら山南を見た。
「山南さん元気なさそうですけど何かありました?」
山南は目を下に背け苦笑いをした。
「あはは。恭子さんには負けましたよ。何でもお見通しなんですね」
「いやいやそんな事はないですよ。顔がお辛そうな感じがしたので...」
山南は目を瞑った。
そして何かが吹っ切れたのか語り出す。
「私は今自分がこの先どうすればいいのか迷っているんです」
「迷ってる?」
「はい。このまま新撰組の総長として、ただのお飾りとしてこのままで良いのかと...」
「アタシは難しい事は分かりませんけど、山南さんを必要としてる人が沢山いると思いますよ」
恭子は真剣な眼差しで山南を見た。
「それに少なくともアタシ達を救ってくれたのも山南さんですし、アタシ達は山南さんが必要ですよ。でも...」
「でも?」
「山南さんの人生なので山南さんの思う通りに行動すればいいと思います。そこで間違ったらまたやり直せばいいじゃないですか?アタシは応援しますよ」
山南は恭子の言葉が胸に突き刺さった。
そして笑顔を見せて答える。
「なんか貴女と話してると自分の考えが本当に小さく思えてきますね」
恭子は全力で顔を横に振った。
「ごめんなさい。なんか上から物いってる感じになっちゃって...」
「いえ。実に貴女との会話は楽しい。久しぶりに笑いましたよ」
2人は時間が許される限りお互いの事を話した。




