第16章 それぞれの道
沖田は部屋に戻り激しく動いたせいか、咳き込んでいた。
そこに土方が訪れる。
「総司入るぞ」
「どうしました土方さん?」
沖田は笑みを浮かべた。
「さっきの突きはやりすぎではないか?」
「ああ、あれですか」
「なぜあそこまでムキになったのだ」
「別にムキになってないですよ。師匠からの愛の伝授ですよ」
「ふっ」
「でも坂本君やりますよ?」
「どういう事だ?」
「突きに行ったあの瞬間...」
沖田は途中まで言いかけやめた。
「総司?」
沖田は障子を全開に開け外を眺めた。
「土方さんいい天気ですよ」
「総司...」
「土方さん僕は後どれくらい生きれるんですかね」
「何を馬鹿な...」
「ふふふ。嘘下手ですねぇ」
沖田は自分がもう病魔に侵されていて、死期が近い事を悟っていた。
「僕はねぇ土方さん自分が生きた証を残したいんですよ」
「証?」
沖田は自分の刀を持ち鞘から抜いた。
名刀菊一文字である。
「坂本君達は実に面白い人達ですよ。私は託してみたくなったんですよ」
「あいつらにか...」
「僕は坂本君に全てを託してみようと思います」
「あんまり無理するなよ」
「わかってますよ。それより土方さ....んぐっっゴホゴホゴホゴホッッッッ」
「総司!!!」
沖田は真っ赤な血を吐血し気を失った。
「誰か医者を呼べ!!!」
土方は大きな声を張りあげ隊士を呼んだ。
縁側で気絶していた坂本が目を覚ました。
「んー」
「お、気がついたか」
「デッカい太巻き!!」
「お前それ好きだなぁ」
「あれ?痛ててっ」
坂本は胸を押さえた。
「そりゃ痛いだろう。思いっきり胸を突かれたんだからな」
「ああ。そうか突かれたんだっけ?」
「あの3段突きは反則だよな」
「見えんかった」
のりおは坂本にひとつ尋ねた。
「もっさん沖田さんに突かれる瞬間、後ろに飛びませんでした?」
「ん?ああ?やられると思ったから、後ろに飛んで少しでもダメージを軽減しようとしたんだよ」
わんわんは驚きを隠せなかった。
(なんて奴だ...あの一瞬でそこまで...それにそれをのりお君もよく見てたな...こりゃ俺もうかうかとしてられないな)
沖田が吐血をして、慌ただしくなる隊士達。
「なんだ?何があったんだ?」
丁度藤堂が通りかかり事情を聞くべく、のりおは引き留めた。
「藤堂さん?何かあったんですか?」
「沖田さんが吐血したんです」
「えええ!」
藤堂を先頭に坂本達も沖田の下に向かった。
丁度その頃、近江屋を拠点とする坂本龍馬の下に守屋と拓司が訪れていた。
この頃の龍馬は神戸海軍操練所の廃止、薩摩藩の支援により長崎で亀山社中を設立といった、龍馬の人生を大きく変える出来事が起こっていた。
龍馬はこの日の夜に長崎に向かうため、身支度をしていた。
階段を勢いよく上がってくる2人は龍馬の居る部屋に入ってくる。
「龍馬さん!どこにいくがぜよ?」
「なんじゃ騒々しい奴らじゃな、今夜長崎に立つがじゃ」
「あんた!武市さんや以蔵さんを見捨てる気がか!!」
「もう手遅れじゃ」
「何をゆーがか!!」
「この間、姉やんから手紙が届いたがじゃ」
龍馬は姉の乙から届いた手紙を守屋達に見せた。
その内容は以蔵が拷問に耐えきれず、自分が行って来た事を自白し、その結果、多数の土佐勤王党の捕縛者が出て、壊滅状態になったという内容だった。
「こんで武市さんや勤王党の連中の死罪は免れんき...」
「嘘じゃ!こがな事あっていいわけないき!!」
「武市さん達はやり過ぎたがじゃ」
守屋は少し考え龍馬に進言した。
「龍馬さん!薩摩と長州じゃ!この2藩と組ませるがじゃ!」
守屋は切羽詰まり禁じ手を使う。
しかし守屋の知識は学校で習う程度しか無かった。
1866年に龍馬の仲立ちで薩長同盟が結ばれるが、それを早めようと考えたのだ。
しかしここまでの過程は学校ではほぼ習わない。
この時、龍馬と盟友の中岡慎太郎は薩摩と長州を結びつける為、薩摩の西郷吉之助(後の高盛)を、長州の桂小五郎(後の木戸孝允)と引き合わせるため、長州の下関で会見目前まで漕ぎ着けた。
だが下関目前で意図は不明だが、会見をすっぽかし、大久保一蔵(後の大久保利通)の居る京に急遽方向転換してしまう。
これにより長州藩の面子に泥を塗ることになり、長州の怒りを更に買ってしまった。
無論坂本ならこの事を知ってるであろうが、守屋はその事を知らないのである。
「ダメじゃ、この間2藩を取り持とうとして、失敗したばかりながじゃ」
「諦めるにはまだ早いがじゃ、この2藩をくっつければ、長州と仲のええ武市さんの力が土佐も必要になるきに」
「考えはええんじゃが、もはや犬猿の仲になってしまった2藩を組ませるのは無理ながじゃ」
「そがな事はないぜよ!龍馬さんならできるきに!」
龍馬はため息を吐く。
「無理なものは無理じゃ、もう少し時間が掛かるきに」
「ぐっ!」
守屋は拳を強く握りしめた。
そしてある決断をした。
「ならワシら2人で土佐に戻るきに」
「馬鹿なことを言うなや、殺されるに行くようなもんやきに」
「それでも行くき!拓司いくぞ!」
「おい!」
2人は龍馬制止を無視し土佐に向かった。




