黄金郷の金緑石
いつもありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみください。
暖かい。
最初に抱いた感想は、まさにその一言だった。
きっと、痛いのだろうと思った。
矢を番える彼女を前にして、自然と肩がこわばるのを感じる。
しかし、いざ彼女の七色の虹が胸に風穴を開けて通り過ぎていくと、天輪から直に流れ込んできていた恐怖心は浄化され、すっと重圧が溶解していった。
「……」
眼が眩むような螺旋状の虹が視認できたのは、ほんの一瞬。
なのに、降り積もった暖かさは余韻を意識させるように、じんわりと残り続けている。
自然と涙が溢れ落ちた。
ひび割れていた刀の刃が、風化して崩れ去っていく。
何が起きたかはよく分からない。
エスメラルダのトランプスの本質が何かさえ、掴み取ることはできなかった。
ただ、互いの矜持をめぐる勝負に決着がついたということだけ、理解できている。
力を入れて立っていることもままならず、思考の渦に飲み込まれながらアウレリアは両膝を突いた。
「アウレリアちゃん!!!」
黒縁の冴えない眼鏡を掛けた彼女が、アウレリアの元に駆け寄ってくる。
間一髪、顔から地面へと倒れ込む前に、エスメラルダは自分よりも少し背の高い女性の身体を受け止めた。
ここにきて初めて、互いが互いの体温を感じ取る。
暖かい。
あぁ、そうだ。これが、染み渡る暖かさの正体だ。
廃坑の奥は冷え切っているのに、泥だらけの私たちはこんなにも暖かかったのか。
「ダーちゃん……」
「アウレリアちゃん……ごめんね、痛かったでしょ?」
エスメラルダは、今度こそ手離さまいと強くアウレリアを抱き締めた。
ともすれば呼吸が苦しくなるくらい、強烈に。
その息苦しさと窮屈さは、寧ろ心地よい。
「ううん、大丈夫。大丈夫です」
「……アーちゃん」
互いの息が、うなじを擽る。
「分かってます。もう、抵抗するつもりはありませんから」
「それなら、教えてもらえる?ゆっくりで良いよ」
「始まりは、スピネルとダイヤモンドに連れられてこのドームに……洞窟の最奥へと訪れた時でした」
「ここに……?」
腕を緩め、エスメラルダは真っ直ぐにアウレリアの瞳を見つめた。
その震える黄金の瞳の中には、依然として微かな紅が抱えられている。
「想像していただきたいのです。彼らが廃坑で密猟に及んでいた事実はご存知だと思いますが……その過程で、一切事故が起きなかったなど、有り得るでしょうか?」
「……考えられないね」
「私もそう考え、彼らにそれとなく尋ねたのです。そして、私は彼らの最も忌むべき所業を眼にしました」
彼女は、ゆっくりと大穴の方へ視線を遣る。
「彼らは……採掘の中途で落盤やガス爆発、窒息などの被害にあったモンテドーロの民草を、片端からあの穴の中へと遺棄していったのです。まるで、あの天球をゴミ処理場の炎のように扱って」
「……」
言葉もない。
きっと、底のマグマには、多くの人々の思念が宿っているのだろう。
怒りが形となって、湧き立つ泡沫になっているのだ。
「そして、それは私も同じ。彼らを引き摺り下ろす為と正当化して、遺体や危険分子の投棄の片棒を担ぎました。この手は……元より、無辜の民の血で汚れている」
「アーちゃん……」
「ある日、いつものように業務を終えてドームを離れようとした瞬間、私の視界は真っ赤に染まりました。私はオルガンだった故に、敏感に天輪の意思に触れ、穴の底で何が起きているかを理解してしまったのです」
「“紅き血潮の天輪”は、どうなってたの?」
「既に、多くの血肉を喰らい臨界寸前となっていました。そして、それだけであればどうにでもなったものを……」
地面が、突如として振動を始める。
何が起きている……と慌てる気にはなれなかった。
既に、その理由が予測できていたからだ。
「天輪には、既に大いなる宿主が。力の方向性が定められていました。それこそ、モンテドーロに対する怨念。遺棄された無数の民たちが死の直前に抱いた負の感情は、降り積もる内に四獣の遺物にすら影響を与える怒りとなっていたのです」
「……」
「勿論、天輪に干渉された私の中にも、渦巻く怒りが流れ込んできました。そして、元よりモンテドーロに対して複雑な感情を抱いていた私は……道を見失ったのです」
アウレリアの声のトーンが落ちた。
それは、いつからだったろう。
最初は、義憤と復讐心だった。こんなものが許されて良いはずがないと。
その次は、迷いと盲信だった。他者を利用して、悪行に手を貸して、意思を貫くことなど許されるのかと。
最後は、怒りと恨み。
濁り切った眼で見定められるものなど、この世には1つもなかった。
「それで、こんなことを?」
「……はい。天球に見初められ、正当な戴冠者となった私はその後、マフィアから除籍された後、等活やイブリースといった人々と手を組み、天輪の完全な臨界を画策したのです」
岩が、土塊が、音を立てて降り積もる。
湧き立つ濁流が響き渡る。
時間はない。
いつまでも、永遠に抱きしめ合っていたいが、今にも孵化しようとしている怒りがそれを許してくれないのだ。
「馬鹿」
「えっ」
「馬鹿。ほんと、アーちゃんって馬鹿。誰にも相談しないし、1人で背負えばどうにかなると思ってる。みんなそうだよ。私だってそう。お父さんも、アンドレアさんも、クリスタルさんも、みんな馬鹿。みんな背負おうとして、背負いきれなくて、事態を悪化させたんだ」
「ダーちゃん……」
エスメラルダは、優しくアウレリアの額を叩いた。
少しだけ、ヒリヒリする。
「でも、打ち明けてくれてありがとう。それなら、一緒に背負おう。重い荷物も、一緒に背負えば軽くなるから。その代わり、これからは私の重荷も一緒に背負って欲しい。良いかな?」
「……」
少女は立ち上がる。
そして、崩落していく空を見上げ、胎動する卵に手を伸ばした。
「アーちゃん、どう?」
「……ふぅ」
漏れ出る笑みを抑えようと、アウレリアは口元に手を当てる。
「分かりました。私もまた、立たなくては」
身体に金色の流体を纏わせながら、彼女は脚に力を入れた。
疲労など、あってないようなものだ。
今だけは、何があろうと。
「おーい!!!お前ら、大丈夫か!?」
ふと、聞き覚えのある声が坑道の奥から響いてきた。
「アレキサンドライトさん!オーラムさん!」
誰だろう、と考えるまでもない。
バタバタという複数の足音と共に、彼女らは紅光照らすドームに姿を現す。
「アレキサンドライト……って、あぁ!?」
最初に顔を出したのは、ヴィオラだった。
血だらけ、というわけではないが随所に大きな傷が見える。
「ヴィオラさん!サリナさん!それと、ペリドットさんも」
「お前は……オーラムなのか?」
彼女は、困惑した様子で表情を歪めている。
まぁ、無理もないだろう。
普段のオーラムからは似ても似つかないような格好をしているからだ。
そもそも、知り合いがほぼ裸体で刀を持っていたら、例外なく動転してしまうに違いない。
「ハハッ!そうっすよ!ちょっとしたイメチェンってやつっすね」
「イメチェンってお前……いや。その様子じゃ、決着はついたってことだな?」
「……はい。もう、大丈夫です」
アレキサンドライトは、軽く視線をオーラムに向けて頷いた。
笑顔、というわけではないが、その表情は軽い。
「じゃあ、最後の大ボス退治ってことか?」
全員の視線が、頭上で振動する天輪に向かう。
ヒビの入った隙間から粘り気のある液体が流れ出しており、悴むような冷気を醸し出していた。
「天輪が……何が起きた?オーラムが戴冠したんだろ?俺でも初めて見る姿だ」
「まぁ、そうっすよね。厳密に言えば、アタシは戴冠してないんすよ。単に、本来の持ち主から簒奪しただけで。今、王冠は、本来戴くべき主人の元に戻ろうとしているんす。それよりも早く、完全に天輪を破壊しなくては、それこそこの都市は終わりっすね」
「終わりっす、ってなぁ。他人事じゃねぇんだから……」
一発殴って分からせたいところだが、まぁ既にアレキサンドライトにしこたま殴られたことだろう。
今日ばかりは許してやるとするか。
「しかし、どうする?」
「時間稼ぎは、アタシに任せて欲しいっす。これでも、元戴冠者っすから」
床に亀裂が入り、気温が上がっていく。
マグマが、少しずつ上昇してきているのだ。
「その間に、皆さんには対処を。恐らく、アタシを天球から引き摺り出すだけの技術があるならば、どうにかできるはずっす」
「……対処、対処ですか。もし、あの時の欠片が残っていれば……」
腕を組みながら、アレキサンドライトは考え込む。
しかし、その瞬間は耳をつんざくようなノイズによって阻害された。
トランシーバーのランプが光る。
——こちらスピネル!こちらスピネル!聞こえておるか!?ボス、そちらはどうなっておる!
「こちらアレキサンドライト!スピネルさん、聞こえてますよ!」
——ッ……それならば、良い。火山から、大規模な噴煙を確認した。何が起きておる?オーラムはどうなった?
「スピネルちゃん?スピネルちゃんじゃないっすか!久しぶりっすね!」
——その声は……
数秒の沈黙。それから、一度だけ小さな溜息がスピーカー越しに響いた。
——なれば、深くは聞かぬ。現状報告が先じゃ。何が起きておる?
「詳細は省きますが、天輪の本体をどうにかして沈黙させる必要が出てしまいました。しかし、その方法が……」
ない、とまでは言わない。
有効な方法に思い当たらないのも確かだ。
——オレのラボに行け!
スピネルの更に奥から、声が聞こえる。
その掠れ声はどこまでも弱々しく、今にも消え入りそうだったが、しかし確かに誰かがそう口にしていた。
「アンドレア……?大怪我を負ったんじゃ……」
「そ、そうなんですか!?」
——オレのことなんてどうでもいい。それよりも、アレをぶっ壊してぇんなら、オレのラボにあるレプリカを持っていけ!
「レプリカ……」
——ボスに渡した試験管は、レプリカのほんの一部を採取したものだ。どうだ?よく効いただろ?
オーラムが苦笑いする。
確かに、効き目は抜群だった。
——レプリカを全てボスの力で分解し、純粋なエネルギーに変換できれば天輪を破壊できるだけの力は手に入るだろう。あとは、それを打ち出すだけだが……
「……」
——今回は、試験管のそれとは訳が違う。負荷が段違いだ。変換したエネルギーをうまく操作して、攻撃に転化する過程を全て1人で担うのは現実的じゃない。誰かが、ボスからエネルギーを受け取って射出する必要がある。
「射出……」
エネルギーを攻撃の形に具現化させて、射出する能力。
1名を除いた全員の視線が、ある1人に集まった。
「……あ?私か?」
——ゴホッ、ゴホッ。そこは、皆で決めてくれ。オレは……生還を祈ってる。ラボの鍵は空いているはずだ。持っていくのは……。
——僕がやりましょう。
ラインが切り替わり、また別の声が響いた。
——丁度、ラボの近くにまで戻ってきたところだったので。運ぶ方法はありますか?
——ない。無理やり持っていくしかない。強いて言えば、保管しているカプセルが運ぶための籠だ。
——ラジャー。
マーキュリーは、不快音と共に再び消える。
そして、続いてスピネルたちの声もまた途絶えた。
「おい。それで、私がやるので良いのか?ここは……いや。分かった」
ヴィオラは後頭部を掻きながら頷く。
「よろしくお願いします。それでは、少しだけ時間稼ぎでもしていましょうか」
アレキサンドライトは、はにかみながら、最後の力を振り絞って床に手を突いた。
*
ドクン、ドクン、と心臓が脈打つように天輪が揺れている。
無数の血管のような糸が壁の中へとめり込み、ドーム全体の拍動を演出していた。
「さて……」
手の先には、マーキュリーが運んできた“紅き血潮の天輪”のレプリカが浮いている。
今にもその存在に揺らぎが生じかねない不安定な存在。
だがそれは、眼前の光球を切り崩すための切り札だ。
「準備はできましたか?」
「おう」
ヴィオラは、アレキサンドライトと手を繋ぎ、眼を閉じている。
「いつでも良いぜ」
「お二方は安心して刃を研いでいて欲しいっす!アタシたちが守るっすから」
「安心も何もなぁ」
ついさっきまで敵対していたはずの女にそう言われるとは、複雑極まりない。
ただ、まぁ悪い気はしなかった。
「では、始めます」
眼前には、ヴィオラとアレキサンドライトの盾となる役割を課されたサリナとオーラム。
モンテドーロの命運は、当に彼女らの手にかかっていた。
指を伸ばし、レプリカに触れる。
瞬間、電撃が走った。
「ぐあっ!?」
そして、同時に紅光の濃度が増す。
天輪の中の怨念が、真の戴冠者が、自らの存在を脅かす何かにようやく気がついたのだ。
「大丈夫か!」
「大丈夫です!それでは皆さん、よろしくお願いします!!!」
アレキサンドライトは、負けじとレプリカの中に手を入れ、握り締めた。
「了解。任務を遂行します」
「サリナさん、数週間ぶりの共闘と行くっすよ!」
沸き立つ血液が大波のように立ち上がり、危険因子を飲み込もうと口を開けた。
しかし、それを一筋の光が切り裂く。
オーラムの手には、再び傷1つない刀が握られていた。
それは、黄金の刀身に、鮮やかな朱を纏っている。
「はあああああッ!」
雨のように降り注ぐ棘。
射線を逸らすことすら許さないほど高熱な光線。
自分の力だったはずのそれらが、次々と全体意思によって振るわれ、反逆者を横凪にした。
「……」
その中で、オーラムは自らに問いかけた。
改めて、自分は何をやりたかったのか?
復讐。正義の執行。懲罰。罪の精算。
どれもこれも、非常に響きの良い言葉だ。
行いを正当化しようと思った時、それらは実に効果的な意味を為すだろう。
「っ!!!」
鞭のようにしなる血管を弾き返し、酸を浴びる。
間一髪で避けるも、右腕の皮膚が哀れにも溶け落ちた。
「オーラムさん!」
「大丈、夫、っすよ……!っらぁっ!」
液状化した魂を振り解き、刀を突き出す。
たちまちにして彼女を囲っていた細かな光弾が叩き落とされ、踏み潰された。
痛みは、存在という概念に直結する。
私はまだ、普通の痛みを解することができるらしい。
「そうっすねぇ……」
ふと、後ろを振り返ってオーラムは思考する。
そもそもどうして、今は彼女らの肩を持っているのだろう。
負けたとはいえ、味方する義理があるのか。
私はまだ迷っているのではないか。
答えが出ていないから、こんなにどっちつかずなことばかりしてしまうのではないか。
疑念、疑義、疑心。
刀の一振りは、その残影によって心の濁りを正し、他者だけでなく自らの悪までも芯から滅却する。
少しずつ、汚れが現れていき、無数の層が剥がれ落ちていく中、心の内に眠っていた……いや、実は最初から根底にあったはずの答えが少しずつ輪郭を持って目の前に現れていった。
「サリナさん」
「どうしたんですか?」
背中を合わせながら、崩落する岩石を切り落とす。
「アタシって、何者だと思うっすか?」
「……」
私は、本当に馬鹿だ。
こんなこと、聞いたところで。
「身共には分かりません。出会って、あまりにも日が浅いですから」
ほら。当然だ。
「でも……」
「でも?」
「これから、考えれば良いと思います。オーラムさんは、何者になりたいんですか?」
……。
自分から聞いておいて、思わず口を噤んでしまう。
何者か、ではなく。何者になりたいか。
そうだ。その通りだ。
自分が何者かなど、誰かに規定されるものではない。
自ら選んで、こうあれかしと定めるものだ。
迷いに迷った末、輝かしい黄金のような答えが見つからなくても。
そこら辺に転がっている石ころ程度の答えが見つかったなら、私は満足だろう。
でも、そうだな。もし、なれるとしたら……。
「アタシの幼い頃の夢は……騎士になってお姫様を守ることだったんすよ。今からでも、間に合うっすかね?」
踊るように舞い、刀を滑らせる。
散る花弁のように、天輪の光が引き裂かれた。
「良いと思います。それならオーラムさんは、好きな人を守るかっこいい騎士みたいな人ですね」
「す——」
いや。
否定はすまい。
スピネルとアレキサンドライトに対する強烈な憎悪の源泉はなんだった?
どうして、モンテドーロに対して複雑な感情を持ちながら、この都市を良くしたいと考えるようになった?
私の初心は、果たして本当に復讐心だったのだろうか。
違うだろう。
私が初めて抱いた強烈な感情は。
「そうっすね。なれるように、努力するっすよ」
彼女への恋心だったろう?
彼女が愛する都市を、私もまたいつか愛せるようになりたいと考えたのだ。
「今です、アレキサンドライトさん!」
一際大きな波が去り、光球の揺れが鈍化する。
戴冠まで、幾許もない。
チャンスがあるとすれば、これが最後だろう。
「アレキサンドライトちゃん!」
「はい、了解しました!」
レンズ越しの彼女の瞳に、燃え盛る炎が宿る。
握り締めた“紅き血潮の天輪”のレプリカは、随分と小さくなった。
無限に等しいエネルギーが、濁流となってアレキサンドライトの身体を内側から焼き尽くす。
精神が焼き切れてしまいそうだ。
これを、一度は咀嚼して分解しなければならないなんて。
ここに来て、弱音を吐いても良いだろうか。
いや。
そんなことは、エスメラルダがアレキサンドライトに許さない。
これまでのあらゆる怨嗟の鎖を乗り越え、モンテドーロに真の平穏を齎すために、吐き出そうとも吐瀉物を啜る思いで飲み干すのだ。
「ヴィオラさん!!!」
瞬間、アレキサンドライトの左手の拳が閉じた。
眩かったはずの光が収束し、ドームに夜の帳が降りる。
それは果たして、爆発的な一撃の前の静けさに過ぎない。
「行きますよ!」
「おう!」
ダムが決壊するように、エネルギーは2人の繋がれた手を伝ってヴィオラの中へと流れ込んだ。
「……!」
これが、脳の溶ける感覚か。
筋繊維という筋繊維が泣き喚き、棘だらけの鉄球が血管の中を駆け巡るかのような痛みに襲われる。
しかし、集中して創造した暗闇の奥に、一振りの刃が見えた。
それは、普段の冷たい意思なき刃とは違う。
「く……」
「ヴィオラさん……」
彼女の眼前で、エネルギーが具現化していく。
地獄の業火のように燃え上がるイメージ。
脳幹を揺さぶり、その怒りは突き抜ける。
いくら、身体が破裂しかける程の奔流に襲われても、ヴィオラは掴んだ剣の柄を離さなかった。
少なくとも、託されたものを無碍にする程、無神経ではないのだ。
「……取った!」
そして、ヴィオラは片膝を突いた姿勢から立ち上がり、巨大な剣を握り締めた。
「モンテドーロに対する恨みだかなんだか知らねぇが……」
最早彼らは、単なる怨霊と化している。
それならば、せめてもの手向けとしてここで眠らせてやろう。
四獣を追い求めるオルガンの1人として、数百年とモンテドーロの頭を悩ませてきた、四獣の遺物と共に。
「これでもしゃぶっておねんねしてな!!!」
ハンマー投げの要領で彼女は大剣を放つ。
それは、断末魔の振動か。
モンテドーロの底に住まう罪業の果て、怨念の地層は、血潮をしならせて迎撃する。
しかし、あまりにも純粋で、彼らの念すら上回る思いの元に形作られた刃は、果たして抵抗をものともせず。
外殻を突き破り、内殻を押し潰し、核を砕いた。
悲鳴が上がる。
突風と共に、無数の思念と降り積もった血潮が天へと腕を伸ばす。
そして、暫時の沈黙の後、崩れ落ちる星のように、ゆっくりと大穴の底へと陥落していった。
刃が貫いてできた穴の隙間から、空が見える。
既に太陽は昇り、モンテドーロに新たな朝が訪れていた。
お疲れ様でした。
“紅き血潮の天輪”戦、堂々決着!
数世代に渡ってモンテドーロを苦しめ続けていた超常存在の最後は、あっけないものでした。
生気を失い、星のように崩れ落ちていくそれの姿は、さぞかし寂しげなものだったことでしょう。
アンドレアの機転、ベースの守護を決断したスピネルの采配、通信不能になったことを踏まえてラボまで戻ったマーキュリーの状況把握。
現地で大立ち回りを繰り広げた彼女らに加えて、彼らの存在があったからこその勝利と言えます。
モンテドーロにとっての再出発の起点となることを願うばかりですね。
次回は、後日談の1話となります。
また、更新は来週の月曜日、3月31日です。
繰り返しになりますが、どうぞよしなに。
最後になりますが、感想やレビューなどいただけると本当に嬉しいです。
執筆の励みになりますし、1つ1つじっくりと読まさせていただきます。
それでは、りんどうでした。




