13 溶解系男子
1
僕はずっと、知っていた。好奇心は人を殺すと。
ああ、それは文字通りの意味で、後悔しても遅いんだって。しないけど。
靴の裏越しに伝わってくるその流動体の感覚を楽しみながら、僕は小さく微笑んだんだ。
2
能木鋼太郎(のぎ・こうたろう)が目を覚ましたのは、会場南部に位置する倉庫だった。港と隣接するこの場所は、船で運搬されてきた物資や整備部品などを保管しておく役割を果たしているらしい。
だが、そんな事は今の彼には関係ないし、興味もない。何故なら今彼は、自分の右腕から噴出されている炎に見とれていたからだ。
「へへ……、すげェなこりゃ」
炎の大きさもどうやらある程度までは自在に操れるようだ。拳を握れば火は消えて、開けばまた噴出される。まるで右腕全体が大きなガスバーナーになっているようだ。開いた状態での止め方がわからないので少し不便な気もするが、自分の身体に触れても熱さは感じなかったので、悪くはない。
「あの女の言ってた能力とやらって訳か、面白ェな」
いつの間にか背負わされていた黄緑色のリュックサックをその場に下ろし、少し周りを見渡してみる。ふと、倉庫の外の海辺に、誰かが体育座りしているのが見えた。
「お、アイツでいいか」
鋼太郎は、その人影へと駆けていく。
3
「おい、お前」
「……」
「聞いてんのか、テメェ」
特に特筆するべき所もない白を基調とした制服に、黒いスボン。顔のつくりはどこか幼さを残している。その人影は、死んでいた。
「んだよ……喋んねェのかよ……」
声を発する気配はない、それどころか指先一つ動かす気配はなかった。死んでいたというのは比喩表現だが、その目の確かに生気を纏っていない。その吸い込まれそうな焦点の合わない目を、鋼太郎は覗き込んだ。否――覗き込んでしまった。
「あ――?」
鋼太郎が最初に感じた違和感は、足の指先。
履きなれたスニーカーの中が、液体で満たされているような感覚に陥る。何事かと慌てて靴を脱いだ。
「なんじゃあこりゃァ!?」
無かった。鋼太郎の指先は、綺麗さっぱりに溶けていた。溶解、それ以外の表現が思いつかない。一体何がどうなれば、人体がこんな風に溶けるというのだ。
しかもその溶解は、足の指先だけでなく、あくまでも足の指先から始まったというだけのもので。
現在進行形で、鋼太郎の身体は各部が先端から順に溶け始めていた。気付けば両手の指も溶け始めている。
「おい、おいおいおいマジでやべェ意味わかんねェ待てよ待てよマジでお前」
不思議と痛みはない。だがそれ以上に、自分の身体が溶けていくその異常事態に鋼太郎は耐えられない。頭の理解が追いつく前に、恐怖がその脳髄を支配する。
「お前! なんとかしろ! オイ!」
縋り付く様に伸ばした手。そこから火を吹こうにも、既に手のひらは溶けきっていた。とても立ってはいられず、顔から地面に突っ伏した。それはしっかりと痛覚を反応させたが、その程度の痛みでは今この現実の前で、何の刺激にもなり得ない。
「ふざけん」
喉まで溶けてしまったら、もう声は出ない。
4
「ああ……、まだ居たんだ」
制服姿の少年は立ち上がって小さく呟いた。その声は自分の耳に入ってこない。
使ってしまった。発動してしまった。
この少年の能力が、アクティブタイプだった事は、まだ他の参加者にとっては救いだろうか。だが、それでも――
「へえ、こんな風になるんだね」
この少年が「やる気」なのだから、アクティブである意味はないのかもしれない。
足元に広がる赤い流動体は、紛れも無く人だったもの。その感触を靴の裏で確かめながら、側の黒いリュックを担ぎ上げる。先程の呟きも、勿論少年の耳には入らない。声を出してしまうのは、今までの癖。
彼を動かすのはひとえに、好奇心。死にたくないからだとか、家に帰りたいからだとか、そんな普通の理由ではなく、ただ単に好奇心。だがその純粋な想いの原動力は、何よりも強い。
No.25 能木鋼太郎(のぎ・こうたろう) 21歳 退場
【能力名】バーナーハンド
【能力】 自身の右の掌から常に炎が噴出される能力。任意に火力を調整可能。
【タイプ】パッシブ
【系列】 物質操作系
No.40 連秀次(れん・しゅうじ)17歳
【能力名】メデュー酸
【能力】 目が合った瞬間に発動することで、その対象の全身を痛みなく溶解させる能力。ただし「一度でも発動すれば聴覚を失う」
【タイプ】アクティブ
【系列】 規格外
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