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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
26/54

24 魔法少女

1


「ちょっともー! 何なのよー!」


 森林地帯を背後に抱える繁華街で、一人の少女が疾走する。


「聞いてない聞いてない聞いてなああああああい!!」


 追われていた。つい先程目が合っただけなのに、男が追ってくる。もはや一種の恐怖体験だ。


「あーもう! ムカつくムカつくムカつく!」


 少女の名前は穂高凛(ほだか・りん)、能力名【エレメンタリスト】

 能力概要紙には、四大元素を基礎とした魔法を展開可能……と記されていた。


「アヒャヒャ! いいじゃねえかよお、お嬢ちゃんさぁ!」


 追ってくる奇抜な髪型の男は、手にモーニングスターを持っている。漫画とかでよく見る、鎖の先にトゲトゲの鉄球がついたアレだ。それをぐるぐる振り回して、徐々に距離を詰めてきていた。


「もうっ! いい加減にしてよね! どうなっても知らないんだからっ!」


 凛は足を止める。振り返って右手を前に出すと、目を閉じてとある文章を口にした。


「氷結の要塞の女神よ! 凍てつく吐息で我を守りたもう! ……アイスシールドっっ! ……あーもう恥ずかし!」


 詠唱の果てに、その場に巨大な氷が盾状に展開される。二車線道路を横断するように埋め尽くすそれは、男の追跡を止めた。しきりにモーニングスターで氷壁を殴っている。少しずつひび割れが入る。


「うっわ! やばいやばい」


 凛は慌ててその場から立ち去るべく、森のほうへと走っていった。



2


「はあ……はあ……。これだけ詠唱覚えてて良かったわ。あの変態キモ男、次あったらただじゃおかないんだからね!」


 繁華街を抜けて、森の入口へと立つ。「この先森凰神社」と書かれた薄汚れた看板がある。昼間だというのに不気味な森の入口は、脚を前へ進めるのを躊躇わせた。かと言って、戻って先程の男に出くわすのも論外だ。どうしたものかと思案していると、森から誰かが出てきた。


「お、人じゃん。シカトシカトっと」


 紅色の髪、露出の高いオレンジ色のタンクトップ、そして見た目に似合わぬ白いリュックサックを背負ったその女は、凛の姿を気に留める風もなく横を通り過ぎようとした。


「って! ちょっと待って!」

「あ? 何だよ。言っとくけど戦う気なんかないよアタシは」

「それは私も一緒! でも、あっちには行かない方がいいわよ! 変態キモ男がいるんだからっ!」

「何だよそれ、まあアタシは大丈夫だから、心配ありがと」

「いやほんとに! 危ないってば!」


 なんだこの女は。見た目からして奇抜そのものだが、行動すらも常軌を逸している。人がせっかく警告してあげてるのに。


「じゃあお礼ついでにアタシからも一つ教えてあげる。そっちの神社にもやばい奴いるから、行かない方がいいよ」

「そ、そうなの!? ありがと、でもほんとそっちは駄目だって!」

「大丈夫って言ってるだろ? アンタがアタシの仲間にでもならない限り大丈夫」

「なによそれ!」


 女はひらひらと手を振って歩いて行ってしまった。見たところ武器も防具もなさそうなのに、何かものすごい能力でも持っているのだろうか。


「あーもう! 他人の心配なんてしてられないわ!」


 凛は道を変えて、海岸方面にある遊園地へと歩を進めた。



No.30 穂高凛(ほだか・りん)18歳

【能力名】エレメンタリスト

【能力】 四大元素を基礎とした魔法を展開可能。詠唱を正しく唱えた場合のみ発動する。

【タイプ】アクティブ

【系列】 物質操作系



3


「畜生、カワイイ子だったってのによぉ……」


 少しずつひびが入っているものの、氷壁は中々壊れる気配を見せない。このまま殴り続ければいつかは達成できそうだが、自分の腕が持たなそうだ。他に方法が無いことも無いが、大人しく周りの店内か別の道から回りこんだ方が良い。


 新田豪生(にった・ごうき)は目の前の氷壁を殴るのをやめた。


「人……アヒャ」


 どうやらこの場所では、人を殺してもいいらしい。殺すどころか、何をしても良さそうだ。ここが異質な場所だということは、自らの身体が示してくれる。


 能力名【拷問機会】。マシーンの方ではない、チャンスの方。今の自分におあつらえ向きじゃないか。こんな機会、普通に生きていたらまず訪れない。どう考えても、社会倫理や法的審判とかいった者に邪魔される。だが。


「ケ、ケケ、ヒヒヒヒ」


 駄目だ、体の芯から溢れ出る劣情が破顔を抑えきれない。破顔どころか、身体の前面が開いて内部に並ぶ棘が顕になった。西暦中世に存在したと言われる拷問器具、アイアンメイデンの様を、自らの身体で体現している。


「うーわ、凄い氷。ところで変態キモ男って、アンタ? ってキモッ、何その体」

「あん?」


 と、そこへ現れたのは一人の女。髪は紅、やたら露出の高いオレンジのタンクトップに白いハーフパンツ。そして白いリュックサック。片手を腰に当てて、氷壁の向こうからこちらを見ていた。


「なんだぁ……お前はぁ……そんな格好して、こっちに来いよ! フヒ、フヒヒ」

「行ってやるよ、アンタがこれ壊してくれたらね」

「お? そういう感じ? んなら本気だすっきゃねぇなぁ、アヒャヒャヒャ!」


 恐らく大きく消耗すると思って、先程は使わなかった。だが今、目の前の女性を見て勢いを抑えられない。両手を合わせて、とある拷問器具を思い浮かべる。



4


「おー、すごいねアンタ」

「ヒヒ……」


 ファラリスの雄牛。牛状の容器に閉じ込めた人間を、火で炙って殺す。

 西暦よりも以前の器具らしい。豪生の全身から火が吹き出す。本来は自身の中に閉じ込めて、外側からの熱で焼き殺すものなのだろうが、器具を再現するあまり実用性が犠牲になっているのだろう、ただの全身ガスバーナーでしかない。


 だが今ここに至ってはこれ以上うってつけのものはなかった。氷壁が溶け始め、女への道が開く。もう、拷問意欲が抑えられない。


「アヒャ、約束通り好きにさせてもらうぜぇ!」

「そんな約束した覚えないけど、出来るもんならやってみなよ」

「グケケケケケ!」


 串刺し。右手を杭に変化させる。

 ハーフパンツから除く健康的な右足に、杭を打ち込もうとした。だが手が動かない。


「あの子の言ってた事は正しかったんだな。どうした? それは飾りかい?」

「アヒャ?」


 石打ち。左手に発生させた石を、顔面に投げようとする。だが、同じく手が動かない。


「まあせいぜい頑張れよ。今回は残念でした」

「あん?」


 女が舌を出して涼し気な顔で歩いてくる。その舌に針を刺そうとした。


「いい加減気付きなって」


 小首をかしげて呑気な顔で近づいてくる。その首に縄をかけようとした。


 だが何一つ成し得ない。直前で手が止まってしまう。


「誰か来たらあぶねーからさ。アタシもそろそろ行くわ」


 ついに女は通りすぎた。手をひらひらと振って、振り返らずに歩いて行く。


「なんなんだよぉ! お前は! 俺のこの欲望はどうしてくれんだぁ!!?」

「知らないよ、そんなの」


 アイアンメイデンを顕現させて、後ろから女に抱きつく形で閉じ込めようとする。だが、閉まらない。開ききった自身の身体は、縄で縛られたように硬直する。


「しつこいねえ、そら!」

「ギエッ」


 振り向きざまの女の蹴りを、諸に睾丸へと食らってしまった。生半可な拷問よりも痛いのではないかと思えるほどにクリーンヒットした。


「お、お前ぇ……!」

「しつこい男は嫌いだっての、じゃあね」

「ぐぅう……」


 去っていく女の背中を、豪生は恨めしげに見つめる。だが痛みに耐え切れず顔を地面へと付けた。



5


「アァアアア……」


 次に顔を上げた時には女の姿はなかった。特徴的な色の髪に目立つ服、もう忘れもしない。次に見つけたらなぶり殺して後悔させてやる。豪生の頭の中にはもう、穂高凛の事など存在していなかった。自分の劣情を煽っておいて、そこからどん底へ叩き落とした女への執着のみがはびこっている。


「アヒャ……アヒャヒャ」


 どうやって殺そうか。否、殺すなどでは生ぬるい。出来ることなら永遠に、延々といたぶり続けたい。あの余裕の表情を引き剥がして、あの呑気な唇から許して下さいと懇願させる。そして一度解放するフリをしよう。安堵と感謝を底上げしてから、どん底へ叩き落としてやろう。


「イヒ……楽しみだなぁ」


 豪生はゆらりと立ち上がって、女の去っていった方向へと歩いて行った。



NO.23 新田豪生(にった・ごうき)22歳

【能力名】拷問機会

【能力】 自身の身体を拷問器具もしくは拷問方法に準じたものへと変化させる。

【タイプ】アクティブ

【系列】 身体変化系



6


「あぶねー奴ばっかじゃねーか。怖い怖い」


 与那城朱美(よなしろ・あけみ)は歩きながら一人呟く。先程の拷問男、どう考えても頭がおかしい。その前に森の出口で出会った活発そうな女の子は幾分かマシだったが。

 しかしそれ以前に神社で出会った色素の薄い髪中性的な顔の男、あいつはもっとヤバイ。拷問男の方はまだ、ある程度人間味があった。確かに頭のネジが飛んでそうだったが、自分の挑発に対しては予想通りの反応を返してくれた。だが神社で出会った男は、無表情に無感情に無味無臭に他人を殺すような奴だ。


「面白いヤツだったのにな」


 その中性的な男に殺された少年を思い返す。朱美がこの会場で初めて出会ったのがその少年だった。足が早くなる能力だとかで、神社の境内を走り回っていた。殺し合いの会場だというのに、随分と呑気で可愛い奴だった。名前も聞いていない。自己紹介する暇もなく死んで、いや殺されてしまった。


 今のところ、朱美が出会った人間は五分五分だ。殺し合いに乗ってそうなのと乗ってなさそうなのと半々。実際、自分の能力なら上手くやれば人殺しは可能だ。むしろ最強クラスと言っても差し支え無いはずだ。それでも朱美が殺し合いに乗らないのは、この会場の人間分布がまだ不明だからという理由だけ。


 誰も彼もが殺し合いに乗るような外道なら、朱美はとっくに乗っている。だが神社で出会った快足少年と、先程出会った少女。まだ恐らくこの会場には良心がある。殺し合いなんて異質な状況をおかしいと理解出来ている人間たちがいる。


「まだ、乗れねーよな」


 だが、だからと言って仲間を集めるのは却下だ。

 その場合、よっぽど上手く立ち回らなければ死んでしまう。


「難しいところだねえ」


 朱美は自分の能力の書かれた紙を見ながら、繁華街から住宅街へと脚を踏み入れた。



No.38 与那城朱美(よなしろ・あけみ)21歳

【能力名】唯我独尊の極み

【能力】 一対一の戦闘において、生存が確約される能力。

【タイプ】パッシブ

【系列】 生存確約系



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