第9章 土佐勤王党
望月は珍しい格好をしてる2人を、警戒していたが、ほっとく事も出来ずいた。
「おまんらぁここまで、どうやって来たかも、わからんじゃが?」
2人は静かに頷く。
「こんまでの事を話しちくり」
守屋は旅行の日の事を話した。
当然話は望月達に伝わらない。
「何をゆーちょるがか?車?なんじゃちぃかそれは」
守屋は困惑していた。
「何って言われても...車は車ですし...それにその言葉どこの方言ですか」
「ここは土佐じゃき」
拓司は首を傾げ、守屋に聞いた。
「土佐ってどこ?」
「高知じゃないかな」
北添は望月に呟く。
「亀、おそらく、こん2人は記憶が無くなっちゃせんきか」
「なるほどのぉ、じゃちぃ変な事を口走っちょったがか」
「そがなことより、そろそろ道場行かんといかんぞね」
「おーもうそがな時間かぇ、けんどこんコツらぁどがいしようかのぉ」
2人は道場に行く予定があるのだが、拓司達をどうしようか悩んでいたが、結局連れて行く事にした。
道場に向かう途中で拓司達は、不思議な光景を目の当たりにした。
馬や牛を使って荷車を引っ張ったり、ボロボロの服、靴など履いておらず、草鞋らしき物を履いている。
望月達と同じく髷をしている。
拓司達は目をやるところ、全て珍しく入ってくる。
暫くあぜ道を歩いていると、前から凛々しい格好した、5人と馬の上に乗って頭巾で顔を隠す者が、向かって来る。
それに望月が気がつく。
「チッ、上士じゃ」
望月は道の端に寄り、拓司達に触れ伏し頭を下げるように指示をする。
下士は上士が通る時、道を開けなければならない。
そして上士が望月達の横を通った時に、拓司達の格好に目をやり、立ち止まる。
「おまんらぁ妙な格好しちゅうがなぁ」
拓司は自分の顔を指で刺し自分かと尋ねた。
「ほうじゃ、おまんじゃ」
「え?普通ですけど...」
「どこが普通ながじゃ、そがな頭が黄色いもんがどこにおるがか」
困惑してる拓司達2人に望月がフォローした。
「こんコツらぁは、記憶が無くなってしもうて、何を聞いちょっても無駄ですきに」
「ほう記憶がぁのう...」
頭巾を被ってる男が拓司がしている、金色の腕時計に目がいった。
「小僧、そう腕にしちゅ物はなんじゃ」
「これですか?時計ですよ」
当たり前のように答える拓司。
「ちくと見せてくれんかのぉ」
「あ...はい」
拓司は腕時計を外し、馬上の男に渡す。
馬上の男は不思議そうに時計を眺めている。
「こん針みたいのは2つあるが、何の意味があるがじゃ」
「ん?時間を見るのに使うためですけど...」
「これが時計じゃと...すまんがこれをワシに譲って貰えんろうか」
「えー」
突然の申し出に戸惑ったが、望月達の反応を見る限り、渡すのが無難だと思い、渋々了承した。
「その方共、今度ワシの邸に来ぃやぁ、ワシは吉田東洋じゃ、必ず礼をするきに」
望月と北添はその名前を聞いて驚いた。
そう言い残すと、一行は立ち去った。
これが参政吉田東洋との出会いだった。
吉田と別れ、暫く歩くと武市道場と書かれた小さな道場に着く。
「ここじゃき、中に入るけんど、大人しゅうしちょれ」
望月は2人を見てそう告げる。
中に入ると、10人くらいが竹刀を振って稽古している。
それを腕を組みながら、正座して見ている男がいる。
入り口の前に立ってると、拓司達に気がつき皆、手を止める。
やはり拓司の金髪頭と服装が目立つのだ。
正座してる男が望月に話しかける。
「望月君、北添君その御仁は誰じゃち?」
「武市先生おはようございます。こん者らぁは、ゆんべ、浜辺で気を失ってき、2人で助けたとです」
望月は恐縮しながら話した。
この道場の主、武市半平太である。
武市は拓司と守屋に暫く目をやり、話しかけた。
「おんしらぁ面白い格好をしちょっるのぉ何処から来たがじゃ」
拓司は戸惑いながら答えた。
「それがよくわからないですよね。愛知県から京都に向かってて、何故か高知県に居て...」
「愛知県?何処ながじゃそこは?」
「どこって言われても...」
望月は武市に2人は記憶喪失ではないかと伝える。
「記憶がないがか?」
「恐らく、そうではないですろうか」
そこに、もう1人男が道場にやって来る。
背の高い髪天然パーマかかってる男。
坂本龍馬だ。
坂本龍馬はちょっと前に江戸の北辰一刀流小千葉道場に、剣術留学をして帰国したばかりだった。
「おまんら、入り口で何をしちゅーがか」
「おお龍馬かえ」
「おまんらまっこと、面白い成りしちゅうきにゃぁ」
ここでようやく守屋が、事の重大さに気がつき始める。
(この龍馬って人の顔、見たことあるぞ...坂本龍馬の事か?ひょっとしてここ幕末の土佐じゃないのか...そんな事あり得るのか...でもそうだったら話が通じない訳やこの人達の格好も説明がつく...くそ教科書の知識でしか幕末は知らん...もっさんが居ればなぁ...あっそうだ...確か龍馬って黒船を...)
守屋は戸惑いながら龍馬に質問する。
「すいません龍馬さん、黒船は見ましたか?」
守屋の唐突な質問に戸惑ったが、龍馬は笑みを溢して答える。
「数年前江戸に行った時、見ちゅうぜよ」
守屋は驚き顔を拒めた。
(やっぱりそうかぁ俺ら幕末に、タイムリープしたんだぁぁ)
龍馬は守屋の顔を覗き込むように、問いかけた。
「大丈夫かぇ、どうしたんがか」
守屋は暫く考えて事をしていたが、龍馬の問いかけに気がつく。
「え?あ...はい。大丈夫です」
守屋は自分達がかなり危険な場所に居ると、実感したのだ。
龍馬は守屋と拓司が気になってしょうがない。
「まっこと不思議な格好じゃのぅ」
守屋はここで変に反応しても、自分達が窮地に追いやられる事を恐れ、当たり障りないように心掛ける事にした。
幸い記憶喪失だ思われてるので、それに乗っかる事にした。
「すいません。あんま覚えてなく...」
「記憶がないがか...これからおんしらぁどうするがじゃ」
「わかりません」
龍馬は頭を斜め上にして考える。
「んー。どうしようかのぉ、亀おまんのところで、面倒みちくりや」
「えー。ウチは狭いき」
「ほいたら、佶摩おんしの所はどうながじゃ」
「ワシんとこも同じぜよ」
龍馬は守屋達の住む家を、なんとか見つけたく悩んでいた。
それを察して守屋が恐縮して断った。
「大丈夫ですよ。自分達でなんとかしますから」
龍馬は首を横に振る。
「うんにゃ、それはできんぜよ。困っとる人間をほっといては、土佐人としての面目が潰れるき」
龍馬と一緒に考えていた武市が、思い出したように口を開いた。
「そうじゃ、中平君」
そういうと、武市は稽古中の中平忠次郎を呼びつけた。
中平は稽古で流した大量の汗を拭きながら、武市に尋ねる。
「先生なんですろうか」
「中平君確か君は、昨年ご両親が相次で亡くなり、今は1人暮らしじゃなかったぞね」
「はぁ、そんですけど...」
「すまんが、こん者ら今住むとこがないき、暫く置いてもらえんろうか」
「ワシんとこですか...」
龍馬は中平の両手を勢いよく握りしめた。
「ワシからも頼むき、困った時はお互い様って言うじゃろう」
中平は少し戸惑っていたが、武市と龍馬の頼みを断れずに、渋々了承した。
守屋と拓司は中平に深々と頭を下げた。
しかしこの中平との出会いが、この先2人の運命を、大きく大きく変える事になるとは、夢にも思わなかった。




