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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
52/54

48 続・最悪の再会

1


 奴とは何度も戦った。犯罪組織の倉庫で、とある企業の秘密地下室で、秘境と呼ばれる森林の中で、ありとあらゆる場所で。何人もの仲間が死んでいく中で、何故か毎回お互いに生き残った。会話を交わした事はなかったが、勝手に好敵手だと思いこんでいた。


 国中で暗躍する企業といえばいいのか。軍隊といえばいいのか。獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)の属していたその組織は、決して人には言えない一面を持っていた。ある日、唐突に嫌気が差した。機を見て逃げ出した。信じられないくらいに上手くいった。なんだ、もっと早くに実行しておけば良かったと後悔した頃、妹の参加通知が届いた。


 参加通知など、今まで送ったことがない。何度か【ゲーム】の補佐をしてきたのだから間違いない。これは意図的なものだ。上手く逃げ出せていた訳がなかった。煮えくり返りそうな腸を抑えて、今回のゲームマスターに直訴した。


 かくして戦闘狂、獅子島慎之介は生まれた。



2


 時計の針はもうすぐ深夜零時を指そうとしている。

 二階の寝室で寝入った二人を確認すると、千堂新(せんどう・あらた)はそっと一階のリビングへと降りた。


 そこでは、六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)が椅子に座っている。


「ふたりとも、ちゃんと寝てた?」

「ああ。ぐっすりとな」

「そっかあ。まあ、そうだよね。色々あったもん」


 優癒が新にお茶を差し出す。

 ごく普通の民家であるらしいこの家には、ごく普通の日用品が常備されていた。


 新は優癒の淹れてくれたお茶を一息に飲み干すと、そのまま玄関へと向かう。

 車庫には、坂本神久夜(さかもと・かぐや)の遺体が放置されたままだ。


「新くんもいがいと、律儀だよね」

「放っておくと寝覚めが悪いだけだ」


 外まで付いてきていた優癒は、音を立てないようにそっと玄関のドアを閉めた。


 つい五時間ほど前、太陽が完全に沈んだ頃に神久夜は死んだ。

 土が変性したらしき異形生物に襲われて、あっけなく。


 それを目の当たりにした新は、あの時の光景を忘れられない。

 神久夜にはいくつか聞きたい事があった。


 「実は狂化していなかった」とされる獅子島慎之介の正体についてはその筆頭だ。まあ、彼女に聞いたところで真相までは分からないのだろうが、一番近くで獅子島慎之介を見ていたのは間違いなく彼女だろう。


「ねえ、新くん」


 だから彼女には聞きたい事があった。出来得る限り迅速に異形生物を始末したつもりだったが、それに取り込まれていた神久夜を助け出すことは出来なかった。まあ、いくら後悔しても遅いのだが。


「ねえってば」

「何だ」


 優癒は新の背中をつっつきながら、耳に手をあて「静かに」というジェスチャーをする。顔は真剣、なのでそれに従って数秒の間黙ってみた。


 微かに、人の話し声が聞こえる。気のせいの範疇ではない。確かにどこかで、数人が会話している。


「地元の人間……というわけじゃなさそうだな」

「私も行っていい?」

「は?」

「えへ……。どうせ新くんはさー、様子をみてくるからここで待っていろ、って言うんでしょ?」

「……」


 最早この場に「地元の人間」なんてものが存在するとは思っていない。ここで話し声が聞こえる、即ちそれは「参加者」だ。見つからない範囲で様子を見に行くとしても、その役目は一人でいい。



3



 新はそれをどう伝えようか迷った。わかりやすく、かつ簡潔に言うにはどんな言葉がいいか。


「人数イコール戦力の式は成立しない。それは分かるよな?」

「わかるよー、でも、新くんには前科があるからね」


 と言って、優癒は神久夜の遺体がある車庫をチラリと見た。

 あの時、家の中にいた優癒を早くに呼んでおけば、神久夜は死なずにすんだのだろうか。可能性は否定できない。


 だから新は、それを持ち出されては何も言えない。

 新は大きなため息と共に、一つだけ宣言した。


「何かあっても、俺は六弦さんを助けない。それでもいいか」

「のーぷろぶれむ。てか、優癒でいいって言ってるのに」

「行こうか」

「ちょっと、無視?」


 声がしている場所は案外近い。

 角を二つ三つ曲がれば到達できそうな程。


「そこまで言うなら、いつかそう呼ぶ」


 新はそう呟くと、慎重に声を押し殺し、夜道を進んでいった。



4


 張り詰めた空気と、この場に吹く夜風は確実に体温を奪っていく。

 誰一人迂闊に動けない。そしてそれをこの場の誰もが理解している。

 状況は完全に膠着した。


 四人が四人共気を張っていた。寒さを感じている筈なのに、額に汗が滲む。

 その状態で、最初に口を開いたのは【剛腕】獅子島慎之介。


「貴様が居るというのならば、奴らが居ても驚かないな」

「……。それはどうでしょうか。私の参加は偶然ですので、何とも」


 問いかけられた【マジックキャンセラー】室島斬也(むろしま・きりや)は、暫しの逡巡の後に答える。


「はっ、どうだか」


 慎之介はもとより斬也の言葉を信じるつもりはない。彼の言葉に一喜一憂するだけ無駄だからだ。本性を隠し、本心を隠し、ひたすら命令をこなしてきただけの人間に人間性を求めるほうが間違いだ。


 だからこれは、意味のない問いかけ。隙を出すための分の悪い賭けでしかなかった。まあ、隙など出る筈がなかったのだが。


 そして慎之介の指す「奴ら」とは室島斬也のかつての仲間達のことだ。


 もし、それらがこの会場にいるとしたら極めて厄介だ。

 「促進剤」としての働きを全うしなければ妹の命はない。

 だから自分は、そいつらを始末する必要がある。


「っすぅー……ふぅぅ……」


 【拷問機会】新田豪生(にった・ごうき)はこの場の威圧感に耐えられなかった。息にすら声が混じる。だからそっと、そっと離脱するべく後ずさりを始めた。


 今、豪生の姿は慎之介にしか見えていない。室島斬也と【エレメンタリスト】穂高凛は、自分に背を向け獅子島慎之介の方を向いている。斬也は慎之介から目を離せない。凛がこちらを振り向いたところで、あの女ならそこまで大きな障害にはならない。


「やめてくれよぉ……、気付くんじゃねぇぞぉ……」


 無論、室島斬也は背後を見ずともそれに気づいている。だが豪生の離脱は斬也にとって好都合。獅子島慎之介相手なら、不確定要素が少ない方が勝てる。元々、そういう力量の上下関係だった。


 だから豪生の離脱を室島斬也は黙殺した。当然、獅子島慎之介は焦燥した。


 この時、室島斬也にとっての誤算は何だっただろうか。

 「穂高凛は自分の敵に成り得ない」という絶対的な確信か。

 「獅子島慎之介相手なら、一対一で確実に勝てる」という慢心か。


 否、この二つは誤算ではない。斬也の頭脳が導き出した覆ることのない正解だ。



5


 豪生の距離が段々と離れていく。

 一対一では室島斬也に勝てないと理解している獅子島慎之介は、行動を起こす必要があった。だが、斬也には隙がない。隣の凛を狙ったとしても、それでその少女を殺せたとしても、その隙を突かれて自分の命も狩られることは明白だ。


 だがそれでも、今一度分の悪い賭けに出るしか無い。

 二度目の撤退は許されない。最早戦闘を楽しめる頃合いではない。

 何故ならもうすぐ“日付が変わる”。


 慎之介は一歩前に出る。獅子島慎之介の一歩は跳躍の域に達している。そしてその向きは垂直だった。たった一歩の踏み込みで、七メートル程の距離が一気に縮まる。

 慎之介はそのまま右腕を引いて、凛の顔面へと突き出す。

 常人には到底避けられない必殺の突き、更に今は能力【剛腕】が乗っている。素人である穂高凛を殺すには十分すぎた。隣に室島斬也さえいなければ。 


 斬也はその右腕を掴む。拳には触れずに、立っていた位置から左前に跳んで腋で腕を抱え込む。そのまま壁まで持っていく、持っていこうとして、慎之介の頭突きを額に食らう。だがそれは意にも介さない、まるでなかったことのように、慎之介は壁へと叩きつけられた。


「ぐっ……」

「弱くなりましたね」


 この勢いで叩きつけられて、気を失わない慎之介も相当なものだ。だが斬也の動きはそれ以上、総合的に見て圧倒的。


 狙われた側の凛からすれば、何が起きたのか全く理解出来なかった。

 一瞬の内に、斬也と慎之介が壁に移動したようにすら見えた。


「はっ、やはり勝てんな。だがどうか、命乞いの間が欲しい。せめて、後一人二人を殺すまでは」

「命乞いですか。そのようなものは必要ありませんが」

「相も変わらず冷徹、いや冷血か。見ず知らずの女を守るのだから、もしやと思ったのだが」

「ええ、私の目的はここにはない。だから貴方に命乞いは必要ない。それに元より、殺すつもり等――」


 そこまで言って、斬也は突如口を閉ざす。そして最小限の動きで、降り注いだ何かを回避した。赤い警棒。斬也は興味なさげにそれを拾い上げると、半笑いで道路の先を見る。「一体どこの誰が、この私の邪魔をするのか」と。


「新くん、当たってないよ!」

「ああ、何か危ないモノに顔を突っ込んだかもしれない。何だ、あいつは」


 斬也の視線の先で、控えめに笑う青年と頭の悪そうな女がこちらを見ていた。



6


「おい」


 獅子島慎之介は、突然の乱入者に声をかける。見知った顔だ。


「何だ、獅子島さん。実に無様だな。あんた本当は弱いんじゃないのか」

「言ってくれるな。だがこの際、何もかもかなぐり捨てて貴様に頼む。俺を助けろ」

「頼み方ってもんがなってないな。……というか、そんな饒舌だったか?」

「ああ、それに関しては自分でも驚いているさ」

「そうか」


 【魔法鏡】千堂新(せんどう・あらた)は、状況を一望する。

 まず、この場から最も遠くに一人、奇抜な髪型と下劣な顔の男。だがその目には怯えが感じられた。

 次に遠いのが、道路の真ん中で立ちすくむ制服姿の少女、こちらも同様に萎縮してはいるが、それを表に出すまいとしている強気さも見受けられる。


 そしてそれより少しこちらに近い壁際には獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)と、その巨体を抑えつける涼しい顔をしたグレーのスーツの男。先程投擲した警棒をいとも簡単に躱す身のこなしは只者ではない。


 様子を伺うだけのつもりが、知っている顔を見たために思わず割り込んでしまった。新の興味の対象である獅子島慎之介。坂本神久夜(さかもと・かぐや)が最後に会って謝罪しておきたいと言った、無口だった筈の巨漢。偽りの狂化、ゲームマスターとの繋がり。


 彼と話がしたい理由が多くある。だからつい助けるような真似をした。

 グレースーツの男は話の通じる人間だろうか。もしそうならば、共に慎之介の話を聞く事もやぶさかではない。


 新がどうしたものかと天を仰いでいる内に、状況は動いた。


 いつの間にか獅子島慎之介はフリーになっていて、こちらに向かって何かを叫んでいる。

 ふと視線を戻すと、グレースーツの男の姿が無い。


「新くん――あっち……!」


 優癒の叫びで、辛うじて見えた。幅六メートルはあろうかという道路を一瞬で反対側まで移動し、そのままこちらへ走ってくる。足音は一切ない。月明かりの中で、それを見つけるのは至難の業だ。


「なん、だ……?」


 危ないモノに手を出した。先程のそれは、確かな直感だった。


「待――」


 だって、こんな人間がいるとは思わないじゃないか。

 気付いたときには、視界が真っ赤に染まっていた。



7


「は……?」


 何が起きた?

 誰が死んだ?


 千堂新は、それでも状況を素早く理解する。


「何故、俺じゃない!?」

「貴方が確信に満ちていたから……でしょうか。ハハハ」


 グレースーツの室島斬也は、右手を思い切り引き抜く。倒れ込む身体から、噴水のように赤い血が吹き出た。それを浴びないよう、斬也は軽く後ろに飛ぶ。支えを失った六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)の身体は、そのまま前のめりにどうと倒れた。


「確信って、なんだ。いや……待て、お前は、なんだ……?」

「一つ目の質問ですが、“自分だけは死なない”という確信ですね。貴方の身のこなしといい、視線の使い方といい、何もかもが素人なのに、何故か不分相応な確信に満ちている。まあ、大方能力からくるものでしょうがね。だから、貴方を狙わなかったのは一応の安全策です。それに、ハハ、お前は何だと来ましたか。貴方に私の情報は必要ですか? 不要でしょう、何故なら私はこれ以上、この場で手は出しませんとも」


 斬也はハンカチを取り出し、右手を拭く。

 初めからこの場に新と優癒などいなかったかのように、獅子島慎之介の元へと戻っていく。



 遠く、状況だけを見ていた新田豪生(にった・ごうき)も、思わず後ずさりを止めて「それ」を見ていた。


 穂高凛(ほだか・りん)も同じ。室島斬也は、信用できないけれど、善性を信仰する人間だと思っていた。それが今、目の前で人を殺した。


 状況は、先程以上に凍っている。

 たった一人を再起不能にしただけで、室島斬也は完全に場を掌握した。

 常識外れの強さの前に、誰もが硬直を余儀なくされた。

 


 千堂新だけが、倒れ込んだ優癒を抱きかかえる。

 斬也に腹部を貫かれたその肢体を持ち上げる。


 ……戦力にならないことは百も承知。

 だがそれでも、いないよりはいるほうがマシだと信じた。

 「六弦さんを守らない」なんて言いつつも、出来る範囲なら味方を減らしたくなかった。だからいざと言う時は、ある程度は自分の能力で庇うつもりだった。だが。


 守る守らないの問題ではなかった。こんな化物を相手に、守れる訳がなかった。


 小さく呻く六弦優癒を見て、新は言葉もなく後悔した。



8


 これで、あの青年は無力化出来ただろう。

 室島斬也は、あくまでも冷静にそう計算する。


 獅子島慎之介を制圧しかけた時に現れた青年は、あの獅子島慎之介が助力を請う程の実力者、もしくは能力者に見えた。

 そして正解は後者だったらしい。つまり、中身はただの人間だ。

 どれほど感情を殺せれば、あの青年はあそこから立ち上がってこれるだろうか。恐らく並大抵の胆力では無理だろう。だから最適解だった筈。


 今の行動で失ったモノが無いわけでもない。……穂高凛(ほだか・りん)のことだ。

 【エレメンタリスト】という上位能力者の信用は完全に死んだだろう。

 まあ、それも一興だ。


 獅子島慎之介の戦意は衰えていないだろう。だがそれも問題はない。

 戦意は衰えておらずとも、長い逃亡生活で彼の戦闘技術は衰えている。


「さて、凛さん」


 びくっと、凛が反応する。当然だろう。

 たった今殺人を犯した男に名前を呼ばれて、萎縮しない人間がいるだろうか。


「私は単独行動を提唱します。よろしいですね?」

「……いいわよ」

「はは、ありがたい」


 さて、これでこの場を穏便に去れる。

 それで、彼女は何処にいるだろう。

 たった一人の肉親は何処にいるだろう。

 この会場のたとえ全員を殺しても、彼女さえ無事ならそれでいい。

 この世界でたとえ数千人殺しても、彼女さえ無事ならそれでいい。


 たとえこの会場にいなくても、この世界にいるならそれでいい。

 それを探し当てるために、まずはこの会場を踏破しなくては。

 その時に、歯向かってくる人間程度なら殺してもいいか。


 【マジックキャンセラー】、能力の無効化。

 なんて便利な能力をもらったことか。肉弾戦を強制出来る。そしてそれなら負けるはずがない。



 室島斬也は温厚だ。

 だが、計算外の事態に滅法弱い。それを克服するには、誤算が発生した時点で感情のスイッチをオフにすることだと知っている。そしてそのオフ状態は、数十分は続く。そんな離れ業が会得出来たのは、室島斬也だからとしか理由付けは出来ない。


 他者の介入は予想していたし、感知もしていた。

 だがその人物が獅子島慎之介の味方だとは、この男にそんな存在がいるとは。


 まあ、関係ない。

 生きる理由は全て一つ。


「さて、遠江和穂はどちらに」


 遠江和穂(とおとうみ・かずほ)の生の為。



9


 道路上で硬直する豪生の横を歩いて行く、幽鬼の如きグレースーツの男。

 確かに今この男は呟いた。遠江和穂と。


 豪生には、その名前に聞き覚えがある。

 学校を襲った時に見た、二人の少女の片割れ。

 鼻に付く敬語で喋る、紺色の制服姿の女子高生。


 このグレースーツの男は、その少女と関わりがあるらしい。

 自分が襲撃した事が知れたら、確実に殺されるだろう。


 豪生は息を殺して、その男が通り過ぎるのを待った。

 生きた心地がしないというのは、まさに今のような状態を指すのだろう。



NO.23 新田豪生(にった・ごうき)22歳

【能力名】拷問機会

【能力】 自身の身体を拷問器具もしくは拷問方法に準じたものへと変化させる。

【タイプ】アクティブ

【系列】 身体変化系



No.34 室島斬也(むろしま・きりや)23歳

【能力名】マジックキャンセラー

【能力】 自分とその周囲を対象としたアクティブスキルを無効化する能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 能力操作系



10


「おい、治癒能力を使え。……早く」

「あっはは……言わなかったっけ……私の能力……自分にはつかえ、ない、んだよ……?」

「……ああ、聞いたよ。だが……」


 血が止まらない。優癒の腹部から漏れ出る血液は、既に地面を広範囲染め上げる程だ。誰がどう見ても助からない致命傷。諦観するしか道は……。


「ねえ……。壮士くんと……千尋ちゃんのこと……よろしくね?」

「わかった、わかったから喋るな」

「あーあ……結婚だけはしたかったなあ……」

「おい」


 優癒は大の字になって空を見る。月と星空が煌いていた。

 それも段々見えなくなっていくのだけれど。


「治癒能力が使えるのか。その女は」

「ああ、そうだ。だがもう……」


 叩きつけられた右腕を擦りながら、獅子島慎之介が近づいてくる。

 新はそれを警戒するでもなく、質問に答えた。


「ははは、なんと奇特な巡り合わせか。おい女、この男に能力を使え」

「どういう意味だ」

「千堂新、貴様の能力は【魔法鏡】だな? 室島斬也が貴様に向かっていっても焦燥を見せなかったのはそのせいだろう? だが誤算だったな、奴はその余裕すら看破して、標的を変えたのだから」

「……それが言いたいだけか」

「まさか。治癒能力も立派な能力。貴様が跳ね返してやればいい」

「……!」


 獅子島慎之介が饒舌になった理由も気になるが、今は関係ない。敵なのか味方なのかすらも、今は気にならなかった。それも含めて、話は後でゆっくり聞かせてもらう。


 だが、千堂新の目論見は、二つとも崩壊する。


「おい、聞いていたか。六弦さん、まだ助かるらしい」


 新は優癒の手を握る。この状態なら、指一本動かさずに能力を使える筈――


「はは……だから、優癒でいいって……言った……の……に……」

「何を――」

「新くん……には、そう呼んで……ほしかった……のになあ……」

「おい。おい……!」


 微かに上下していた胸も、口元も、もう動かなくなった。

 そしてこの瞬間、会場の時刻が深夜零時を示す。


「は、時間切れ、か。千堂新よ、すまなかったな……お前は生きろよ。それと、巻き込んだのは、俺の組織――」


 何かを言い終わるその前に、獅子島慎之介の頸部は爆散した。

 繋ぎ目を失った首は胴体を離れ、ゴロゴロとその場に転がっていく。



11


 生きている意味。そんなものはなかった。

 大学を休学してから、親の愛情も姉妹の縁もとっくに切れた。

 友人の家を渡り歩く生活も、初めは楽しかったが、段々と友人達に疎まれていることに気付いた。

 その程度の関係の友人しか居なかったのも、全て家庭の問題が原因だったと思って諦めていた。


 結婚願望だけはあった。理由はわからないけれど、何か曖昧な願望があった。誰かと手を繋いだ事すらもないのに、見た目だけ着飾っていた時期もあった。


 まあ結局、何もかも遅い。

 あの時大学を休学せず、妄信的に看護師過程を享受していれば、真っ当な人生を歩んでいたのだろうか。

 無理矢理にでも看護師になって、親の病院を手伝うという選択肢も悪くなかったのだろうか。

 適当な医者と結婚して、幸せな人生を送ることは出来たのだろうか。


 こんな、無気力で無意味な生活を送らなくて済んだのだろうか。

 こんな、無慈悲で無価値な場所で死ななくて済んだのだろうか。


 まあ、いいか。

 最期に、手を握ってもらったまま死ねたと言うだけでも、今の自分にとっては贅沢かもしれない。出来れば、何十年も付き添った相手が良かったけどさ。



No.41 【献身中毒】六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)退場



12


 架純(かすみ)という名前の妹が居た。

 その存在を守るためだけに参加した。否、させられた。


「キミは促進剤なんだから、十二時までに最低三人は殺ってね? あー、まあ二人でもいいかな。あはは」


「それと、たぶんだけど今回も三人くらいアレが混ざり込んでるから、そいつらの特定もよろしくね! あーあ、なーんで混ざっちゃうのかなあ……」


 桃色の髪のゲームマスター、神永祐奈(かみなが・ゆうな)から課された使命は、二名殺害と敵対者特定。この場合の敵対者とは、対抗組織を指す。


 一名殺害、一名特定では、間に合わなかったらしい。


 あの室島斬也(むろしま・きりや)を特定したのだから、それだけでも生存を許されてもいいのでは、と思うのは傲慢だろうか。


 まあいい。今回の妹の参加を阻止しただけでも、俺の参戦には意味があった。

 無意味でも無価値でもなかった。そう信じたい。



No.12 獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)退場






 ……ゲームマスター、神永祐奈に善性はない。


 “兄は使命を果たせなかったのだから、当然妹は次回にでも参加させるべきだ”と何の疑問も無く思うような存在だ。


 それを知ることがなかっただけでも、獅子島慎之介は幸せだと言える。

 何せ、この身で妹を救ったと思いこんでいるのだから、それ以上の救いはない。



13


「全く、お互い変なことに巻き込まれたもんよね」


 風が吹き抜けていく。優癒の手の感触と、慎之介の言葉がいつまでも残っている。


「ねえってば」

「なんだ」

「聞こえてたの」

「聞こえていた」

「意図的に無視してたってわけ?」

「そうだ」

「むかつく、せっかく人が声かけたげてるのに」


 最早この場には二人しか残っていない。

 最大六人いた住宅街の道路は、二つの死体が転がっている。

 二人の離脱者を除けば、もう二人の人間しかいない。


 千堂新(せんどう・あらた)と穂高凛(ほだか・りん)。

 お互いに面識はない。この場で出会うのが初めてだ。


 だから、何も話すことはない。


「私、行くわよ。こんな所に居たくないし、どこかで頭を整理したいもの。それに」


 凛は新に背を向けて、一旦言葉を切った。

 だがまた歩き始めて、口を開く。


「あいつ、一発ぶん殴ってやんないと気がすまないしね」


 あいつ、とはあの化物のようなグレースーツの男の事だろうか。

 新と優癒がここへ来た時点では、既に凛と斬也の関係性は分からないような配置だったから、確証はない。


「やめておけよ」


 だから新はこう言う。こんな少女があれに勝てるわけ無いと思う。

 別に返り討ちに遭って死のうがどうでもいいはずなのに、無意識に静止が口をついた。


「は、なんで!? あんたはムカつかないの? 私はムカつくし、もう決めたのよ。あいつ、自分だけが強いみたいな顔しちゃって! お礼も言ってないってのに!」

「お礼?」

「……ごめん、口が滑っちゃった。でも、それについてあんたに話す義理はないわ。まあ、せいぜいその子の供養でもしてあげなさいよ、……辛いでしょうけど、友達が一人死んだくらいで落ち込んでんじゃないわよ」


 最後の言葉は、新にはよく聞こえなかった。


「じゃあ、また生きて会えたらね」


 凛はヒラヒラと手を降って、夜道の中を歩いていった。



No.30 穂高凛(ほだか・りん)18歳

【能力名】エレメンタリスト

【能力】 四大元素を基礎とした魔法を展開可能。詠唱を正しく唱えた場合のみ発動する。

【タイプ】アクティブ

【系列】 物質操作系



14


 自分は今、哀しいのだろうか。虚しいのだろうか。よく分からない。

 ただ、自分が連れ出したせいで優癒が死んだことは理解できる。

 その「罪悪感分の悲しみ」はちゃんと享受しているつもりだ。


 だが、明らかにそれ以上に心が重い。

 きっとこれが、「優癒が死んだ分の悲しみ」ということだろう。

 案外、重い。


 拠点にしていた民家で眠ったままの烏丸千尋(からすま・ちひろ)と武中壮士(たけなか・そうし)にはどう説明しようか。これ以上嘘をつくのはよくないだろうか。


 自分はある程度、打算的な人間だと思っていた。

 だが真に合理性のみで動くあのグレースーツの男のような存在がもいるのだと思うと、心の芯から嫌悪感を抱いた。


 坂本神久夜(さかもと・かぐや)の事も、獅子島慎之介に伝えられずじまいだ。何となくだが、彼とは友好的な関係を築けそうだと思ったのに、今はもう会話の一つすら交わせない。

 得たものはなく、失ったものが多すぎる。


 とりあえず、あの家に戻ろう。

 そうするしかないとわかっているのに、足がなかなか動こうとしない。




No.14 千堂新(せんどう・あらた)19歳

【能力名】魔法鏡

【能力】 相手の戦闘行為を認識している時のみ、その攻撃手段と威力をそのまま返すことが出来る能力。更に「能力による効果は付加選択可能」

【タイプ】アクティブ

【系列】 能力操作系




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前回登場話

No.12獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)→47話 最悪の再会

No.23新田豪生(にった・ごうき)     →47話 最悪の再会

No.34室島斬也(むろしま・きりや)    →47話 最悪の再会

No.30穂高凛(ほだか・りん)       →47話 最悪の再会

No.14千堂新(せんどう・あらた)     →38話 狂乱の償いは

No.41六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)    →38話 狂乱の償いは

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