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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
45/54

41 血の祝祭

1


 夜をこんなに怖いと思ったのはいつ以来だろう。


 足元に気を付けて歩かないといけないくらい暗い。窓から入ってくる月光が、辛うじて私達三人の進行方向を照らす。前を歩く二人は、私以上に元気がない。どこからどう見ても意気消沈している。


 きっと、未だ一人情報室に残る来栖慎一郎(くるす・しんいちろう)を思っての事だと思う。私はあの部屋の雰囲気が耐えられなかったので、この二人を誘って校内の見回りに出た。ついでに、とある部屋に用があった。小学校ならどこにでもあるはずの部屋。設備さえ整っているのならば、晩ごはんでも作ろうと思ったのだ。


 右前を歩く少女、天条千草(てんじょう・ちぐさ)の手には探知機が握られている。これは元々慎一郎の支給品だったもので、今は千草が持たされていた。中心に円が三つ、その近くに一つ。自分たちと慎一郎の距離から概算すると、この探知機の索敵範囲はこの学校全体にまで及ぶらしい、便利な代物だ。


 まあでも、あくまでもあちらサイドの支給品なので全面的に信用は出来ない。が、その心配は杞憂に終わった。無事誰にも出会うことなく、目的の部屋にたどり着いた。


「血の祝祭……」


 「家庭科室」と書かれたプレートを前にして、私の左前を歩いていた十河蒼空(そごう・そら)がポツリと呟く。何かを言ったのは聞こえたが、何と言ったのかは分からなかった。千草ちゃんが「あ……」と小さく反応する。


「あ、いや、なんでもない! いいから入ろうぜ!」


 千草ちゃんの反応を受けて、蒼空くんは明らかに誤魔化しにかかった。けど遅い。


「そういえば……家庭科室……だったね……」


 蒼空くんの努力もむなしく、千草ちゃんは言葉を続けた。


「げげ、千草サンも桜河だもんなー……そりゃ知ってるよなぁ」

「うん……有名だったし……」

「ってことは、やっぱりほんとなんだ! あのウワサ」

「うん、私の学年だよ……」

「ええっ!? そうなの!?」

「ちょっと、何の話ですか」


 目の前で次々と展開されていく会話。

 疎外感に耐えられず、私は思わず割り込んだ。


「ああ、悪い! 和穂サンは知らないかー。オレの先輩なんだよね、千草サンって。面識はなかったけど、オレの中学に通ってたっていうか」

「へえ」


 オレの中学ってなんだろう。言葉の綾だろうか、言い回しが気になったけど今は置いておこう。



2


「家庭科室で何か有ったんですか」

「そう! 二年くらい前? に殺人事件があって、夜な夜な殺された女の子の霊が出るってウワサが……で、それが桜河中学の七不思議、血の祝祭って呼ばれてるワケ。血の跡とかも残ってるし……ヒィーくわばらくわばら」

「えっ」


 中学校でそんな事件が有ったら大事件だ。だが私は知らない。ニュースは毎日見る方なのに。


「あの……違……そこまでじゃ……」


 千草ちゃんがおずおずと口を開いた。今度は蒼空くんが「えっ」と漏らす。


「私が中三の時かな……、調理の時間にね、女の子が一人刺されたの……同じクラスの人に」


 刺されたって、それはそれで大事件なのでは……。同級生を刺しただなんて、それでもニュースになりそうなものだけれど。


「それ、結構な問題になったんじゃ」

「ううん、学校側がね、事故で押し通したの……。幸いその刺された子も命に別状はなかったらしくて……それに」

「それに?」

「刺した子っていうのが、クラスでいじめられてたみたいで……私は別のクラスだったから、詳しくわかんないんだけど……」


 ああ、そういうことか。でも動機がなんであれ、そんな事件を学校側の一存で隠し通せるものなのか。


「あとこれが決め手らしいんだけど……刺された子がね。大事にしないでって頼んだらしくて……」

「ふーん、なんで?」


 蒼空くんが両手を頭の後ろにやって聞き返す。確かに、何故。


「分かんない……でもたぶん、刺した人のこと、庇ったんじゃないかなって……」


 千草ちゃんはこの事件に関してどこまで知っているのだろう。その学年では有名な事件になったのだろうか。でも二年下の蒼空くんが知らないってことは、本気の隠蔽工作が行われたんだろう。


 加害者を庇ったというその被害者の子は、いじめに加担していたわけじゃないんだろうか。イマイチ状況がよく分からないけど、千草ちゃんもこれ以上は知らないようだ。


「へえ、それであの部屋は使われなくなったのかー。広いのにあそこだけ立ち入り禁止だからさ、皆色々ウワサしてたんだよなー、尾ひれついてたってことかー」

「みたいだね……」


 こんな話を利くと、家庭科室の扉を開けるのが躊躇われる。勿論この部屋とは何の関係のない話だと分かっていても、何となく気が引けた。でも蒼空くんも千草ちゃんも同じ心境だったらしく、結局全くの無関係である私が開けることになったけれど。



3


「おー、広い」

「ですね」

「電気は……」

「点けてもいいんじゃないでしょうか」


 そうは言いつつ、千草ちゃんの持つ探知機をちら見した。今のところ画面上には自分達三人と、情報室にいる来栖慎一郎のものであろう四つ目の点しか表示されていない。……こんなもの信頼しないとはいっても、他に頼るものがないのだ。


「包丁とか調味料はありそうじゃんっ。で、肝心の食材は……」


 電気が点くやいなや、蒼空くんが冷蔵庫へと駆けていった。背中の黒い翼が少し浮いて、滑空しているように見える。

 ここは、自分の高校の調理室とそうは変わらない、違う点といえば、調理台やホワイトボードが低い事くらいか。そういえば、ここは小学校だったっけ。


「うおおおおおおお! 肉あるじゃん! 野菜……はナイナ、ザンネン」

「いや有りますよね」

「はい……」

「ふふふ」


 野菜嫌いって……中学三年生らしい。隣で千草ちゃんも笑っている。やはり二人を誘って正解だった。あの重苦しい部屋では、二人の精神はすり減るばかりだろう。……来栖慎一郎という男については、まあ心配していない。早めに立ち直ってくれればいいのだが。


「何か作りますか。天条さんって、包丁とか使えるのかな?」

「一応は……」

「じゃあ」

「……あの」

「うん?」


 横から制服の裾を引っ張られ、思わず天条千草の顔を見る。

 でも、彼女の目はこっちを見てなかった。


「下の名前で……呼んでもいい……?」

「ああ」


 なんだ、そんなことか。だがこの一言を言うのに、どれだけ勇気を振り絞ったのだろう。


「いいよ、千草ちゃん」

「ありがとう……、和穂ちゃん……!」

「うんうん、青春だなあ」

「うるさいですよ」

「手厳シー」


 ……蒼空くんには聞くまでもないだろう。恐らく料理なんてものとは無縁だ。

 私は制服の上着を脱いで、近くの棚からエプロンを取り出した。適当に開けた棚で、目的の物が一番に見つかった。幸運。何故かホコリやシワが全然ない。まるでちょっと前にアイロンをかけたように綺麗だ。せっかくなので使わせてもらおう。


 サイズを見繕って千草ちゃんに一枚渡してやる。


「ありがと……!」


 水道も出る。冷蔵庫も稼働している。ライフラインはどこからきているのだろう。だが今は、細かいことは気にしなくていいか。



4


 情報室で一人項垂れる来栖慎一郎にも、何か作って持っていってやらなくては。どうせなら蒼空くんに運搬役を任せようか。というか、皆であそこで食べた方がいいかもしれない。


 ああ、でも。そういえば情報室というものはすべからく飲食禁止だったような。

 ……まあ、緊急事態なのでしょうがないか。




 そんなことを考えながらも、和穂の胸には疑問が一つ。

 蒼空と千草が話した「血の祝祭」

 何故そんな凄惨な事件が「祝祭」と呼ばれているのだろうか。




 

No.15 十河蒼空(そごう・そら) 15歳

【能力名】天狗の翼

【能力】 飛翔能力のある翼を自分の体の一部として使役できる能力。

【タイプ】パッシブ

【系列】 身体変化系



No.19 天条千草(てんじょう・ちぐさ) 17歳

【能力名】自縄自縛の二律背反

【能力】 二重人格。睡眠をきっかけとして入れ替わり、片方が眠っている間もう片方の人格が身体を操作する。その人格は、対象者の普段の人格と真逆に形成される。ただし「???」

【タイプ】パッシブ

【系列】 規格外



No.20 遠江和穂(とおとうみ・かずほ) 17歳

【能力名】十人十色の専売特許

【能力】 対象の最も強い性質が頭上に見える能力。

【タイプ】パッシブ

【系列】 情報系



5


「ふ」


 思わず声が漏れる。


「ふは、かは、ふはっ……」


 情報室に一人残った来栖慎一郎は、残りの三人がいなくなっている事に気付いた。荷物はそのままなので、恐らく遠江和穂(とおとうみ・かずほ)辺りが気を利かせて、自分を一人にしてくれたのだろう。


 だが今、慎一郎の目は眼前のとあるものに釘付けになっている。


「坂本……神久夜……」


 これは、慎一郎が夕方に出会った一人の少女の名前だ。

 その名前を指でなぞる。慎一郎の目の前には、パソコンのモニターがあった。


「俺の脆弱ぶりもここまできたか」


 「退場者一覧」と書かれたページには今、十五の名前が並んでいる。与那城朱美(よなしろ・あけみ)と書かれた名前の下に、坂本神久夜(さかもと・かぐや)の名が有った。


 彼女と別れたのは時間にしてたった二時間ほど前の話だ。なのに、もうここに名前がある。


「なのに、なのに、ふ、ふははははは! 判断ミス? 結果論? それがなんだ、言い逃れの出来ない事実がここにある。俺は……弱い……!」


 あの時もっと、強くこちらに誘っていればこうはならなかったのだろうか。いや、そんな事はない。どの道俺の手では、誰一人すらも救えやしないのだろうな。


 そんな事は分かっていた。かつて目指した正義の味方は、自分程度が成り得られるような存在ではないと。幾千幾万の現実と、途方もない理不尽が濁流のように襲い掛かってくるのが世の常で、なのに他人までをも救おうと言うのがおこがましいのだと。


 笑いでもしなければ、やっていけるものか。

 

 使命感が少しずつ、心を締め付けていく。



No.8 来栖慎一郎(くるす・しんいちろう) 18歳

【能力名】零

【能力】 対象の心を沈静化させる能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 精神変化系



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