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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
49/54

45 次の死亡者は

1


「あっちぃいいぃいいいい!!! なんだぁこれふざけんじゃねぇぞぉ!!」


 新田豪生(にった・ごうき)がスライド式の扉を開けると同時に、頭上から大きな鍋が降ってきた。その中には出来たてと思わしきカレーライスが入っており、もちろん加温直後。その全てを豪生は頭からかぶってしまった。


「なるほどな。つまりあれが、殺人鬼か。確かなんだろうな?」

「誰だぁ……今それどころじゃぁ……! おぉん? 女かぁ!」


 声の方向、部屋の中から聞こえた声に視線をやると、そこには三人の男女が居た。眼鏡をかけた利発そうな青年を中心に、その左右にそれぞれ紺色と白の制服姿の少女がこちらを見ていた。


「来栖さんから聞いた特徴とほぼ合致しています。あんな変な髪型の人、他にいないでしょうね」

「ああ、分かった。任せてもらう、下がって伏せていろ」


 何かボソボソと話しているのが聞こえるが、関係ない。女がいることが重要だ。だが立ち位置的にあの男を排除しなければならないのだろう。それも恐らく問題ない。


 「水責め」を想起し、全身から冷水を発生させる。熱さもこれで大丈夫なはずだ。全く、本当に便利な能力だと思う。


 まずは様子見。両手に発生させた石と杭を同時に投げる。が、それは最小限の動きでかわされた。まあその程度は予想済みだ、来栖慎一郎(くるす・しんいちろう)にも避けられたのだから、当然。


 次に距離を詰め、全身から針を突き出した。

 肘や膝、股や首の関節部分から殺傷能力満載の突起物が相手を襲う。初見ではほぼかわせないはずだ。だが眼鏡の男は、身体の向きを少し変えるだけで避けた。


「拷問関連の能力者だったな? 先に言おう、お前では俺に勝てはしない」

「あぁん? スカしてんなぁ? 女の前だからってかっこつけてんじゃねえぞぉ!」

「ふぅ……これだから馬鹿は困る。先刻出会った雷撃使いの少年の方が、いくらか見込みは有ったな」

「何ワケわかんねぇ事言ってんだぁ!?」


 そこからはもう、ありとあらゆる拷問器具のオンパレードだった。火、氷、針、槍、振り子刃、ギロチン。知りうる限りの器具を展開したが、その男を傷付けるものは何一つとしてなかった。


「ぜぇぜぇ……」

「だから言っただろう。無駄な労力だったな、非常に非効率的だ。過信は時に――」

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!」


 少女二人は名残惜しいが、ここは一度引いたほうが良さそうだ。



2


「行ったか」

「ありがとうございます」


 遠江和穂(とおとうみ・かずほ)は、眼鏡の青年に素直に礼を言った。先程探知機に表示されていた新たな点は一つだけではなかった。南と北から一つずつ、この小学校に入ってくる反応があったのだ。


「では、来栖慎一郎と十河蒼空(そごう・そら)にも会わせてもらう」

「そうですね。そういう約束でしたし」


 その内の一つがこの青年だった。都築一誠(つづき・いっせい)と名乗ったこの青年は、家庭科室に仕掛けを施し終わる前にこの部屋に入ってきてしまった。警戒も偵察もしないその威風堂々たる侵入に疑問を抱かずにはいられなかったが、話の通じる相手で良かったと思う。和穂の目には彼の性質『完成間近の努力家』が見えていた。


 かくして一誠は、もう一人の人物の来訪を共に待ってくれた。

 結果、新田豪生という名の猟奇的殺人鬼を返り討ちにしてくれたのだ。見返りに、今ここにいる私達四人の能力を教えるという条件で。


 にしても、一誠の能力は何なのだろうか。先程の戦闘を見ていた限りでは、一誠が能力を使った形跡はなかったが。


「千草ちゃん、探知機貸してもらっていいですか?」


 何はともあれ、蒼空くんと来栖慎一郎に彼を合わせなければならない。悪い人ではなさそうなので、悪い結果にはならないだろう。そのためにも、まずは千草ちゃんの持つ探知機で二人の居場所を把握する必要がある。


「千草ちゃん?」


 二度目の呼びかけにも返事はなかった。


「どうした?」

「ああ、いえ。どうしたんですか、千草ちゃん」


 千草ちゃんは私達の声など聞こえていないかのように、今にも泣き出しそうな顔で震えていた。


「……足りないの」

「え?」

「一つ……足りないの……」


 思わず、彼女の持つ探知機を覗き込む。一瞬頭に浮かんだ番町皿屋敷という場違いな連想は即座に消えた。急速に遠ざかっていく点は、たった今撃退した新田豪生のものだろう。そして中心には点が三つ、これは自分たち三人だ。


 画面上には、その四つ以外には点が一つしか表示されていなかった。そしてその最後の点も、他のとは違って明滅していた。



3


 疑問が二つ、可能性が三つある。

 一つ目の疑問は千草ちゃんの言うように、数が足りないこと。

 二つ目の疑問はこの明滅。こんな表示形式は見たことがない。この簡素な探知機の画面上、自分たち三人を表しているであろう三つの点はただの赤い丸だ。そして今にも画面端へとフェードアウトしようとしているのは、先程の襲撃者新田豪生のものでほぼ間違いない。となると……。


「千草ちゃん、落ち着いて。蒼空くんなら、すぐにでも画面外に逃げ出せます」


 一つ目の可能性。この明滅表示が来栖慎一郎で、蒼空くんは能力を使って逃げおおせたのかもしれない。だがこれでは、明滅表示については説明できない。ただの故障という二つ目の可能性もある。元々主催者の用意した機器だ。全面的に信頼するほうが難しい。


 千草ちゃんの震えは止まっていない。恐らく脳内で導き出した最悪の可能性を想定しているのだろう。それは私にも分かる。


「直接確認すればいい話だ。ここで可能性を羅列したところで意味はないだろう」


 都築さんの言うことも最もだ。というか、それが最大の正論に思える。だが私はともかく、感情抜きで動けるほど天条千草(てんじょう・ちぐさ)という少女は強くはない。


「千草ちゃん、行きましょう」


 それでも、確認する義務がある。どのみち都築さんとの約束を果たすには二人と合流する必要があるのだ。私は震える彼女の右手を握って部屋を出た。小さくて冷たい手が、そっと私の手を握り返してきた。




4


 階段を上がっていく。情報室は三階にある。何事もなく合流出来ればいいのだが。


 角を曲がる。情報室はこの長い廊下の中ほどにある。赤い水たまりが廊下の中央に見えた。月光に照らされた二つの人影は、私のよく見知った顔だ。月に許しを請うように廊下の窓から宙を見つめ、どこから持ってきたのか分からない槍で延々と自らの右腕を切り刻んでいるのは来栖慎一郎。全身は既に血まみれだ。その傍らで微動だにせず倒れ込んでいるのは、恐らく十河蒼空。そちらも変わらず血に塗れ、喉の辺りが赤く染まっている。


「ッ――!?」


 私の隣で、都築さんが息を呑む音が聞こえた。そりゃそうだ、私だって状況を把握するのに精一杯で動けない。だが現在の状況を冷静に分析したところで、何が有ったのかなんて分からない。一刻も早く来栖慎一郎の自傷行為を止めなければと分かっているのに、身体が動かない。


 三つ目の可能性が当たってしまった。表示が一つ足りないのは単純にどちらかが絶命したからで、明滅しているのは今にも死にかけだったからだ。正に目をそむけたくなるような地獄絵図。一歩踏み出すのも躊躇するレベルの血の海が広がるその長い廊下へと駆け出していったのは、都築さんでも私でもなかった。


「来栖……くんっ……!」


 千草ちゃんが、何かに小突かれたように私の手を振り解いて走っていく。槍を持つ来栖慎一郎は明らかに正常な状態ではない。それを考えた時、千草ちゃんが来栖慎一郎に接近することの危険性を認識したが、時は既に遅かった。私の足では、間に合わない。


「やめてよ……こんなの、やめてよぉ……」


 泣きながら、千草ちゃんが血の海の中を駆け抜けていく。白い制服に血が飛び散る事も意に介さない。未だに自らの右腕を刻み続けるその男に、千草ちゃんは後ろから思い切り抱きついた。少なくとも私にはそう見えた。月明かりの中、一瞬時が止まったように見えた。


「おい、あまり軽率に――」


 そこまできて、ようやく都築さんが近づいていく。私の足はまだ動かない。それは何故だろう、脳が現実を受け入れることを拒否しているからか。不本意ながらも頼りにしていた来栖慎一郎の豹変と、どこか弟のように感じていた十河蒼空の惨状を、未だに認めたくないのかもしれない。



5


「離せ」

「やだ……」

「離せと言った。ギルマスの言う事に逆らうのか」

「やだっ……」


 来栖慎一郎の左腕を巻き込む形で背後から抱きついた千草は、理屈で言葉を発することをやめていた。どうせ舌戦では勝てない。なら今は、自分の気持ちを素直にぶつけようと思った。


「離せ、さもなくば――」


 慎一郎が、器用に槍を回して千草の顔へと向ける。

 月に照らされながらも首を回してこちらを見る慎一郎の目は、哀しいほどに冷たかった。


「待っ――」


 階段の辺りから、和穂が駆けてくるのが横目に見えた。だがその静止は間に合わない。それを計算できない程、千草も慎一郎も頭の悪い人間ではない。


 慎一郎の手は震えている。血が流れ続けている右手も、槍を持っているだけの左手も。


「あぁ、くそっ!」


 何かを観念したように、慎一郎は槍を地面に落とした。

 その拍子に彼の全身から力が抜け、その場に座り込む。釣られる形で、千草も廊下に膝をついた。制服のスカートに血が染み込む感触がした。


「一人にして欲しい」


 ポツリと慎一郎が呟く。


「それは無理だな」


 千草の背後から聞こえたのは、先程自分達を助けてくれた都築一誠の声だった。


「……誰だ、貴様は」

「お前たちと同じ、殺し合いの参加者だ。……こいつが十河蒼空か、フン。さしずめお前の目の前で死んで、無力を噛み締めている……そんなところだな」

「黙っていろ」

「それは出来ない。正直、ここで何が有ったのかは俺にとってはどうでもいい。……だが」


 一誠がそこで一端言葉を切る。慎一郎が顔をそちらに向けるのを待っているらしい。だが十秒以上の時間が経っても、慎一郎が振り向く素振りはなかった。


「ふぅ……。本気の落胆らしいな。だがお前は、この二人に何があったかを説明するべきなんじゃないのか」


 一誠は千草と、駆け寄ってきた和穂を見ながら慎一郎に問いかける。

 だが慎一郎からの返事は、依然としてなかった。


「……靴が汚れた」


 突如、一誠は脈絡のない言葉を吐く。


「それに、血の匂いというやつも好きではない」


 コツコツと廊下を歩いていく音がする。それと同時に、声も遠ざかっていく。


「遠江和穂、次に会う時があれば、借りは返してもらうぞ」


 そう言い残して、都築一誠はその場から去っていった。その姿が見えなくなるまで、和穂はずっと頭を下げていた。



6


「……貴様らは」


 一体どれほどそうしていただろうか。血の匂いが充満するその場所で、誰から話し始めるでもなく沈黙を保っていた。右腕からは今も血が流れ続けている。そんなことはどうでも良かった。


「俺に失望したか?」


 三人目だ。自らの行いの結果、誰かを死なせてしまったのはもうこれで三人目になる。俺は馬鹿らしいくらいに無力だ。阿呆らしいほどに脆弱だ。全てが逆効果だ。俺が誰かを助けようと願うほど、それに反して命は失われていく。


 「友の願望を叶えたかった」だけだ。

 「彼女の想いを優先したかった」だけだ。

 「三人の安全を守りたかった」だけだ。


 与那城朱美(よなしろ・あけみ)も、坂本神久夜(さかもと・かぐや)も、そして十河蒼空も。もっと冷静に、もっと強引に、もっと強く言っておけば。きっと救えた命だった。自分への失望がとどまるところを知らない。


 天条千草は、黙って俺に寄り添っている。

 遠江和穂は、一歩下がって俺達を見ていた。


 英雄になりたかった。自分こそ、何かを成す存在だと思っていた。そんなことはないと、十八歳になる頃には理解していたはずなのに。この狭い世界でならなんとかなるのではと、思い上がった。今思えば随分と甘い見通しだ。


「……何か言ってくれよ」


 傍らに転がる槍を持ち上げる。こんな右腕は必要ない。今後能力を使うこともない。いや、こんな誰も守れやしない無価値な命なら、いっそ――


「駄目だよ」


 その時、天条千草がか細い声を出した。


「来栖くんは、私のヒーローだよ」


 先程よりも少し大きな声。だがその声は震えている。全身も同じように震えている、密着した身体から、心の震えまで伝わってきそうだ。


「私が最初にここに来た時ね……すごく怖かった。そりゃそうだよね……殺し合いだもん。ここで一人で死のうって思ったなぁ……。でも、来栖くんが来てくれたから……私は今でも生きてるんだよ。だから、命の恩人……だよ?」


 脳に電撃が走ったようだった。気づかない内に、俺は一人の命を救っていたらしい。失った命ばかりを考えて、そのことは見落としていた。


「そう言えば、そうですね。私も来栖さんが居なかったら死んでましたよ、きっと」


 遠江和穂も、同じことを言う。

 そう言えば、公園で彼女を助けたから今一緒にいるのだった。



7


「蒼空くんも、きっとそうですよ。私達……いえ、来栖さんと会ってなかったら、一人で溶解少年? に特攻してたかもしれませんし。来栖さんの話に出てきていた坂本神久夜さんだって、貴方がいなかったらどうなってたかわかりませんよ」


 確かにそうなのかもしれない。坂本神久夜の狂化状態を解除しなければ、あの【剛腕】獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)の正体を知ることもなく、彼女達は他人を殺し回っていただろう。


「それに、なんというか。私は貴方に強さを貰いました。虚勢だろうと虚栄だろうと、その振る舞いが出来ること自体がすごいって思いますよ。……だからまあ、あれですね。言い様によれば、私にとってもヒーロー……かもしれませんね」


 最後の方の歯切れの悪さは、照れなのだろうか。クールな彼女にしては珍しい。


「……蒼空に関してはどうだ」

「どうなんでしょうね。でも、なんででしょうね。私には、笑っているように見えます」


 言われてみれば確かにそうだ。傍らで寝ている蒼空の顔は、その血塗れに反して心なしか穏やかに見える。蒼空が刺された後、新田豪生が去った後、数回の会話を交わした。その内容はなんだっただろう。「オレの代わりに、溶解野郎を倒してくれ」と「和穂サンと千草チャン、特に千草チャンのこと守ってあげて」と、そんなたぐいの言葉だった。

 それは少しばかりの救いだ。こんな俺に託された願い。それが有る内は、まだ生きててもいいだろうか。


「蒼空に、頼まれたことがある」


 千草の頭を血で汚さないように慎重に撫でながら、立ち上がる。


「それが終わるまでは、……生きててもいいだろうか」


 我ながら傲慢な願いだと思う。だが、こんな俺に最期を託して、その結果としてあんな穏やかな顔をされれば、その願いを叶える他はない。


「当然です」

「勿論だよ……!」


 この二人がいる内は、この命を断つのは早い。


「蒼空。お前の末期の願い、俺が必ず叶えてやる。……それと、ありがとう」


 蒼空を動かしていた強い意志。

 それは今の自分に確かに宿った。

 幾千幾万の現実を突きつけられようが、決して腐る事はない。


 俺は知っている。自分の言動、行動の根底にあるものは虚勢だったと。

 関係ない。出来る出来ないは関係ない。どちらにせよやるべきだ。


 例えこの命が燃え尽きようと、友の願いは叶えなくてはならないのだから。


No.8 来栖慎一郎(くるす・しんいちろう) 18歳

【能力名】零

【能力】 対象の心を沈静化させる能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 精神変化系



No.19 天条千草(てんじょう・ちぐさ) 17歳

【能力名】自縄自縛の二律背反

【能力】 二重人格。睡眠をきっかけとして入れ替わり、片方が眠っている間もう片方の人格が身体を操作する。その人格は、対象者の普段の人格と真逆に形成される。ただし「???」

【タイプ】パッシブ

【系列】 規格外



8


 遠江和穂は、一人暗い廊下を歩いていた。

 月明かりを頼りにとある部屋を探す。千草から借りた探知機には、自分とあの二人の反応しか無い。新田豪生の魔の手から自分たちを守ってくれた都築一誠は、もうこの学校にはいないらしい。


 「保健室」と書かれたプレートを見て、躊躇なくドアを開ける。小綺麗に整頓された棚と、カーテンで仕切られた二台のベッドが見えた。保健教師用と思われる机の上の救急セットを手に持って、他にも入用になりそうな細々としたものをリュックに詰め込んでいく。


「ははは、おかしいですね」


 目の前が滲む。視界の解像度が急激に下がったのを感じた。体勢が崩れて、思わずベッドに座り込む。


「ああ、私もまだまだだなあ」


 来栖慎一郎は強すぎて脆い。天条千草は弱すぎて脆い。

 これは直感的な判断だ。だからこそ私はしっかりするべきだと思った。せっかく出会えた人たちなんだから、うまく付き合っていきたいと思った。そうしたところで、無事に帰れるかは分からないけれど。


 だからこそ、十河蒼空の存在は緩衝材だった。それがもういない。

 何が有ったのかは分からない。分かりたくもない。「こうこうこういう経緯で死んでしまったんだ」と慎一郎に言われたとしても「はいそうですか」と受け流せる訳がない。だったら聞いても聞かなくても同じだ。都築さんは「説明するべきだ」と言ってくれたけど、あれは私にとっては見当違いだ。


 今、一人でよかった。慎一郎の怪我の手当のために必要器具を持ってくるという名目で単独行動していて良かった。人前で涙を流すだなんて、みっともなくて出来たもんじゃない。



No.20 遠江和穂(とおとうみ・かずほ) 17歳

【能力名】十人十色の専売特許

【能力】 対象の最も強い性質が頭上に見える能力。

【タイプ】パッシブ

【系列】 情報系



9


「……弱いな」


 貸しを作っておくというのは大事だ。好転すれば、どこかで大きくプラスになる。そうならない場合のほうが大きいが。


 都築一誠は夜風を感じつつ、学校を抜けて南側の住宅街へと移動していた。ところどころに明かりの点いた家がある。そこにも、自分と同じような殺し合いの参加者がいるのかもしれない。


 だが今誰かと接触する気はなかった。自らの考察と予想が大きく外れていたからだ。


 最初、この殺し合いはブラフだと思った。体育館での茶番、そして「殺し合い」と銘打つことで緊張感を高めているだけの、何らかの身体テストだと。だが違う。今この世界のどこを見回しても、こんなに発達した科学は恐らく無い。あの血と感触は本物だ。十河蒼空なる少年があそこで命を落としたのは紛れもない事実だ。


 「発達した科学」がない、と言ってしまえば、だったらこの特殊能力はどう証明するのだという話になる。だがそんなものは証明できない。「自分の理解を大きく上回った存在である」としか、今のところは言えないのだ。




No.18 都築一誠(つづき・いっせい) 22歳

【能力名】完全回避

【能力】 自身へ向けられた攻撃行動の全てを、肉体が自動で回避する。

【タイプ】パッシブ

【系列】 生存確約系(特殊型)



10


 まだ手に感触が残っている。

 少年の華奢な喉元に杭を打ち込んだ時の生暖かい感触。

 これは何度拭おうとしても拭えないものだ。


 少し前に、与那城朱美の身体に二度打ち込んだ時の感触もしっかりと覚えている。それもまた、新田豪生という男にとっては心躍る劇的な記憶だ。


 何故人体はこんなに脆いのに、何故人体はこんなにも容易く破壊されるのに。

 何故その行為は認められないのだろう。常々その悩みを抱えて生きてきた。

 「現代社会」というものに、必死に順応して生きてきた。


「アヒャ……」


 だがここでは違う。既に二人の人間を殺害した。なのに誰にも咎められやしない。感情論で何を言われようが、そこに法的束縛はない。実に素晴らしい。


「でも、まだ足りねぇなぁ……フヒヒ」


 新田豪生にとって、殺害とは第一目標ではかった。

 とにかく「拷問がしたい」のだ。


 殺害によって得られた来栖慎一郎の絶望は中々に悪くない見ものではあった。だからこそ向かってくる慎一郎よりも、倒れ込む蒼空の殺害を優先したのだから。


 だがやはり、自分にとっての悦びとは、誰かを一方的に責め立てることに他ならないのだ。もっと無力で無抵抗な獲物はいないものだろうか。



No.23 新田豪生(にった・ごうき)22歳

【能力名】拷問機会

【能力】 自身の身体を拷問器具もしくは拷問方法に準じたものへと変化させる。

【タイプ】アクティブ

【系列】 身体変化系



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