第25話 会食を終えて
「くだらない場に付き合わせてしまって悪かったね。
せっかくの料理も台無しだったろうし、口直しに何か甘いものでも用意してもらうよ」
レオン様の叔父の何某との会食を終え、レオン様に連れられて彼の部屋へと移動した。
すると、私への謝罪の言葉の後、レオン様が珍しいことにソファへともたれるように身体を預けた。
会食の場では向こうの言葉を適当に受け流しているように見えたから余裕なのかと思っていたけど、どうやらレオン様も相応に疲れていたようだ。
「視察と収穫量の落ち込みの調査ということですが、具体的に何をするのですか?」
用意されたフルーツたっぷりのタルトをいただき、気分が少し回復したところで気になっていたことを質問する。
レオン様もいつもの隙のない態度に戻っているし、やはり甘いものは正義だね。
「そうだね、基本的には視察先に顔見せに行くくらいに考えておけばいいよ。
現地で代官やその次の候補者と会うことになるだろうけれど、正直、僕に対して実務的な何かを話してくるとは思えないからね。
後、調査の方は、現地に行って話を聞いてみないことにはどうしようもないかな?
簡単に向こうの土地を調べる道具くらいは用意していくけれど、それでどうにかなるかはわからないしね」
「うん?
もしかして、私はもちろん、レオン様も特にやることがない可能性があったりします?」
「まったくないということはないけれど、現地の状況次第ではできることが何もないという可能性はあるね。
代官との話し合いにしても、実のある話はほとんどないだろうし。
その場合、もしかしたら僕よりも君の方が忙しくなるかもしれないね」
「え、私の方が忙しくなるのですか?」
何やら雲行きが怪しい。
てっきり、やることがないから向こうでどうしようか? みたいな話になるのかと思っていたのに、私の方が忙しくなるかもしれないなんて。
「君の場合、向こうのご婦人方とお茶会やらをすることになる可能性が高いからね。
僕については、これまでがこれまでだったから放置される可能性が高いけれど、君の場合は本当に初めての顔見せということになるわけだし」
「……」
お茶会……。
というか、顔見せということなら、レオン様と一緒に晩餐会とかそういう場に出ることにもなるのかな?
もしかしたら、そういう場が用意されていない可能性もなくはないけど。
いや、さすがにそれはないか。
いくら嫌がらせ目的だとしても、形くらいはそういう場が用意されそうだし。
つまり、私は向こうで慣れない社交というものをすることになるということ?
「あれ?
でも、私は可能な限り、そういった社交の場には出ないように、という話ではなかったですか?」
「それは他家との社交に関しての話だろうね。
今回は公爵家の中の話になるから、それを理由に逃げることはできないと思うよ」
くっ、ダメなのか。
向こうの言葉を利用したいい考えだと思ったのに。
「できれば僕も助けてあげたいのだけれど、さすがに女性たちの集まりに混ざるわけにもいかないからね……。
こればかりは君に頑張ってもらうしかないんだよ。
まあ、どうしてもというのであれば、体調不良などを理由に出席しないという手もなくはないけれどね」
「あー、なるほど」
仮病を理由にお茶会なりの社交を回避するのか。
正直、今後社交の場に出たいとも思っていないし、普通に悪くない手なのでは?
そう思っていたのに、横からアリアの指摘が入る。
「お気持ちはわかりますが、一度も誘いに応じないというのは賛成できません。
あちらの誘いを無視した、と受け取られかねませんので。
というより、確実にそういう受け取り方をしてそこを攻めてくるでしょう。
そうなってしまうと、事実である以上、プリムラ様はまともに反論できなくなってしまいます」
「で、でも、体調不良という理由はあるわよ」
「本当にその言い訳が通用するとお思いですか?
あちらで過ごす期間が一日程度ならともかく、数日は滞在することになるのですよ?
もし本当にそれを理由に押し通すおつもりなら、向こうの医者すら誤魔化す覚悟が必要だと思います」
「……」
いやまあ、そこまでしてやり通す覚悟はないけども。
だからといって、お茶会のお誘いを断ることがそこまで攻められるような弱みになるのかな?
「まあ、社交の場において隙を見せるべきではないというのは、アリアの言う通りではあるね。
今回向かうことになる領地にいるのは叔父側の人間だろうから、最悪の場合はそのことを理由に君の足を引っ張るようなことをしでかす可能性は十分にあるから」
「つまり、お茶会のお誘いは素直に応じた方がいい、と?」
「結局、そうなってしまうのかな?
まあ、もし向こうが何か失礼なことをしてきたら、それを理由にすぐに席を立ってくれればいいよ」
「……わかりました」
さっきは仮病で辞退しても、みたいなことを言ってくれたのに、レオン様も結局は、応じておいた方が後の面倒がないという結論になってしまったみたいだ。
「ごめんね。
今回の件が終わればいくらでも愚痴に付き合うから。
それに、王都でオススメのスイーツのお店も探しておくから、帰ってきたら一緒に食べに行こう」
「王都でオススメのスイーツですか」
そんなご褒美があるのであれば、少しは頑張れるかもしれない。
「では、今はその代わりに料理長作のケーキのお代わりをどうぞ」
まだ見ぬスイーツに思いを馳せる私に、アリアがそう言ってショートケーキの乗ったお皿を持ってきてくれる。
それを見て、まあいっかと思えてしまうのだから、私もかなり単純なのかもしれない。
まあ、散々嫌な目にあうと予想したものの、何事もなくただの顔合わせで終わる可能性もあるわけだしね。
……いやでも、さっきの会食のことを考えると、それは期待薄なのかな?




