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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
19/54

18 飛行少年

1



 幼い頃からの夢。偶然点灯していたテレビで見たそれは、何かの映画のワンシーンだったと思う。人間にこんな事が出来るのか、と感動した。


 周りの大人達は冷めた目で見ていた。だが幼かったオレは、その光景に心を奪われた。今思えば、あの周りの冷めた視線は、現実を知っていたからこそのものだったんだろう。かくいうオレも、この歳になれば可能と不可能の境界線くらい分かっている。だからもう諦めていた。


 でも――。


「オレ、飛んでる……」


 十河蒼空(そごう・そら)は海の上を飛んでいた。跳躍ではない、正真正銘の飛翔。


「これが能力ってヤツなのか……? 凄いじゃないかっ!!」


 思わず空中で声が出てしまう。何故なら今自分は、誰もが一度は夢見るはずの現象を顕現させている。背中に生えている漆黒の翼も、ビジュアル的に悪くない。海面から反射する光が心を躍らせる。


「ははっ……凄い……凄いぞこれはっ! きっとオレが初めてだ、これは人類初の偉業だっ!」


 体育館での出来事の後、オレは砂の感覚と背中の違和感で目が覚めた。どうやら砂浜の上に寝かされていたらしく、口の中の砂を即刻吐き捨てた。


 背負わされていた青いリュックの内ポケットにあった紙によれば、自分は空を飛べるらしい。まさかそんな。勿論そんな突飛な話は信じなかったが、違和感を感じる背中に目をやるとそこにはあった。人の身には決して存在するはずのない、黒くて荘厳な翼が。 



2


 最初は、驚きと疑惑が同時に来た。翼だぞ? 十五年間生きてきて、これほど混乱したことはない。十歳になる前にはもう、空を飛ぶなんてことは不可能だと理解していたのに。


 神経細胞がどうとか、脳からの運動指令がどうとか難しいことは分からないが、どうやらこの翼は自由に動かせるらしい。まだまだ違和感が拭えないが、そこまでくればもう飛ぶしか無いじゃあないか。


「ん……?」


 対岸の砂浜が見えてきた。どうやら自分が目覚めたのは小さな孤島のようで、あの対岸が本土らしい。内陸部には住宅街や繁華街、学校らしきものまで見える。体育館でのあの女の発言を信じるのなら、誰かが殺し合っている場所。もう、自分に翼が生えている時点で信じるしかないのだが。


 早速砂浜に人影が見えた。生気のないその人影は、ユラリユラリと陸地側へと歩いている。


「なんだ、あいつは……?」


 波が打ち寄せる浜辺には赤黒いシミと、布のような何かが見える。

 シミと人影との距離はそれ程離れていないが、人影はシミと反対側へ歩いて行く。


「あのシミから生まれたのか? はは、オレが空を飛べるんだ。何が居てもおかしくないもんな」


 軽い解釈と共にそのシミの元へと降り立つ。何故か随分とちなまぐさい気がした。


「これって……おい! お前!」


 離れていく人影へと声をかけるが、こちらに気付いてる素振りはない。そもそもあれは人なのか。歩き方、生気、気配。何をとっても健常な一人の人間分が足りていない気がした。


 そして、蒼空の足元に広がるそのシミは。


「う……うおええぇぇえ……」


 まさか、そんなことがあり得るのか。

 上空から見えた何かは、何らかの液体に濡れた衣類だった。元は白いTシャツだったのかもしれないが、今は真っ赤に染まっている。上着から靴に至るまで、人一人分の衣類がそこにあった。


 一体ここで何が起きたというのか。……いや、それはもう何となく想像がついていた。今度は軽い解釈では済まされない、非現実的な想像と理解が脳を埋め尽くしていく。


「くっそ……」


 先程の人影を追う気はとうに失せた。むしろ、呼び止めようとしたことすら後悔している。


「なんだってんだよ……!」


 自分は空を飛べる。だからなんだ。

 冷静に考えた場合、それは闘う手段になり得ない。


 おそらくここで、一人の人間が殺されたんだ。得体のしれない方法で。

 そんな手段を持つ相手と出会った時、自分がとれる方法は逃走のみだと気付いてしまった。



No.15 十河蒼空(そごう・そら)

【能力名】天狗の翼

【能力】 飛翔能力のある翼を自分の体の一部として使役できる能力。

【タイプ】パッシブ

【系列】 身体変化系



3


「あ、あああ、あ、ああああああ、ああー、あ……」


 十河蒼空が見つけたその人影は、後ろを振り向く事はなかった。何故なら、彼の聴覚はもう機能していなかったから。能木鋼太郎をとかした少年、連秀次(れん・しゅうじ)は、好奇心の赴くまま内陸部へと向かう。


「あー、あー、ああーああー、……」


 口を開いて声を出すことはある。だがそれは、今まで十七年間生きてきた癖なだけ。他者に比べて圧倒的に口数が少なかった人生と言えど、発声機能がある以上はそれを使う場面は日に何度でもある。


「あー、あー」


 彼は今、難儀していた。自分の発声と、聴覚の不機能のズレに。いち早く慣れようと、無意味な発音を繰り返す。


 勿論、後ろから自分を呼ぶ声など聞こえるはずもない。



No.40 連秀次(れん・しゅうじ)17歳

【能力名】メデュー酸

【能力】 目が合った瞬間に発動することで、その対象の全身を痛みなく溶解させる能力。ただし「一度でも発動すれば聴覚を失う」

【タイプ】アクティブ

【系列】 規格外


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