作戦前夜
【Г2048/10/2】
特殊部隊の宇宙基地から戻ってきた一行が目にしたのは国王直属の王立警務部隊の隊長の姿だった。しかしアンドレイ達が見たことのある人物ではなく、50歳くらいに見える男だった。黒いゴシックファッションに身を包み、金色の剣を腰に挿している。
「これは皆さん初めまして、私の名前はヴィンセント・C・クラークと申します。王立警務部隊の隊長です」
「ヴィンセント・C・クラーク!?」
「え?クリーパーじゃない!?ししししししし!神父様ぁ!?」
「え、あ、あの・・・なんの話でしょうか・・・?」
「ん"ん"!なんでもない・・・」
「ファイア!」
指輪を裏返して手のひらのほうに赤石が向いた状態にしてからヴィンセントの目の前でリナが突然魔法を放ち、それを見たヴィンセントは目を丸くした。
「あなた・・・魔法を知っているのですか・・・?それにその指輪はまさか・・・」
「そうです、この指輪は魔法の赤石を埋め込んだものです。私の大切な師匠を守るため、その決意の象徴です」
「そうですか・・・あなたも対価を払い戦うことを選んだ人なのですね・・・」
「アルフォード、ここに警務部隊を呼んでいるということは何かあったのか?」
「いや、まだ何も起きていない。それよりお前たちの報告を聞きたい」
アンドレイ達は極秘作戦のこと、日本軍のこと、山本の現在の目的をアルフォードに告げた。アルフォードは無表情に話を聞き、頭の中ではどうすればいいのか考えているように見えた。
「シガール、お前この作戦資料ちゃんと読んだのか?」
「え?読んだけど・・・」
「よく見ろ、なんだこの"スキルクラフトを大量に生み出し"って項目は」
「え、あ、なんだこれ・・・」
Г1059年のヴァストークではスキルクラフトの研究はシガールが行っていた。しかしスキルの発動原理はまだ解明されていなかった。さらにスキルクラフトを生み出すということはスキルを付与することができるということだ。
「シガール君、スキルクラフトの研究は君が専門だったはずだがそんなことができるなんて言ってなかったぞ」
「所長、やっぱりそうですか・・・では誰が」
「私も聞いたことがない」
「俺も聞いたことねえな、スキルの研究なんて・・・いや待てよ」
「アンドレイ何か知っているのか?」
「そうだ、山本はГ1058年にお前を手伝ってたよな?なにか関係がある可能性はないか?」
「手伝ってもらったといっても大したことはしてもらっていなかったと思うんだが・・・」
「関係性も考慮して動くとしよう、山本に直接聞ければ一番なんだがな」
「それともう一つ、この作戦を見る限りアドルフが首謀者に見えるがこれは山本の誘導作戦であるという可能性はないか?」
「確かに作戦内容を漏洩したのは山本の指示を受けた御手洗という人物だった。今までの行動を見る限り山本はかなりキレ者だからな・・・」
「みんなどうして師匠を信じてくれないの!四葉さんが生きててヴァストークにいるって日野さんが証明してくれたんだよ!!」
「そのとおりです、私が言ったことは間違いでしょうか・・・」
山本が流した情報だから信用できない。当然の流れではあるが、リナは真っ向から反対した。今仲違いをして戦力が削れるのは大問題であるため、可能性がある程度に留めることにして情報の信憑性を高めることにした。
ナビとシガールを山本近辺を精査させるために再度調査に向かわせ、アルフォードとフィリップ、エドワルトは軍備の調整と山本の立場によって作戦が大幅に変わるので3パターンの状況で作戦を立てることにした。
「さて、王族を殺害しと書いてありましたが我々はどう動くべきでしょうか?」
「しんp・・・ヴィンセント隊長はオーバーマジックを使えますか?」
「昔から不思議に思っているのですが使えます、私はスキルクラフトなのですがそれが原因かもしれません」
「なんのスキルが使えるんですか?」
「私のスキルは超高速治癒です、生命エネルギーというものは魂の寿命分だと思っているのですが何か違う理由もあるのかもしれませんね」
「そのスキルってもしかして怪我が一瞬で治るというものですか?」
「そうですよ、例えば」
そういってヴィンセントはおもむろに自分の腕を持っていた剣で突き刺し、治るところをリナに見せた。さすがのリナも若干引いたが、こうでもしないとスキルを見せられないということに気が付き落ち着いた。
「では一つだけ質問なんですがいいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「オーバーマジックのリバースで巻き戻せない事象ってなんですか?」
「リバース、あらゆる事象を特定区域内の24時間前の状態まで戻すという魔法ですね、アレで戻せないのは"赤石をなくして死亡した場合"、"オーバーマジックの使用回数"、"魔法で消費された生命エネルギー"の3つです」
「では特定回数しか使うことができないスキルの回数制限は巻き戻せるということですね」
「スキルと魔法は異なるものですからそういうことになります。スキルにリバースに似たような物があるのでしたらオーバーマジックの使用回数なんかは巻き戻せるかもしれません」
「ちょっと試してみます」
リナは少し離れると、額に手を当てて何かを祈っている。その後指輪を通常の位置に戻して手のひらを合わせた。
「スキル複製!延命!、そしてオーバーマジック!!」
神父がオーバーマジックを行ったときと同じように3つの輪が地面を這い、輝いた後に消滅した。どうやら女医に教わったスキルをコピーして使用したらしい。ということは現時点でリナの寿命は1000年を超えているということだが、オーバーマジックで打ち消されて元の寿命に戻っている。
「そしてリバース!」
「これは・・・スキルと魔法の連携技ですね・・・すごい!」
「ものは試しって本当ですね、これでもっと強くなった気がします」
「オーバーマジックを使える人間は私だけだと思っていましたが、こんな使い方ができるとは・・・」
「し・・・ヴィンセント隊長のおかげです!」
「あの、もう神父でいいですよ・・・」
「いえ!この時間のあなたは神父様ではありませんので!頑張ってなおします!」
「が、がんばってくださいね・・・」
この様子を見ていたアンドレイは、更に大幅な戦力アップを喜んだと同時にこの人にして人ならざる化物どもをどうやってコントロールすればいいのか悩んでいた。オーバーマジック、何度か目にしているが強大すぎる力である。
ナビとシガールの調査が終わらないと動くこともできないため、調査が終わるのを待つことにした。日野達日本軍は青木がヴァストークのネットワークから情報が転がっていないのかを調査、日野と佐藤はアルフォードたちの会議に加わっている。
アンドレイ、リナ、レミの三人は戦いの休息時間に当て、久しぶりの息抜きの時間に当てている。といっても街を堂々と散歩するのは極めて危険なため、比較的見つかりにくく安全な特殊部隊の宇宙基地に移動していた。
【Г2048/10/3】
特殊部隊の宇宙基地は軍事基地というより兵士の休息をメインに考えて作られている基地であり、娯楽施設がそれなりに充実している。しばし待機の状態になり、特殊部隊隊員も何人かこの基地でくつろいでいるようだ。
「ヴィリー!紹介するね、うちのかわいい副隊長のガート君だよ!」
「ご紹介に与りました、ガート・ハイライトと申します。あと隊長、君呼ばわりするのやめてもらえますか?」
「アンドレイ・ワーグナーだ、こちらこそよろしく頼む」
「リナ・ワーグナーです、よろしくおねがいします」
「お噂はかねがね聞いております、いつも隊長がお世話になっております」
「お世話されてないし!ガート君は銃器を真似ることができるスキルを持ってるんだよ」
「銃器を真似るって具体的にはどういうスキルなんだ?」
「えっとですね、私は指の形を特定の形にすることでその銃の特性をコピーしてその特性を行使することができます。たとえばこの形で9mm拳銃、この形でレールガンといった具合です」
「レールガンって銃だったっけ・・・」
「ミサイルもできますよ」
「これはかなりの戦力になりそうだな!」
「他にもね、治癒系のスキルとかもいるし、特殊部隊は隊で動いたほうが得策なんだけどばらして運用したほうがいいかな」
「うーん、アルフォード次第かな」
「特殊作戦群なんて叩き潰してやろうじゃないか!ふふふ!」
「そう簡単にいく相手でもないがな・・・」
ヴァストーク総司令部直轄特殊作戦群。ヴァストークが持つ俗に言うコマンド部隊であり、政治的に問題がある任務や極秘の作戦を実行する暗部的な部隊である。部隊構成は公にはされていないが、12人1チームが3チームで構成されている。
それぞれ隊長がおり、任務に応じて総司令部の作戦に臨機応変に対応できる。アンドレイとリナを時間跳躍機の前で妨害したのもこの特殊作戦群だ。おそらくすでにこちらの動きを偵察しているはずだが、今の所その気配はない。
「ヴィリー、ビリヤードでもしようよ!」
「お前は少しくらい緊張感を持て!」
【Г2048/10/10】
9日が経過したとき、ナビとシガールが帰還して調査報告を行った。結論から言うと山本が情報提供した中身は本物であることが判明した。ということは本当の首謀者は参謀のアドルフ・ウルベルトということが確定したことになる。
「だから師匠は協力者だって言ったじゃない!!!」
「わかった、わかったから泣くのをやめろリナ・・・」
師匠の無実が証明されたとわかり、大泣きするリナだったが情報が確定した以上作戦を立ててすぐに実行する必要性がある。
「さて、報告はもう一つある。山本の妻四葉が隔離されている場所がわかった」
「何?そんな重要な情報を見つけてきたというのか」
「ああ、隔離場所はオニヒトデ要塞ではない、データサーバーだ」
「なんでそんなところに・・・でもあそこだったら兵器やブービートラップの類を仕掛けるのは難しいから案外簡単に突破できるんじゃないか?こっちには青木もいるんだし」
「情報戦はこちらが有利なのは確かなんだが、場所が問題だ。サーバー内で重火器を使うつもりか?」
「スキルクラフトでチームを構成すれば問題ないんじゃないか?スキルだったらサーバーにダメージを与えずに作戦を立てられるだろ?」
「まてアンドレイ、スキルクラフトは大火力で使いたい」
「それもそうだな、シガールに任せるよ」
シガールが選別したメンバーはリナ、シガール、ヴィンセント、青木の4人だった。これなら重火器を一切使わずに制圧することができ、淡ゆくばデータサーバーからオニヒトデ要塞を切り離すこともできる。情報戦でさらに有利に立つためにも必要なことだ。
四葉救出部隊が決まったところで、大まかな作戦と編成メンバーが決まった。
正面突破部隊
隊長:レミ・エルディア
副隊長:ガート・ハイライト
・陸軍特殊部隊
・陸軍機動部隊
・陸軍歩兵部隊
特殊部隊を主にスキルクラフトによる大火力部隊。さらに陸軍の機動部隊を加えて機械的にも人員的にももっとも大部隊である。
側面牽制部隊
隊長:エドワルト・ワーグナー
副隊長:フィリップ・ストレイングス
・空軍局地戦闘部隊
・陸軍機動部隊
・宇宙軍戦艦
正面突破に全軍隊をぶつけさせるのを防ぐために側面突破をしつつ牽制する部隊。正面突破の部隊より火力は劣るが、こちらもかなりの大部隊で火力も高め。
諜報部隊
隊長:ナビ・エルディア
副隊長:エリザ・ワーグナー
・陸軍特殊部隊諜報部
・ヴァストーク警察公安部
・陸軍歩兵部隊
オニヒトデ要塞内部に侵入し、敵の動きを司令室に伝える部隊。情報戦で優位に立つために構成され、相手の動きを即座に察知する必要がある。それに加え、内部から瓦解させるべく室内戦闘に強いヴァストーク島の歩兵部隊をナビの能力で転送して展開する。
司令室
司令:アルフォード・エルディア
副司令:日野泰造
予備戦力
・日本軍戦艦武蔵
・ヴァストーク宇宙戦艦
部隊が再編成され、全ての人間が移動作業と補給、作戦確認を行った。攻撃を開始したあたりでサーバーに小隊を派遣して同時攻撃することでさらに状況を把握するのを困難にする。
もし四葉を救出することができれば山本らが味方として動く可能性が高いが、あくまで可能性であるために期待をせずにあくまで敵勢力とカウントしている。
「作戦決行は明日、各位休息を取り明日に備えてくれ。最後に、全員死ぬんじゃないぞ!」
<<<おおー!!!!>>>
本拠地で盛大な声があがり、解散した。相手はヴァストーク総司令部と海軍。味方同士だが、もはやクーデター状態である以上、こちらも手を緩めるわけにもいかない。
いよいよ明日、ヴァストーク島は戦場と化す




