表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジスタンス  作者: 猪仲
既知で未知の場所
10/15

最後の稽古

【Г2058/9/20】



アンドレイが合図を出し、後ろに下がった。リナはワーグナー流ではなく、山本流で挑むべく居合の構えをしている。対する山本も同じく居合の構えをしている。


先手を打ったのはリナだった、一気に距離を詰めて刀を抜き少し手前で斬り込んだ。山本にはどう考えても届かない距離だが、そこで縮地を使い、後ろに回り込んでそのまま斬りつけたが、山本はそれを見抜いていたのか後ろを見ずに刀で受け止めた。


その後カウンターで後方に足蹴りをするが、リナもそれを見抜き後方に下がってそれを回避した。再び間合いの射程外になり、膠着状態になる。



「前みたいにはいきそうにねぇな」


「修行しましたから」



「螺旋流!」



二人が螺旋琉を放ち、母艦の強化樹脂が壊れ辺が煙に包まれた。煙が僅かに動いたかと思うと、二人が横切りで刀を交わらせた。その後両者引かずに何発も斬り込んだがともに決定打にならない。


リナが斬り合いの最中、何度か縮地を使い不意打ちをしたが全てことごとくかわされる。全て修行中にやった技であり、山本は手に取るようにわかっていた。山本が知らない技術を使うしかない、リナはそう思い一度下がった。



「師匠、これからが本番です・・・」



転送機で待機させていたRM剣を手に取り、二刀流になった。



「新しいRM剣、おいらまだそれを見ていなかったな」


「試しますか」


「是非見てみたいね!」



山本が速攻の居合斬りをしてきたが、一度その技で剣を弾き飛ばされたリナは軌道を予測して交わした。その後脇に切り込もうとすると腹部に激痛が走った。


山本は刀をかわされても鞘で腹部に打撃を与えたのである。この二段構えの居合斬りは修行の時に見せておらずリナも想定外の攻撃に直撃を許してしまった。



右、左とよろけたが倒れることはなかった。魔法のローブがダメージを軽減していたのである。もちろんそんな魔法は存在せず、特殊な繊維を編み込んだローブは極度の衝撃が発生すると自動的に硬化し、空気層を生み出して衝撃を吸収したのだ。


倒れないことを確認した山本は刀を裏返し、足に打撃を加えようとしたが、それはガードされリナが反撃してきた。



「ウィング!」



リナが手を合わせ唱えると空中に浮いた。一時的に空を飛ぶことができる魔法である、さらに追撃と言わんばかりにRM剣から電気を発生させて雷のように山本に叩き落とした。流石に電気を避けられなかった山本に直撃したが、刀を地面に突き刺してアースにしなんとか致命的なダメージを避けた。



「宙に浮いた・・・?今のスキルの使い方は上手かった、螺旋琉!」



空中にいるならと螺旋琉で落としに山本がかかった。たまらずリナはそれを剣で受け、地面に叩きつけられた。なんとか体制を立て直し、再び対面した。再び山本が居合の構えをしてすぐに突っ込んできた。リナは再びかわそうと左にそれたが、今度は刀を抜かずにリナを蹴り飛ばした。


とっさに後ろに飛んでダメージをほとんど受けることはなかった。しかし更に後ろに先回りし、山本は居合斬りを放った。刀の剣撃は交わしたが、再び鞘の二段攻撃を食らってしまった。



二度目はみぞおちに直撃して前方に倒れかけるも、刀で体を支えた。



「あれの直撃を受けても倒れねぇとは・・・成長したな」


「まだ、まだ・・・師匠の最後の稽古でしょう?」


「そうだな、それじゃあ行くぞ!」



山本は刀と鞘の両方を手に持ち、見慣れない構え方をした。上下段に構え、次の行動が全く読めない。その後山本はなぜか後方にとんだ。



「二刀螺旋琉!」



2つの斬撃が一つに交わり、巨大な斬撃に変わった。リナが縮地で回避したが、回避先に山本が刀を構えて待っていた。完全に不意をつかれ、絶体絶命だったが。



「テレポート!!」



リナは魔法を使い自分を間合いの射程圏外に瞬間移動させた。縮地というより、スキル複製の弱点をつかれたのである。コピーしたスキルを使えるスキル複製だが、一度使ったスキルは若干のインターバルがある。しかし魔法を知らなかった山本はそれを見て動きを止めた。



「また不可解な・・・」



しかし、リナの様子が少しおかしい、瞬間移動してから動きが大分鈍い。やがてRM剣を床に落とし、刀で体を支えながら膝をついた。



「はぁ・・・はぁ・・・ダメか・・・」


「どうした、まだおいらに一撃しか食らわせてないじゃないか」


「リナさん・・・まさか」



神父はその状況に見覚えがある、500年前ヴァストークに起きた出来事が脳裏に浮かんだ。その直後、リナが落としたRM剣を拾いあげて山本と対峙した。



「あなたがリナさんの師匠ですね、この技は私が彼女に教えたものです。非常に危険なものなのですがどうしてもとおっしゃっていたので・・・」


「続きをなさるなら私がお相手いたしますよ」



「今度は師匠対決かい、それも面白いがおめーさん剣を使えるのかい」


「ええ、使えますよ、スーパーエッジ!」



白い剣のようなものが出てきた。これはスーパーエッジ(聖光剣)と呼ばれるオーバーマジックで呼び出すことができる魔法の剣である。形をある程度自由に変形することができ、それをリナのRM剣にまとわりつかせた。



「これで本来のこの剣の使い方ができます。私にスキルというものはありませんから」


「おもしれぇ、やろうじゃねぇか」



山本は先行して居合斬りでケリをつけようとしたが、寸前のところでかわされた。その瞬間強烈な足蹴りが山本に直撃した。山本自身もまったく見えない位置からの蹴りに防御が追いつかず吹き飛ばされた。



「なんだ、大したことありませんね。次はこちらの番ですよ。エアーショット!」



空中を斬りつけたかと思うと、目に見える斬撃のような三日月型の塊が山本に向かって飛んでいった。山本は避けずにその衝撃のようなものを切り裂いたが、切り裂いた瞬間に後ろに回り込まれて再び蹴りを受けた。



二発の強烈な蹴りを受けて、山本は倒れ込んだ。



「もう終わりですか?せっかく剣まで用意したのに剣を交わることなく沈むとは・・・」


「おめぇさんつえぇな・・・思った以上だ・・・」




「さて、リナさん大丈夫ですか?」


「神父様ごめんなさい・・・使うなと言われてたのに」


「いいえ、気にしないでください。今はゆっくり休んで」


「はい・・・」


「山本、お前の負けだ!このまま身柄を日本軍に引き渡して裁いてもらう」


「はははははは、何の冗談だ?おいらは日本軍にまだ危害を加えてねぇだろ?」


「山本、あなたは未遂で身柄を拘束させてもらうことになります。あのとき私がもっとしっかりしていれば今の状況は作られることもなかったでしょうに・・・」


「日野、お前は悪くない。おいらが招いたことだ。それにアンドレイ君、君はおいらが負けたと言ったな?いつおいらが負けを認めた」


「どうみても決着はついただろう、それとも死ぬまで戦わないといけないのか?」


「いいや、おいら自身はそこの化物に負けたがおいらの計画は何一つ妨害されてねぇよ」



妙に自身に満ちた山本の表情に、その場にいた全員はハッタリの類ではないことを察した。察した上でアンドレイは言った。



「この状況、お前はどう打壊するつもりなんだ」


「こうするのさ」



山本はスイッチのようなものを押した。すると後方の山が崩れはじめ、何かが出てきた。1000年前に時間跳躍した戦艦大和だ、山本はこの時代に戻ると急いで隠した大和を修理していたのだ。


山本が姿を消したのも頷ける。1000年前のヴァストークのときにみた大和といくつか違う武装が見受けられたが、もっとも驚くべきことは錬金結界を搭載していたことだ。レベル5の職員だったということはアンドレイが作った数々の技術も見られたということである。


さらにヴァストークにいたときアンドレイは山本に研究室を任せていたため、まったく気が付かなかった。敵だとわかっていなかったための痛恨のミスである。



「じゃあな、ついでにこの端末はシガール君とスキルを研究した際にふと思って作ったスキルを擬似的に発生させる機械だ。シガールくんには内緒にしておいてくれな」



そう言い残しナビのスキルと同じように瞬間移動してどこかへ消えていった。おそらく大和の中である。大和を使って日本に攻め込む可能性がある。



「武蔵!1番、2番主砲、大和の推進機を狙え!撃ち方はじめ!」



しかし錬金結界の影響で推進機に当たらない。その後、大和の3番主砲が武蔵の側面に発砲した。錬金結界が臨海を迎えて消失し、武蔵に次の一発があたれば被弾してしまう。すると通信機から山本の声がした。



「もうあとがなさそうだな、おいらの目的地は日本国じゃない。おいらはこれから再び1000年前のヴァストークに飛ぶ!ついてきたければ頑張ってついてこい!じゃあな!」



通信が終わると、大和は淡い光を放って消え去った。紛れもなく時間跳躍時に発生する現象だ。目的地が日本ではなく何故ヴァストークなのか、技術的なものを欲しているのか?ただ逃げただけだったのか?その場の全員は理解に苦しんだ。



「アンドレイ、シガールと通信できるか?現状を報告してほしい」


「ああ、わかった」



「シガール!もう私は大丈夫だ、迷惑をかけてすまなかった。そっちに山本吾一が時間跳躍したらしい、現状を報告してくれ」



何度か通信機を使ったが応答がまったくない。何かあったのか、それとも時間跳躍機になんらかの細工をされたのか、とにかくこのままだとシガールと連絡を取ることすらできなかった。


時間跳躍機のある大穴に向かうと、そこにはバラバラに破壊された時間跳躍機があった。山本が戦闘中に破壊したのだろう、強化樹脂剤の弱点も当然知っていたはずである。



「くそ、このままじゃ時間跳躍もできず何をされるか予想もできない」


「アンドレイ、何か手はないのか」


「これを直すのに少なくとも一ヶ月はかかる、あと発電機もない」


「兄、発電機ならあるよ。とっておきのヤツが」


「そうか、お前のヴィスエンジンを使えばいいのか!」


「いいえ、私がやります!オーバーマジック、リバース!!」



リバースは24時間以内に破壊、死亡した場合でも瞬時に復元することができる時間遡行魔法である。回復させるのではなく、24時間前の状態に戻すだけなので、もともと壊れていた場合などは復元することはできない。



「シガール、聞こえるか?」



しかし、シガールの応答はない。まさか真っ先に潰されたのだろうか?通信システムがダウンしているだけなのだろうか?



「時間跳躍機が故障しているのかもしれない、24時間より前に・・・少し見てみるからその間にリナのことをよろしく頼む」


「わかりました」


「ウチが1000年後に飛んでどうなってるか確認しようか?」


「そうか、ナビならノーリスクで飛べるのか。いや、向こうで確認したところでこっちに伝えるとなると難しいな、そのスキルインターバル長そうだ」



「うん、発動後のインターバルは5日だったからしばらく伝えることはできないよ」


「そうか、とりあえず修復を試みるから少しだけ待ってくれ」



しかしアンドレイは気がついていた。戦闘母艦との戦闘に入る前にシガールと連絡が取れていたことを、つまり時間跳躍機で通信をすることが24時間前どころか2時間前にはできていたのだ。



【Г2058/9/23】



あれから3日たった。特に進展もなく時間だけが経過している。こんなことならナビに飛んで様子を見てもらうべきだったかもしれないが、今はヴァストークで何が起きたか考えるよりも時間跳躍機を使って一刻も早く山本を追うことが大事だ。



「アンドレイさん、私に何か手伝えることはありませんか?」


「今はないな、でもシガールも山本もどうやって時間跳躍機で質量の多いものを転送できたのかがわからない・・・」


「時間跳躍機の原理を教えてもらってもいいですか?」


「ああ、わかった」



アンドレイは時間跳躍機の原理とどうやって転送してきたかの手段を日野に教えた。日野は聞き終えてから一呼吸置いて少し考え込んだ。



「アンドレイさん、三環機というのは必ずしも輪の中に入れなくても良いのかもしれません」


「どういうことだ?」


「ええ、三環機で時空に穴を開けるとおっしゃっていましたが、その穴をサイズと場所指定することはできないでしょうか」


「そうか、電力消費を引き上げて三環機に座標計算を加えて穴の位置をずらすのか!なんで気が付かなかったんだ!」



「これでできますかね?」


「ああ、これならできる!日野さんあんたは本当に優秀な技術者だな」


「山本ほどじゃないですよ、彼は稀に見る天才ですから。ここのことだって彼が一番に発見をして10年も研究していたんですよ」


「10年も研究していた・・・?」


「ええ、時間を超える技術がとある惑星の島にあるといってそれっきり姿を見なくなりました。ちょうどそれが10年前のことです。つまり四葉さんが亡くなったタイミングとほぼ重なります」



その10年の間に時間跳躍機を思い通りに操作できるまで研究し尽くしていたと考えると、アンドレイより詳しくなっていた可能性がある。時間跳躍機に何か細工をした可能性もあるが、アンドレイが見る限り細工らしきものは見えない。



【Г2058/9/30】



山本が時間跳躍して10日がたった。時間跳躍機の改良工事がおわり、テストを開始しようと回路をつなぎ起動したところ、なぜか回路がショートして再び壊れてしまった。



「なんでだ・・・何かの部品が足りないってことはないだろう?」



頭を抱えていたとき、アンドレイの通信機が鳴った。



「アンドレイ、聞こえるか?シガールだ」


「おいシガール!!無事だったのか!!!」


「ああ、なんとか大丈夫だ。それよりヴァストークだが大変なことになってる」


「山本がそっちにいってから10日、一体何があった」


「シガール!すまなかった、私を信じてアンドレイをこの場所に送り届けたらしいな」


「親父、無事で何よりだ。それより大変なことになってるぞ」


「どうした、何があった」


「実は、親父が今居ないことを良い事に国防軍がクーデターを称して大規模なテロ行為を行ったんだ。当然軍部の中でも蟠り(わだかまり)ができて今司令部と海軍、陸軍と空軍で分裂している。陸軍と空軍は手を組んでレジスタンスを結成して正規軍に対し、宣戦布告を宣言しているんだ」


「まて、ということは私が健在で私がその指揮をしているということになっているのか?」


「親父、残念ながらそのとおりだ。今この時間に居ないのを知っているのは俺とエドワルト・ワーグナー大将、それとフィリップ大将の三人だ」



「シガール、すぐにそっちに行きたいところなんだが時間跳躍機がどうしても直らないんだ!」


「直らない?そりゃそうだ、こっちの時間跳躍機ぶっ壊れてるんだからな」


「は?壊れた?」


「ああそうだ、山本が破壊していったみたいだ」



向こうの時間跳躍機が起動不可能なのにどうしてこっちの時間跳躍機はまともに機能しているのか、そしてシガールはどうやって通信しているのかまったくわからなかった。



「ところでアンドレイ、お前にプレゼントを持っていってやるよ、とりあえず外に出ていてくれ」


「は?何を言ってるんだ?」


「5,4,3,2,1」



シガールが0をカウントした瞬間上空に見覚えがまったくない船が姿を表した。全体的に黒色で、所々に赤いラインが入っている。なんとなくデザインが戦闘母艦に似ているが戦闘母艦のようなサイズはない。


正面中央に物質変換砲らしきものが搭載されている。船が着陸し、日野やアンドレイたちが集まってきた。船のタラップがおりて、男が一人降りてきた。



「よおアンドレイ、どうだ?お前の書きかけの設計図を元に作ってみたんだ」


「シガール!?お前どうやってここまで時間跳躍してきたんだ!」


「決まってるだろ?この船に搭載してるんだよ、三環機を」


「エネルギーと三環機があれば時間跳躍そのものはできる。必要なのはずっと記録し続けている時空アンカーの情報だけだってお前知らなかったのか?」


「・・・・悔しいが俺の負けだ」


「ハハハハ!やった僕の勝ちだ!」


「話は済んだか?こっちも立て込んでいるんだ、シガール説明してくれ」


「ああ、親父そうだったな、詳しくは中で聞いてくれ」



とりあえず船内に入った。船内は軍艦とは違い、かなり広くリラックスできる空間だ。おそらく船体が黒い理由は軍用の強化樹脂剤を使っているからだろう。装甲としての目的ではなく時間跳躍の圧力に耐えるためだ。


中にはエドワルトがいた。赤いヴァストークの軍服に短めの茶髪、右目はキズがあり開いていない。



「おお、アンドレイ、それにアルフォード無事でよかった」


「親父!?どうしてこんなところに」


「私だけじゃないぞ、ほら」


「アンドレイ!お前また無茶したんだって?いい加減にしないと怒るぞ!」


「お袋殴ってから怒るのやめてくれないか?どっちかに」


「言い訳しない!」



勢いよく出てきたのはエリザ・ワーグナー。つまりアンドレイとリナの母親である。半袖半ズボンの迷彩服、上は羽織って、黒いスポーツブラ、頭にゴーグルと凄いラフな格好をしているがどことなくリナに似ている、いや、リナが似ている。


「お父さん、お母さん!」


「リナ、大丈夫だったか?大分こてんぱんにやられたらしいな」


「まったく、あんたは鍛え方が足りないんだよ!」


「ご、ごめんなさい・・・」


「だが、生命エネルギーの話は聞いている。だから連れてきたんだ」



奥から紫色の長髪をした女性が現れた。歳は30代前半だろうか?白衣にピンクキャミソール、黒いパンツと少しどころか大分アレなかっこうをしている。おそらくは技術者ではなく医者だろう。


「あなたがリナさんね?話は聞いてるわ。私はエレーナ・ハイドリヒ、スキルクラフトの医者よ」


「女医さんなんですね」


「そうよ、あなたの生命エネルギーが弱まってると聞いているわ。大丈夫、お姉さんに任せて」


「はぁ」


「私のスキルは寿命を伸ばすスキルよ。相手、もしくは自分に最大2000年までの寿命を付与できるの。そして一度使用してから別の人に使う場合、今度は自分の寿命から相手に与える。今の貴方には必要でしょう?」


「どう発動するか教えてもらってもいいですか?」


「いいわよ、さあさあ奥の部屋へ」


「え?あ、はい・・・」



二人は奥の診察室のような場所へ移動していった。



「さて、現在ヴァストークは正規軍とレジスタンスでほぼ二分されている。アンドレイ、お前この船に錬金結界を搭載できるか?」


「ああ、任せろ」


「これでこの船の防御力は格段に上がったな、あとはエネルギーの問題なんだが」


「そ、それなら問題ないよ、私が作ったヴィスエンジンをこの船に搭載すればRM1kgで2000京EUの電力を生み出すことができるから」


「リナちゃん、ヴィスエンジンって一体何だ・・・?」


「ヴィスエンジンっていうのはエネルギーを劣化させずにヴィスというものに変換してそれから直接別エネルギーに置き換える効率100%のエンジンです」


「え・・・・?」


「シガール、それはもう俺がやったからもういい」


「あ、うんわかった・・・」


「シガール、リナ、そのヴィスエンジンというものにこの船を換装させてくれ」


「了解」


「そうだ、リナさんにお渡ししたいものがあります、ついてきてください」


「え、神父様なんでしょうか」


「手短に頼む」


「かしこまりました」



神父とリナは一度教会に戻った。神父は隠し通路を降りて地下に広がる空間にリナを案内した。そこはなにかの儀式を行うような場所で、薄暗く湿気が立ち込めているがカビやネズミなどの生物は一切存在していない。



「リナさん、魔法には一つ生命エネルギーをリスクをなくすものが存在します。それは魔法の赤石と呼ばれる石です」


「そんなものがあるんですか」


「はい、大魔術師リッチの置き土産です。しかしこれには重大なリスクがあります」


「リスク・・・?」


「この赤石は儀式を行った人間の生命エネルギーをコピーして、魔法を行使しても行使前の状態に戻すことができるものです。しかし、リスクもありまして24時間この赤石を手元に置いておかないと衰弱死します」


「手元というのは肌身離さずということですか?」


「はい、指輪やペンダントなどにするのが一般的です、なくしたら死ぬと思ってください。それからもう一つリスクがありまして、その所有者はそれ以上の生物的成長は一切なくなります。簡単に言うとそれ以上成長することもなく、子供などを生むこともできなくなります」



「細胞分裂などがなくなるということですか?」


「そうです、怪我をしても魔法での治癒以外一切無意味になります」


「つまり重傷で気を失ってしまった場合、他の人に魔法をかけてもらわないと死ぬということですか」


「そのとおりです。細胞組織が活動を停止するといったほうがいいのか、それ以上の分裂をやめた代わりに死ぬこともなくなるというべきかわかりませんが・・・老化や寿命での衰弱死も赤石をなくす以外なくなります」


「つまり不老になるということですか」


「リスクのほうが大きいですがね。どうしますか?かなりのリスクですが」


「師匠との戦いがまだあります、私は師匠をなんとか助けたいんです」


「本当に良いのですね」


「お願いします、赤石を私にください」


「わかりました、この円の中心に立ってこの赤石を握ってください」



リナは空間にある円の中心部に立った。神父が再度確認を取り、リナは了承した。すると周りの円が赤く輝き、赤石も輝いた。その後神父が何かを唱えて、円の光が消えた。



「これで完了しました。今のあなたの寿命は101年と6ヶ月11日ですが、その分が魔法行使の限界になります。魔法の種類でいうとディストラクションとスーパーヒールあたりが限界値でしょうか」



「インターバルはありますか?」


「ありません、発動の際に赤石が生命エネルギーを増幅して放つので発動時間に0.6秒ほどかかりますが術の行使を連続で使用できないことはないです」


「0.6秒・・・わかりました」


「私ができることはこれが最後です。リナさん絶対に赤石をなくさないでくださいね」


「わかりました、神父様ありがとうございます」



時間跳躍機を搭載した船の改装工事が始まった。アンドレイは錬金結界を、リナとシガールは主機関をヴィスエンジンに載せ替えて様々な動力源の切り替えを行った。作業は順調に進み、いよいよヴァストークに戻る準備ができた。



【Г2058/10/1】



船の改装工事が完了し、いよいよ時間跳躍で1000年後に帰還する手はずが整った。日本軍の面々とはここでお別れということになる。



「日野さん、あんたのおかげでここまでこれた。あとは山本をここに連れて帰ることができれば俺たちは改めて友好関係を作ることができそうだ」


「最後はお任せてしまって申し訳ありません。山本をよろしくおねがいします。そうだ、アンドレイさんにはこれを渡しておきます。このスイッチを押してもらえば私に直接つながります。そのときはすっ飛んでいきます」


「それは助かる、ありがたくもらっておくよ。それじゃあ元気でな」


「はい、山本をお願いします」



「青木さーん!また会おうね!」


「ナビ青木のこと気に入ったのか?」


「だってあんなクラッキング裁きを見せられたらそりゃもうたまらないじゃん!」


「俺も見たかったなぁ・・・」


「いえいえ、またお会いしたときお見せしますよ!」


「頼むから俺たちの端末をクラッキングするなよ」


「はい!」


「今生の別れは済んだか?行くぞ」


「そんなこというなシガール、縁起でもない」


「そうだな、また来るよ日野さん、青木さん」


「ええ、是非」



タラップが閉じ、船は離陸した。水平を保ったまま上昇し、500mあたりで停止した。



「さあ行くぞ!時間跳躍機、設定はГ1059/10/1、ヴァストーク、レジスタンス基地」


「ヴィスエンジン始動、RMを電力に変換2000京EU電力転送開始」


「時空アンカーの情報を読み取り確認完了!時間跳躍開始!」



船が淡い光に包まれて姿を消した。地上からその様子を見ていた日野たちは敬礼で見送った。





【Г1059/10/1】



ヴァストークのオニヒトデ要塞に山本はいた。時間跳躍でこの時代にいないアルフォードの代役を務め、暗躍していた。通信端末のアラームがなった。



---時空アンカーの情報読み取りを確認しました---



「そうか、アンドレイは時間跳躍したか。これですべての条件が整ったということだな?おいらは待っていたんだ、この瞬間を・・・さあ!これからだ!時間跳躍機作動!!」



アンドレイが一番最初に作り、銃弾を飛ばした時に使った時間跳躍機の試作機は技研の地下に保管されていた。その試作機に接続されたコンソールが起動する。



----------------------------------


Г2058年の時間跳躍機器道を確認


これよりオペレーション2048を開始します


時間跳躍機への電力供給300じょEU供給完了済み


同時にГ2058年の時間跳躍機の300秭EUの電力供給を確認しました


これより2つの時間跳躍機を並列処理し、Г2048年のヴァストークに上書きします



----------------------------------



「はっはっはっはっは!!まさか自分たちがおいらの計画の最大のトリガーになってるなんて夢にも思っていないだろう!!おいらの目的は全てこれにあった!」



「山本大佐も人が悪い、嘘はつかないが本当のことも聞かれない限り絶対に答えないんですものねぇ?」


「御手洗くん、君少し黙ってて」


「私が黙ることなんてできるはずないでしょうううう!!!」


「黙れって言ってんだよ御手洗!」


「姉御!!やめてくださいよ!!ナイフこっち向かないでください!!」



司令室に山本の他に男女が一人づついた。山本の部下であり、山本が率いた部隊の中でもっとも強いと言われいたメンバーだ。一人は赤い髪に下は軍服だが上はさらしを巻いて、軍服を羽織っている女、もうひとりはしっかり軍服を着ている薄柿色の髪で元気のいい男だ。



「お前たち、これから本当の歴史が始まるぞ!楽しみだ、実に楽しみだ・・・」


「日本軍を狩るなんて嫁のような話じゃないですかー!!」


「夢の様な話だ御手洗。嫁ってなんだよアホか」


「嫁になってくださいー姉御ー!」


「お前が死んだら考えてやる」


「そろそろだ、さあ!!歴史が一つに交わるぞ!!!」



【Г2048/10/1】



レジスタンス基地の少し上空に船が時間跳躍してきた。計算が狂ったのか、それとも何らかの不備があったのかはわからないが、上空でバランスを崩し転落した。


幸いにも錬金結界に強化樹脂剤と強固な作りで船に損傷はなかったが、中に居た人はいろんな場所に吹き飛ばされた。



「いってぇえ!!シガール!なんで不時着してるんだ!!」


「知らねえよ!!なんで僕が怒られなきゃいけないんだ!」


「今何年の何日だ」


「えっと、Г2048・・・あれ?」


「10年しか時間跳躍してねえじゃねえか!!」


「おい、アンドレイ・・・船の周り・・・」


「ん?え?なんだこれ・・・」



船の周りは確かに1000年前の、アンドレイたちが過ごしていたヴァストークである。しかし時間跳躍機が差した年日時はГ2048/10/1である。急いで船から降りて周りを確認した二人が見た世界は、いつも見ていた風景とは何か違う。



見渡す限り通常のヴァストーク、ところどころに存在する日本語の看板。見慣れない数件の建物、そしてオニヒトデ要塞付近に浮かぶ戦艦大和と及ぼしき船。間違いなく1000年前に時間跳躍したはずなのに時間が、そして若干の建物の相違点がある。


船の中に居た他の人達も降りてきた。全員同じ感想を抱いていた。ほとんど同じなのに少しだけおかしい。そう思っていた時に、レジスタンスのメンバーの一人であるフィリップ空軍大将が姿を見せた。



「アルフォード長官、それとエドワルト大将。何か非常に焦っている様子だがどうかしたのか」


「フィリップ、今の年月日を教えてくれ」


「はい、Г2048/10/1です、定刻通りの到着では?」


「て、定刻通り・・・・?」


「一体どうなってやがる!!なんだここは!本当に帰ってきたのか?」


「あにぃ、ウチが一度家とか見知ったところに飛んでみる。何かあったらすぐに戻ってくるよ」


「ナビ、よろしく頼む!」



1000年時間跳躍したはずなのに10年しか飛べていない、しかし10年しか飛んでいないはずなのに1000年前の光景に少しだけ色を足したような都市の町並み。何があったのか、そして自身が置かれたこの状況は一体何なのか。


ただただ混乱するばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ