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わたしの方が好きでした  作者: 帆々
テリア

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 ガーデンパーティーの当日は気持ちの良い快晴だった。リゼは午前早くに迎えの馬車に乗りトネリコに向かった。


 道中の車内を彼女は楽しみにしていた。王都をあまり出ない彼女は長く馬車に乗ることは稀で、今回の遠出に心が弾んだ。この日のために買ったガウンは彼女によく似合い、同伴するテリアも誉めてくれた。


 馬車に揺られてほどなく、対面に座る彼が大きくあくびをもらし始めた。昨夜、大学の用事で遅くなったそうで、ベッドに入ったのはもう朝方だったとか。


「申し訳ない。教授会が延びに延びて、僕たち助手も寝ずの番ですよ……」


 その言い訳の途中でもうあくびが出てしまう。リゼは首を振って笑い、


「気にしないで」


 と応じた。眠そうにしながらもリゼとの会話を頑張っていたテリアだが、王都を出る辺りでまぶたが落ち壁にもたれるように寝入ってしまった。


 彼女は眠気覚ましに、とキャンディーを渡そうとしていたがそれを止めて、自分の口に含んだ。思っていた道中とは違うが、馬車に乗り車窓を眺めるだけでも悪くはない。


 とうとうテリアは彼の実家の領地に入るまで目を覚さなかった。


 不意にばね仕掛けのおもちゃのように起き出して、車窓の様子に仰天している。


「申し訳ない。僕が馬鹿みたいに寝入ってしまって、あなたを退屈にさせてしまったのではありませんか?」


「いいの。お疲れだったのだもの、しょうがないわ。馬車での遠出は久し振りで十分楽しかったわ」


 馬車は長く続くアプローチを抜け領主館の前で停まった。お仕着せをまとった使用人がずらりと並び、客を出迎えている。古色を帯びた邸は重厚で立派だった。リゼはテリアのエスコートで馬車を降り、彼の家族に引き合わされた。


 両親と弟が丁重に応じてくれた。特に母は上品な婦人でリゼは珍しく緊張した。


「皆様にご挨拶に回って頂戴な」


 との母の命で二人は集った客人を挨拶に歩いた。催しのために美しくし設えた庭園はおよそピクニックとはほど遠い。人々も美麗な装いであるし、優雅で華やかな場であることは確かだった。


(これは気を抜けないわね)


 リゼは気を遣いながらも、たまの上流社会の社交を楽しんだ。それも、テリアが常に彼女に付いて場の橋渡しをしてくれたからだ。彼にとっては実家の慣れた行事で、やや退屈そうではあったが。


「僕は家を追い出された身なのに、これには出席しろと厳命が下る。田舎の人々には爵位は珍しいから、ちょうど異国から来る派手な鳥のような扱いなのですよ」


 そんなことを言いパイを頬張った。テーブルには美々しく料理が並び、銘々が好きなものを選んで食べる。リゼも巻いたハムを口に入れた。


「これ、あなたの工房のものの方がよほど美味い。食べない方がいいですよ」


 そんなことを耳元で笑いながら囁く。道中眠れたからかテリアは元気で機嫌よく振る舞っている。散策の時は彼女に腕を貸し、同伴者としてそつがない。普段の気取りのない彼を知るが、この地では一等の名門の嫡男である。周囲の視線もそのように注がれ流のを感じれば、リゼの目にも貴公子然と映った。


「退屈な連中とは離れていましょう」


 彼はリゼを促し会場からつながる小道に向かった。そぞろ歩きながら他愛のないことを話した。


 ふと、この場にいる人々、特に彼の家族の目から自分はどのように見えるのだろうか。そんな疑問が湧く。息子が招いて来た王都の妙齢の女性。テリアは特別何かを匂わせたわけではないが、どう見えるのだろうか。


 そして、テリアは何を考えてこの場に自分を呼んで来たのか。親しい年上の友人のショパン婦人は彼がリゼに恋しているのだと言う。その上で関係を見定めているのだろうと。「リゼに脈があるかどうか悩んでいるのよ」。


(まさか)


 とは思う。家族からの「厳命」でたまたま知り合いの女性を伴っただけなのかもしれない。しかし、離婚を経験した自分が彼にはどのように見えるのかは知りたい。そんな気がする。


(でも、知ってどうするの?)


 何気なく隣のテリアを見た。偶然彼も彼女を見ていて視線が近く絡んだ。中庭に入るところで邸から出て来た人物がいた。開いた掃き出し窓から現れたのは女性で、若く美しい人だと気づいた刹那だ。リゼは声を上げそうになった。


 それは以前の夜会で、その後『オレアンダー・ホテル』での朗読会で再び会ったあの女性だ。その場にいた人からカレン・ジャレッドという名だと聞いた。


 カレンはリゼとテリアに気づき、非常に驚いた顔をした。すぐに顔を背けあちらへ小走りに去って行った。招待客同士なら軽く会釈をするなり大人の対応があろうに。嫌な動物にでも出くわしたみたいな立ち去り方だ。


 カレンの失礼とも言える振る舞いにリゼは唖然とし、何かテリアへ話そうと口を開いた。そこで、彼が一言、


「申し訳ない」


 リゼの腕を外しカレンの後を追いかけて行った。残されたリゼには意味がわからない。しばらく待つが、彼の戻る気配はなかった。


 立ち疲れて少し離れた場所のブランコに腰を下ろした。子供なら三人から四人が乗って遊べるもので、おそらくテリアも幼い頃によく使ったはずの遊具だ。


 軽く揺らしながら先ほどの妙な光景を思った。カレンを初めて見た夜会で、テリアは彼女のドレスを嘲笑う言動をした。彼女の耳に届いたようで、その後リゼたちをきつく凝視する姿を目にした。


 二度目の朗読会でリゼはカレンに気づき、夜会での無礼を詫びた。しかし彼女はそんな記憶がないと、名乗りもせずにリゼを避けるように去って行った。


 そして三度目の今、カレンはテリアの邸から出てきた。家人かのような振る舞いから邸に親しい人であるのではとも思われる。


 なら、


(テリアはカレンを知っているの?)


 そうであれば、なぜ他人の振りをするのかわからない。


 そして、リゼを置いてまで彼女を追う理由も不明だ。


 腹立ちはないが、長く放って置かれるのはやはり不快だ。何だか、


(登るように導かれて高みに登ってきたのに不意にはしごを外された)


 そんな気分だった。


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