44 戦え、しかし絶望せよ
1
「へー、うまいもんだなー」
「ちょっとジロジロ見ないでください、蒼空くんの分だけ量減らしますよ」
「ええー! それはだめ!」
小学校の家庭科室。遠江和穂(とおとうみ・かずほ)は、横から覗き込んでくる十河蒼空(そごう・そら)をいなしつつ、何の飾り気もない無機質な白い皿に今しがた完成したカレーライスを取り分けていた。調理を手伝ってくれた天条千草(てんじょう・ちぐさ)はそれを調理台の向こう側から見守っている。心なしか半笑いに見える。
「ね、ね。味見していい?」
「自分の分からどうぞ」
「はーい! あ、おいしい」
「当然です」
はしゃぐ蒼空を横目に、和穂は一つため息を吐いた。殺し合いの場にいるというのにこの緊張感の無さ。だがまあ仕方がない。来栖慎一郎(くるす・しんいちろう)がいる情報室での息苦しさから開放された二人に、今とやかくは言わない事にした。
「蒼空くん、来栖さんの分と貴方の分、運んでもらえますか? 天じょ……千草ちゃんと私は、自分の分を後から持っていきますので」
「はいはい! ……え、でもパソコン室って飲食禁止じゃ……」
「緊急事態なのでしょうがないです」
ポカンとする蒼空を放置して引き出しからお盆を取り出しつつ、そこに二人分の皿とスプーン、それにガラスのコップに汲んだ水を乗せる。「じゃ、これ」と蒼空くんに渡して、後は千草の分を用意しようと振り返る。
「え」
背もたれのない丸い椅子の上で、千草は器用に寝ていた。調理作業はそこまで疲れるものだっただろうか。……いや、ここまで生きてきた心身疲労を考えれば仕方のないことか。そういえば、情報室で千草が言っていた「私は寝るわけにはいかないんです」という言葉の意味を未だに聞きそびれている。
「千草ちゃん」
「……ん……なぁに……和穂ちゃん……」
寝ていたわけではないようだ。だが今にも寝入ってしまいそうなふわふわとした声に思わず微笑んでしまう。
「ご飯食べてから、寝よう?」
「ん……でも……私は……」
「いいから、いいから。さ、早く私達も自分の分を運んで――ッ!?」
「え、なに……どうしたの……」
千草は気付いていない。
千草の手に握られている探知機。周囲の参加者の位置を大雑把に教えてくれる便利な代物。その探知機に、新たな表示が増えていることに。
2
「蒼空く――」
慌てて振り返ったが、もう遅い。蒼空は既に二人分の料理を持って家庭科室を後にしていた。慌てて部屋の入口まで駆け寄り廊下を見渡したが、姿が見えない。もうどこかの角を曲がってしまったらしい。
「和穂ちゃん……?」
「え、ああ。すみません、量、足りたかなって思って」
突然駆け出した自分を怪訝そうな目で見つめてくる千草に苦しすぎる言い訳をして、そっと千草の手から探知機を取った。「余計な心配をかけない」ことか「危機的状況の共有をする」のどちらにするべきか迷ったが、来栖慎一郎という人間ならどちらを選ぶかを考えて前者をとった。無意識に模範にしてしまった事に多少の腹立たしさはあるが、和穂は他に頼る人間を知らなかった。
幸い新たな探知機の反応は自分たちからは遠い。だが蒼空のものと思わしき丸い表示が、ちょうど今、他の点と接触していた。その相手が来栖慎一郎であることを祈りつつ、和穂は完成した料理を名残惜しそうに見る。
一瞬の悩みのあとに
「千草ちゃん、ちょっと今から言うものを用意してもらっていいですか」
脱いでいた制服の上着を着て、和穂はとある作業に取り掛かった。
3
「なんだ、男か……」
「なんだよ、お前……」
十河蒼空は、突如目の前に現れた男をじっと見る。
サイドを刈り上げ、残ったモヒカンを三つ編みにしたような奇抜な髪型の男が蒼空の行く手を阻んでいた。
「アヒャ、可愛い顔してっけど、男に興味はねえんだよなぁ……」
「いやオレもないですけど!? ていうか何なんだよお前!? オレは今から和穂サンお手製の料理を来栖サンに届けるんだからどけって!」
蒼空からすれば、こんなところで話をしている暇はない。恐らく情報室でふさぎ込んでいるであろう来栖慎一郎に、今から料理を届けなくてはならないのだから。
「んん……? 来栖ぅ??」
「なになに、知ってんの!?」
「おおう、アイツの口から言わせりゃ、俺とアイツは協力者だぜぇ??」
「ええ……」
蒼空は困惑した。目の前のどこからどう見ても怪しい男は来栖慎一郎の協力者だという。
「いやいや……流石にあの人でもここまで趣味悪くないでしょ……じゃ、カレー冷めちゃうから通るね」
「待て待てぇ! さっき和穂さんとか言ったよなぁ?? そいつは女か??」
「まあ……そうだけど……お兄サン、一体――もが」
「おぉい! それを先言えよなぁ!」
突如、男は距離を詰めてきたかと思うと蒼空の口を片手で覆い、そのまま廊下の壁に叩きつけてきた。反動で両手に持っていたお盆を取り落としてしまい、皿とコップが割れる音が廊下に響く。
「おまっ、何すんだよっ!」
慌ててそれを取っ払って、思い切り男の腹を蹴り上げた。
「いってっ!!」
だがその腹は鉄板のように固く、逆に自分の足を痛める結果となった。
「なんだよお前!」
「俺かぁ? 俺は【拷問機会】の新田豪生(にった・ごうき)だぁ……! 以後よろしくぅ、アヒャヒャヒャ!」
両手を広げ、見るもおぞましい笑顔を呈して男は名乗った。
4
新田豪生。それはどこかで聞いた名だ。
「殺人の手助けをしてしまった」と来栖サンが言っていた。あの時出てきた容疑者の名前は――
「お前……っ!」
「なんだぁ? 俺の事知ってくれてるのかぁ?」
間違いない。風貌も確かに一致している。それに「女ばかりを狙う猟奇的人物」であることに納得がいくし「殺人を起こしてもおかしくないような性質」をひしひしと感じる。
「和穂サンは……もうここにはいないけどね!」
「へぇ……?」
「オレたちとはさっき別れたんだ。今はもう……この学校にはいないんじゃないかな」
「嘘が下手だなぁ……お前ぇ……!」
「ッ――!」
絞り出すように吐いた嘘は、あっさりと見抜かれた。このままここでこうしているのはまずい。今にも、自分の後ろの階段から千草と和穂がカレーライスを持って上がってきてもおかしくはないのだ。
やはり残る選択肢は一つ。自分がここでこの男を排除するしか無い。だがどうやって? 自らの能力が戦闘に向かないというのは何度も思ったことだ。【天狗の翼】、飛翔能力を得るというだけの身体変化系能力では、いざ室内での戦闘に全く役立たない。
「俺はお前に危害を加える気はないんだぜぇ……? その女の場所さえ教えてくれたらなぁ……?」
突如、男の右手に杭が現れる。これが来栖サンから聞いていた、拷問器具の顕現能力だろう。どうする、どうする――
「一体、何の騒ぎ……貴様は――ッ!?」
ガラリ、と男の向こうの部屋の扉が開く。情報室、と書かれたプレートの下に姿を晒すその男は、黒いTシャツに黒いジャージ。そして黒髪オールバックの全身黒尽くめ。他でもない、来栖慎一郎だった。
5
「一体、何の騒ぎ……貴様は――ッ!?」
自分を含まない男性二人の話し声に違和感を覚え、パソコンを弄っていた手を止めて廊下へ出た。そこには、排除対象である新田豪生……自らの目の前で与那城朱美(よなしろ・あけみ)――退場者リストの位置から名前を割り出した――を殺害した猟奇的殺人者の姿があった。
「遠江和穂と天条千草はどうした!?」と、続けて出そうになった言葉を飲み込む。豪生を挟んで向こう側にいる十河蒼空の足元には料理が散らばっている。あれは誰が作ったものだろうか。状況が読めない今、迂闊な発言は避けておきたい。
「ここには男しか居ないぞ、何か用か。新田」
「あぁん?」
新田豪生の目に微かな困惑が浮かぶ。あの目は知っている。「確信が疑問に変わった瞬間」の目だ。
「ほ、ほら! だから言っただろ!」
蒼空が加勢に入る。だがあまりの白々しさに笑えてしまう。十五歳故の純粋さ、それは今邪魔だ。
「……和穂」
新田の発言と共に、ピクリと自分の眉が釣り上がるのを感じた。その反応を見て、新田豪生はニヤリと笑う。観察されているようで、不気味かつ不愉快だ。
「本来なら貴様を今すぐにでも排除したいが、生憎と今の俺にそんな気力はなくてな。ここはお互い手打ちと行こう。代わりに食料をくれてやる。そこにあるカレーライスだ。……ほら、這いつくばって舐めろ」
自分でも驚くほど、低い声と低俗な言葉が口をついた。自分では気付いていなかったが、俺は相当この男に怒りを感じているらしい。蒼空が、少し怯えた目で自分を見ていた。
「自分とでかい口叩くようになったじゃねぇかよぉ? あの時一緒に女を殺したのも忘れたのかぁ?」
「ああ、一瞬たりとも忘れたことはない。俺の人生で最大級の汚点だ。貴様を殺したとしても、この心が晴れるかどうか」
とは言ったものの、実際心が晴れることなど有り得ないと思う。「与那城朱美を間接的に殺害した」という事実は未来永劫消えることがない。だから俺は、自分に断罪が必要だと思っている。蒼空の要求である溶解少年の討伐と、この猟奇的殺人鬼の排除さえ叶えば、潔く自死するつもりでいる。
6
「ふ、まあお前たちに用はねぇからなぁ! ……あぁん? そう言えば来栖よぉ、あの時一緒に居たかわいこちゃんはどうしたんだぁ?」
「……」
「今一緒にいねぇってことはぁ……アヒャ、もしかしてまた守れなかったのかぁ?」
「……黙れ」
「ちいっ」
新田の言う女性、坂本神久夜(さかもと・かぐや)については守れなかった訳ではない。選択を間違えただけだ。だが結果的に、俺の選択ミスで彼女を死なせたことに変わりはない。「用が有る」と言って別れた彼女は、先程退場者リストに名前が載っていた。用とやらは無事果たせたのだろうか。
豪生が踵を返し、蒼空の横を通り過ぎて階段へと向かう。
「待てよっ!!」
「あぁん?」
「コイツと来栖サンの間に何が有ったか全部知ってるワケじゃない……っ! でも明らかにワルモノだよなっ!? だったら、ここで倒しとくべきなんじゃないのか、来栖サン!」
蒼空が、曇りのない目で自分を見る。
豪生の動きは蒼空の大声を受けて一応止まっていた。
「それはそうだ。だが……」
この男を排除したいのは切実だ。だが、致命的に戦力が足りない。
飛翔能力【天狗の翼】の十河蒼空と、精神リセット【零】の自分では、全身凶器の【拷問機会】新田豪生に太刀打ちする術がない。それどころか、性質看破の【十人十色の専売特許】遠江和穂と、二重人格【自縄自縛の二律背反】天条千草を加えても勝てるかどうか。人数差は能力差にいとも簡単に覆される。
それだけではない。どうしようもない程の不安が、来栖慎一郎という男の動きを鈍らせていた。目の前で与那城朱美を失った無力感と、先程別れた坂本神久夜の死からくる喪失感が足を掴む。また、あの時と同じ悲劇が繰り返されるのではないか。ある意味での保身本能が、慎一郎に安全策を提示する。
「いや、ここは……放っておけ」
「なんだよそれっ! 来栖サンはオレにあの時協力してくれるって言ったじゃないか! オレだって怖えよ、それでも臆面もなく溶解野郎を殺すと言い切ってくれた! あの自信に塗れた来栖サンは何処へいっちゃったんだよっ!?」
蒼空の悲痛な叫びが廊下に木霊する。
だがそれを聞いて尚、慎一郎の心は動かない。
むしろその迷いの無い強い意志はかつての自分を彷彿とさせ、慎一郎は過去を思い返していた。
7
蒼空を動かす強い意志。
それはかつて自分にもあったはずの物だ。
幾千幾万の現実を突き付けられて、腐っていった今の自分にはないものだ。
来栖慎一郎は知っている。自分の言動、行動の根底にあるものは虚勢だと。
他人の視線、他人の評価、他人の価値観全てを跳ね除けてきた。
挫折するのが嫌だから、何も成せないと思われるのが嫌だから。
そんな中で、この殺し合いに呼ばれた。呼ばれたというのは表現としては不適切だ、正確には強制参加だったのだから。
最初に天条千草を見つけた時、この少女を守ろうと誓った。どこからどう見ても人畜無害なこの少女を守り通せたのなら、腐りきった自分でもまだ胸を張れるだろう。勝手に保護対象に定めて、勝手な誓いを立てた。
公園では、遠江和穂を助けた。真面目そうな青年を撃退して、彼女の手を握った時は言い様のない心地よさと達成感に包まれた。正義の味方というものはこうでなくてはならない。わかりやすい暴力が吹き荒れるこの場所でなら、自らの夢は叶うのかもしれない。
十河蒼空の合流と、彼の要求は心が踊るものだった。溶解少年とやらの討伐も、今の自分なら成し得ると思った。彼の本性を導き出すという流れも、非常に英雄らしい。どこか自分に酔っていた。この場は、自分のために用意されたのではないかとも思ったりした。
その後は、もう語ることもない。与那城朱美と坂本神久夜の死亡は自分のせいだ。自らの判断ミスが、こうも簡単に人の死に繋がるのだと理解した。舞い上がっていた自分を恥じた。己の無力さを思い出した。
高校時代、正義感に突き動かされてやった様々な行為は全て逆効果だった。この世は理不尽だと知った。自分一人程度の力で成し得ることなどたかがしれている。一人の人間が助けられる数には限界がある。
だったら――
「……そうだな、蒼空。感謝する」
簡単な話だ。その限界を試してみればいい。為せば成るとはよく言ったものだ。この世全ては救えない、当たり前だ。でも目の前の数人を助けるくらい、俺に出来てもおかしくない。
「蒼空、危険を感じたらすぐに逃げろ。蒼空ならどこへでも逃げられるはずだ。俺がやられた場合も同じだ、分かるな? “蒼空達”ならどこへでも行けるはずだ。人を二人抱えることくらいわけないだろう、男だからな」
8
俺の意図は正しく伝わっただろうか。
恐らく遠江和穂と天条千草はまだこの校内に居て、蒼空だけが単独行動をしていた結果新田と鉢合わせてしまったというのが現実的な考え方だ。蒼空の能力なら、いつでも二人を連れて新田の手の届かないところに逃げる事ができる。そのための足止めなら、自分一人で十分だ。
「来栖サン……それって」
「今は、余計な事を考えるのは無しだ。……おい新田、待っていたのか? 犯罪者のくせに律儀だな」
未だ階段の前からこちらを伺う豪生を睨み、適当な言葉を吐き捨てる。
「あぁん? 俺とやろうってのかぁ?」
新田は身体をこちらに向け一歩一歩近づいてくる。奴の戦い方は分かっている。まずは飛んでくる石を躱す。次に飛来した杭も最低限の動きで避けた。出来るだけ壁際に寄り、次に飛んできた槍を飛んで躱すと、壁に突き刺さったそれを抜いて構える。
拷問器具に関しては一通り見せてもらった。
あの時の意気投合が、今だけ役に立っている。
「生意気だなぁ……オイ、邪魔だぁ! このゴミさっさと片付けとけよぉ!」
新田は蒼空の横を通り過ぎ、地面に散乱するカレーライスを踏みつける。さらにコップのガラス片を蹴り飛ばした。
「お前っ……!」
「おい、よせッ!」
それを見た蒼空が新田に殴りかかろうとするが、そんな殴打は通じない。新田の頬から突き出た棘に、蒼空の拳が突き刺さった。
「いってええええ!!!」
「大丈夫かッ!? 軽率な攻めはするなッ!」
その場に倒れ込む蒼空を、新田は冷ややかな目で見つめている。その様子には確かに嫌な予感を覚えた。
「おい、こっちだ! 聞いているのか犯罪者!!」
気のせいだと願いつつ、槍を構えて突進する。何の攻撃が来ても躱せるように速度は落とし気味だが、内心は全力で突っ込みたい。この槍をあの喉元に突き刺してやりたい。
「アヒャ、やっぱりこっちだなぁ」
「失せろ犯罪者が風情がッ!」
渾身の憎悪を込めて、槍を新田の喉元に突き刺した。華奢な喉元から鮮血が吹き出す。噴水のように飛び散るそれは、壁と天井、そして新田豪生の全身を染め上げていく。
あと一歩、間に合わなかった。
慎一郎が突き出した槍は虚しく空を突いた。
姿勢を落とした新田の右手から伸びる杭が、仰向けになった蒼空の喉元に突き刺さっていた。
9
「蒼空ああぁぁぁぁぁあ!」
覆いかぶさる新田を、左手で腹部を狙いつつ右手で頬を殴る。防御するべく腹部から突き出た棘は間一髪刺さらず、代わりに右手のストレートが綺麗に決まった。
「がはっ! いってぇなぁ!」
転がりこんだ新田を無視し、蒼空を担ぎ上げる。
「おい、しっかりしろ! 俺が分かるかっ!?」
「はは……来栖サン……だろっ……? わかる……だけどさ……おかしいな……目ぇ開いてるはずなのに……見えないんだよな……」
「――ッ!」
新田の杭は、喉の中心からすこしずれたところに刺さっていた。だが蒼空の喉元から吹き出す鮮血は、どう見ても致死量だ。その血は徐々に勢いを弱めてきたが、ゴボゴボと溢れ出るそれを止める術はない。
「おい」
「あぁん?」
「お前は、なんだ。どうして人を殺せる」
「何言ってんだぁ? ここはそういう場だろぉ? いい加減順応した方がいいんじゃねぇかぁ??」
「……そうだな」
今俺の右手から流れ出る血は誰のものだろうか。強く握りすぎた拳が麻痺して開かない。指先の爪がが肉に食い込んで、そこから流れる血なのか。それともこれは蒼空の血だろうか。
左手で槍を拾い上げる。忌々しいあの悪魔の能力産物。これしか武器がないのは皮肉だ。
「おぉん……?」
吹き出す憎悪と怨嗟を感じ取ったのか、奴は少し距離を開けた。は、一方的で圧倒的な能力を持っておいて、何を怯えている。人を二人も殺した男が、何に萎縮している。誰かに怯えて、自らの命を守ろうだなんて、貴様にそんな権利は無いはずだが。
「――!!!」
声にならない叫びだった。蒼空がやられた哀しみではない。新田に対する恨みでもない。だから本来、奴は何も怯えることはないのだ。
自分。来栖慎一郎という男の無力さに心底腹が立つ。一体自分は、何なら成し得るというのだ。年下の人間一人守れない。生きている価値がどこにある。
「俺はっ……!!」
思わず、手にした槍を取り落とした。開かない右の拳で壁を殴る。
「な、なんだよぉ……。俺は行くぜぇ、ったく余計な手間取らせんなよぉ……」
新田が駆けていく足音がした。だが、それを追う気力は既にない。
No.15 十河蒼空(そごう・そら) 退場
No.8 来栖慎一郎(くるす・しんいちろう) 18歳
【能力名】零
【能力】 対象の心を沈静化させる能力。
【タイプ】アクティブ
【系列】 精神変化系
残り26/42
10
「何なんだよあいつはぁ……」
新田豪生は階段を降りて一階まで来た。校内へは別の校舎から侵入したので、この廊下は初めてだ。
来栖慎一郎に萎縮したのはこれで二度目だ。住宅街で女を一人殺した時感じた、得体の知れない怒気。戦ってみれば難なく勝てる相手なのかもしれないが、右頬に一発もらったこともあり気圧されていた。
視線の先「家庭科室」と書かれた部屋の明かりが付いている。今しがた殺した少年がカレーライスを運んでいたのを思い出す。
「アヒャ……」
頭の中で何かのピースが嵌ったのを感じた。来栖慎一郎は、あの様子では追ってはこないだろう。周囲の様子を見て、その扉を一気に開けた。
No.19 天条千草(てんじょう・ちぐさ) 17歳
【能力名】自縄自縛の二律背反
【能力】 二重人格。睡眠をきっかけとして入れ替わり、片方が眠っている間もう片方の人格が身体を操作する。その人格は、対象者の普段の人格と真逆に形成される。ただし「???」
【タイプ】パッシブ
【系列】 規格外
No.20 遠江和穂(とおとうみ・かずほ) 17歳
【能力名】十人十色の専売特許
【能力】 対象の最も強い性質が頭上に見える能力。
【タイプ】パッシブ
【系列】 情報系
NO.23 新田豪生(にった・ごうき)22歳
【能力名】拷問機会
【能力】 自身の身体を拷問器具もしくは拷問方法に準じたものへと変化させる。
【タイプ】アクティブ
【系列】 身体変化系




