第四話 学事生きる事
「なにこれ~♪」
「めっちゃ楽しい!」
奏はこの部屋の字を読んでテンションが上がる。
「まほうすご~い!」
本棚を眺め、面白そうな本を物色する。
・魔法基礎
・初級の魔法
・魔法と生活
・魔法辞典
・精霊図鑑
・魔物の生体
・現代剣術
・空と魔法
・神獣
奏は完全にここから出る事を忘れている。
片っ端から引っ張り出した本に夢中だ。
初めて英語がわかった時を思い出した。
「外国の言葉が理解出来るのは楽しい~」
【魔法基礎】
この世界の魔力の存在を感じる事が大切である。
全ての生物や物質は魔力を帯びている。
生物や物質それぞれ特有の魔力がある。
魔力には火、水、風、土の基本の四元素と光、闇、無の特殊な属性を、含めて7属性が一般的。
他にも希少な属性を持つ魔力が存在する。
「魔力に個性があるという事?」
「私にもあるのかな?」
奏は自分の手を見つめる。
最初の本を読み終えると、奏は目を輝かせながら次々と本を開いていく。
「剣も魔力で強くなる……」
「火起こしの魔法……」
「火の魔法と違うの?」
「灯り魔法」
「塩味が増す魔法」
「なんだそりゃ」
「死者の蘇生術は存在しない」
「死霊術……ゾンビ的な?」
「精霊って見えるの?」
「いたずら好きだって」
「空飛ぶ魔法」
「世界で最も速く飛んだのはハンナである。」
「大陸横断を半刻とかからずに飛んだ」
「この人すごいね!」
「エンシェントドラゴン……やっば!」
「ブレスをひと吹きで街が消し飛ぶとかあり得ない」
「そんなの居たら蹴飛ばしてやるよ!」
カラン……。
杖が奏の前に転げる。
「うわぁ!ビビった~」
「もう!」
奏は杖を軽く蹴る。
ゲシ!
「何よ!」
……。
グゥ~。
本を四、五冊読み込んだ所で奏は腹をさする。
奏のお腹の音が部屋に響く。
「おなかすいた……」
奏は杖を手に近くの机に向かった。
グゥ~。
また腹が鳴る。
食卓みたいに見えた机には金属のコップや皿が置いてあった。
そこにかつてコップだっただろう陶器の破片が転がっていた。
「マグカップ?」
奏は取っ手らしき陶器の破片を手に取った。
この破片だけ妙に現代的(自分の世界と同じようなもの)に感じた。
破片に何か動物のキャラクターの一部が見える。
「これなんだっけ?」
「父が好きなあのキャラ」
「ん~思い出せない」
「まぁいいや」
奏は破片を置いて
机に並んだ椅子座った。
バフッ!
おしりで何かを踏んずけた。
「あ……」
奏は腰を上げ尻の下のモノを見ると
動物の革で出来た鞄だった。
腰を浮かしておしりの下の鞄を引き抜くと机の上に置いた。
「めっちゃかわいいカバン!」
クラシックで結構可愛いデザイン。
「やわらかくて気持ちいい」
「何か入ってないかな?」
奏は鞄を開け中を覗く
「ん?!」
「まっくら!」
鞄の中が見えない。
「んん??」
「ナニコレ?」
不思議な事に何が入ってるのか分かる。
見た事のないモノが頭の中をスクロールする。
それが何なのかイメージでわかる。
「すごーい!すごーい!」
「めっちゃいっぱい♡」
「あっ!これ!これ!」
奏はその中にお目当てを見つけた。
怖いのを我慢して鞄の中にゆっくり手を入れる奏。
あっという間に肘をこえて肩まで鞄の中に入った。
「私が入っちゃいそうだよ……」
明らかに鞄の大きさより入ってる。
鞄の中お目当てを掴んで腕を引き抜いた。
パンだ!
しかもホカホカしてる!
「ちょっと熱いよ?焼きたて!?」
奏はひと口パンをちぎって食べた。
「あ、うま!」
「いやいや……おかしいって」
明らかにおかしい。
何十年も放置された部屋に置かれた鞄の中身が焼きたてのパン。
「なんだこの鞄!?」
「あぁ!魔法の鞄だ!」
「ん!!!」
奏は急いで鞄に手を入れる。
探る手が止まる。
引き抜くと栓がされた瓶を取り出した。
栓を抜いてひと口。
「ぷはぁ!死ぬかと思った」
水だった。
奏は魔法の鞄を手に入れた。
パンを半分残すと奏は瓶と一緒に鞄へしまった。
「そうだ、これも!」
奏は立ち上がると魔法の鞄を開いき、水泳教室用のリュックも鞄に入れてみた。
何の抵抗も無くリュックが入ってしまった。
机にあった筆記用具を手に取ると落ちてた板切れを拾い上げ
(生きるために、しばらく魔法のカバンを借ります。マツワカ カナデ)
さっき習得したばかりの文字で書いて机に置いた。
「部屋の人に会ったら後で謝ろう」
「きんきゅーひなんってやつね」
奏は椅子から立ち上がる。
「そう言えば」
書棚に戻り魔導具と書かれた本を手に取った。
「あった!」
【マジックバッグ】
袋や鞄に時空魔法を施した魔導具。
作り方
…………。
作り方も書いてある。
「そうだ!」
奏は魔導具の本を鞄にしまうと、書棚の本を片っ端から鞄に入れた。
「知識は生きるために必要なのだって言ってたな」
父の顔を思いだす。
すると一冊足元に落ちページがめくれる。
【魔力の感じ方】
魔法発動には当然の事ながら魔力が必要になります。
この世の万物に存在する魔力は、もちろんあなたの内にも存在します。
中ではありません。内に存在するのです。
それを感じる事が魔法を行使する上で必ず必要になります。
古くから初手で行われる実践として
目を閉じて内を知る。
これは全ての魔法道における礎に他なりません。
「ふむ……」
「何かよくわかんないなぁ」
本を拾い鞄に入れる。
鞄を閉じると袈裟懸けに掛け、杖を握りしめていざ出口探しへ!
「そうだ、アレを見とかないとだね」
と、また1つ気になる事を思い出した。
最初に来た方へ戻る奏。
あの図形の横にある文字を見に行った。
その文字を見た奏は苦笑いした。
『マ※※のバーカ!』
マから後が読み難くい。
「すごい迫力のある字……」
「やっぱコワイ」
誰かに向けた感情的な一言だった。
「ココで何かあったんだな……」
文字が読める事で、知らなくても良かった内容も入ってくる。
「ん?難しいけど読める?」
奏は魔法陣に書かれた文字が目に入った。
片手で鞄を開けると手を中に突っ込む。
「あ、コレコレ」
【魔法陣の理】と書かれた本を取り出した。
ジャジャジャジャン♪
「まほーじんのほん~」
未来から来たロボットのマネをする奏。
「ふふふ……ポケットじゃないけどね」
ひとりで笑う。
奏は腰を落として杖を起き本を開いて読み出した。
「あ!コレかな?」
【転移魔法陣の理】
魔法陣にて出入口を明確にする事で転移を安定させる事ができる。
また転移先に人またはモノや場所を指定する事も出来る。
転移魔法陣の起動方法。
転移先を指定する方法。
転移先が未設定の場合。
転移時の異常。
「これってもしかして?」
魔法陣の上に移動する。
奏は最初に読んだ本、魔法基礎を思い出した。
奏の得意技。
記憶力。
『奏ちゃん凄ーい!そんなことよく覚えてるね!』
涼音ちゃんの言葉を思い出す。
『キモイって!そんなん忘れてるわ』
嫌なアイツの顔がよぎる。
評価はマチマチだがとにかくいいらしい。
あのページに書いていた事を思い出す。
「自分の魔力を感じる」
「自分の内に」
目を閉じて深呼吸する奏。
「こういう時は基本が大切だからね」
真っ暗な世界で何かを探す奏。
「……なんて、私に魔力なんかあるはずないか」
真っ暗に慣れた頃。
(あら?)
自分の身体をぼんやりイメージする事が出来た。
イメージの身体。
輪郭が光りでハッキリする。
(私ってこんな感じ)
少しずつ膨らむ身体のイメージ。
どんどん大きくなる光の奏。
(え……)
焦る奏。
(まって……)
どこまでも膨らむ光のイメージ。
そして強くなる光。
カタカタ……。
近くの棚や机が音を立てる。
身体が動かない奏。
(ちょっと……やだ!)
(助けて!)
(ちち!はは!)
目を閉じた奏の胸元で水晶光る。
イメージの中にも奏の胸に光る水晶が現れた。
水晶を中心に光の環幾重にも広がると奏の光を包んで閉じ込めた。
光が安定して落ち着くイメージの自分。
(怖った)
(助かった)
(いや、助けられた……)
ハッと目を開く奏。
奏の真下で魔法陣が光り輝いていた。
自分には魔力がある。
「マジでやばいコレ」
少し手が震える。
怖さのあとに安心感と興奮の波がやってきた。
何とか自分を落ち着かせる。
「これなら多分大丈夫」
魔法陣の中で両手と両膝つく。
再び目を閉じて
次はしっかりイメージする。
「時と空間を司る女神の戯れに我を招きて羽ばたかせん……異空転移!」
「こんな感じ?お願い、帰りたい!」
『詠唱確認』
『転移魔法陣起動』
『転移対象者の魔力を確認』
『転移座標固定』
『転移シークエンスに移行します』
目を開ける奏。
足元の光がせり上る。
一気に光が奏を突き抜けて光の柱が立ち上がる。
奏は光に吹き飛ばされたような感覚の後に身体の重さが無くなった。
そしてまた重力が身体を押し付ける。
足の裏に床が着く。
奏はあのエレベーターの中で座り込んでいた。
ガチャン。
鞄を袈裟懸けにした奏がエレベーターからおりてくる。
近くのベンチに無言で座ると鞄を抱きしてめニヤリと笑う。
「ふふふ~ん」
「すごーい!」
周りに居た通行人が奏を怪訝な表情で見る。
奏は近くの時計を見る。
「え?あ!水泳教室間に合う?」
あっちには半日以上居た気がする。
飛ばされた時より30分くらいしか経ってなかった。
「急がなきゃ!」
奏は急いでスイミング教室に向い走って行った。
スイミングスクールのロッカー。
必要以上に周りを確認する奏。
「やっぱり夢じゃない!」
あの鞄からリュックを取り出して入れる。
パタン!
ロッカーを閉めてプールサイドに向かう。
その歩みはどこか自信に満ち溢れてみえるが……。
「あ!杖忘れてきた」




