表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
38/54

35 続・魔法少女

1


 【エレメンタリスト】穂高凛(ほだか・りん)。

 彼女は今小さな遊園地にいた。


 繁華街を抜けて南下したところにある、いくつかのアトラクションを構えたこじんまりとした施設だ。そこへは、門を乗り越えるだけで簡単に侵入出来た。

 どうやらもう廃れているらしく、人の気配はない。水を打ったような静寂が辺りを包んでいる。


 その施設の事務所で、彼女は小さなパソコンを前にしていた。

 画面には、退場者一覧が表示されている。


「……そっか。桜、死んじゃったんだ」


 画面に表示されている14の名前の中に有った、同じクラスの友人中御門桜(なかみかど・さくら)の名前を見て小さく声を漏らす。


 それが本人かは分からない。もしかしたら別人かもしれないという希望を抱く反面、こんな珍しい名字は中御門財閥の令嬢たる彼女しかいないんだろうなと、どこか遠い出来事のように思っていた。


 凛はパソコンを閉じ、椅子にもたれながら小さく伸びをした。画面が小さかったせいか目が痛い。目頭を押さえつつも、次なる行動に移る。



2


「はー……やっぱりこれ、覚えなきゃ駄目よね」


 凛の能力概要紙に書いてあったのは、能力名を除けばたったの二文だ。


 四大元素を基礎とした魔法を展開可能。

 詠唱を正しく唱えた場合のみ発動する。


 ……この二行目の部分が曲者だった。先程繁華街で拷問身体の変態男に襲われた時はどうにか一つ詠唱出来たが、今後のためにも他にも覚えておく必要がある。


「えーと……紅蓮の精霊の……あーもうっ! 恥ずかしいわねホント!」


 氷結の要塞の女神。紅蓮の精霊。純白の息吹。

 口にするのも恥ずかしい単語が次から次へと出てくる。それを全て記憶しなければと思うと頭が痛い。


 凛がそれらに夢中になっていると、事務所の奥から声が聞こえた。


「何やら、面白そうな事をしていますね」

「誰っ!?」


 おかしい。ここには入り口は一つしかないというのに、凛よりも奥から人が出てきた。てっきり誰も居ないと思って、少し無警戒になってしまっていた。


「お邪魔でしたか? ですが呟く言葉が気になってしまって、つい」


 胡散臭い微笑を浮かべるその男は、グレーのスーツに身を包んでこちらを見据えていた。


「な、聞いてたの!? 今すぐ忘れなさいよっ! べ、別にこれは能力の確認なんだから、好きでやってるわけじゃ……!」

「ハハハ、そうでなければどうしようかと。となると、貴方も被害者って訳ですか。これの」


 そう言うと男は片手で彼のリュックを持ち上げ、小さくウィンクをした。

 その行為に戸惑っていると、男は手にした緑色のリュックを凛へと放り投げてきた。



3


「ちょっ! 危ないわね!」


 唐突に投げられたそのリュックを受け止めると、凛は男を睨む。

 つい先程繁華街で一方的に追いかけられたばかりだ。今度はそうは行かないと、戦闘態勢に入るべく立ち上がる。

 覚えたての詠唱文を頭のなかで反芻し、いつでも口に出せる準備をした。


「ハハ、すみません。ですがそのパソコンをご覧になったのであれば、そのリュックを手放す事は敵意の排除になるかなと思いまして」

「……え? ま、まあそうね……」


 凛はパソコンで見た情報を思い出す。リュックの色が能力に対応していると書いてあった。

 だがどの色がどの能力系列なのかまでは記されていなかった。凛が今まで出会った人間は二人、その二人だけの情報から対応色を割り出すのは無理だ。


「私はここで人に出会うのが初めてでしてね。初めはこの小さな遊園地内を練り歩いていたのですが誰にも出会えず、事務所の奥で休憩していたところでした。そこへ貴方がいらっしゃったのでしばらく様子を見させてもらいましたが、どうやら戦意はなさそうだ。どうです? 情報の共有でも」


 男はいつまで経っても攻撃を仕掛けてくる素振りはない。

 流暢に喋るこの男を、凛は少しずつ信じ始めていた。

 この男は、私がこの事務所に入るより以前からここにいたということだろうか。てっきり誰もいないと思って無防備でいた事を考えると、自分が襲われなかったのは運が良い。敵性人物でないことは、今の凛にとっては僥倖だ。

 何故なら、桜の死が意外に大きく凛の心を抉っている。


「まあ、アリね。って言っても、私は大した情報なんて持ってないわよ?」

「ご心配には及びませんとも。既に最も知りたかった情報は得れましたので。貴方はパソコンの情報をご理解されているようだ、つまりそれは、貴方も体育館からここへ飛ばされたということでよろしいですよね?」


 ああ――。


 凛は今納得した。

 この男は未だ半信半疑だったのだ。


 凛にとっての初見の人間は、問答無用で殺そうとしてきた拷問男。だから考える暇もなく納得できた。……ここが殺し合いの会場だと。

 だがこの男にとっての初見は自分。

 だから今、彼に納得させてしまった。


「でしたら、心置きなく殺し合えると言うわけだ」


 言うが早いか、その男は凛へと距離を詰める。

 詠唱は、間に合わない。



4


 トン、と。痛みすら感じないほどの軽い手刀を頭に食らう。

 だがここは特殊能力の蔓延する殺し合いの場だ。

 それすらも絶望的な一撃になりうると、凛は理解していた。


「っ……!!」


 椅子から飛び退いて男から距離をとったが、もう遅い。恐怖が頭に充満していく。


 今の一撃で、徐々に頭が割れていくかもしれない。

 攻撃された部分から、生命を吸い取る木が生えてくるのかもしれない。

 もしかしたら、相手に触れるだけでその身を操れるような能力かも――。


「ハハハ、なんて、冗談ですよ」


 だが、凛の恐怖とは裏腹に男は笑い出した。


「冗談……? あんた、私に一体何したの!? ていうかあんたは何なのよ!」

「おっと、これは申し遅れました。私は室島斬也(むろしま・きりや)。頂いた能力は【マジックキャンセラー】、その名の通り攻撃するものでは有りませんので、ご安心を」

「っ……! そんなの信用すると思ってんのっ!?」

「でしたら、そちらの荷を改めていただいても構いませんよ」


 凛は急いで先程投げ渡された男の荷物を確認した。

 概要紙を取り出す間にも何かしてくるのではと考えたが、どうやらそのつもりはないようだ。男は微笑を浮かべたまま、慌てる凛を眺めている。


「あったっ!」


 内ポケットから小さな紙を取り出す。そこに書かれていた文字は、確かに男の発言と一致していた。

 【マジックキャンセラー】自分とその周囲を対象としたアクティブスキルを無効化する能力。アクティブスキル。


「ふーん……、本当みたいね」

「ですとも」


 だが凛は許せない。頭を叩かれた事と、それに危害が伴わないというのは話が別だ。

 そうだ、どうせ無効化されるのならば、この男には実験台になってもらおう。


「じゃあちょっとそこに立っててよねっ、いくわよっ! ……ぐ、紅蓮の神殿の精霊達よ! その身に宿りし灼熱でかの軍勢を焼き払いたまえっ! あー、やっぱ恥ずいわっ!」


 詠唱するだけで顔が熱くなる。

 ああ、自分にこの能力を与えたあの女を呪ってやりたい。


 凛が唱え終わると同時に、小さな火球が前方三方向へと進み出した。

 そのスピードは著しく遅い。だがその内の一つが室島斬也に、そして他の二つが後ろの壁に当たった瞬間、弾けたように燃え上がった。



5


「ほう……」


 炎の中から斬也の感嘆の声が聞こえる。


「え、って、ちょ、ちょっと!?」


 燃え盛る炎は消える気配を見せない。凛は次第に不安になり始めた。

 おかしい、もしこのまま火が消えなければ……。


「ああ、私は大丈夫です、ですが……」


 凛の心配を見抜いたかのように、斬也は炎の中から姿を現した。

 着こなされたであろうグレーのスーツには煤一つ付いていない。


「もー! 人殺しになるかと思ってびっくりしちゃったじゃない! 早くこれ消してよねっ!」

「……いや、今初めて分かりましたが、私の能力は自己への無効化であって、攻撃の無力化という訳ではないみたいですね。……ですので」

「え?」

「この火は消せません」

「ちょっ、嘘でしょ?」


 事務所内に置いてある何のためのものか分からない書類や物品に次々と火が燃え移っていく。二人は慌てて事務所から飛び出した。


「うそっ!? うそうそ!? これじゃ人殺しじゃなくて放火魔じゃない!」

「逮捕待ったなしですね。通報は任せて下さい」

「呑気な事言ってる場合じゃないでしょ! あーもー!」


 凛は自分のリュックから古ぼけた本を取り出すと、急いでページをめくっていく。


「水……水……これねっ! あーコホン。し、深淵なる海洋の守護者よ、その四肢の一端を我に貸し与えたまえっ!!」


 唱えると同時に、凛が右手で空を殴る。一瞬の間を置いて、大量の水が二人の背後から襲いかかった。それは、開けっ放しの扉や窓から事務所内へと侵入し、全てを焼き払うべく燃え広がっていた炎を鎮火していった。



6


「凄いですね。まるで魔法使いではありませんか。……私もそのような能力が良かったと少し思ってしまいました。羨ましい限りです」


 またもや斬也が感嘆な声を上げる。その声色には僅かに羨望の色も混ざっていた。


「これはこれで大変なのよ……」


 背後から濁流のように現れた水をもろに受け、凛は着ていた制服ごと水浸しになってしまった。能力の命である魔道書はとっさに抱え込んだので被害は大きくないが、それでもところどころが滲んでいる。


「これではパソコンもお釈迦でしょうね……私は既に確認していましたが、今後の情報も更新されていくと考えると、少々惜しいものを無くしました」


 斬也が残念そうに呟く。

 凛にとっては遠回しな嫌味にしか聞こえなかった。


「うっさいわね! 私のせいって言いたいんならそう言えばいいじゃない! 元はと言えばあんたが変なことしなきゃ……」


 と、そこで違和感に気付いた。

 凛は服が透ける程びしょ濡れだというのに、隣の斬也は全くと言っていいほど濡れていない。


「……あんた、なんで濡れてないのよ」

「ハハハ、そりゃ、なんたって【マジックキャンセラー】ですので」

「……」


 涼しげに言い放つ隣の男に、一瞬ではあるが殺意を覚えた。



No.30 穂高凛(ほだか・りん)18歳

【能力名】エレメンタリスト

【能力】 四大元素を基礎とした魔法を展開可能。詠唱を正しく唱えた場合のみ発動する。

【タイプ】アクティブ

【系列】 物質操作系


No.34 室島斬也(むろしま・きりや)23歳

【能力名】マジックキャンセラー

【能力】 自分とその周囲を対象としたアクティブスキルを無効化する能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 能力操作系



残り28/42

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ