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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
53/54

49 感情回帰

1


「こんばんは」


 道の先から現れた男はにこやかに笑う。


「少々、聞きたい事があるのですが。ああ! 大丈夫、お時間も命も取りませんとも」


 顔こそ笑ってはいるが、男はあくまで淡々としたまま言い放つ。


「物騒だな、話くらいは聞いてやるが」

「遠江和穂(とおとうみ・かずほ)をご存知ですか?」

「……」


 このグレースーツを着た男の要件は、本当にそれだけなのだろう。それ以外には全く興味がないと、目が語っている。気に食わない。


「知らんな」


 気に食わないから嘘をついた。自分はつい先程、小学校でその名前の少女と出会っている。

 拷問方法がどう、とかいった奇抜な髪型の男を撃退し、遠江和穂と天条千草(てんじょう・ちぐさ)と名乗った二人を助けた。十河蒼空(そごう・そら)なる人物の遺体を見たのもその時だ。


「残念ですね」


 グレースーツの男は笑顔を消し、興醒めを隠すことなく自分の方へと歩いてくる。その姿が徐々に明瞭になるにつれて、異様さがハッキリと浮き上がってきた。


 まず、右手の袖が黒い。着こなされたグレースーツに不釣り合いな汚れ。更にそこから液体が垂れている。それは地面に点線を描き、この男の歩いてきた方角を物語っている。そして顔。先程確かに笑っていた顔も、今はない。まるで感情の切ったかのような無表情。不気味でしかない。


「待て」


 男が自分の脇を通り過ぎようかと言う時、思わず声を出してしまった。


「……何か?」


 だがその男は止まる事無く、自分の横を通り過ぎながら小さく呟く。


「遠江和穂とやらを見つけたら、どうするつもりだ?」

「ああ、そんなことですか」


 男は足の動きを止めると、振り向いて言った。


「勿論決まりきっています。この命を賭けて“保護”しますとも!」


 ああ、これは嘘だ。

 自分がついた嘘よりも何倍も質が悪い。


 男の半ば狂気に満ちた目をみて、【完全回避】都築一誠(つづき・いっせい)は掛け値なしにそう思った。



2


 一誠は「遠江和穂(とおとうみ・かずほ)を庇う事の意味」を考える。

 いや、考えるまでもなく想像はつく。 


 このグレースーツの男が遠江和穂に到達した場合、恐らく遠江和穂は無事では済まない。そして同じように小学校にいるであろう天条千草と来栖慎一郎(くるす・しんいちろう)にも何らかの被害が及ぶだろう。

 だがそれは確定ではない、あくまで予想。この男が何なのか分からない。



 同時に「遠江和穂を庇う事の利点」を考える。

 そんなものはない。


 一つの「貸し」が機能するほど、彼女たちに期待していない。


 そして「遠江和穂を庇う事の欠点」とは。

 ……試合進行の遅延化。



 ここまでの思考で数秒。どれを優先するかは決まっている。

 雷撃少年との戦闘後に決意した自分を思い出そう。


「そんなに遠江和穂の居場所が知りたいか?」

「彼女をご存知で?」

「ああ、一応な。だから――」


 言い終わる前に、何かが飛来した。

 前方、グレースーツの男が何かを投げたのかと思った。だがそれは人体ほどの大きさを持ち、到底人が投げられるようなものではないと思った。


 それは人そのものだった。

 何の迷いも無く間合いを詰めてきて、グレースーツの男の右手が一誠の首を捉える。



3


 だが一誠は、それを最小限の動きで躱す。【完全回避】の能力は伊達ではない。グレースーツの男は大きく距離を取り、初めて表情を露わにした。自分の手と一誠を不思議そうに見比べている。


「お前の言いたいことはわからんでもない。よもやこんな男が私の一撃を躱すなどと……ってところか。あの雷撃少年と同じ目だ、全く、どいつもこいつも自信過剰で羨ましい」

「ああ、いえ……。すみません、だいぶ感情が戻ってきました。ハハ、やはり何度やってもいい気分ではないですね」

「……は?」


 今度は一誠が驚く番だ。この男は何を言っている?


「挨拶が遅れました。私は室島斬也(むろしま・きりや)と申します。それで、先程の件ですが、良ければ教えていただけませんか?」


 今までの態度が嘘のように、室島斬也と名乗った男は一礼した。流石の一誠も理解が追いつかず、頭の中にハテナが浮かぶ。あるいはそういう戦法だろうか。


「それより、お前の能力はなんだ。その人ならざる速度と関係があるのか?」

「いえ、僭越ながらこれは私自身の身体能力かと。能力は……そうですね、一応【マジックキャンセラー】と銘打たれてはいますが、実証は出来かねますね……あるいは貴方の能力がアクティブならば、話は変わってきますが」


 心底困ったような顔で斬也は言う。一誠は目の前の男の突然の豹変に納得がいかず、未だに警戒を崩せない。


「残念ながら俺はパッシブタイプだ」

「そうですか、ハハ。これは本当に残念だ。信用を得られる機会かと思いましたが」


 どういうつもりだろう。突然の友好的な態度。人の首を狙っておいて、信用がどうとか意味不明にも程がある。だが先程の無表情や興醒めを貼り付けた男と同一人物とは思えない。【マジックキャンセラー】という能力と何か関係があるのだろうか。


「ふむ……。であれば仕方ない。自らの足で探すとしましょう」


 と言って、斬也は小学校へと足を向けた。

 まずい、そちらに行かれてははぐらかした意味がない。


「おい、待て」

「ハハハ、わかりやすいですね、貴方も」


 振り返った斬也は、小馬鹿にしたような笑顔で一誠を見る。


「謀った……のか?」

「ああ、いえいえ。今のがカマをかけたと言うやつです」

「ちっ。ああそうだ、お前のお目当ての女はそっちにいるよ」

「ほう……」


 笑いながらも鋭い視線が一誠を刺す。

 だがなぜか、そこに悪意は感じなかった。



4


 本当に、先程とは別人のようだ。「感情が戻ってきた」と言っていたが、どういう意味だろう。


 刺すような視線は数秒続いた。明らかに値踏みされている。一誠の発言が、嘘かどうかを見極めているのだ。


「ハハ、わかりやすいと言いましたが撤回しましょう。貴方もなかなか曲者だ」

「褒めているのか? それは」


 どうやら自分の無表情も捨てたもんじゃないらしい。

 出会ったばかりの人間に考えを読まれない程度には。


「まあ、ですが、私はあの学校に向かうとしましょう。元々アテもないですし、あれだけ目立つなら可能性もなくはない」

「そうか」

「貴方は?」


 その問いにも、一切の悪意は感じられなかった。だが、何かどす黒い感情を抑えつけているという印象を持った。もしも意図的に抑えているのなら、その行為自体は善性と呼べるのだろうか。この男は、平和的な考えの持ち主だろうか。


 本来なら見送る。グレースーツの袖口に付着した液体さえなければ。


「お前が向かうのならば、俺も行こう。知り合いがいるのでな」

「ほう? それは楽しみですね」


 【マジックキャンセラー】室島斬也と、【完全回避】都築一誠。

 一誠は不信感を抱いたまま、斬也の後に続いた。



5


 【マジックキャンセラー】室島斬也(むろしま・きりや)の唯一の肉親、遠江和穂(とおとうみ・かずほ)。だがその関係は決して正常なものではなかった。


 ゲームマスター神永祐奈(かみなが・ゆうな)の所属する組織と敵対関係にある組織の組員であった斬也は、毎日のストレスを彼女で発散していた。表向きは命令に忠実で職務を的確にこなすだけの男だったが、それは裏で全ての負を発散できたからだ。


 関係性は斬也が完全に上だったが、彼は確実に彼女に依存していた。ストレスが一定量を超えると、普段の斬也からは想像もつかない人格へと豹変する、無意識的な二重人格者。それに加えて感情のオンオフが意図的に出来るのだから、見る人が見れば多重人格にすら映るのも当然だった。




No.18 都築一誠(つづき・いっせい) 22歳

【能力名】完全回避

【能力】 自身へ向けられた攻撃行動の全てを、肉体が自動で回避する。

【タイプ】パッシブ

【系列】 生存確約系(特殊型)


No.34 室島斬也(むろしま・きりや)23歳

【能力名】マジックキャンセラー

【能力】 自分とその周囲を対象としたアクティブスキルを無効化する能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 能力操作系


残り24/42人

前回登場話

No.18都築一誠(つづき・いっせい)    →43話 大外れ

No.34室島斬也(むろしま・きりや)    →48話 続・最悪の再会

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