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近所の異世界に通ってます。  作者: 悪萬畜倫(おまんちくりん)
第三章 奏動

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第十五話 走って逃げガチ

「マティさんお疲れ様です」

 副ギルド長のマルコが職員たちに押され、マティが訓練場の出入口から出てくるのを待っていた。


「あら、副ギルド長」

「本部から離れた訓練場まで、わざわざ来られるなんて、何か緊急事態ですか?」

 マティが状況を理解しつつ、様子のおかしいマルコにわざと意地悪に言う。

 

「あ、いや、その……」

 マルコの後ろの職員数人が彼を急かす。

「わかった、わかったから……」

 マティが彼らに目を向けると、職員たちは気まずそうにマルコの後ろに隠れた。

「うちの職員が、あの訓練用の土壁を冒険者の訓練用に使わせて欲しいらしいんだが……」

 彼も職員たち同様に気まずそうな顔をする。


「ええ、構いませんよ」

「ただ、スパイルパーティがクリアするまで、午前中は彼ら専用に空けておいてくださいね」

 マティの笑顔に皆がホッとする。

 

「ええ、それはもちろん」

「ありがとうございます」

 マルコは頭をかきながら頭を下げた。

 

「あ!髭!」

 奏がマルコを見つけて寄ってくる。

「あのなぁ、一応ココじゃ二番目に偉いんだぞ!」

 髭を触って奏に顔を近づける。

「しってる」

「でも、一番皆に優しいよねー」

 マルコに向かってニヤリとする奏。

「あ、え……」

 後ろで職員たちがクスクスと笑っている。

 

「奏ちゃーんいくよー」

 ナッティスが出口の方から杖を振って呼んでいる。

「はーい!」

 手を振って返事をする。

「マティ先生は?」

「あとで行きますので先に向かっていてください」

 マティが奏の背中に手を添える。

 

「じゃあ待ってますね~」

 マティに手を振って奏がナッティスたちを追いかけて出口へ向かっていった。

「髭!またね!」

 マルコが一応手で応えてやる。

 

「あのこを見ていると彼女を思い出しますね」

 マルコが奏の背中を見ながら呟いた。

「ええ、確かに……でも輪を掛けて芯の強い子です」

 マティも奏の背中を見守る。

「心配ですな」

 隣のマティに目を落とす。

「心配……無いと言えば嘘ですが、彼女は守られていることを理解しているようです」

 マティが眼鏡をはずし、胸元にぶら下げる。

「護ってやりましょう」

 腕を組むマルコ。

「ええ……」

 マティとマルコは職員たちと訓練場へ歩いて行った。

 

 この日、街の城壁に隣接した冒険者ギルド訓練場に『魔力制御鍛錬マティの白壁』、『身体制御鍛錬マティの赤壁』という訓練施設ができた。

 

 ——————

 


「昼はどうするんだ?」

 トラスが歩きながら三人に話しかける。

「最近手軽で美味しい店ができたってマティ先生が教えてくれたの」

 ナッティスが皆を先導する。


「ああ、知ってる~中央通りの店だ!すごく美味しくてめっちゃ人気らしいよ」

「何より手頃で早く食べられるのがいいらしい」

 フランツが得意げに奏へ説明する。

「へぇ~楽しみだなぁ~」

 奏がフランツと腕を組んで歩く。

 

 中央通りに差し掛かったところで、店の前に行列ができていた。

「ここだ!」

 ナッティスが店の看板を指さした。

「おお~めっちゃ並んでるな~急がないとな」

 トラスが最後尾を探して並びに行った。


「な……なななななな、なに~!!!」

 奏が既視感のある看板を見て思わず声をあげる。

「このお店も、真音さんの発案でできたお店なんです」

「うわ!」

 気配もなく横に立つマティにビクッとなる奏。

 

【マツコトナルド】

 バンズからはみ出すハンバーグとチーズに野菜。

 この世界には無い『M』字の黄色い看板がデカデカと輝いている。

 (父よ……お前は一回、訴えられろ……!)

 顔を引きつらせる奏。

 

「私、この味に感動してしょっちゅう食べに来てます」

『簡単に食べられる宮廷の味!』

「キャッチコピーを上回る味わいです!宮廷でこんな素晴らしい味に出会ったことありません!」

 マティが街中でキラキラしはじめる。

 暴走気味のマティの手を引いて、奏は皆の並ぶ行列に向かっていった。

 

 マティと四人はテイクアウトでハンバーガーセットを芝生の広場で食べることにした。

「味……ほぼ同じやん……」

「奏ちゃん食べたことあるの?」

 ナッティスが奏の横にちょこんと座り、大きく見えるハンバーガーを両手で持って頬張る。

「お父様、やり手の商人だっけ?だったら宮廷とかで食べたことあるんじゃない?」

 フランツが向かいでフライド野菜スティックを咥えて質問する。

「あ、いや、初めてです」

 (いや、父はヤラカシテル商人です……)

 苦手なピクルスのような物を指で抜き取る奏。

 

 マティがアイスティーをストローで一口飲む。

「あ~食べながら聞いてくださいね」

 

 ゴクリッ!

 ニコニコのマティの眼が笑っていないことに気づくトラスは、喉を鳴らして炭酸ドリンクを飲み込んだ。


「この後のB級討伐依頼ですが……」

「皆さん自分の適性武器を禁止します」

 マティは芝生から立ち上がると腰のバッグに手を入れる。

「トラスさんはこれ」

 片手でスッと取り出したのは巨大なウォーハンマー。

 ウォーハンマーを軽々と片手で持つ彼女に周囲でくつろぐ人々がザワつく。


 マティがトラスに差し出すと、トラスは片手で受けようとした。

「え!」

 ゴンッ!

 慌てて両手で受け直すもバランスを崩して地面にハンマーを落とした。


「フランツさんはこれ」

 差し出されたのはシンプルな片手槍。

「槍?」

 両手で受け取るフランツ。

 

「ナッティスさんは属性魔法を禁止します」

「使用してよいのは、無属性魔法、魔力弾のカドルのみです」

 

「……はい」

 口元にケチャップを付けたまま返事をする。


「奏さんは、線を切りながら走って逃げなさい」

 

「えええええ?」

「逃げるの!?」

 不満げに奏が聞き返した。

 

「ただ逃げるわけではありません」

「探知魔法で周囲の状況を確認して皆に知らせること」

「なんでも構いません」

「常に状況を知らせ続けてください」

 マティは奏に手振りを交えて説明する。

 

「お知らせ係?」

「まぁそんな所です」

 奏の解釈に笑顔で答えるマティ。

 

「それとコレを使用してください」

 マジックスクロールを四人に手渡す。


 四人が一斉にスクロールを開く。


【通信魔法】

 

 四人の目の前に魔法陣が展開される。

『ラーニング処理開始』

『魔力値確認、通信経路確保……』

 頭の中に人の声が響く。


『魔法感度良好』

『セットアップ完了』


「初めて使うわ」

 フランツが少し嫌な顔をする。

「俺も、でもなんか苦手だわ」

 トラスも嫌な顔をする。

 

「私もあまり好きじゃありませんが、便利です」

 マティが珍しく同意する。


「なんか魔法の声、聞き覚えあるんですよね」

 奏が不思議そうな顔をしてフランツとマティをみる。

 

「あ、そうですか?それはきっと人が聞きやすい声にしてあるんだと思いますよ……」

 なぜか焦るマティを見て、首をかしげるフランツ。


「確かに聞きやすい声、というか頭に通りますよねこの声」

 ナッティスが口をハンカチで拭きながら下から見上げている。

 

「あーうちの母も似たような声ですね~もう少しおばさんですけど」

 奏がイヒヒと笑う。


「あ、あ、えーとそろそろ時間です」

「私は仕事がありますので、同行はしません」

 話を遮って、必死にマティが本題に戻す。

 

「では、健闘を祈ります」

 支度を終えたスパイルパーティをマティが見送る。

 

 奏がマティに手を振ると、静かにマティも手を振り返した。

 

「レヒト」

 

「ここに……」

 背後から現れるレヒト。


「彼らを頼みました」

 

「は!」

 スッと消えるレヒト。

 真っすぐ背を伸ばしたマティが通りの人混みに消えていく。



 ——————


 高速馬車に揺られて街道を30分ほど進み、駅で降りるスパイルパーティの四人。

[プラトン渓谷補給基地]と書かれた大きな年季の入った看板が立っている。

 

「お尻痛い」

 奏が馬車から降りるとお尻をなでながら歩く。

「なんだ馬車は初めてか?」

 トラスがハンマーをかついで横に並んで一緒に歩く。

「久しぶりに来たけど、いつみても凄いねここ」

 ナッティスが杖を小脇に抱えて身なりを整えている。

 

 プラトン渓谷補給基地は、街道沿いの小高い丘の上にある。

 先に馬車でトラスから聞いていた通り、冒険者ギルド職員と帝国兵士が補給基地内で忙しなく歩いている。

 冒険者ギルドと帝国の共同運営らしい。


「なんか、ワイルド……」

 奏が遠目に様子をみる。

 

 ちょっと寂れた商店街のような雰囲気で、木造の簡易宿や商店、倉庫が立ち並ぶ。

 出発する冒険者と帰還した冒険者が、それぞれの目的を持って基地内を往来している。

 

 補給基地の奥の丘の上から巨大な卓上地が密集する渓谷群が眼下に広がる。

「めっちゃすごーい!綺麗!」

 奏が丘を見下ろして叫ぶ。

「わぁマスクメロンみたい……」

 ぽつりと口にする奏。

「マスク?なんだ?」

 トラスは奏が時々口にする変な単語が気になる。

「すごいでしょ!亀の甲羅みたいじゃない?」

 ナッティスが嬉しそうな顔をして奏をみる。

「あ、亀は居るんだ……」

 トラスとナッティスたちが笑う。

「当然だろ~面白い奴だなお前は」

 ハハハ……。

 とりあえず奏は笑っとく。

 

 渓谷に掛かる橋を渡った先が、今回の討伐依頼のあった卓上地の上にある草原。

 橋の手前には帝国兵士が詰めていた。

 トラスが討伐依頼書を見せる。

「通っていいぞ、気をつけろよ」

 兵士が封鎖を解き、橋を通してもらえた。


 

 草原の中をしばらく行くと、大きな木が一本立っており、遠くに岩と数本の木が見える。

 トラスの指示で木の下に拠点となる陣地を作ることにした。

 木を中心に半径20メートルほどの円を描くように草を薙ぎ倒していく。

「準備はできた!」

 皆でマティの指示内容を確認し、トラスの指示でそれぞれ配置に付く。

「よし、狩りの時間だ!」


 

 奏が自分の背ほどもある浅葱色の草をかき分けて草原を一直線に走る。

 (くさーい!これ……ネギじゃない?)

 少しでも見つからないように頭を下げて、目的の大きな岩まで全力疾走だ。

『あ~何か踏んだ!』

『大丈夫?』

 ナッティスが通信に割り込む。

『大丈夫だけど、こわーい!』

 踏まれた巨鳥が尾羽を上下にバタつかせ、大きな体をのけぞらせると、奇声を上げて起き上がった。

 ブォーーーーーン!


『奏!頭下げろ!』

 トラスが指示する。

 奏の頭の上を閃光が走る。

 後方で何かが倒れる音がする。

『一匹やったよ!』

 ナッティスの嬉しそうな声が聞こえる。

『幸先いいね!』

 フランツがうれしそうに割って入る。


 

『ごめんなさい!探知忘れてましたぁぁぁ』

『こわかったぁぁぁ!』

 奏が草原を疾走する。

 

『今、一、二、三、……』

『上に四匹目がいる』

 足を止めることなく数を報告する奏。

 

 ナッティスが陣地の中央にある大きな木の上で状況を監視する。

『資料にあった指揮役かも』

『見つかった!こっちに来る』

 焦るナッティス。

 

『落ち着け、弾幕張れるか?』

 トラスが迫るリクポ鳥を凝視しながらハンマーを握り直す。

 

「カドリム」

 ナッティスが魔力弾を複数展開する。

『え~!?』

 ナッティスの叫び声に陣地のトラスとフランツが木の上を見る。


 同時に十二発のカドルが一直線にリクポフィッツ鳥めがけて発射される。

『おい、どうした?』

 トラスが心配して声を掛ける。

 

 指揮役のリクポフィッツ鳥が全弾回避して大きく旋回する。

 

『わかんないけど、カドリム一回の発射数がめっちゃ増えてる!』

 ナッティスが少し嬉しそうに答えてきた。

 

『トラスさん!一匹そっちに行った!』

 奏が更に状況を伝えてくる。

 

『もう一匹……こっち来てる~助けてー』

『あ~!上のクルクルしてるのも向き変えて来てるよ!』

 

『奏ちゃん身体低くして!』

 ナッティスが奏の後方めがけてカドルを三発撃って牽制する。

 怯んで転ぶリクポフィッツ鳥がすぐさま体勢を整える。


『あ~虫きらーーーい!やだーーーー!!』

 草むらの虫に逃げ惑う奏が、虫をよけて旋回するように走る。


 一直線に走るリクポフィッツ鳥が奏の旋回についていけず、あさっての方向に突っ込んでいった。


『ん?今のって?』

 奏は足を休めることなく探知に更に集中する。

『ナッティスさん!トラスさん!あと10秒ほどで、さっきの一匹突っ込むよ!』

『まかせろ!』


『あ!もう一匹行った!』

 奏の探知範囲の外側から、もう一匹が突然現れた。

『同時に行くかも!』

 奏が叫ぶ。

 

『何!?』

 トラスが身構えて声を出す。

『ナッティス!』

『無理!』

『指揮のリクポが……』

 上空には、均一に練られた魔力の閃光が弾幕をつくっている。

 

『フランツ左からくる!』

 ナッティスが草原の波を捉えて声を掛ける。

『トラスさん正面だよ!』

 奏が声を掛けた。


『『わかった!』』

 二人同時に構える。


 ドドドドドドドドド……。

 草の壁の間からまるでバリスタの矢のようなくちばしが突き出してくる。


『えいやああああ!』

 フランツは咄嗟に迫るくちばしの側面に槍の切っ先を向ける。

 リクポフィッツ鳥が槍先を嫌がり進行方向をわずかに変えた。

 

『どりゃああああ』

 トラスがウォーハンマーを振りかぶり、飛び出してきたリクポの側面めがけてハンマーを振る。

「しまっ……た!」

 慣れない武器に足を滑らせハンマーが空を切る。


 リクポフィッツ鳥はハンマーに臆して体勢を崩す。


 二匹のリクポフィッツ鳥は思わぬ方向転換に体勢を崩すと、互いに止まれず巨体をぶつけあう。

 勢いのまま回転しながら二匹のリクポフィッツ鳥は陣地の外に転げていった。


『陣地から私の方に二匹来ます』

 奏は二匹の間を一直線に通り抜ける。

『もう一匹……上です!』

『上に二匹、下に二匹』

 必死に状況を伝える奏。


 上空を旋回して上昇する二匹。

 

『だめ、高すぎて届かない』

 二匹がナッティスの弾幕の圏外へ上昇していく。


「何かする気だ」

 トラスが小さくなった上空の二匹を目で追う。

『ナッティス!弾幕やめ!』

『引き付けろ!』

 

『わかった!』

 ナッティスが上空を見つめて集中する。

 

『フランツ来るぞ!』

『任せて!』

 フランツは槍にロープを括り付ける。


 上空の二匹が螺旋を描くように降下してくるのが見えた。

『来た!』

 槍を握りしめるフランツ。


 上空で二手に分かれたリクポフィッツ鳥。


 一匹は陣地へ降下、もう一匹が……。


『奏!気を付けろ!そっちに行ったぞ!』

 

『わかったあぁぁぁ』

『任せて~』

 二匹の線を切りながら走り回る奏は大きく円を描くように走り出す。

 

 上空で方向を微調整しながら狙いを定めて降下する二匹。

 

 陣地に迫る一匹。

『指揮の奴だ!』

 ナッティスが叫ぶ。


 急降下から鼻先を上げて地上を掠めるように一直線に陣地に迫るリクポフィッツ鳥。

 

『撃つ!』

 ナッティスが二発連続でカドルを発射。

 細かい軌道修正でよけるリクポフィッツ鳥。

 二発目が脚を掠めて少しブレた。

 

『そりゃああああ』

 フランツが投げ槍の構えからそのまま巨鳥めがけて槍を投げた。


 リクポフィッツ鳥は迫る槍をよけ切れず、槍をくちばしに受けて弾き返した。

 一瞬、リクポフィッツ鳥の視線が切れる。


 トラスは朝の二つの訓練を思い出し、足に魔力を貯める。

 そして、背後にあるナッティスのいる木の幹を蹴って駆け上がる。

 

 二歩三歩と幹を蹴り、大きく跳び上がる。


 陣地に突っ込んでくるリクポフィッツ鳥。

『うおらああぁぁぁぁ!!』

 トラスは落下の勢いのままに、ウォーハンマーを巨鳥目掛けて振り下ろす。

 

 ドゴオォォォォォン!!!

 

 リクポフィッツ鳥の巨体が頭から地面に叩き込まれた。

 

「いって~」

 体を草むらにめり込ませるトラス。

「大丈夫!?」

 フランツが駆け寄る。


『奏は!?』

 トラスがすぐさま身体を起こす。


 奏は地上の二匹の間を抜けて、そのまま一直線に走る。

 上空から迫る一匹。

 両脇の二匹も奏目掛けて走り始めた。

 

 奏は目印の岩の前でピタッと足を止める。

(小さく……)

 奏の魔力が消える。


『奏ちゃん居る?』

 ナッティスが慌てて声をかけるが返事がない。


 上空の一匹が細かく軌道修正しているのをナッティスが眺めている。

 

 降下してきたリクポフィッツ鳥。

 地表すれすれで首を起こし、草を吹き飛ばしながら滑空する。

 目標を見失った巨鳥は目印の岩をギリギリでかわし翼を広げて降り立つと、周囲を見渡し再び走りだした。

 地上の二匹も目印をかわして直進していった。


『あぶなかったぁ~』

 奏が声を出す。

『大丈夫か?』

 トラスが声を掛ける。

『うん、岩の裏に隠れてた』

 奏が小声で応えた。

『魔力が消えたからてっきり……』

 ナッティスが泣きそうな声をだす。


『奏、一回戻れるか?』

「ただいま!」

『うお!』

 トラスの指示の直後に草むらから奏が顔を出す。

 

『また上がっていったわ』

『空の一匹が指揮役に変わったみたいね』

 フランツが空を見上げている。


 

 トラスが奏に指示を出す。

 陣地から左手に見える細い木を指さした。

『わかった!』


『はいこれ気をつけてね』

『うん!ありがと!』

 奏はフランツからロープを受け取ると……。

 

 

『準備できたよ~』

 しばらくして草むらの中に潜んだ奏が連絡を入れる。


『奏、走れ!』

 トラスの合図で走り出す奏。

 魔力探知ですでにリクポフィッツ鳥の位置を把握しており、二匹の間を通り抜ける。

 

『やっぱり魔力に反応して追いかけてくるみたいだよ!』

 奏は魔力を調整しながら走る。

『でかした奏!』

 奏はさっきと同じように円を描いて走る。

 敵の直線攻撃を利用して、陣地の方に向くように調整する。


『トラスさん私の後に二匹行くよ!』

『ナッティスさん!上も降りてくる!』

『任せろ!』

 トラスが身構える。

『ありがとう!見えた!』

 ナッティスが魔力を貯めて集中する。

『トラップ通過!』

 奏が張ったロープの下を通過する。

 

『よしこい!』

 トラスが気合を入れる。


 フランツの目線の先にある細木が、ロープに引かれて大きく揺れた。

『合図!きた!』


『十、九、八……』

 フランツがカウントダウンを始める。


『六、五……』

 

 バサッ!

『来るよ!』

 奏が叫びながら草むらから飛び出すと、そのままトラスの横を通り過ぎ陣地の外に抜ける。


『四、三、……』 


『そうりゃ!』

 ウォーハンマーを大きく振りかぶるトラス。

『二——』


『一!』

 勢いよく草の壁をくちばしで割って突っ込んでくるリクポフィッツ鳥。

 トラスは体を回転させながらハンマーをそいつの横腹目掛けて打ち込んだ。

 横からの不意打ちに、かわす間もなく吹き飛ばされたリクポフィッツ鳥が、左の草むらへ倒れ込む。

『たぁあ!』

 足元に倒れ込んできたリクポフィッツ鳥の脇腹目掛けフランツが槍を突き立てる。

 

 草の壁から突っ込んできた二匹目の目の前に一匹目が横たわる。

 それを見て咄嗟に跳躍する二匹目がトラスたちの上を飛び越えて草むらの中に消えて行った。


『くそ!魔物のくせに判断が早いな!』

 

『まだくるよ!』

 ナッティスが声をかける。

 降下してくるリクポフィッツ鳥が陣地に狙いを定めている。


『カドリム』

 ナッティスが弾幕を左右に分けて発射。

 すかさずカドルを一発、真正面に放つ。

 リクポフィッツ鳥がさらに高度を下げた。

 さらに一発を放つナッティス。

 逃げ場を失ったリクポフィッツが地面に突っ込んで陣地手前に滑り込んでくる。


『せいやぁ!』

 地面に突っ込み、もがくリクポフィッツ鳥に、トラスが渾身の一撃を加えた。

 

『全部で四匹やったね!』

 ナッティスが木の上ではしゃぐ。

『もう一匹はいいの?』

 奏はまだ走って状況を確認している。

 

 逃げた一匹を追いかけて、周囲に探知魔法を展開する。

『見つけた!』


『あれ?』

 

『どうした?』

 声を掛けたフランツが、槍を手入れしながら遠くを見る。

 

『一、……』

『二匹、三……四、五』

『六、七……八、九、十……』

 数えるのを止めた奏。

 

『奏どうした!?』

 トラスも草原の異様な気配に気づく。

 

『……無理!数えられない!』

『いっぱい……いるよ……』

 奏は思わず足を止める。


『奏!戻れ!走れ!止まるな!』

 トラスの声が頭と草原に響く。


 全力で走る奏。

『三匹ついてくる!』

『上にも三匹!』

 自分の仕事は忘れない。

 

『ナッティス!』

『わかってる!』

 トラスの呼び掛けと同時にナッティスのカドリムが上空に複数の線を描く。

 ナッティスの視線の先では、迫る三匹の他に複数のリクポフィッツ鳥が上空を旋回している。

「なんて数なの……」


 奏のすぐ後ろまで迫る三匹のリクポフィッツ鳥。

『いやぁぁぁぁぁ』


『ついて————』

『くるな!!』

 奏が巨鳥に向かって大声で叫ぶ。

 無意識に魔力を帯びた奏の声が平原中に響き渡る。

 自分の声に驚いた奏が目を丸くする。

 

『何!?』

 あまりの声のデカさにびっくりするナッティス。

 リクポフィッツ鳥三匹が驚いて、草原から頭を出して後ろに身を引くのが見える。


『カドル!』

 ナッティスは見逃さなかった。

 

 トラスとフランツも一瞬寒気を感じる。

『どした?ナッティス?』

『何かあったの?』


『奏ちゃんがご乱心』

『おかげで一匹やったわ』

 ナッティスが空と陸に目を光らせる。


 バサッ!

「ただいま!」

 奏が陣に戻ってきた。

『無事でよかった』

 フランツが近寄って様子をうかがう。

『二匹は立ち止まったみたい』

 奏が膝に手を置いて息を整える。

『フフフ……なんかわかったかも』

 奏がニヤリとして上体を起こし手で汗を拭う。

 

『戻ってすぐで悪いが、木の上から探知頼めるか?』

 トラスが奏に水袋を渡す。

『もちろん!』


 奏は木によじ登るとナッティスの後方の太い枝に立つ。

『おじゃまします』


『頑張ったね奏ちゃん』

 前を向いたまま声を掛けるナッティス。

『ぜんぜんです……』

 

 奏は探知魔法を広域に展開する。

『あ!空の上、もっと上に二匹居る』

『上は五匹』

『下は……めっちゃいるけど……近くに十五匹くらい』

『こっちにきてる!』

 更に奏が通信を続ける。

『二匹出てきたよ!』

 

『なるほどな!』

『みんな!心配するな!いけるぞ!』

 トラスが自信に満ちた顔で皆を鼓舞する。


『奏!奴らの方向指示頼んだ!』


『わかった!』


『フランツ!ナッティス!奏!みんな!やるぞ!』

『『『はい!』』』

 三人の声が響く。

 

『トラスさん二匹ほぼ同時!』

『真ん中と左!』

『10秒後!』

 奏は全力で探知魔法に集中する。

 

『まかせて!』

 左側にフランツが位置を取る。

『ナッティス!上から一匹!』

『了解!見えた!』

 奏の声にナッティスが構える。

 

『三、二——』

『一!』

 浅葱色の壁から突き出す黄色い二本のくちばしにフランツとトラスがタイミングを合わせる。

 トラスが先ほどより鋭く身体を回し、中央の巨大なくちばしの側面にウォーハンマーを叩きつける。

 体勢を低くしたフランツが、左側の草壁から飛び出した巨鳥の側面へ、急所を狙って槍を突き立てた。

 顔面に一撃を食らったリクポフィッツ鳥がもう一体に突っ込んで倒れ込む。

 トラスが倒れた二匹にそれぞれハンマーでとどめを刺した。

『カドル!』

 トラスとフランツの頭上を一直線に閃光が走る。

 下降するリクポフィッツ鳥が姿勢を地面と平行にした瞬間、魔力弾がその身体を射抜き、撃墜する。

『かっこいい!!』

 奏が思わず叫ぶ。

『へへへ~』

 ナッティスが満更でもなさそうに笑う。


『この戦闘、見えた!』

 トラスの予測が確信に変わった。


『また来るよ!』

 奏が集中する。

 

 二匹、三匹と陣地に迫るリクポフィッツ鳥。

 群れとしては非常に賢く統率が取れ、連携も見事だ。

 しかし、リクポフィッツ鳥の攻撃はスピードを生かした直線的な突進が主体で、かわしつつ叩けば対処できた。

 

 上空は、ナッティスが弾幕と、精度の上がったカドルの狙撃で押さえる。

 奏の的確な方向指示で、あっという間に二十匹を沈めていった。


『ダメだ……半分も減ってない気がする』

 奏が探知魔法を切らさず状況を知らせる。

『また三匹……』

 探知魔法に掛かった三匹が後退していくのが見えた。

『あれ?』

『何か様子が変だよ』

 リクポフィッツ鳥の群れが左右に割れ、探知魔法に大きく光る個体が見える。

『大きいのが……』

『来るね……』

 ナッティスが木の上から目で見て答えた。

 一際大きいリクポフィッツ鳥が他の個体を押しのけてこちらにやってくるのが見える。

『なんだあれは!?』

 トラスたちからも目視できるほどの大きさだ。

『ボス!?』

『止まった』

 丁度目印にしていた岩と陣地の間で超巨大なリクポフィッツがこちらを見据えている。

 

 大きく翼を広げると、くちばしを天に突き上げた。

 ブオォォォォォォォン!!

 

 けたたましい鳴き声を草原に響かせ、巨体をゆらした。

 

『何?何かの合図?』

『わからん!』


『引いていく……』

 魔力探知を続ける奏。

『みんな居なくなった』


『……あれ!』

 ナッティスが指さす先にリクポフィッツ鳥が滑空しながら大きな黒い波を作っているのが見える。

 黒い塊が遠くの空で渦巻き、波打ちながら上昇すると、向こうの空へ消えていった。


「逃げたのかな?」

「おそらくな……」

 呆然と立ち尽くすフランツとトラス。


「うわぁ~」

 木から降りてくる奏とナッティスが、地面に横たわるおびただしい数のリクポフィッツ鳥に思わず顔を引きつらせた。



 

 トラスとフランツが獲物の討伐証明部位である冠羽と尾羽をセットにして採ると、奏とナッティスが手分けして街で新調したパーティのマジックバッグに獲物丸ごと収納していく。


 全て終えた頃には日が傾き始めていた。


 スパイルパーティの四人は、街への最終馬車に乗り、夕日に見送られて帰路についた。


「そういや奏、帰りに橋の欄干で何してたんだ?」

 トラスがふと思い出した。

「あ~ひみつ!」

 奏がニコニコ笑う。

「え~何なに~ひみつって」

 フランツも『ひみつ』につられて寄ってくる。

 ナッティスはトラスの膝の上で夢の中だった。

 


 ——————



 ソラルディの中央門は閉門時間を過ぎて固く閉ざされていた。

「門閉じてるよ?」

 奏が門を指さす。

「最終馬車の乗客や一部の住民は証明書を提出すると脇の門から臨時入場させてくれるんだよ」

 ギルドの証明書を見せて通用門から中に入るトラスたち。


「とりあえずギルドで報告だな」

 中央門から冒険者ギルドのある中央広場へ向かって歩くトラスたち。

 

「おなかすいた~」

 奏が腹をさする。

「だよね~」

 フランツも奏に賛同する。

「わたしも~」

 ナッティスがトラスと繋いだ手をぶんぶんと振る。

 

「報告終わったら打ち上げだ!」

「「「やった!!」」」

 ナッティスを先頭に奏とフランツがギルドに向かって走り出した。

 

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