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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
24/54

22 秘匿事項

1


 暑い。木々の間から燦々と降り注ぐ日差しが体力を奪っていく。流れる汗を貰い物のウェットペーパーで拭きつつ、うちわで自らを仰ぐ。沈黙を紛らわすためか熱気を忘れるためか、おそらくはそのどちらも踏まえて前を歩く少女へと声を投げた。


「あいつのリュックの色も聞いておけばよかったかな」

「あいつって?」


 前を歩く少女、高坂星華(こうさか・せいか)はくるんっと振り返って答えた。


「ほら、高坂さん襲ってきたやつ」

「ああ、あの下等生物」

「……うん。まあ、パソコンの情報を得たのが先なら聞いたんだけどさ」

「あー、順番がねー」


 それだけ言って、星華はまた前を向いて歩き出す。意識しているのかしていないのかは分からないが、その背中はひどく無防備だ。それは自分への信頼からくるものなのか、それとも彼女の自信からくるものなのか分からない。


 先程の小屋での彼女の戦闘を見た限りでは、恐らく星華は自分よりも強い。女子高生にしては圧倒的な戦闘技術と身のこなし、もしかしたら能力とやらが関わっている可能性も考えられる。


「あっ、見えてきた」

「……やっとか」


 視線の先に木々の途切れが見える。その先の少し開けた場所には、日光を反射する大きな水面が映った。地図に書かれていた湖で間違いないだろう。小屋をでてから結構な距離を歩いた気がするが、あくまでも体感なのでなんとも言えない。疲労によるプラス補正もありそうだ。


「秀都くんバテバテじゃん。ダッサ、ほんとに年上?」

「うるさいな」


 けたけたと笑う星華を横目に、リュックからペットボトルを取り出して水を飲む。軽く息を整えてようやく、逢坂秀都(あいさか・しゅうと)は自分の体の異変に気付いた。


「え、秀都くんなんか手光ってない?」


 星華の驚いた声。



2


「え、なんだこれ」

「え、知らない」

「え」


 秀都の右手は、ぼんやりと白く光っていた。まるで周辺から光の粒が集まってきているように、幻想的な風景を映し出す。手を振っても光は付いてくるし、拳を握っても開いても形状は変わらない。白い粒子が纏わり付くように秀都の手を包んでいた。


「なんか……きもいね」

「きもいって言わないで」

「あっ、もしかしたら能力? ってやつなのかも……ふ」


 苦笑いを呈す星華。彼女なりの気遣いのつもりだろうか、逆に心が傷つく。

 手を包んでいくその光は、湖に近づくに連れて濃くなってきている。あまりの異様さに見とれていた二人は、湖のほとりに転がる死体に気付くのが遅れた。


「な――」


 どちらが発した声かは分からない。そんなことがどうでも良くなるほど、悲惨な死体が湖のほとりに転がっていた。


 全身に穴を開け、それら全てから血液が垂れ流される少女の遺体。近くには白いリュックサックも転がっている。傷口から察するに刺傷だろうか、能力如何は関係なくまるでナイフか何かで殺害されたような印象を受ける。


3


「ひっどい……」

「これは、想像以上だな……」


 星華がしゃがみ込んで、少女の見開いた目をそっと閉じてあげていた。あの時殺し合いを肯定していたとは思えないほど、星華の顔は雲っている。何となく、彼女の本質が分かってきた気がした。……だが、今考えるべきはそれではない。


 恐らく、この少女が殺されてからそう時間は経っていない。犯人は――。


「ここ、危ないな。移動しようか」

「でもこの人どうするの? 可哀想じゃ……」

「そう、だな。でもさ、これ以上俺らに出来ることなんてないよ」

「でも――」


 未だ何かを訴えかけようとする星華の目が、ぐっと秀都を見つめてくる。表情とは裏腹に曇りのないその目は一切の打算や表裏を混じえていない。なので秀都は、感情を言葉ではなく視線に乗せて見つめ返して、それからゆっくりと目を閉じて首を振った。


 ――右手の光は、最大限にまで濃く激しくなっていた。


「……分かった」


 星華が渋々と言った風に同意する。一段落してようやく、光の出処に気づいた。微かではあるが、このモノ言わぬ少女の遺体から溢れ出てきているように見える。


「……ごめん、ちょっと待って」

「なに?」


 秀都はその遺体の額に、そっと手を乗せる。


「百花繚乱……」


 頭に流れ込んでくるその単語を、気付かぬ内に口に出していた。



4


「ひゃっか……なに?」

「これは……」


 秀都の脳内に流れ込んでくる単語と文章。


「十人以上の人間と行動を共にしている間、生存が確約される能力……。なるほど、そういうことか」

「なに、なんなの?」


 隣で不思議、かつ若干不機嫌そうな顔をしている星華の声で、彼女の存在を思い出す。


「あ、ごめんごめん」


 苦笑いで誤魔化しながら、秀都は自分の考えを巡らせていた。今の単語と文章が恐らくこの遺体の子の能力で、自分にはそれを読み取る力があった。……いやむしろ、額に手を置いた時に全身へと流れこんできた違和感。そこから察するに、能力を吸い取ったという表現のほうが正しいのかもしれない。「能力」そのものがどういったシステムのものなのか分からないが、その証拠につい先刻まであれ程濃く光っていた右手は元通りになっている。可能性は、なくもない。


「なんなの、ぼーっとしちゃって」


 星華が顔を覗き込んでくる。その明るい茶色の前髪のかかった額に、思わず手を出しそうになる。だが、それが意味のないことだと何となく分かっていた。何故なら、自分の手はもう光っていないのだ。


「……生きてる人には無効、ってとこかな」

「何が」

「なんでもないよ」

「……」


 明らかに不満そうな顔をしている。それもそうだろう、立ち去ろうと進言した直後に遺体の額に手をやって、それから無言。客観的に自分を見れば、どう考えても頭がおかしい。なんと弁解しようか。


「俺の能力、分かったかも」

「えっ。ほんとに?」

「うん、多分だけど……」

「なになに」


 まあ、正直に話すのが一番だろうな。


「その前に、移動しよう」

「そうだね」

 

 二人はモノ言わぬ少女の遺体に手を合わせ、申し訳ないが荷物を拝借して移動を再開する。その道中で、秀都は自分の考えを述べた。



5


「……って感じかな」

「へー、すごいじゃん。よく分かったね」

「まあ、まだ想像の段階だけど。俺に能力が備わったのか、読み取っただけなのかまだ分からないし、確かめようにもリスクと条件が厳しすぎて出来ないな」

「それもそっか」


 完全ではないが、星華は納得してくれたようだ。秀都はコンパスを片手に前を歩く星華の背中を見つめる。完全に拭き取り切れていない血飛沫の汚れが、左肩に微かに付着している。白い制服だからか、それはよく目立つ。


「現実、か」


 体育館での出来事と、今この場での状況がリンクしているのはその血が示している。小屋で星華が缶ジュースを見つけた時に、自分が言った時間経過の概念の考え。あの体育館での顛末直後の「飛ばし」とやらから目を覚ますまでどれ程の時間が経っているか分からないとは言ったが、汚れの具合から察するにそこまで時間は経っていなかったのだろう。


「……現実でしょ」


 前を歩く星華が、振り返らずにボソリと返す。聞かれていたらしい。

 体育館での出来事と今が繋がっている。自分の手が、異質な光を纏って遺体の能力を判別した。そして、自分以外の人間と状況を共有している。その三つの事実が、雁字搦めの如く秀都を縛り付けた。即ちこれが現実だと。


 能力とやらが分からなかったから現実味が無かった。二度も目覚めを繰り返したからどこか夢見心地だった。自分以外の人間……前を歩く高坂星華が、余りにもエネルギッシュだったから、非日常だという認識が小さくなっていた。


「甘かった、ってことかな」


 真に状況認識が甘かったのは、やはり秀都の方だったのかもしれない。

 少女の遺体という殺し合いの状況証拠を見て、白く光った自分の能力とやらを鑑みて、そう思った。


「……ううん。秀都くんはいいんだよ、それで」

「それは、どういう意味になるのかな」

「秘密」


 星華が言葉を続けなかったので、足音だけが響いた。



No.1 逢坂秀都(あいさか・しゅうと)21歳

【能力名】災厄回収

【能力】 退場者の身体に触れる事で、その者の能力を自身に宿すことが出来る能力。

【タイプ】アクティブ

【系列】 規格外


No.10 高坂星華(こうさか・せいか)17歳

【能力名】戦場のヴァルキュリア

【能力】 身体能力が著しく上昇する能力。ただし「???」

【タイプ】パッシブ

【系列】 身体変化系

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