第9章 土佐勤王党
拓司が中平を抱きかかえ、号泣してる中、遠くから忘れ物を、取りに帰った守屋が姿を現す。
守屋は何が起きたかわからなかったが、2人を見て、ただ事ではないと察し、急いで合流した。
血だらけの2人を見て驚愕した。
「お、おい拓司どうしたんだよ...何があったんだよ...なぜ忠次郎が...」
拓司は号泣して声が、出せないのか答えなかった。
守屋は中平の死顔を見て、涙が溢れてきた。
「忠次郎...どうして...」
この2年間ずっと一緒に居た友の死。
生まれた時代は違くても、この2年間は間違いなく、一緒の時を過ごしていた。
その友が目の前で死んでいる姿を見て、辛く胸が締め付けられる思いだった。
暫く2人の時が止まってる様な状態だった。
だいぶ、落ち着きを取り戻した拓司が、事の次第を守屋に話した。
話を聞いた守屋は感情が昂ぶり激怒した。
「鬼山田!!絶対許さない!」
そこに丁度、北添と望月が通りかかる。
中平の遺体を見て愕然とした。
守屋は事の次第を説明した。
そして、中平の遺体を北添と望月に頼んだ。
望月と北添は2人を制止しようとしたが、守屋と拓司は制止を振り切り山田の後を追った。
望月は北添に慌てて、武市と中平の兄寅之進に伝える様に言った。
北添は急いで武市のところに向かった。
北添が武市道場に向かってる途中に、寅之進と丁度出会った。
「おー佶磨じゃないがか、そがな急いで、どがんしたき?」
「と、寅之進!大変じゃ、忠次郎が斬り殺されたがじゃ!!!」
「な、なんじゃとお!!!!」
寅之進は慌てて中平の下へ向かった。
望月は中平を背負って運んでいた。
寅之進は望月の姿を見つけると、大声で叫んだ。
「忠次郎!!!!」
望月はその声に振り返り、ゆっくりと中平を下ろした。
寅之進は中平に駆け寄り、大粒の涙を流し何度も何度も中平の名前を呼んだ。
寅之進は怒り狂い、山田を探しに向かった。
一方山田は、酔っていたとはゆえ、初めて人を斬り殺し興奮していた。
相手が下士だった為か、堂々と道を歩き、一緒に居た上士と共に、まるで悪人を成敗したかの様に話していた。
「下士風情が偉そうに上士に逆らいおって、成敗じゃ」
土佐では上士が下士を斬り殺しても、殆ど罪にならない。
この風習が260年間、下士を苦しめてきた。
そこに拓司と守屋が2人を発見した。
山田の前に立つ守屋。
「まて!!!お前ら許さんぞ」
「なんじゃぃおまんらぁ」
守屋と拓司は怒り狂っていた。
「よくも忠次郎を!!!」
「なんじゃ、さっきの下士の仲間ぞね」
「なんで斬った!!!」
「ふんっ下士風情が上士に逆らったからじゃ」
拓司は睨みつけ叫んだ。
「あれは俺だろ!!!なんで関係ない忠次郎を斬ったんだ!!!」
「ふんっ一緒に居たき、同罪じゃ」
「許さない!」
拓司と守屋は刀を持っていない。
稽古で使ってる竹刀を手に持った。
これを見た2人は大声で大笑いをした。
「なんじゃおまんらぁ、刀も持たずに仇討ちかぇ」
「うるさい!お前はもうしゃべんな!!」
一言そう言うと、守屋は山田の喉目掛けて、突いた。
山田は喉を突かれて、後ろに吹っ飛び背中から地面に落ちた。
山田は苦しそうに咳き込みむ。
いくら竹刀とはゆえ、喉を突かれたら、只では済まない。
それを見たもう1人の上士が刀を抜く。
「おのれ!!!下士の分際でぇぇ」
上士は刀を振り回して、拓司と守屋に斬りかかった。
毎日毎日稽古してた守屋達に、なりふり構わず振り回してる刀が、当たる訳もない。
だが、相手は刀である為、もし斬られたら只では済まない。
喉の痛みから回復した山田も刀を抜き、目を真っ赤にして、守屋達に襲いかかる。
「下士の分際で許さんきぃ!!!」
「下士下士ってうるせーよ!!お前ら何様だコラァ!!」
守屋は山田の脳天目掛けて、竹刀を当てた。
山田は頭を押さえて激痛に耐えている。
そこに、寅之進が遠くから走ってきて、守屋達に加勢する。
「寅之進さん...忠次郎が...」
息を切らせながら寅之進は刀を抜く。
「話は後じゃ、仇を討つぜよ!!」
涙ぐむ拓司は一言返事をした。
「はい」
寅之進は上士に襲いかかった。
拓司は寅之進を援護するため、上士の背中目掛けて、飛び蹴りをした。
上士は、そのまま吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
寅之進は力一杯、背中から心臓を串刺した。
「ぐぶッッ」
上士は口から大量の血を吐き、一瞬で絶命した。
拓司と寅之進は、山田の下に行き3人で囲んだ。
山田は、臆して刀を捨て土下座し、命乞いをした。
「すまん!ワシが悪かったきにぃ、許してつかんさい!」
捨てた刀を拓司が拾い、問答無用に山田の喉を目掛けて斬り払った。
山田は喉を斬られ、大量の血が吹き出していた。
喉を押さえ、苦しそうにもがき苦しんでいる。
拓司はわざと浅く斬ったのだ。
もがき苦しむ山田を見て、寅之進は拓司にトドメを刺すように言った。
「もう楽にしてやるがぜよ」
しかし拓司は寅之進に、不気味に笑いながら言い放つ。
「こんなクズ、とことん苦しめてやればいい」
寅之進は背筋がゾッとした。
初めて人を斬った拓司の人格が、変わった瞬間だった。
守屋は拓司の刀を取り上げて、山田の首を刀で力一杯振り抜き、首を飛ばしトドメを刺した。
「拓司お前だけの罪にはしない、これは2人で殺したんだ。罪は一緒に背負っていく」
2人が結束した瞬間でもあった。
無惨な現場であった。
心臓を一突きされた上士の遺体と、頭と身体が斬り離された山田の遺体が転がっていた。
現状を見て寅之進は覚悟した。
仇討ちは武士としては誉であるが、ここは土佐である。
事情はどうあれ、下士が上士を討つなど、前代未聞である。
必ず大騒ぎになり、武市に迷惑がかかるのは目に見えている。
それよりも、この2人を巻き込む訳には行かない。
「拓司、守屋おまんらぁ早よ逃げぇやぁ」
「何言ってるんですか」
「こんまま居ったらおまんらぁにも、罪が及ぶがじゃ」
「何を今更...」
2人共覚悟の上だった。
「ダメじゃ、それに仇討ちを兄のワシじゃなくて、おまんらぁが討ったとなれば、ワシの面子にも関わってくるがじゃ」
「んーそうですか...わかりました。とりあえず、忠次郎の家で待ってますね」
そう言うと、守屋達はこの場から離れた。
寅之進は正直面子など、どうでも良かったのだ。
2人を巻き込まないようしたかったのである。
寅之進は、自分がこの先どうなるか、深く考えながら自分の家に向かった。
数時間経過して、段々大事になってくる。
下士が上士を斬り殺した事が、知れ渡り武装した、上士が山田の邸に続々と集結する。
一方下士も積年の恨みが重なり、寅之進の邸に集まりだす。
どちらも憤慨していて、いつ爆発してもおかしくない状況だった。
これが井口村刀傷事件である。




