第9章 土佐勤王党
龍馬は山田邸に着き、正面から堂々と入って行った。
上士達は1人で乗り込んで来た龍馬に刀を向けた。
龍馬は両手を上げて笑みを浮かべた。
「ワシは武市半平太の使いで1人で来たがです。誰か話が通じる方、おりませんろうか」
龍馬は大声で叫んでた。
龍馬の声で後藤が邸から出てくる。
「おまん1人で来たがか?武市がなぜ来んきに?」
後藤は龍馬に尋ねる。
「いきなり武市さんを連れてきても、皆さんが殺気だっていたら、まとまる話もまとまらんきぃ、とりあえずワシが武市さんの名代で、来たがです」
その後藤の後ろで、吉田も黙って話を聞いていた。
後藤は龍馬に尋ねる。
「おんしゃ誰ぜよ」
「土佐藩郷士、坂本龍馬です」
吉田は一言ボヤく。
「坂本龍馬...」
後藤は話を続ける。
「ほいで、おまんらぁこの事どう落とし前をつけるがじゃ」
「ワシらぁは、何ちゃ罪もない忠次郎を山田様に斬り殺されたがじゃ、そん山田様も忠次郎の兄寅之進に斬られたがじゃ、こんでおあいこにしてもらえませんろうか?」
後藤は顔を怖ばめる。
「なんじゃと?おまん下士の命と上士の命が一緒じゃちぃ、言うがか?」
「そうですろ、同じ血の通った人間ですき」
後藤は激怒し刀を抜いた。
周りの上士達も龍馬に刀を抜いて詰め寄る。
「おまん自分が何を言ってるわかっとるがか?おまんらぁは山田以外にも、もう1人斬り殺してるじゃないがか、つり合いが合わんぜよ」
「ですけぇ、山田様が理不尽に、忠次郎を斬ったきにぃ、こがん騒ぎになったがじゃないですろうか?非は山田様にあるきぃ、こんでおあいこにしてつかんさい」
龍馬は臆せず堂々と主張した。
もちろん火に油を注ぐような発言に後藤を初めとする上士は怒り狂って、今にも龍馬に斬りかかる勢いだった。
「下士の分際で、上士の命が同じじゃと...」
後藤は力いっぱい刀を握りしめ、これ以上ない屈辱感を感じていた。
「許さん全員斬り殺してやるきぃ、まずはおまんからじゃ!!」
後藤は龍馬に斬りかかろうとしたその時であった。
「やめぇい!!!象二郎!!!」
後藤の後ろで話を聞いていた、吉田が大声で後藤を制止した。
後藤は後ろを振り向いた。
「おまんらぁ全員刀を収めや」
全員刀を収めずにいた。
吉田は言うことを聞かない上士に対し、更に強く叫ぶ。
「収めやぁ!!!」
吉田の迫力に負け、全員刀を収める。
吉田は龍馬に近づき歩く。
「ワシは吉田東洋じゃ、よかろう、おんしゃの話に乗ちゃるき」
「叔父上!!!」
龍馬は安堵した様子で笑った。
「本当ですろうか」
「ワシも土佐藩の参政じゃ、嘘はつかんきぃ、ただし山田を斬った下手人は引き渡すがじゃ」
龍馬は顔を拒めた。
「それはできませんきぃ、そがな事したらわしらぁは、必ず戦になってしまいますろう」
「ええから、武市にこの条件を持って帰りやぁ」
龍馬は納得はしてなかったが、これ以上刺激するのは得策ではないので、とりあえず戻る事にした。
吉田は龍馬が後ろ姿を見ながら、守屋の言った事を思い出していた。
「あん男が坂本龍馬か...」
寅之進の邸に戻った龍馬は、武市に吉田の条件を話した。
当然全員納得がいかない様子であった。
「なぜ寅之進を上士に渡さないければならんがじゃ!」
龍馬は目を瞑って黙っていた。
武市は決断を迫われていた。
ここで寅之進を引き渡せば、下士の連中が黙ってはない。
しかし引き渡せなければ、上士との戦は避けれない。
ずっと座り込み刀を抱えていた寅之進は決断をした。
武市の悩んでる姿や、殺気だったこの状況を見ていた寅之進は覚悟を決めて立ち上がった。
「先生!それに皆ほんま迷惑かけてすまんちゃ」
「何を言うがか、おんしは弟の仇を取っただけやきぃ、なぁんも悪い事はしてないぜよ」
「うんにゃ、先生の言う通り上士と戦なんてしちゃいけんがぜよ」
寅之進は武市に一礼した。
「先生、ワシを引き渡してつかんさい」
これには望月が声を荒立て反対する。
「何を言うがか!!そがなこと絶対だめじゃ!」
「亀、こうせんと、先生や皆に迷惑がかかるんじゃ、ワシが責任をとるがじゃ」
「だめじゃだめじゃ!!絶対いかんぜよ!!」
涙を流しながら望月は訴える。
ほとんどの下士達は望月に賛同している。
黙り込んでいた武市は決断した。
「すまん寅之進、それが一番の解決方法ながじゃ」
「先生!!!どおして!寅之進は悪くないですろう!」
「そがな事はわかちゅ!!!けんど上士と戦なんぞできるわけないろう!!」
武市は珍しく感情をあらわにする。
その気迫に負けたのか、全員黙り込んでいた。
この状況で一言も喋らなかった龍馬が口を開いた。
「寅之進、おんしゃ逃げやぁ」
龍馬の一言で武市は激怒した。
「何を言うが龍馬!!そがなことしたら、上士にたちまちに潰されるき!!」
「けんど、そうしないと寅之進は助からんき」
武市は龍馬に詰め寄る。
「おんしゃ自分が何を言ちょるかわかっとるか!!」
「武市さん命を優先にするがぜよ」
龍馬の案は武士からすれば不名誉であるが、全員寅之進を助けたいのが本音であるため、龍馬の案を否定する者はいなかった。




