真の目的
【Г2048/10/1】
ナビに身近な場所の調査をしてもらったところ差異はあまり存在しなかった。しかし、日本人らしき人種が街に馴染み、働いているところを見る限り日本国と友好関係にあると思われる。
「シガール、これはあくまで俺の仮説なんだが・・・」
「お前にこれが説明できるのか・・・仮説でもいいから話してくれ・・・」
「仮に俺たちが時間跳躍したときに作った時空の穴を使って異なる時間軸に存在する場所を融合できたらどうなると思う?例えばこの惑星ごととかさ」
「仮にできるとするならば文化などがここまで都合よく混ざり合うってありえるか?」
「そこなんだよな、だから融合したというより上書きしたというほうが正解かもしれない。例えるならシガールが肉じゃがを作ってたとする。そこに俺がカレールーを打ち込むとどうなる?」
「そらお前カレーになるだろ?あ・・・!」
「そう、肉じゃがという素体があってそれに強力な味を付与するカレールーを打ち込むことで料理が全く変わってしまう。でもカレーも肉じゃがも違いといえばカレールーを入れるか入れないかだろ?元々肉じゃがには味付けされているし、肉じゃがの味がカレーに負けはするが風味としては残るわけだ」
「それが今の状況だということか?ということは1000年後には日本人がここに住んでいたってことになるよな?でも実際お前たちが出会った人間はヴァストーク人だったわけだろ?」
「そう、でもこの上書きされた前の世界はГ2048年で俺たちが行ったГ2058年の10年前にあたる。この10年間で日本で何らかの動きがあったとするならあながち間違いでもないだろ」
「あにぃ!質問!」
「なんだナビ」
「山本があにぃより先に1000年に飛んだのが1ヶ月前だよね?たった1ヶ月でヴァストークを落とせると思う?」
「それは愚問だな、アルフォードを洗脳した技術を使って海軍大将、参謀、副長官あたりを洗脳、または操ってしまえば軍部は大部分を制圧されたも同然だ。ここヴァストーク島はほとんどが海軍だからな」
「それじゃああにぃのお父さんとフィリップ大将はなんでそうならなかったの?」
「親父はアルフォードの一件で警戒していたし、フィリップ大将は・・・あの筋肉ダルマに一撃でも食らわせるスキがあるように見えるか?山本が本気でやったら騒動になるだろ」
「・・・・確かに」
「ごほん、話を聞く限り私の筋肉が素晴らしいあまりに山本という首謀者が攻撃を諦めたと聞こえたがそれは事実か?」
「事実ってことにしておく」
フィリップ空軍大将、220cmの巨体に鍛え抜かれた体。体重は180kg。軍服のサイズが合わないため黒いTシャツに最大サイズの白衣を羽織っている。何故白衣なのかというと、この男こそヴァストーク国防軍技術研究所の所長だからだ。
筋肉で研究ができる!なんてことを言う人ではなく、純粋に研究は研究でかなり真面目に取り組んでいる。シガールやアンドレイとは違い、レベル2研究を主に行いつつ施設全体の管理をしてる。
シガールが比較的自由に研究できる理由はフィリップが管理全体を一人で行っているからだ。現状確認から雑談に変わったタイミングでアルフォードがフィリップに対して言った。
「フィリップ、君たちの本拠地に移動したいのだが場所を教えてくれ」
「そうでしたね、今案内します」
国防陸軍と空軍、それと一部宇宙軍が混ざった非正規軍”レジスタンス”の本拠地に船ごと移動した。国防軍の戦闘空母があったドックを改造して現在主力軍を格納している。オニヒトデ要塞のもっとも厄介なところは全方位砲台”衛星砲”であるため、この地下にあるドッグがもっとも安全と践んだのだろう。
いくら山本でもこれの発射コードを入手することはあまり考えられないが、アンドレイたちが知っているヴァストークと少し差異があるために用心するべきなのだ。
「お父さん、待ってたよ」
「レミか、お前がこっちについていて本当によかったよ」
アルフォードをお父さんと呼ぶこの女性はレミ・エルディア。赤いセミロングの外ハネでアホ毛がある。赤いパーカーにダメージジーンズと軍服は着ていない。シガールの妹であるが、身長が173cmとアンドレイくらいあるのでよく姉と勘違いされる。
「レミ、早速だけど働いてもらおうか」
「シガール!悪いんだけど夜だから朝になってからでいい?」
「あ・・・そうだな、明日でいいよ・・・」
レミは所謂暗所恐怖症であり、夜外に出るのも嫌なほどである。しかし彼女が保有するスキルがあまりにも強大であるため、”ヴァストークの最終兵器”とも言われている。
アンドレイは拠点を見ながら違和感がないか見ていたが、どうやら軍部に影響は出ていないらしい。もし軍部にも影響があった場合これから立てる作戦に誤差が生じるからである。
「さて、私達が時間跳躍している間に状況がずいぶん変わったようだが、それについて報告してもらいたい。フィリップ頼む」
「はい、現在山本吾一率いる部隊がオニヒトデ要塞に陣取ってます。特殊作戦群を含む総司令部と海軍は手中に収めています。陸軍は機動部隊と特殊部隊は現在この拠点に、歩兵部隊はオニヒトデ周辺に配置しています。空軍は空母を海軍に抑えられています。使えるのは局地戦闘機くらいなものです・・・」
「ということは私達が時間跳躍するときと事態は変わっていないってことか、それなら作戦は立てやすいな」
「そういうことになります」
「それでは我々は作戦立案を、アンドレイ達は山本たちの動向調査と日本軍へ援護要請を出してくれ」
「そうか、もしかしたら俺たちのことを知っている可能性があるのか」
「そうだ、よろしく頼む」
【Г2048/10/2】
翌朝、明るくなったタイミングでナビとシガール、アンドレイとレミ、そしてリナの2ペアで行動することにした。ナビとシガールが動向調査の隠密行動、アンドレイ達が日本軍へコンタクトを取るチームである。リナはアンドレイとレミの護衛だ。
「よろしくねー?ヴィリーとリナちゃん!」
「あのさ、ヴィリーって昔から呼んでるけどなんで?」
「秘密!さあ行こうか」
「とりあえずコンタクトが取れるかどうかから始めないとな、日野さんにもらったアレを使うか」
アンドレイは日野からもらった端末を手にした。端末の電波は入っているようだが、これは今の時間でいうと10年後にもらったものである。10年前、日野の地位は少将だったはずだがその影響がどうなるのかも気がかりだ。
「さあ、どうなる・・・スイッチを入れるぞ」
「兄待って!もしそれが通信端末じゃなくて直接戦艦を呼ぶようなものだったらココじゃまずいよ!すっ飛んでいくって言ってたじゃない」
「そうか、日野さんそんなこと言ってたな・・・一度宇宙に行く必要があるか」
「え"!!宇宙!?いやじゃ!そんなところ行きたくないぃぃぃいい!!」
「あーー・・・レミの暗所恐怖症だけはどうにもならんなぁ・・・」
「っと言いたいところだけど、あたしの部隊は宇宙に施設を持ってるからそこだったらいいよ」
レミはヴァストーク陸軍の特殊部隊隊長である。この特殊部隊の構成員は全てスキルクラフトでヴァストークの中では特殊作戦群と同レベルの強さを誇っている。有事に備え軍艦を接岸できるように設備は整っているからこの状況下ではベストな判断と言える。
「よし、それじゃあそこでこの装置を使ってみよう。レミ案内してくれ」
「よっしゃ!任せなさい!とりあえずこの施設の転送装置を使って行こう、パスはあたしが知ってるから」
ヴァストーク国防軍の軍施設はいたるところに転送装置がある。基本的に行きたい場所を選択すれば自動的に転送されるのだが、セキュリティがかかっている施設はパスワードや生体認証、IDをかざさないと入ることができない。
早速転送装置を使い、惑星の静止軌道にある特殊部隊の宇宙基地に到着した。山本はやはり陸軍には全く介入できていないらしい。戦力的には圧倒的に海軍のほうが上だが、この手の設備はどちらかというと陸軍のほうが充実している。
「よし、今度こそスイッチを入れる」
アンドレイが装置のスイッチを入れると装置の電源が入り、呼出音が聞こえた。どうやら戦艦を呼び出すものではなく、単に通信機だったようだ。少しの間呼出音が続き、日野が出た。
「アンドレイさん、何かありましたか」
「日野さん、俺がわかるか!よかった!!早速で悪いんだが今通信先の年月日を教えてくれ」
「現在西暦2048/10/2です、そちらでいうГ(ゲー)の暦と偶然にも同じなのでГに置き換えても同じだと思います」
「Г2058じゃなくてГ2048か、俺と接触した時のことをはなしてくれ」
「はい、ヴァストーク政府と同盟関係になった際に優秀な技術者がいるとアルフォード司令長官に言われ、それ以降技術者として関係が続いています。それがどうかしましたか?」
日野とアンドレイの出会いが変化している。やはりアンドレイの仮説は正しかったということなのだろうか。ということは戦闘母艦との戦闘も、山本が裏切り日本に対して攻撃を仕掛けようとしていることも変化している可能性が高い。
「妙なことを聞くようで悪いんだが、山本吾一について教えてくれ」
「はい、山本吾一と妻の四葉は日本軍のヴァストーク駐留軍としてそちらにいるはずですが、何かあったのですか?」
「山本吾一と・・・四葉?死んだはずでは」
「そんなことはありません、一緒にいるはずですよ」
10年前ということは四葉が死ぬ前なのか、それとも時間跳躍の影響で未来が変わったのかは不明だが、これだと山本の復讐動機がなくなることになる。一体何が起こっているのだろうか
「ちょっと事情が変わってる、直接話せるのなら是非会いたいのだが、佐藤と青木を連れてなるべく強い艦船できて欲しい。場所は現在通信している場所だ」
「わかりました、これから向かいます」
ひとまずの任務は完了した、幸いにも日本とヴァストークは同盟関係あるという事実がわかっただけでもかなりの成果と言える。
「ヴィリーこれからどうするの?」
「とりあえず待つしかないだろ」
「四葉さんが生きてる・・・師匠今どういう状況にいるんだろう・・・」
レミはともかくリナは現在敵対関係にありながらも師匠のことを慕っているようだ。現在わからないのが二つ、一つは山本の動機である。日本への復讐と本人は言っていたが、復讐の理由が妻の四葉を殺されたからである。しかし日野の話から四葉は生きていてヴァストークに一緒にいるとのことだ。
そしてもう一つはヴァストークを占領する理由が不明確ということだ、日本に復讐するためにヴァストークを利用するにしても国防軍全てを手中に収められていない。そして最大火力の戦闘母艦は現在ヴァストークに存在しない。
「あれ、ちょっとまてよ・・・」
「兄どうかした?」
「戦闘母艦、どこに消えたんだ」
「え、みんなで協力して航行不能に」
「それだよ、航行不能に追いやった事実は今の時間に存在しないんだ」
「戦闘母艦?それなら今修理のために本国にいるはずだけど」
「本国??大陸にあるのか?あの秘匿された船が?」
「何言ってるのさ、その指揮を取ったのヴィリーじゃない、忘れたの?」
「レミ、俺の職業はなんだ」
「ヴァストーク国防軍技術研究所、兵器研究製造部のリーダーでしょ」
「俺が時間跳躍機を作ったという話を聞いたことあるか」
「あるよ、あるけど試作機を作ったあたりで国防軍の参謀に止められたじゃん」
「参謀ってあの参謀長官のアドルフ・ウルベルトか」
「そうだよ、ヴィリー頭いいと思ってたのにおかしくなっちゃったのー?まったくシャワーでも浴びて少しリラックスしてきなよ!」
「あ、ああ・・・そうだな」
アンドレイはシャワーを浴びながら考えた。山本は時間跳躍機を使って時空の穴を利用して2048年のヴァストークを1059年のヴァストークで上書きすることでありとあらゆる事象を捻じ曲げた。
それによって人物の関係はほぼ変わらないが出逢いや職業が大幅に変わっている。これがヴァストーク内部だけであるならばともかく、日本と同盟を結んだという事実が加わることでさらに複雑化している。そしてその際に時間跳躍している人物はその影響を知らず世界が変わったように見えている。
では今山本はどうなのだろうか、アンドレイ達と同様に世界が変わったように見えているのだろうか?仮にそうであるならば何を目的で動いているのか、考えてもわからないのでナビとシガールの報告を待つしかない。
思考がまったく追いつかず、シャワー室から出て半ば放心状態で体を拭いていると、ふと誰かがいるのが目に留まった。
「ヴィリー、次私入るから早く体拭きなよー」
「お前人が入ってるのに勝手に入ってくるなあああ!!」
「はいはい、別にいいじゃん減るもんじゃないし」
ヴァストークの首都が抑えられて、これからどうなるのかもわからない状況にあるのにこいつときたら何を考えているのかまったくわからない。
通信を行なって3時間が経過したところでもう間も無く到着すると日野から連絡があった。
基地の港で待機していると、戦艦武蔵がワープアウトしてきた。兵装はあまり変化がないようにみえるが、よく見ると錬金結界らしき装置を搭載しているのが見える。
どうやら同盟関係というのは秘匿すべきレベル5クラスの技術提携もされているかなり強固なものらしい。
「遅くなり申し訳ありません、アンドレイさんの話を聞いて少し調べ物をしていました」
「こっちこそわざわざ呼び出してすまない、ところで調べ物とは何を調べていたんだ」
「はい、山本の活動記録です」
日野の話によると、ヴァストーク駐留軍の司令として派遣されていた山本は定時連絡として活動記録を日野に送信していたらしい。その内容は特に当たり障りもなく、軍隊の訓練記録や弾薬、エネルギーの消費量などがメインで書かれているとのことだが、ひとつだけ気がかりな文章があったそうだ。
「これです、9月2日から普段の活動記録の一番後ろに備考として書き込まれているんです。私は活動記録自体は部下に任せていたのでこの備考が書かれているのを先ほど知りました」
「備考か、9月2日ということは時間跳躍した直後と重なるな、それで備考にはなんと書かれていたんだ」
「それがですね・・・」
その時通信端末が鳴った
「アンドレイ!シガールだ」
「どうした」
「山本の動向を調査していてわかったことがある、今どこにいるんだ」
「特殊部隊の宇宙基地のラウンジにいる。ちょうど日野さんと一緒だ」
「都合がいい、今すぐ行く」
ナビのスキルで飛んできたシガールとナビだが、シガールがかなり焦っている。あまり見たことのない焦り方にアンドレイもただ事じゃないと悟った。
「お前極秘作戦計画を覚えているか」
「覚えてる、王族を抹殺して帝国を築くとかいうやつだろ」
「そうだ、あの計画が生きていた!!」
「生きてたって、時間跳躍機は試作機段階以降俺が作らなかったんだろう?どうやってその計画を実行するんだ」
「アンドレイさん、それですよ備考に書いてあった内容は!」
何故司令部が作った作戦の内容を日野、そして山本が知っているのかはどうでもいい。あの作戦がまだ存在していたとするなら上書きの影響で内容が変化している可能性が高い。とするならば一体どう中身が変化していたというのだろうか。
「とにかくこれを見てくれ」
国防軍総司令部発案極秘作戦「レボリューション」
本作戦は司令長官、全ての軍と技研、ならびに日本軍への情報漏洩を防ぐために紙媒体での情報取引を行う。
■作戦概要
フェイズ1
日本軍のヴァストーク駐留軍を利用し、ヴァストーク島を占拠する。この際大規模な抵抗があると予想されるため、山本吾一の妻を人質に取り行動を操作する。
フェイズ2
ヴァストーク島の出来事を司令長官になすりつけ、政治的、軍事的な表舞台から引きずり下ろし、アドルフ・ウルベルトが新たな司令長官に就任するように仕向ける
フェイズ3
ヴァストーク国王、ならびに王族全てを殺害し革命を達成、新しくヴァストーク連邦帝国を成立させる。そのまま第五次世界大戦を引き起こし、惑星全土をヴァストーク領土とする。
フェイズ4
スキルクラフトを大量に生み出し、軍隊を増強。日本軍とともに局部銀河群大帝国を建国すし、巨大帝国の一角として君臨する。
「前見たときより壮大になってるな。でも紙媒体で取引しているような文章をお前はどこで見つけてきたんだ?」
「協力者がいたんだ」
「協力者?総司令部に裏切り者がいたのか?」
「いや、総司令部は今やアルフォード以外一枚岩だ」
「じゃあ誰が」
「山本吾一だよ、アイツは書類の記述どおり妻を人質にされているらしいから表立って協力はしていない。部下が僕たちとコンタクトをとってきたんだ」
「山本の目的は妻の奪還・・・なるほど読めてきた」
「師匠裏切ってなかったぁぁあああああ!!」
「リナ泣くなよ・・・気持ちはわかるけど」
「あにぃ、この情報を早いところお父さんたちに報告しなきゃ」
「そうだな、日野さんのほうはどういう情報だったんだ?」
「内容はほぼ同じです。山本の部下に御手洗右助と橋姫愛織というやつらが居まして、うまく裏工作をしながら情報を流していたようなんです。備考に書いてあったのは日本の技術研究所で使われている極秘文章用の暗号でした」
「そうそう、御手洗って声がうるさい人が教えてくれたんだよ」
「それじゃあアルフォードに報告して本格的に作戦を立ててもらおう、その御手洗ってヤツは呼べないのか?」
「総司令部にいるから厳しいだろうな、日野さんたちも是非きてください」
「わかりました、青木と佐藤も連れていきましょう」
戦闘母艦を落としたチームが神父以外再び結成され、全員で再びレジスタンスの本拠地へ転送装置を使って移動した。




