第23話 黒い笑みと唐突なお誘い
レオン様の魔力問題に対処しつつ、錬金術を教わるという日々を送っていたある日、工房の中で黒い笑みを浮かべるレオン様に遭遇してしまった。
一瞬スルーしようかと思ったものの、あまりに珍しい表情に、つい質問が口をついてしまう。
「……何をご覧になっているのですか?」
「うん?
ああ、僕のところに回ってきた書類の中に面白いものが紛れ込んでいてね」
「面白いものという割に、ずいぶんと険しいお顔をされていましたが」
「おや、そうだったかい?
それは注意しないとね。
君に怖がられてしまうと大変だ」
そんなことを言って、レオン様がごまかす。
うーん、一体どんな書類が紛れ込んでいたんだろう?
そんな疑問を感じるものの、どうやら答えてくれる気はなさそうなので、諦めて今日の作業に必要な準備を進めていく。
結局、この日は教わった内容よりも、レオン様の黒い笑みが印象に残る一日となってしまった。
「えっ、会食のお誘い?」
黒い笑みを浮かべるレオン様を目撃した日から数日後、いつものように作業をしているとレオン様がよくわからないことを言ってきた。
何でも、レオン様の叔父の何某が、会食のお誘いをしてきたというのだ。
「叔父からいきなりそんなことを言われてね。
何故か君も一緒にという話だったから、どうしたものかと思ってね」
「えーっと、どうしたものかと言われても、受けるしかないのではないですか?」
「いや、あまりに突然で怪しすぎるから、君だけでも体調が悪いと言って辞退することも考えていたんだよ」
なるほど、仮病という選択肢があったか。
まあ、向こうはこの公爵家を管理する側にいるわけだし、そんな露骨な仮病を使って大丈夫かという疑問は残るけど。
というか、レオン様がそれを選択肢として挙げるくらいなら、そこまで厳しい感じのものでもないのかな?
「ちなみに、何か心当たりはないのですか?
そういえば、数日前に何か面白い書類が紛れ込んでいたと聞いた気がしますが」
「正直、心当たりはないかな。
確かに書類の件は叔父のところからだったけれど、あれはバレないように向こうに戻しておいたからね。
それに、仮に紛れ込んでいたことが気づかれたとしても、それだけでこちらを探ろうとするとも思えないんだよ。
だから、今さらこんなタイミングでこちらを探ろうとする理由がわからなくてね」
「……お言葉ですが、これだけ頻繁にお二人がお会いしていれば、ロドニー様が気にするのも当然ではないですか?
旦那様は基本的に人嫌いだと思われていましたし、両殿下が牽制してくださったとはいえ、改めて様子を探ろうとしてくるくらいは不思議でもないと思いますが」
レオン様と二人して理由を考えていると、アリアが横から意見をくれる。
というか、そんなに頻繁に会っている感覚はないんだけど。
「そんなに不自然かい?」
「不自然ではないと思いますが、ロドニー様がお二人の仲を探ろうとする程度には珍しいと思います。
これまでまともに付き合いのあった方は、研究関連以外だと両殿下くらいでしたから」
「……そこまで人づきあいが悪いつもりはなかったのだけれどね」
そう口にするレオン様だけど、少しは心当たりがあったのか微妙な表情だ。
「つまり、レオン様の珍しい行動が気になったということ?
でも、私がレオン様に錬金術を教わったり、食事をご一緒したりというのは今に始まったことではないと思うわよ?」
「確かにお二人がお会いする頻度などは以前から変わりありませんが、逆に言えば、それだけ順調に関係をお築きだとも言えます。
であれば、以前もお二人がお会いするのを妨害しようとしたロドニー様が、探りを入れようとしてくるのも不思議ではないかと」
確かにそう言われてみると、そんな気もしてくる。
以前の妨害のときに王子様たちに釘を刺されている以上、改めて露骨な妨害をするというのも難しいだろうし。
「なるほどね。
可能性としては、今アリアが言ったことが有力そうだけれど、どうする?」
「そうですね……。
あるかわかりませんが、個別に呼び出されても困りますし、レオン様と一緒に参加させていただきます」
「ああ、探りを入れようとしてるならその可能性もあるか。
わかったよ。
叔父には君と一緒にお誘いを受けると返事をしておくよ」
こうして、やや不穏さを感じる会食の予定が決まってしまう。
はっきり言って気乗りはしないけど、延々と避け続けるわけにもいかないだろうし、面倒なことはさっさと終わらせておいた方がいいはずだ。
そんな風に考え、気持ちを切り替えて作業の準備を始める。
けれど、ふと書類の件が濁されたままだったなと気づき、レオン様に尋ねてみる。
「そういえば、結局紛れ込んでいた書類というのは何だったのですか?」
「うん?
ああ、教えていなかったっけ。
あれは、叔父が魔力を抑制する薬草を手配していたという書類だよ。
どうやら、ずいぶんと前から定期的に手配していたみたいだね」
「えっ、それって……」
そう言って、レオン様を振り返るけど、以前見たような黒い笑みを浮かべてるだけだった。
いや、思いっきりでかい理由があるのでは?
確か、魔力を抑制する薬草は魔力不全を解消する薬を作る材料になるとも聞いたけど、過剰に投与すると逆に魔力不全を引き起こす原因になると聞いたよ?
もしそんな書類が誤ってレオン様の元に紛れ込んでいたと知ったなら、普通に探りを入れにくると思うのだけど。
「残念だけれど、そういう用途にも使えるというだけの薬草でしかないよ。
君のおかげで外部的な要因で僕の魔力が抑えられていたことがわかったから怪しく感じるだけで、そのことを知らなければただ薬草を手配していただけにしか思われないから」
けれど、こちらの疑問を察したようにレオン様が追加で補足してくる。
まあ、薬草のことはレオン様の方が詳しいだろうし、その彼がそう言うのであればそうなのかな?
「さっ、いくら危険がない作業だからといって、余計なことを考えるのはダメだよ。
やるなら、ちゃんと集中しないと」
結局、その後は特にその話題に触れることなく、いつも通りに錬金術を教わることになった。
まあ、集中しようとしても、どこか気になってしまって、あまりうまく集中できていたとは言えない結果になってしまったけどね。




