43 大外れ
1
自分は昔から、人並み以上に何でも出来た。小学校の勉強ならいつもクラスで一番だったし、運動に関してもそうだ。自分の周りに人が集まるのは自然なこと、自分はこれからも優秀な人間として生きていくのだと、そう思っていた。中学校に上がってからも、ある程度は何でも出来た。だが周囲との差は目に見えて縮まり、能力だけで人望を獲得出来る程ではなかった。高校生になれば、もはや自分はそこらの有象無象と変わりなかった。
原因は何となく分かっていた。努力せずともなんでも出来た自分には「出来ないことがあれば努力をする」という習慣が身につかなかったのだ。いつからか、必要最低限の事さえ出来ればいいと思うようになった。そんな自分は嫌いだった。未だに、優秀な過去が自分を捉えて離さない。
「何を思い出している、俺は」
何もない空間に言葉を投げる。もちろん誰からも返事はない。試合開始直後に廃墟で烏丸千星(からすま・ちほ)と名乗った青年と会話を交わして以降、誰とも出会っていない。
本当に殺し合いなんぞが起きているのだろうか。既にその疑問が浮かぶのは十二度目になる。だが考えた所で結果は出ないと、一度目に浮かんだ時から結論付けている。「疑ってかかるべきではある」と、無難な考察と共に。
「おい! お前!」
突如響く声。背後だ。
「何だ、何か用か」
振り返ってみると、無垢な瞳でこちらを見据える制服姿の少年が街灯に照らされていた。着ている制服はところどころが土埃に汚れており、顔や腕にも汚れが目立つ。だが不思議な事にそれらの跡はその少年によく似合う。乱れた青い髪が、微かに夜風に揺れていた。
「三十秒だ! 決闘しようぜっ!」
「は?」
少年は爛々と輝く眼をこちらに向ける。なんだ、こいつは。
「説明が足りない。つまりお前は、殺されても良いということか?」
「当たり前だろうが! ここは戦場だぜ、心躍る命のやりとりしなきゃもったいないってこれ!」
「ほう。心構えの有る奴も意外にいるのか。というかそんな奴ばかりか? だとしたらつくづく頭の痛い話だ」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く決めてくれ!」
「ああ、いいだろう」
「よっしゃ!」
言うが早いか少年はこちらへ向けて駆け出す。
2
「おれの新技の実験台になってもらうぜっ!」
不自然な空気の震えが場を包んだ。駆けてくる少年の速度は早い。尋常ではなく早い。それと同時に右足が眩く光っていた。まるでそこに電撃を纏っているかのように、激しく、青く。
「喰らえ!」
少年はおよそ目の前まで来ると、一足とびに自分を飛び越えた。恐るべき跳躍力。釣られて振り返った背後には、誰も居なかった。
「おせえな!」
背中から感じる声。飛び越えたと思ったのだが、実際はその場で大きく跳んだだけらしい。視界から消えるほどの垂直跳び、なんともデタラメな話だ。
電撃を纏ったかかと落としが、脳天めがけて振り下ろされる。
「はっ――!?」
少年の渾身のかかと落としは、地面に大きな亀裂を生んだ。と同時に少年は大きくその場から飛び退く。飛び退いて、今までの饒舌さが嘘のように、静かな目でこちらを見据えていた。……この目は自分がよくする目だ。つまり今、観察されているということ。
「不思議か?」
「……」
反応はない。明らかに警戒している。会話に意識を割くことの危険性を十分理解しているらしい。だが自分は、とある理由で好きなだけ会話が出来る。
「不思議か? 跳躍の一つすら見切れない男が、完全な奇襲を避けれた事が」
「……」
「だろうな。俺もこんな能力だと知っていたら、あの時あんな下手を打たずに済んだものを」
これはこの少年とは関係ない話だ。烏丸千星に主導権を握られた事は未だに根に持っている。
少年はこちらを見据えたまま、右手を前に突き出す。次の瞬間、そこからまばゆい光がほとばしった。空気の震え、紫電が自分の横を突き抜けていく。正確には、自分が居た場所だ。
その攻撃は、光速ではない。そこまでの速さを持ったものではない。だが到底人の目に捉えられるものでもない。それでも避けれる。何故なら、自分は――
「やめだなこれ」
「ほう」
「勝てない相手とは戦わない、戦闘の鉄則だぜこれ!」
「弁えているらしいな」
「ああ。まっ、味方がいればまた別なんだけどな! ちょっと期待出来ないし、それに時間がもうないんだよな」
「どういう意味だ?」
少年はその質問には答えず、親指で軽く背後を指す。
およそ人間とは言えぬ巨体が、一歩一歩こちらへ歩いてくるのが見えた。
3
「……なんだ、あれは」
「おれが聞きたいよ。ずっと追われてて、勝てないし。兵丹七葉(へいたみ・ななば)……だっけか、そいつの能力産物だってよ! 気をつけたほうがいいぜこれ」
「なんというか、不運だな」
「ほんとに」
三十秒と言ったのはそういう事だったのか。にしても、追われながら決闘を挑んでくるとは、戦闘中毒も甚だしい。だがこれで自分の能力の有用性は証明された。烏丸千星という透明人間が存在していた事から、能力自体の存在は疑ってなかったが。
「じゃあおれは行くぜ! あ、それとも邪魔する? あれと組めば二対一だぜ。まっ、それはそれで燃えるけどなこれ!」
「いいや、無駄な事はしない主義だ」
「おっと助かる! じゃあなっ」
少年は走り去っていった。相変わらず恐るべき速さだ。あれも能力だろうか。……いや、彼の能力は恐らく雷撃関連の何かだろう。とするとあれは素の身体能力。きっと相当な努力をしたんだろうな。
後からやってきた巨体は、自分を無視して少年を追っていった。
……自分に与えられた能力は、まさにあの時の自分の体現だった。この能力は、何の努力をせずとも生きていけるものだ。だが今の自分はあの時とは違う、あれから自分は努力を覚えた。大学院の試験に合格したことは、大きな励みになっている。自信と過信は違う。もう弁えている。
「……やってやろうじゃないか」
夜の風を小さく吸い込み、一つの決意と共に歩きだす。
視線の先には、およそこの場に不似合いな小学校が有った。
No.18 都築一誠(つづき・いっせい) 22歳
【能力名】完全回避
【能力】 自身へ向けられた攻撃行動の全てを、肉体が自動で回避する。
【タイプ】パッシブ
【系列】 生存確約系(特殊型)
4
「いけると思ったんだけどな」
青い髪の少年、雷岩陽仁(らいがん・あきと)は夜の住宅街を疾走しながら考える。戦力を見極める目は十分養ってきたつもりだ。戦雅高等学校の第一線戦士はそうでなくては生きてはいけない。
あの男からは何も感じなかった。逃げ出したくなるような強大な強さというものが全く見受けられなかった。事実、こちらはダメージは追っていない。だがいくら攻撃を仕掛けても無意味であることも察した。
「やっぱ能力だったってことか。あー、計算狂うなーこれ」
特殊能力の存在が邪魔だ。……いや、自分の能力も十分実用レベルであるから、今更消されても困るのだが。まあただの肉弾戦でも負ける気はしないけども。
「っていうか、あれを何とかしないとまともに戦いも出来ないっての……」
負けるきはしないと言ったが前言撤回。人間以外の生物が相手なら別だ。
未だにいつまでもどこまでも追ってくるゴーレムを見ながら、また距離を離すべく速度を上げた。
No.39 雷岩陽仁(らいがん・あきと)16歳
【能力名】サンダーテイカー
【能力】 雷撃を司る力を得る能力。
【タイプ】アクティブ
【系列】 銃撃系
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