第27話 移動二日目の夜
移動二日目も順調に進み、夕方には予定通りにワイルダー伯爵領の街に到着した。
「なんだか賑やかなところですね」
街中を進む馬車の中から周囲の様子を見てつぶやく。
道幅が広くとられた大通りには人が溢れ、両側に並ぶ各店舗へ出入りする人の数も多い。
「ここはワイルダー伯爵が特に力を入れている街だからね。
元々何もない土地だったところに交易の中心となるような街を作り上げたんだ。
商人や技術者を優遇して人や物を集め、街道を整備してね」
「何もない土地だったのですか?」
レオン様の言葉に、思わず聞き返す。
来るときに通ってきた街道はきちんと整備されたものだったし、周囲に立ち並ぶ建物も立派なものばかりだ。
なのに、それが何もないところから作られたものだなんて。
「まあ、ここまで発展させるためにかなりの資金を費やしたみたいだけれどね。
とはいえ、結果的に国でも有数の都市になっているのだから、ワイルダー伯爵家の初代当主の目は確かだったんだと思うよ」
その言葉に、改めて周囲へと目を向ける。
当代のワイルダー伯爵が何代目なのかは知らないけど、何もないところからここまで発展させているのであればかなりの代を重ねているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、宿泊予定の宿まで馬車から見えるにぎやかな街の様子を眺めていた。
「あー、やっぱり宿は落ち着くね」
レオン様との食事を終え、与えられた部屋に戻ったところでだらしなくソファへともたれかかる。
まだ二日だけとはいえ、一日中馬車に乗ったままという状況にストレスが溜まっているのかもしれない。
揺れることなく、ただ落ち着くことができるというだけで、ずいぶんとリラックスした気分になっている。
「プリムラ様、はしたないですよ」
「誰も見ていないのだから、今くらいはいいでしょ」
アリアからの注意に、ソファーでだらけたまま返す。
幸いというか、今回の視察の道中でもレオン様とは別の部屋が用意されている。
だからこその態度ではあるのだけど、こういうときくらい一緒の部屋になるのかと思わなくもなかったので少し拍子抜けではある。
まあ、例の叔父の何某は、私とレオン様が近づくことにかなり警戒しているという話だったから当然なのかもしれないけど。
「ん?」
深夜、何かの気配を感じて目を覚ます。
気のせいかと思ったものの、念のために耳をすまして周囲を探ってみると、部屋の外にいる護衛の警戒を促す声が聞こえてきた。
「……嘘でしょ」
寝起きの微妙に覚醒しきっていないままの思考でそうつぶやく。
けれど、どうやら先ほどの声は聞き間違いではなかったらしく、そのまま耳をすましていると何やら争うような音まで聞こえてくる。
どうやら、何者かの襲撃を受けているらしい。
「プリムラ様」
寝間着の上からカーディガンを羽織って隣の部屋に移動すると、こちらも気配で起こされたのであろうアリアが出迎えてくれた。
「どうやら、賊の襲撃のようです。
手練れではないそうですが数が多いらしく、危険なので部屋の中で待機していてほしいとのことです」
そう言うアリアの言葉に、扉へと視線を向ける。
あの扉一枚隔てた先で争いが起きているのかと思い、不安な気持ちとともに腕にはめたブレスレット型の魔道具へと触れる。
万が一のためと渡されたこれが役に立つ場面が来てしまったのかもしれない。
けれど、幸いなことに私たちのもとに賊がやって来ることはなかった。
しばらくしてひと際大きな音が聞こえたかと思うと、その後すぐに、外にいる護衛から方がついたと報告を受けたから。
ただ、大きな音が聞こえた直後にかすかにレオン様の魔力を感じ取っていたので、襲撃を受けることになったであろうレオン様のことが心配だった。




