幕間A 文化祭
魔術大会が終われば次は文化祭の季節だ。
生徒たちは教室で準備に取り掛かる。
「なにそのセンス。パンクロックフェスの会場じゃないんだから」
「あぁ? かっこいいだろうが! テメェこそなんだ、その安っぽい紙輪は! 引きちぎってやろうかァ?」
「やめてよその言い方。羽むしられてるみたいで嫌」
「白鳥の乙女気取りか? じゃあ、湖に帰りやがれ!」
「もちろん帰ります。私こそが白鳥の化身」
学ランを着たロジェと、口撃を飛ばし合いながら、仕事を取り合う。
「まあまあ、飾りつけはあたしに任せて」
結局、エレナが全部きれいに仕上げてくれた。
皆で協力する様を、教師は皿のような目つきで、傍観する。
自らを観察者として定義するかのような態度だった。
当日が訪れる。
クラスの出し物はカフェだ。
意外にも料理がうまいロジェ。
サクサクと具材を刻み、プロ顔負けの品を量産する。
ウイエはぽかんと見ていた。
昼間の学校。
ウイエはアルフと一緒に、売店を巡る。
一通り買い食いをして、廊下を渡り終え。
行き着いた体育館では、劇が上映していた。
場面はちょうど、勇者がドラゴンと姫の間に割って入るところだ。
ステージで木製の剣を向ける。
金メッキの安っぽいきらめき。
ウイエとアルフは下の席から見守る。
「どうしてドラゴンっていつも悪役なんだろう」
つい口走ったのは純粋な疑問で、答えは求めてなかった。
アルフは律儀に答える。
「ドラゴンは大地の化身。人類が越えるべき壁としてあるように、手配された存在だからな」
喜々とした口調だった。
ちらりとアルフを覗き込む。
彼はステージのさらに奥を見据えていた。
「その役目から解放されたら、ドラゴンとも仲良くなれるかしら」
眉を寄せ、つぶやいた。
頭をよぎったのは、滝壺の龍。
「ありえないよ。ドラゴンはドラゴンのままだから」
淡々とした答えが横からかかる。
アルフは眉一つ動かさない。
確信を得た目つきに、影が掛かる。
ウイエは一度唇を引き結び、すぐに口角を上げた。
「さあ、明日はパフォーマンス。頑張らなくっちゃ」
あえて明るい声を出し、切り替える。
周りではパチパチと拍手の音が響く。
暗転したステージには、幕が降りる。
劇は終わりを迎えた。
日が落ちてあたりは静まり返る。
明るくなって青い空の下には、学生が戻って来た。
ブレザーの集団に混じって、品のよい格好をした大人たちも、校内を歩いて回る。
最終日の昼間。
ウイエたち四人はステージに上がる。
手首にはおそろいのミサンガ。
エレナがばら撒いたもので、以前アルフから受け取ったビーズを、編み込んである。
なるほど、こういう使い方をしたかと、感心するウイエ。
無関心そうだったハイラムも、ばっちりとつけてきている。
なにを考えているのやら。
ごまかすように思う間に、演技が始まる。
鼓動が跳ね上がり、汗で手がベタつく。
こっそりと息を吸って吐いて、瞼を開けた。
教育用の武具を構え、天井へと差し伸べると、魔力が湧く。
みんなで魔力をぶつけ合い、エフェクトが散った。
色鮮やかな輝きの間を縫うように、踊り子に扮したエレナが舞う
彼女が動く度に花の香りも咲き、ステージは楽園の空気に、彩られた。
同じ高さから見ても美しく、きらびやかなエレナ。
かつての秘島を思い起こさせる、サンセットカラーの照明。
ドラマチックな薄明に彩られた会場は、拍手で湧く。
「キャーキャー」
「ワーワー!」
高らかな歓声が気持ちよかった。
晴れやかな顔で胸を張って、一礼する。
にんまりとしつつ客席を眺め、ふと影が落ちた一角へ、視線が吸い込まれた。
学ランを羽織った不良が、やる気がなさそうに手を叩く。
乾いた音が鳴っていた。
真っ暗になった体育館を後にする。
学園祭も終わり、後は校内で打ち上げだ。
装飾が取り払われてなお、食堂は華やかさを残していた。
熱のこもった雰囲気は、ナティア島での祭りを思い出す。
どことなくソワソワして、ウイエはこっそりと、抜け出した。
急に静けさに空白感を覚え、ひんやりとした風に、肌が強張る。
建物の側面を背に夜闇に紛れ立っていると、隣に影。
ビクッと身を震わすと、相手はアルフだった。
なんだと胸を撫で下ろしたのも束の間、二人きりであることに気づく。
急に胸がざわめき、カッと顔が熱くなった。
息を殺して、胸が詰まる。
ひんやりと指先の感覚が鈍る中、不意にかさついた唇が触れ合う音がした。
「マハナの言ったことを覚えているか?」
「うん、でもそれがどうかしたの?」
「その意味をきちんと考えるんだ。これは宿題だからな」
アルフが厳しい態度を見せるから、本当に授業で当てられた気分になって、難しい顔をするウイエ。
押し黙り考え込むも、答えは出なかった。
呆れたように息を吐くアルフ。
「あんた、あの終わりを知ってなお肯定するのか。趣味悪いな」
直球の否定に、ムッと唇をすぼめた。
脳裏をよぎったのは、落日に消えていった、マハナの影。
「巫女を汚すつもり?」
目つき鋭く、彼をとらえる。
アルフとの視線はかち合わない。
「そうじゃない」
彼は極天の星を見つめていた。
「あれは自己犠牲だ。一人で死にゆくことをよしとするとか、許されないよ」
「でも、私は本当にすごいと思ったのよ」
素直な気持ちを伝える。
眉をしかめながらもまっすぐな目をしたウイエに、アルフは振り向かない。
凍てつくような無言が降りた。
「俺は、俺だけは、あれを否定できない」
彼方へと向き直し、影に染まった顔。
ウイエは口をぽかんと開けて、固まった。
掛ける言葉もなく硬直した折、不意にドーンと音が轟く。
建物の向こう側で上がった色彩が、闇を明るく照らした。
次々と花火が上がる。校庭からだ。
打ち上げの最後にやるんだっけ。
なんとなく見入りつつ、横に並ぶアルフ。
鮮やかな色彩に夢中な彼。
ウイエは唇を閉ざし、眉を寄せた。
淡い思いを噛み締め、濃紺の天を見つめる。
本当の気持ちは、伝えられなかった。




