第十一話 父と女と私とパーティ
「お願い、父を返してください!」
「父は何処にいるの?」
「父とはいつからそんな関係なんですか!?」
奏が女性の腕を掴み懇願する。
「か、かかか、かな、かなでちゃん」
「ちょ、ちょちょちょっと待って」
想定外の出来事に狼狽える女性。
「お願いします……」
「私の父を取らないでください……」
ううぅぅ……。
「父と一緒に帰りたい!」
あふれる感情に耐え切れず奏は涙を浮かべた。
「あ、ああああああ」
言葉にならず、対応に困る女性を見て、奏が今にも声を上げて泣きそうな顔をする。
女児を泣かせる大人の女に周囲の視線が突き刺さる。
『今の聞いたか?』
『父を返せって……まさか』
『やだ、どんな関係かしら……』
ヒソヒソ……。
フゥ~……。
女性は無理やり自分を落ち着かせる。
「失礼、ちょっとコチラへ」
女性は奏の手を握り建物の脇へ移動して、腰を落として顔を覗き込み目線を合わせた。
「奏ちゃん」
「私を知ってるんですか?」
奏は涙を腕で拭い目の前に居る女性の瞳を見つめる。
「はい」
女性が優しく微笑む。
鮮やかなグリーンのビー玉のような瞳に見つめられ、奏は気持ちが少し落ち着いた。
「大変失礼しました」
「取り乱してしまいまして——」
身なりを整える女性。
「奏さん、私はあなたのお父様と決してヤマシイ関係ではありません」
「ほんとう……ですか?」
女性の瞳をジッと見る奏。
「ええ、お母様もご存知です」
奏から目をそらさずに背筋を伸ばす女性。
「母……?」
「……はい」
「私はお父様の秘書兼身辺警護の任を賜っております」
「ひしょけん、しんぺんけいご??」
「簡単に言いますと」
「お父様、松若 真音様の帝国……この国での生活やお仕事のお手伝い」
「そして危険から身を守る担当をしております」
穏やかな笑顔で奏を見つめる彼女に奏は表情を緩めた。
「カナデ!?」
「奏に何をする!」
フランツが屋根を走って追いついて、その勢いのまま女性目掛けて飛び降りる。
女性は飛び付く直前のフランツにゆっくり手をかざした。
すると、奏の頭上でフランツの身体がピタリと静止。
そのままフランツをゴロンと地面に転がしてしまった。
流れるような無駄のない動作に、奏は反応することもできず、ただ見ているしかなかった。
「フランツさん!」
グゥ~……。
寝息を立てるフランツの身体を揺らす奏。
「大丈夫、魔法で寝かせています」
「奏ちゃ~ん?」
広場から杖が走ってくる。
ナッティスだ。
「おい!待ってくれ~」
荷物を抱えたトラスが後方で叫んでいた。
「奏ちゃん!」
「フランツ!」
横たわるフランツに近寄るナッティス。
そのまま奏とその前にいる女性を凝視する。
「マ……マティ先生!?」
ナッティスがマティと奏の顔を交互に見た。
「どういう状況!?」
「先生の先生なんですか?」
奏が少し驚いて綺麗に切りそろえられたタッセルボブのブロンドヘアで少し耳の尖った女性、マティを見つめる。
「奏さん、改めまして」
「私はマティック・ハミルと申します」
「マティと呼んでください」
深々とお辞儀するマティ。
「あ、こちらこそ」
奏も礼を返した。
「お父様の件は後ほど二人でお話しましょう……」
マティはお辞儀した奏に耳打ちをする。
「え~っと……」
立ち尽くすナッティス。
ハァハァハァ……。
「おい……これって」
荷物を地面に置きトラスが息を切らしながらナッティスの肩に手を置く。
「もぉ食べられないよぉ」
フランツがトラスの足元で寝返りをうつ。
「「どういう状況!?」」
ナッティスとトラスが互いの顔を見る。
「先生、ご無沙汰しております」
ナッティスが奏の横に立つ。
「ナッティスさん」
「旦那様、フランツさんも元気そうね」
「あ、どうも……すいません」
「こいつらが何か失礼なことを?」
トラスは何となく状況を理解しようとしながら、申し訳なさそうにマティに問いかける。
「あ、いえ話せば長くなりますので場所を変えましょう」
マティは右手のひらで建物の看板を丁寧に示した。
【冒険者ギルド ソラルディ本部】
中に入る一同。
トラスがフランツを負ぶっている。
遠く離れた受付からマティを見つけたルスカスが、慌てて奥の扉に引っ込むのが見える。
すぐに出て来たマルコが早足で近寄ってくる。
「お待ちしておりました」
「城門からご連絡くだされば、お迎えに上がりましたのに」
不慣れな敬語が変な感じに聞こえる。
「お心遣い感謝いたします」
「ですが、この度は色々訳アリで……」
マティの後ろに控える本日二度目の奏とスパイルパーティの面々……。
一名は寝ている。
「また来たぞ、髭」
偉そうに言う奏。
「髭って……おぃ」
片方の眉を上げ、トラスを見るマルコ。
「こりゃどういう状況だ?」
「……しらん」
トラスが目を逸らした。
「とにかく中へ」
マルコがマティと奏達を奥の部屋へ連れて行く。
「お待ちしておりました」
カーラが部屋の前で一礼した。
「お久しぶりです、カーラ」
「またしばらくお世話になります」
伸びた背筋で手本のようなお辞儀をするマティ。
開けられた扉の奥に皆が通される。
「あの……これ何とかなりませんか?」
トラスが背中を傾けて、寝ているフランツをマティに見せた。
「あ、これは失礼」
マティはフランツの額に二本の指で触れる。
その指がほのかに光を帯びると、フランツの目が開いた。
「コラ!」
「奏ちゃんからはなれ——」
目を覚ましたフランツがトラスの首にしがみつく。
ングッ!!
「ぐるじいぃぃぃ」
「え!?トラス」
慌てて離れるフランツ。
「ここ……どこ?」
フフフ……。
「ギルドよ」
カーラが口を押さえて笑う。
「カーラさん!?」
「あ~えっと……」
唖然とするフランツにトラスとナッティスが部屋の隅で説明する。
四角いテーブルの奥側には、右からマルコ、カーラ、マティ、奏の順に座った。
話を終えたスパイルパーティは、彼らの向かいの席に、トラスを中央にしてナッティスとフランツが左右に座った。
「私は帝国からの特使として参りました」
「マティック・ハミルと申します」
何回見ても綺麗なお辞儀をするマティ。
「早速で申し訳ありませんが……」
マティはカーラに体を向ける。
「ええ、隣の部屋を用意させてます」
カーラは手を上げ、マティを案内するよう職員に指示した。
「お察しいただき痛み入ります」
奏の方へ向き直るマティ。
「奏さん、少しよろしいですか」
「あ、はい」
奏とマティは席を立ち、会釈すると、ギルド職員に連れられて隣の応接室へ向かった。
「こちらへどうぞ」
マティは応接セットの長椅子の奥側に奏を招くとその隣に腰かけた。
「少しお待ちください」
マティはテーブルに円錐台の物体を置いて静かに魔力を込める。
ヒュッ——。
円錐台のオブジェが青白く光ると、一瞬にして二人の周囲だけ特別な魔力に包まれたのが分かった。
「不思議な感じですね」
奏が周囲をキョロキョロする。
「これはパーソナル空間を作る魔道具です」
「声はもちろん、存在の認識も防ぎます」
マティは店員が製品を紹介するような手つきで、奏に魔道具を見せる。
「誰も私達の話を認識することができなくなり」
「魔力量によって範囲を広げることも可能で」
「今は応接セットの周囲のみにしております」
「おーい!」
奏が扉前で待機するギルド職員に手を振る。
「ホントだ無反応……」
「二人とも範囲の外に出るか術者がもう一度魔力を流せば解除されます」
魔道具の側面の縁に[マツコト]と書いてある。
「父の……」
「ええ、ご存知でしたか」
水の入った魔法ケトルに触れて魔力を流すマティ。
「お父様はこの帝国の為に働いております」
話を聞きながらマティの所作を目で追う奏。
「マツコト商会?」
——魔法ケトルから湯気が上がる。
「はい、あれはお仕事のほんの一部です」
マティはテーブルに用意されているポットに茶葉を入れ、魔法ケトルでお湯を注ぐ。
「真音様は異世界人の類稀なる才能と知識をもってこの国の発展の為にご尽力いただいているのです」
ポットカバーを被せたポットをテーブルに置くと、お茶菓子のクッキーをお皿に取り分け、奏の前に差し出してニコリと笑う。
「生活を変える魔道具」
「冒険者の負担を減らす防具や武器」
「ゲームや娯楽」
お茶菓子のクッキーを口に運ぶ奏。
「お薬、化粧品、お酒や嗜好品、料理やお菓子」
「おいしぃ!」
「そしてこの帝国をよりよくする為の改革に携わっておられます」
ゴクリと飲み込む奏。
「父は……今何処に?」
「それは、お教えできません」
「私は……」
かじりかけのクッキーを皿に置く。
「娘のあなたでも例外はありません」
「真音様のお仕事は帝国の国家機密に関する情報が多数含まれております」
「真音様の居場所を狙う者も、少なくはありません」
「知ることで奏さん自身も危険になります」
ポットカバーを外して、カップに紅茶を注ぐマティ。
「これは、ごく一部の人しか知り得ない情報です」
「知れば命の保証がありません」
マティの顔つきが変わる。
ポットの最後の一滴がカップに波紋を作る。
「マティさん、どうすれば父に会えるの?」
奏の前に淹れたての紅茶を差し出した。
「今取り組まれているお仕事が、あと2ヵ月ほどで真音様の手を離れますので」
「そうすれば、しばらくお休みを取る予定になっております」
「それまで待つか……」
「お父様のことなら、ご安心ください」
「特別な任務が無い限り私が常に真音様のお傍に控えることになっており」
「現在も私の部下が護衛に就き、真音様は最高レベルの警護を受けながら帝国各地を飛び回っておられます」
「緊急時は私が40秒ほどで駆けつけ保護致します」
「わかりました……」
少し大人な説明に納得がいかない奏は紅茶を口にふくむ。
(おとなの味……苦手)
マティはそっとシュガーポットを差し出した。
「ここからが本題です」
「奏さんは……」
「どうしてこちらに来られたんですか」
「いえ、どうやって来られたんですか」
「あの……えっと……」
奏は父を追いかけたあの日の出来事から話し始めた。
————。
——————。
「……まさかそんなことが」
「あのガーデンハウスに転移魔法陣が?」
「はい、あそこしか知らないので」
「まだ二回ですけど、あそこから行き来するつもりです」
頭に手をやり困った表情を見せるマティ。
「ありえない……」
(あそこは現皇族でも入れないのよ)
(入れるのは伝説のソラパーティ、かつては真音さんも入れたそうですけど今は……)
「それと、ガーデンハウスから持ってきた鞄と杖というのは」
奏はポケットから茶色い物体を取り出すと
バッ!
鞄が現れた。
「ちょ!!!!!」
「まさか……」
マティは驚いて口を押さえる。
(国宝級遺物!!)
(ソヴィラス帝国初代皇帝ハヴィス・ブランケットの鞄!)
(彼が伝説のソラパーティの一員だった時に使ってた鞄……)
「見てみます?」
「中の物が頭の中でわかるんですよ!」
奏がマティに鞄を差し出す。
「この魔力……」
(間違いない!あの方のだわ)
恐る恐る鞄に触れるマティ。
(ありとあらゆる付与魔法が施されている)
傷一つない綺麗な古いデザインの鞄。
「レトロでかわいいですよね」
奏が無邪気な笑顔で話しかける。
「ええ……そうね……」
(あ……ごめんなさい……でも……)
(これ作ったあの人はやっぱり狂ってる……)
(なんで鞄に最大攻撃力補助魔法SS付いてるのよ!?)
マティが中を確かめようと鞄のフラップの留め金に手を掛ける。
「あら?」
留め金が動かない。
「え?」
「マティさん?」
奏が鞄をヒョイと持って留め金を外してフラップを開けてみせる。
「ハイどうぞ」
マティが鞄を手に持った瞬間。
バチッ!
両手に衝撃が走る。
鞄はマティを明確に拒否してみせた。
「奏さん、このマジックバッグはおそらく今あなたしか使えません」
「そうなんですか!?」
「はい、この反応は特定の人物以外に使用させない時に使われる保護魔法の一つです」
「もしよろしければ、奏さんが中を見る時に私の魔法で一緒に覗いてもいいですか」
「奏さんが鞄を使用している時の頭の中を魔法で覗かせて頂きます」
「もちろん、それ以外は見られません」
「いいですよ」
「じゃあ鞄を開いてみますね」
「お願いします」
マティは奏の頭に手を置いて目を瞑って何かを呟く。
「————」
鞄の中身がリスト化された光景が見える。
リストに視点を重ねるとアイテムの映像が頭に投影されるようだった。
「こ、これは!」
「ほとんどが伝説の遺物……」
「国が何個もつくれ……」
マティがリストの項目をいくつか覗いていると
リストが片っ端から赤い文字で上書きされていく。
『閲覧禁止』
(ヤバ!)
マティは咄嗟に術を解き目を開いた。
「マティさん!」
「鼻!」
マティの鼻から、赤い血が垂れ落ちる。
「危なかったです」
「鞄に怒られたみたいです」
マティはハンカチで鼻の血をぬぐい取って答える。
(鞄に殺されかけた……)
不安そうな奏を見て
「大丈夫ですよ、私は回復魔法が得意ですので」
そう言うとマティは自らに手を当てて魔力を込める。
「よかったです!」
「これが杖です」
そう言って奏は鞄から杖を取り出した。
マティはその杖を見て椅子から転げ落ちる。
(ああ……これがバレたら私は確実にあの方に殺される!)
冷静さを失ったマティを見て奏は目が点になる。
「本当に大丈夫ですか」
「か、奏さん、この杖」
(間違いない……杖の中央に大きなクリスタルを据えた意匠)
(私の師、ハンナ・アマミューリの杖!)
「奏さん、こ、この杖は、なるべく鞄に仕舞って……おいてください」
「街の外でもですか?」
「できれば……そうしてください」
「はい、でも何故ですか」
「と、とても貴重なものなので……」
「この杖が?」
「ああ、おっきい宝石ついてますもんね」
奏は大きな透明の魔石を手でポンポン叩く。
パチッと光る魔石。
「か、奏さん、そろそろ仕舞ってください」
「あ、はい分かりました」
奏は鞄に杖を押し込んで鞄を脇に置いた。
マティは奏の横に座り直すと、冷めた紅茶を飲み干した。
「奏さん、このことは……お母様はご存知ですか?」
「いえ、母には何も言ってません」
「ここに来ていることも鞄や杖のことも」
「わかりました」
マティは目を閉じて一息つき、奏に向き合った。
「ひとつ約束をしてください」
「お母様には秘密でお願いします」
強く真剣な眼差しで奏に訴えるマティ。
「約束します!母には言いません」
奏は息を飲みマティを見つめ返した。
「母も危険な目にはあわせられない!」
奏は強く頷く。
「では皆さんの所へ戻りましょう」
マティは魔道具を手に取ると、もう一度静かに魔力を流した。
フッ——。
「戻った……やっぱり不思議」
「父って凄いの?」
「ええ、そりゃもう……とても優秀な方ですわ」
「お優しくてとても……」
頬を赤らめ、目を輝かせている。
「マティさん……」
「はい?」
「父のこと……好きなの?」
「!!!!!!!!!!!!!!」
「そ、そのようなことは、決してございません!」
「私のような者が真音様のことを好きだなんて、天地がひっくり返っても……」
頭を抱えてしゃがみ込むマティ。
「マティさん、誰かを好きになるだけなら個人の自由なんだよ」
(父の受け売りだけど……)
「でも、父は人の気持ちに寄り添い過ぎて一線を越えちゃうから心配なんです!」
「奏さん」
「お父様は大丈夫です」
何かを思い出したマティはスッと立ち上がり背筋を正した。
「真音さんは本当に素敵な方です」
マティは優しく奏に微笑んだ。
「知ってます!私の父だから!」
奏が満面の笑みで返した。
「そうですね、では戻りましょう」
奏はお皿のクッキーを食べきるとマティについて部屋を後にする。
「お待たせしました」
会議室に戻ってきた二人は元の席に座った。
「この度は旧王国周辺の異常な魔力変動調査と」
「急遽知らせがあった奏さんの件でこちらに参りました」
マティが話し始める。
「魔力変動ってどういうことだ?」
トラスが質問する。
「現在当方でも調査中ですが」
「古城周辺の何処かにダンジョンの入り口が出現した可能性が高いです」
マティの発言に言葉を失う一同。
「ダンジョン!」
奏が声を出すも気まずそうに口を押さえる。
「ギルドでもすぐに調査隊を編成する手はずです」
カーラがマルコに目配せをする。
「ご存知の通り、仮に入り口が見つかった場合」
「ランクにもよりますが古城周辺を帝国直轄区域に指定する場合があります」
「資源確保が優先か……」
「トラス!」
カーラの鋭い声に、奏がビクッとする。
「不敬をお許しください」
カーラが発言を咎める。
「構いません」
マティがトラスを見るとトラスは気まずそうに下をむく。
マティはギルド側の二人を一瞥してからスパイルパーティに語り始めた。
「一つ誤解を解いておきます」
「ダンジョンの出現は国家における有事です」
「ランクや規模次第では被害が国だけにとどまらない可能性があります」
「確かに資源のことだけ考えれば先行して確保する場合が多いですが」
「国民を守るため、これまでに出現したばかりのダンジョンで、帝国所属の兵士が数百人規模で命を落としています」
「しかも、入り口周辺を安全に行き来できる場所にするだけで、それだけの犠牲が出るのです」
「確保できた資源は、任務で戦死した兵の親族・家族や傷病兵への補償に充てられます」
「冒険者として一流になりたいのであればその辺の事情は今一度ご認識ください」
「知らずに……申し訳ありません」
「「申し訳ありません」」
トラスが頭を下げるとフランツとナッティスも頭を下げた。
カーラが少し苦い顔をしたその横で、マルコは髭を触りながら仏頂面をする。
「いいのです」
「この度は奏さんを助けていただきました」
マティは奏を見てトラス達に目を向ける。
「水に流しましょう」
「カーラ、あの話は?」
「まだよ」
カーラは不服そうに答えた。
「では私から」
事務的に話を進めるマティ。
「奏さんはとある国の要人の御息女です」
「あなた方があの場に居なければ命を落としていたでしょう」
「感謝いたします」
マティがお辞儀する。
「あ、いえ俺達も助けられましたから」
トラスの話にフランツとナッティスも頷く。
「その話は聞いております」
「奏さんに魔法の手ほどきを……」
「はい、先生」
マティがナッティスに体を向ける。
「奏さんは……その」
奏とマティを見てカーラとマルコを見るナッティス。
「そうね……カーラ、良いかしら?」
ナッティスの反応に応えてマティがカーラにお願いする。
「ええ——」
「マルコ」
カーラがマルコに合図する。
「すまんが全員……いや、マリドとルスカスは残って他は退室してくれ」
「二人は件の当事者だ」
マルコがマリドとルスカスを指してマティに説明する。
「いいでしょう」
「ではナッティスさんお願いします」
「はい」
「奏さんは出会ったとき魔力操作ができていなかったので」
「その方法を手ほどきしました」
「それと基礎魔法のカドルを教えたくらいでしょうか」
「魔力操作ができなかったの?」
「はい、したことがなかったのかと……」
チラリと奏を見るナッティス。
大人たちの視線を集める奏。
「奏さん……魔力の抑制を解けますか?」
マティが奏を見つめる。
「え?いいんですか?」
ナッティスの方を見る奏。
静かにうなずくナッティス。
「では……」
奏が少し目を瞑り、ゆっくり紐を解くようにイメージする。
目を開けると、トラスとフランツ、マティ以外の大人たちが、こちらを凝視している。
カーラとマルコ、ナッティスは椅子から立ち上がり、マリドとルスカスは部屋の端で腰を抜かしてその場でへたり込んでいた。
魔力照明が不自然に点滅し、奏を中心にコップの水、テーブルクロスや書棚、ガラス製品、シャンデリアの装飾が微かに揺れている。
「あ……」
(なんかやらかしてる私?)
奏が半笑いで大人たちの反応を気にする。
「これ……用紙は正常だったわけか……」
マルコが二枚の書類をテーブルに置き、マティに見せる。
【登録用検査用紙】
魔力量の数値が上限を超え、【測定不能】の文字が赤く表示されている。
「そのようですね」
マティはカーラとマルコに目配せをした。
「大丈夫か」
トラスがナッティスを気遣う。
「お……大きくなってます……圧が……おそらく量も以前より……」
声を震わせるナッティス。
「なるほど……わかりました」
「奏さん、もう結構です」
マティは冷静に奏の肩に手を置く。
「あ、はい」
奏は急いで魔力を引っ込めた。
平静を取り戻す室内。
「カーラ、スパイルパーティと奏さんを私が預かります」
「スパイルパーティは帝国要人警護本部・特級警護課長である私直属の冒険者パーティとして管理下に置きますので、手続きをお願いします」
天を見上げるカーラ。
「やられたわね」
頭を抱えるマルコ。
「ああ……」
「「「ええええええええ!?」」」
声を上げるトラス達。
「どういうこと?」
奏は首を傾げてスパイルパーティを見つめる。




