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わたしの方が好きでした  作者: 帆々
テリア

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29

 

 リゼは腰を上げパーティーの会場に戻った。招待客には子供らもいて輪投げなどをして遊んでいる。上手く点を取れるとお菓子をもらえるようだ。手持ち無沙汰でそこに交じり、点を数える役を買って出て過ごした。


 その間も周囲に目を配ったが、テリアの姿はない。雲が出て日が陰った。風が冷たくなる頃、客人たちは帰る者も現れた。どうせならリゼもそこに加わりたかった。しかし馬車はテリアに便乗して来たからない。


 腕を抱き困っているところに声がかかる。邸の中でお茶を振る舞うとテリアの弟に招かれた。


「兄はどうしました? 姿がないが……」


「さあ、どこかしら? はぐれてしまって」


「あなたを一人にして何をしているのか。兄に代わってお詫びします」


 苦い顔をして彼は口を歪めた。リゼを丁重に邸内に招いてくれた。中で待つうちにテリアも戻るだろう、とリゼも頷いて従った。


 残った客人は親族などごく親しい関係ばかりのようだ。共通の噂話などで盛り上がっている。初対面のリゼは快適とは言い難かったが、子供もいてその子たちの数遊びの相手をして場をしのいだ。


「子供のお相手が上手ですね。お子さんがいらっしゃるようには見えないのに」


 会話から逃れたテリアの弟がリゼの側にやって来た。テリアとは二つ違いと聞いている。父が健在だがその代行などを行いほぼ当主のような立ち位置なのだとも。


「あら、そんなに若くありませんわ」


「でも、二十五の兄よりはお若い。ああ、ご婦人に年齢を聞くのはいけないな」


「マナーより、確かめていいことはないのが真実かも」


「なるほど」


 彼が話しかけてくるのは、兄が同伴したリゼを放りっぱなしにしている申し訳なさからだろう。その律儀さと優しさにリゼは慰められるような気がした。


「テリアは女性を追って行かれたのです。……カレン……という方をご存知ですか?」


「カレンは僕たちの幼なじみです。領地の接しているお隣さんですよ。彼女は帰ったのかと思っていたが……。兄が送って行ったのかもしれませんね」


 やはりテリアは彼女を知っていた。しかも幼なじみならば単なる知り合いではない。


(なぜ隠したの?)


 疑問が浮かんだが、本人に聞くより術はない。


 それからしばらくして、雷の轟く音がした。窓を横殴りの雨が叩く。客人たちは帰路を心配し始めた。宿泊を決めた者、馬車の手配を急ぐ者、それぞれだ。


 テリアが戻ったのはまた大きく雷が鳴った時だ。サロンに現れた彼はびしょぬれの状態だった。


「一人にして申し訳なかった。彼女、具合が悪くなったそうで、送り届けていました」


 リゼに詫びると弟に何かを託け部屋を後にした。


「兄は着替えてまた戻りますが、あなたはどうなさいますか? よろしいようにご希望を叶えてほしいと頼まれました」


 その伝言にリゼは言葉を失くした。テリアが着替えてすぐ戻るのなら、本人がリゼにそう問うべきところだ。彼女への「待ってほしい」もない。


(すぐに戻る気はないのかも……)


 疲れた気分になってため息が出た。弟に聞かれたかと思い、取り繕うために微笑んだ。兄のために気を配ってくれる彼には責任がない。


「もうお暇しようかと思います。よければ、家の農場がこの近くにありますの。そこまで送っていただけると助かります」


「お易いことです」


 子供たちのゲームに終いまでつき合い、それを潮に礼を述べサロンを出た。玄関を出るとまだ雨脚が強い。


 用意の馬車に乗り込み扉が閉まると、肩から疲れがにじんだ。見送る弟へ手を振ってすぐ馬車が走り出す。


 テリアがカレンを追って行ったわけも。長く戻らなかった時間も。見送りすらしなかった意味も。重くリゼの胸に残ったが、今は何も考えたくなかった。


(何だか疲れた……)


 閉じたまぶたがひどく熱い。




 所有する農場に着いた時には雨のせいで空は重く周囲は暗くなっていた。快適な管理館の暖炉の火が切ないほど暖かく、いっそこのまま泊まってしまいたくなる。農場を取り仕切るイーディ夫妻も強く勧めたが、家には猫のピッピがいる。


「帰るわ。また来るからその時はよろしくね」


 熱いチョコレートを一杯飲んでそれに元気をもらった。ついでに農地の状況も教えてもらい、すぐに農場所有の馬車に乗った。


 王都は嘘のように雨がなく自宅の辺りも路面は乾いていた。自宅に入ると中は暗い。今日はリゼが不在のためメイドは休みを与えていた。物音にピッピが駆けて来るのがわかった。


 明かりを点けてから猫を抱き上げ居間に向かう。ピッピのご飯を用意し暖炉に火を入れた。その前で膝を抱いて座った。


 空腹を感じたが、何かを用意し食事をするのが億劫だった。火の前でピッピが長くなった頃、リゼも腰を上げた。着替えないといけないしバスを使いたかった。


 熱めの湯を張った浴槽に身を浸した。その時ばかりは何もかも忘れられた。大きく息を吐き湯の中で腕を伸ばした。


(いい一日とは言えなかったわ)


 テリアに置き去りにされ、他人ばかりの中で時間を潰して過ごした。子供たちは可愛かったが、充実した午後とは決して言えないだろう。


 身体は温まったが滅入った気分は晴れなかった。ぞんざいな扱いを受けたことが惨めだった。


(わたしなんか呼ばなくても良かったのに……)


 リゼを置いてまで追うのだから、テリアにはカレンは大切なのはわかる。その理由を「彼女が具合を悪くして」家に送り届けたと彼は述べていた。それほどの人なのに、夜会の場では他人の振りを貫いたのはどうしてか。


 挙句、リゼへの対処も本人ではなく弟に任せる始末だ。


 テリアの悪意は感じない。ごく自然にそうなったといった雰囲気だった。


(ただわたしを忘れてしまっただけ)


 暖炉の前で髪を乾かし、その夜はすぐにベッドに入った。ピッピがその側で眠る温もりが嬉しかった。


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