第8章 土佐勤王党
龍馬に逃げる事を勧められる寅之進は迷っていた。
もちろん内心は死にたくたい。
しかし自分が逃げることで、周りの人達に迷惑かけてしまう。
現代ならば躊躇なく逃げてるであろう。
しかしここは幕末である。
彼は武士なのである。
そして決断したのである。
「武市さん。わしは上士のところに行来ますき」
武市は涙を流しながら、寅之進の手を力一杯握った。
「すまん寅之進」
「ええですきぃ、これ以上わしの為にみんなを巻き込むわけには、いきませんきにぃ」
寅之進の決心に皆、返す言葉もなく泣くだけだった。
全員の涙を唆る中、騒ぎを聞きつけた守屋と拓司が息を切らせながら到着した。
守屋は寅之進の元に駆け寄り、寅之進の両肩を掴み、激しい口調で迫った。
「あんた何言ってんだよ!なんであんたが罪を受けなきゃならんのだよ!」
武市は守屋の肩に手を掛けた。
「やめぇや!寅之進は武士として当たり前の決断をしたがじゃ」
守屋は武市の手を振り払う。
「何が当たり前だ!大体おかしいだろ、山田を斬ったのは俺だろ!」
これには全員驚く。
龍馬は守屋に状況を説明する様に促した。
守屋は山田殺害の状況を皆に話して聞かせた。
「だから寅之進さんが、罪を受ける必要がないんだよ」
しかしそれでも、武市は寅之進を上士に引き渡す事を変える事はなかった。
今更その事実を上士伝えても、何も変わらないと思ったのである。
それどころか、守屋と拓司も罰せられる事になるため、これ以上被害者を増やしたくなかったのである。
武市は守屋と拓司の話を聞いた時、違う事を考えていた。
たった2年で武術の腕を上げ、更に何も躊躇いもなく人を斬った2人を武市は利用出来ると、無意識のうちに思ってしまったのだ。
少しずつ武市に牙が生えてきたのだ。
寅之進は守屋の言う事を、無視するかの様に武市に嘆願した。
「先生早よワシを上士の所に連れてってつかんさい」
「だったら俺と拓司も連れてって下さい」
龍馬は呆れ顔をした。
「おまんらぁが行ったらややこしくなるぜよ」
「ややこしく?そんな事はならないですよ。それに話し合う気はないですしね」
龍馬は頭を傾げた。
「じゃあ何しに行くがじゃ」
守屋は不気味な笑みを浮かべて答えた。
「全員皆殺しにすればいいんですよ」
龍馬達は驚き驚愕した。
「何を言っちょる!そがな事出来るわけないろう」
「そですか?やって見なきゃわからんでしょ」
突然邸中に笑い声響き渡る。
「はははははっっ!面白いのぅおんしゃ、よっしゃワシも行ったろ」
笑いの主は岡田以蔵だった。
それに釣られ数人の下士達も岡田に賛同した。
そして上士達の居る山田邸に向かおうとした。
慌てて武市と龍馬は守屋達を止めに入る。
「だめじゃだめじゃ!行かせるわけにはいかんきぃ」
入り口を塞ぐ形で守屋達を止める武市と龍馬、現場は混乱していた。
龍馬と武市は刀を抜いた。
「どうしても行くゆうなら、こん場でわしを斬ってから行くがじゃ!!」
守屋と拓司は躊躇なく刀を抜いた。
龍馬と武市を斬る気である。
互いに一触即発の状況であった。
だが....
「もうええ!!!!やめぇ!!!」
突然寅之進は大声で叫び割腹した。
一瞬の出来事だった。
いち早く龍馬は駆け寄り、寅之進を抱き抱え、大声で呼びかけた。
「寅之進!!!寅之進!!!」
寅之進は苦しそうにもがいてる。
「うぅぅっっか、介錯をぉぉはやくぅぅ」
龍馬は苦しむ寅之進を見て助からないと察した。
寅之進の腹部からは、夥しい血と内臓が飛び出していた。
「以蔵早よ楽にしてやるがぜよ...」
岡田は涙を流しながら頷き。
寅之進の心臓を刀で突いた。
「うぐっっ」
寅之進は絶命した。
守屋と拓司は全身の力が抜けその場に座り込んで、自分たちの無力差を痛感していた。
結局、喧嘩両成敗言う形で片がついた。
この事件がきっかけで、下士による土佐勤王党の立ち上げが早まる事になった。




