第9章 土佐勤王党
一方守屋達はと言うと...
池田屋から離れ、朝になり2人は近江屋に来ていた。
近江屋は醤油商でよく浪士が宿屋としていた。
近江屋の入口を力強く叩く。
中から主人が出てくる。
「どちらさまで...おや?守屋さんじゃないですか」
「龍馬さんはおるかえ?」
「へい。いつもの部屋におりやす」
2人は邸の中へ入る。
階段を登り、奥の部屋に向かい襖を開ける守屋。
「龍馬さん入るで」
部屋に入ると出窓に座り、外を見てる男がいた。
もじゃもじゃ頭で目が細い男が守屋達を見た。
あの幕末のスター坂本龍馬だった。
「ん?おお。守屋と拓司か。色々大変じゃったみたいやな」
「そがなことはどうでもいいき、なんですろうか?龍馬さんがワシらを呼んじょるって、半次郎さんが言っちょりましたきに」
守屋は少し苛立っていた。
龍馬は笑いながら答えた。
「まぁそういきりたつなぁちぃ」
「ワシはアンタが気に入らんき、なにがこれからは船じゃ。そのせいで、亀さんも佶摩さんもやられてしもうったがじゃ」
「なぜそうなるぜよ」
守屋は龍馬の態度に嫌気がさしていた。
「亀さんらぁが長州と手を組んだのも、アンタに愛想が尽きたからじゃ」
「なぜそがに死に急ぐがじゃ?」
「死じゃと?死なんか恐れてないき、ワシらは東洋を殺した時、決めたながじゃ」
「やっぱり東洋を暗殺したのは、おまんらか。なぜじゃ、東洋はおんしゃらぁを可愛がっちょったじゃないかぇ」
「そうじゃ。それを利用したがじゃ」
守屋達に何があったのか、それは1862年4月6日、約2年前まで話は遡る。
土佐 武市道場にて。
30人は居るだろうか、竹刀で大声を出しながら稽古をしている。
その中に、守屋や拓司も居た。
2人は真剣な眼差しで竹刀を振っていた。
中央には腕組んで稽古を見守る男が居た。
男は全員にハッパをかける。
「おまんらぁぁそんなもんかえぇぇ。そがな腕じゃ異人と戦っても勝てんきぃぃぃ」
その男のかけ声と共に全員気合いが入る。
全員稽古に没頭する中、1人の男が道場に入ってくる。
全員竹刀を止めて、一礼する。
「先生ぃぃぃ」
先生と呼べれる男こそが、土佐勤王党党首の武市半平太である。
武市半平太、身分は白札。土佐藩では身分は制度が厳しく、武士は上士と下士に区分され、下士は武士であって武士ではない。
関ヶ原の合戦までは、土佐は長宗我部家が統治してたのだが、石田三成の西軍に付いたが敗北後、徳川家康より領土没収、その後山内家が土佐を収めることになったのだが、長宗我部家の家臣が下士、山内家の家臣が上士と位置付けられたのである。
その厳しい身分制度の中で、白札とは準上士とされている。
武市半平太は準上士でも下士の者達にも、分けへ立てなく接していた。
そういうこともあって、下士の者達も慕われていた。
稽古が終わり、武市は全員を座らせ、時勢について語った。
「皆の者、今我が国は幕府の弱腰のせいで、異人に日本が乗っちょられつつあるきに」
「先生ぃワシらは、どうすればええですろうかぁ」
「そがな事は簡単じゃ、今こそワシら土佐勤王党が中心になって幕府に攘夷を実行させるがぜよ」
「先生ぇやっちゃりましょう」
歓喜に沸く。
しかし武市は顔を強張っていた。
「けんど、今の土佐の上層部の考えじゃ、攘夷実行は無理じゃき」
「なぜですろうかぁ」
「土佐実権を握っちょる、参政吉田東洋のせいじゃ」
吉田は、土佐の事実上トップである。
安政の大獄で謹慎になっている、前藩主山内容堂から、大きく信頼され、参政に任命されていた。
参政とは、藩主の代行、藩の最高責任者とされている。
吉田の考えは、開国論者で、公武合体を推奨してる人物で、武市とは全く逆の考えであった。
いくら武市が土佐勤王党の党首でも、参政の吉田に敵うわけないのである。
武市が土佐実権を握るには、吉田が邪魔なのである。
土佐上層部の中には、吉田の考え方に、意を唱える者もいるのだが、事実上最高責任者の吉田に到底及ばず、裏で武市と繋がってる者もいた。
その裏で武市と組んでいた中心人物が、家老柴田勝守であった。
柴田は公武合体や尊王攘夷の中間くらいの考え方、すなわち保守派であるのだが、吉田とは政敵である。
武市を操り、何とか自分が土佐の実権を握ろうとしていたとも言われている。
こういった関係性から、武市と吉田には溝が大きく深まっていた。
武市は長州の過激浪士とも繋がっており、時間があまりなく、焦っていたのである。
追い込まれた武市は、吉田の暗殺を考えていた。
後はそれを誰に、やらせるか考えていたのである。
暗殺に失敗すれば、自分の行く末は決まっている。
すなわち死である。
なので、慎重に事を運ばなければならない。
口が堅く信頼でき剣術に優れている者を、選ばなければならない。
この吉田の暗殺には、この後京で暗躍する岡田以蔵が関わっておらず、なぜ岡田が選ばれなかったのか疑問視されていた。
恐らくは、この頃武市は岡田を、あまり重要視していなかったのではないだろうか。
武市は道場の皆を帰した後、正座して腕を組み考えていた。
そして、側近でもある平井収二郎を呼び、決断する。
平井収二郎が武市に呼ばれ部屋を訪れる。
武市は顔を強張らせながら、正座していた。
「先生お呼びですろうか」
「平井くん今、現状では土佐藩を攘夷に、踏み切らせる事ができんぜよ」
「やはり吉田東洋ですろうか」
「そうじゃ、吉田が土佐の実権を握っちょる限り、ワシらには何も出来んがぜよ」
平井は顔を下に向ける。
「やはり吉田をやるしかないがぜよ」
「やはり...そうするしかないですろうか...」
武市は力強く頷く。
「けんど、誰にそがな大役を...万が一仕損じったら、終わりですき」
「そこながじゃ、口が固く剣術に長けてる者じゃ」
「やはり龍馬しかおらんですろうか」
「無理じゃき、脱藩してどこにいるかもわからんぜよ」
平井は頭を抱えた。
だが武市は考えた末、3人の名前を挙げた。
「那須信吾君大石団蔵君安岡嘉助君を呼んじくり」
「あん3人で大丈夫ですろうか」
「大丈夫じゃ、剣術は元にあん3人は口が硬いき」
「わかりました。では早速呼んできますき」
平井は部屋を出て3人を呼びに行った。
暫くすると平井は3人を連れてきた。
そして吉田東洋暗殺の計画を話す。
もちろん武市の為なら、何でもやる覚悟の3人は、快く快諾した。
武市は不安でいたが、もう後には引けない覚悟で勝負にでた。
この話を違う部屋で、盗み聞きしていた男達がいた。
拓司と守屋だった。
2人は部屋を離れ、別の部屋に行き2人で話し合った。
最初に口を開いたのは守屋であった。
「なぁどうする?」
「暗殺するって言ってたな」
「吉田のおっさん....良い人だしなぁ」
「なら伝えるか」
「いや...武市さんがやる事は邪魔出来んし、他の奴に吉田のおっさん取らせるなら、俺らがやろうぜ」
守屋は拓司に強い意思で語った。
拓司も頷き心に決めた。
なぜこの2人はそこまで武市を慕うのか、なぜ吉田東洋を知ってるのか、これより更に3年遡る。
1859年6月 土佐 桂浜周辺。
満遍な青空の元、美しい海が広がり、穏やかな波音が静かに聞こえ、その上をカモメが群れをなして、飛んでいる。
その静かな波音で拓司が目を覚ます。
状況が把握できない拓司は、暫く目を開けて天井を見つめていた。
そして、我に帰りムクっと起き上がる。
「どこだここ?」
周りを見渡した。
家だろうか、ぼろぼろの小汚い6畳くらいの部屋に寝ていた。
その横には守屋の眠っていた。
「健、起きろって」
拓司は守屋の体を強く揺すった。
強く揺すられたせいか、目を覚ます守屋。
「んん?何?どこ?」
守屋も見覚えのない所に気がつく。
「わからん。起きたらここに居た」
「もっさん達は?」
「知らん、居ない」
「あの高速での雷から記憶がない」
守屋は窓から外を眺めた。
「なぁ、う、海?」
拓司も窓から外を眺めた。
「本当だ。なぜ海があるんだ?」
「マジどこだここ?」
2人は暫く海を眺めて途方に暮れていた。
すると部屋のドアが開いた。
髷をし、服装も見たこともない格好をしていた。
男は陽気に話しかける。
「おーおまんら目が覚めちょったがか」
2人は動揺して答えなかった。
「おまんらどっから来たがじゃ」
「愛知県です」
守屋は狼狽ながら答えた。
しかし男には通じない。
「どこじゃそこ?」
「どこって言われても...」
男は更に質問する。
「なぜ浜辺で倒れてたのじゃが?」
「え?そうなんですか?」
「そうじゃ。ワシと佶藦でここまで運んで来たながじゃ」
全く記憶にない2人。
「おんしら名前はなんちゅうがか」
2人は自己紹介をした。
男も自分の名前を語った。
男の名前は望月亀弥太だった。
あの池田屋事件で長州藩邸まで助けを求めに行き、聞き入れて貰えず、その場で自害した男だった。
暫くすると、もう1人部屋に入って来た。
そのもう1人が同じく池田事件で斬られた、北添佶藦だった。
そう拓司と守屋が最初に助けてもらったのが、この2人であったのだ。
望月は拓司と守屋に不思議そうに質問する。
「おまんらぁ不思議な格好しちょるきにゃぁ」
坂本達と同じく、ここが幕末だっと知らない拓司と守屋だったので、望月達が何を言ってるのか理解出来なかった。
もしこの2人に坂本と同じ位の、幕末の知識を持っていたら、この先の困難を回避出来たかもしれない。
特に土佐藩は身分の差が激しく、それが拓司と守屋を大きく変えてしまうことになるのだが、この時の2人からは、まだ想像出来なかったのである。
岡田以蔵 坂本龍馬 武市半平太 中岡慎太郎 吉田東洋 山内容堂と言った、幕末の土佐を代表する人物達の歴史をも、大きく変えてしまう事になるとは、この先夢にも思わなかった。




