第11章 禁門の変
騒動の翌朝。
麻美は目を覚ます。
天井を見上げていた。
目をぱっちり開けて深くため息をついた。
「何でこうなっちゃったんだろう」
麻美の隣では坂本が寝ていた。
昨夜、坂本を追いかけた麻美は河辺で座って落ち込む姿を発見した。
麻美はその横に座る。
「ヨイショっと」
坂本は涙ぐんでいたが、恥ずかしさですぐ目を拭った。
「何泣いてるのよぉらしくないじゃん」
「うるせーあっちいけ」
「あ〜ひどいなぁ」
いつもなら麻美も言い返す所だが、今回は受け流した。
「ねぇ中1の時、もっさんとわんわんとキョーと4人で帰ってた時さ、わんわんが上級生に4人に絡まれた時の事覚えてる?」
突然昔話をする麻美。
坂本はもちろん覚えていた。
「あーあん時、わんわんがくそ荒れてた頃か」
「そうそう」
「あの頃のわんわんに寄り付くのって俺らくらいだったもんな」
懐かしそうに思い出す。
「確か堀さん達が絡んできたんだっけ?今じゃ考えられないくらい仲悪かったもんな」
「そうそう。あの時、絡まれてそれに巻き込まれた私が突き飛ばされて、膝から血を流した事覚えてる?」
「そんな事あったけか」
坂本はよく覚えていたが、忘れたふりをした。
「アタシが怪我した事に激怒したもっさんが、突き飛ばした相手に突っかかって行ったよね?」
「全然覚えてねー」
嘘である。
忘れる訳もない。
弱いくせに麻美が怪我した事で、我を忘れて突っかかって行き返り討ちにあう。
だが、殴られても殴られても何度も突っかかて行き「麻美に謝れ!!」と立ち向かって行った。
結局わんわんが全員をぶちのめして、麻美を突き飛ばした相手を土下座させて終わった。
わんわんは何故か警棒を所持していた。
ぼろぼろになり倒れ込む坂本に手を差し出した。
「痛てーよ...」
「巻き込んで悪かったな」
「全くだ...お前何人敵がいんだよ」
「さぁ?」
「お前いつか殺されるぞ」
「ふん。誰が殺されるか、運命は自分自身で決めるわ」
坂本はわんわんの手を握り起き上がる。
麻美は坂本の顔をじっと見つめた。
「もっさんありがとうね」
麻美の澄んだ目に照れ臭そうにする坂本。
「別になにもしてない」
わんわんは3人に頭を下げた。
「マジごめん」
「いいって気持ち悪いわ」
恭子は麻美の膝をハンカチで拭き、持っていた絆創膏を貼り付け、応急処置をした。
「ありがとうキョー」
「うん」
坂本はわんわん持ってる警棒を手に取った。
「お前いつもこんなもん持ってるの?」
「ああ。護身用じゃ」
「ご、護身用って...中1だぞお前」
「えーだって何が起きるかわからないじゃん」
「普通にしてればそんなのいらねーよ」
麻美と恭子は大きく頷いた。
しかし坂本は納得もしていた。
「まぁ確かに敵多そうだしな...お前が怖くて同級生もしかり、後輩ものりお君達以外は近づかないしな」
「えーこんなフレンドリーな人間いないやん。傷つくなぁ」
「んなアホな」
突然恭子は手を大きく横にパチンと合わした。
「ねぇ帰ろう」
笑顔でまとめた。
この邪気もない素直な笑顔に場の空気は一気に和んだ。
4人は言葉に出さずとも、友情は永遠に続くものだと思っていた。
そんな昔話を懐かしそうに話す麻美。
「あの時のもっさんかっこよかったよ」
笑顔で語る麻美を坂本はじっと見つめた。
「ねぇチュしようか」
「は?」
「ええやん」
「馬鹿じゃないの」
「マジだって元気づけてよ」
「はぁ???何馬鹿な事言ってんの」
突然の申し出に動揺する麻美。
「いいじゃん」
「やだよ」
当然断る麻美。
「ケチ!」
膨れ面で寝っ転がる坂本。
「あーあー!チュウすれば元気になったのになぁ」
寝転がる坂本の顔を見て仕方なくキスをする。
冗談で言った坂本は当然驚く。
2人は見つめ合いそして...
男女の関係になってしまった。
朝になり、麻美は勢いでヤッてしまった事を後悔していた。
今後の接し方も気まずくなる。
考え込んでいたら坂本が目を覚ます。
「おはよう」
「お、おはよう」
「ねぇ昨日のこと...」
「え?なんかあったっけ?」
気まずそうにする麻美に対して坂本は、平然としていた。
坂本は飛び起きて、颯爽に服を着た。
「あー俺行くわ」
「え?ちょっ、ちょっとどこ行くの」
「ちょっとな、あ、これ宿代ね」
麻美は色々考えてたのがアホらしくなった。
急いで部屋を出ようとした坂本は足を止めた。
「あっそうだ。わんわんに言っておいて、運命は自分自身で決めるって」
「なにそれ?」
「言えばわかるから、そんじゃな」
麻美は苦笑いをした。
「ふっ。なによあいつ。ワンナイトラブの相手じゃねーつうの」
しかし、再び戻って笑顔で言い放つ。
「昨日の事、よかったよ」
そう言い残すと再び出て行った。
麻美は顔を真っ赤にした。
「ちょ...バカァ」
勢いよく外に出て、坂本はある場所を目指して全力で走っていた。
何かを吹っ切れたようだった。
「おっしゃぁああやるぞぉぉ」
坂本は自分の行く末を腹に決めた。
行き先は新撰組の屯所である。
坂本は門の前で大声で叫んだ。
「おはようございます!!」
何事かと数人が出てくる。
その中に井上源三郎と原田左之助がいた。
原田はおかしなテンションになってる坂本に尋ねた。
「坂本くんどうしたこんな朝っぱらから」
「原田さんおはようございます。沖田さん居ますか?」
「ああ。総司なら居間で猫と...」
「居間ですね!ありがとうございます」
話の途中で坂本は居間に向かった。
勢いよく去って行った坂本を見て原田は呆気に取られていた。
「なんだありゃ」
居間に行くと、猫を撫でてる沖田を発見した。
「沖田さんおはようございます」
突然の来訪に驚く沖田。
沖田は池田屋で血を吐いた以来、療養中だった。
「おはよう坂本君どうしました?こんな朝っぱらから」
「はい。昨日ボコボコにやられてしまって...沖田さん俺に剣術を教えてください!お願いします」
「え?」
突然の申し出に沖田は驚いた。
「僕は今療養中ですよ」
「わかってます。基本的な事を教えてくれれば良いですので」
「基本って...」
沖田は刀を持って庭に歩き出し、そして庭に落ちている葉っぱを4、5枚拾い宙に舞わせた。
刀を抜き見えないスピードで2、3度斬った。
全ての葉っぱが半分に斬れた。
坂本は度肝を抜かされた。
天才沖田の剣術は華麗だった。
笑顔で沖田は坂本に言った。
「これができますか?」
「いや...」
「1枚でも良いんで、これが出来れば教えてあげますよ」
坂本は試しに挑戦した。
だが出来るわけもない。
刀を片手で持つだけでも重く、思い通りに振れない。
沖田は笑いながら囁く。
「腕の力に頼るからですよ」
「え?」
「刀はねぇ、身体全体を使って斬るんですよ。目、耳、腕、足を使うんですよ」
「体全体...」
「だから稽古が必要なんですよ」
坂本は大きく頷き、沖田に土下座をした。
「先生!自分考えが甘かったです。なんでもしますから弟子にしてください」
「なんでもって...」
「俺にはどうしても、守らなければならない相手とやらなきゃならない事があるんです」
沖田は困った表情をしていたが、坂本の目を見て真剣な表情に心を打たれた。
「わかりましたよ。坂本君頭を上げてください。僕は厳しいですよ?腐っても試衛館塾頭、新撰組1番隊組長ですからね」
その事は坂本が1番わかっていた。
「先生!よろしくお願いします!」
「よしじゃあ早速素振り1万回ね」
「え?」
「え?じゃあやめます?」
「いややります!けど竹刀がないですけど...」
「いりませんよ。竹刀を持ってると思って空でやってください」
「は、はい」
涼しい顔でとんでもない事を言う沖田だが、坂本の精神も鍛える必要があると考えていた。
沖田に直接弟子入りした事で坂本の精神力と剣術
が鍛えられる事になる。
山南敬介にはわんわんとのりお。
沖田総司には坂本。
本来なら絶対あり得ない組み合わせだが、これも運命がそうさせたのか、歴史の渦が彼らを大きく変えようとしていた。




