33 闇の素通り
1
日が少し傾き始めていた。
住宅街の道路にて座り込み、次なる闘いを待つ獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)は、西から伸びる影でその人物の接近に気付いた。一瞬、そちらへと目をやったが逆光で人影しか見えない。だが目を凝らすこともせず、すぐにまた瞑目した。
興味が沸かなかったからだ。
影が見えるまで気付かなかった余りの気配の薄さはどんなものか気にはなったが、遠目に見える人影には敵意の様なものは感じなかった。それに、向こうも特にこちらには興味がなさそうだった。その証拠に、足音のペースは寸分狂わず近づいている。
意外にもその人物は慎之介の前で立ち止まった。
停止した足音がそれを告げる。だが未だに興味の沸かない慎之介は、目を開けることもなくその人物が立ち去るのを待つ。
「戦意無き者に用など無いぞ」
慎之介は闘いを望んでいる。坂本神久夜(さかもと・かぐや)のパートナーという立ち位置を捨てた今、自らを縛るものは何もない。戦闘と言ってもそれは相手の了承あってのものだ。故に今、目の前の人物の敵意の無さは慎之介の求めるものとはかけ離れている。
その人物は危害を加える気がなかったのか、足音が遠ざかっていく。慎之介は、味気なさそうに片目を開けてその背を確認した。白い制服、黒いリュックサック、ゆらゆらと歩くその影は、やはり慎之介の興味を引くものではなかった。
「まるで生きた屍だな」
吐き捨てる様にそう言うと、慎之介はまた瞑目し次の闘いを待つ。
No.12 獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)20歳
【能力名】剛腕
【能力】 素手による突きの威力が強化される。
【タイプ】パッシブ
【系列】 身体変化系
2
「ああいうパターンもあるんだ」
と、今しがた通り過ぎた巨漢を思い浮かべてソレは言う。
言ったは良いが、その発言は誰の耳にも入らない。勿論本人にすらも。
彼こそが、十河蒼空(そごう・そら)が追い求め、来栖慎一郎(くるす・しんいちろう)の討伐対象に任命された少年、連秀次(れん・しゅうじ)だった。
商店街で結城陸海(ゆうき・りくみ)を溶かした後は一度公園に寄り、その後住宅街を大回りしていた為に先程の騒動には出くわさなかったのだ。
先程の巨漢の男性は、目を開けたなら溶かしてみようと思ったがうまく行かなかった。何か一言二言声を発していた気がするが、どうにも読み取れない。読唇術など、やはり数時間やそこらで出来るものではない。
なぜ彼は目を瞑ったままだったのだろうか。もしかしたら自分と同じく、五感系のデメリットの存在する能力だったのかもしれない。だとしたらまだ自分は幸運だ。視覚よりも聴覚の方がまだどうとでもなるから。
秀次は一度立ち止まって辺りを見渡す。住宅街だというのに人が居ない。日も傾いてきているというのに。やはりここは、そういう場所なのだろうか。
それ以上は、考えるのを辞めた。
好奇心が満たされない。心が、乾いていく。
No.40 連秀次(れん・しゅうじ)17歳
【能力名】メデュー酸
【能力】 目が合った瞬間に発動することで、その対象の全身を痛みなく溶解させる能力。ただし「一度でも発動すれば聴覚を失う」
【タイプ】アクティブ
【系列】 規格外
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