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ドアマット令息、技術を盗んだ祖国が滅びかけているようです?  作者: 紡里


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2/3

盗む

 隣国では、平民として友人の家に雇われることになった。

 官吏試験に合格しているので、繁忙期は書類仕事の手伝いをする。それ以外は、友人と研究に時間を費やした。


 この山間の小さな国は、瘴気が流れ出す先がない。どんどん濃度が濃くなって、かなり危険な状態にあった。


 瘴気の研究は行き詰まっていた。

 この国は水質も良くないので、湖の水を何重にも濾過して飲んでいる。

 僕はそれを見て、「これだ!」と叫んだ。


 瘴気を消したり無害にしたりすることを考えていたが、濾過したらいいのでは?


 特殊なフィルターを発明した。それに風を当てると、瘴気の粒が付着する。大型のものを開発して、国中に配ればかなり改善するはずだ。

 大きな問題は、使用済みのフィルターをどう処理すればいいか――その解決策がないことだった。


 一年目はフィルター処理の解決策を探していたが、二年目で国の状況がいよいよ怪しくなってきた。


「もう、これを国王に献上しよう。一時しのぎでもいいから、人が生きていられる環境を確保しなければ」

 友人は、自分の父親のタジム公爵に装置を見せた。


「離れの小屋で何を遊んでいるかと思えば――

 よくやった。すぐに動こう」

 いつもは冷静沈着な公爵の声が弾んでいる。


「いえ、でも、まだ実用化の段階になくてですね……」

 僕は慌てて止めた。


「二人で考えるより、王城の専門職に相談した方が早い」

 大人のご意見――ごもっとも、である。


 使用済みフィルターのことは解決していないが、安全装置をつけることで、対処することになった。


 一年かけて国中に装置を配り、三年後には農業が復活していた。

 祖国チェンミはこの国アジールの足元を見て、農産物を高値で売りつけていた。余裕ができたので、「通常の値段なら買う」と交渉できるようになった。

 それで普通は問題ないはずだが、差額で贅沢を覚えたチェンミの商人は慌てた。すぐに国庫にも影響が出るだろう。



「そう言えば、他の国に売ってもいいけど……と言われ、頭を床につけて売っていただいたこともありましたね。我々は持ち直せましたので、ぜひ、そちらの国に売ってあげてください」

 と、アジールの人間がチェンミの商人に、嫌味を言う場面が散見された。

 長年高圧的な対応を我慢していたため、食料を売ってくれる恩よりも恨みの方が大きくなっていたのだ。


 公爵からそんな話を聞いて、僕たちは不安になった。

「汚染されたフィルターの廃棄方法が見つかっていないから、やり込めるのは我慢してほしいんだけどさ。

 父上も煮え湯を飲まされてきたから、『言い返せてすっきり』とか言ってるんだよ」

 友人ルファールがバターコーヒーに口をつけてから、肩をすくめた。


「あまり浮かれて、相手を刺激するのも……心配ですね。

 瘴気吸収機だって、永遠に使えるわけじゃない。壊れて、また食料を輸入する事態が起きたら、もっとふっかけられるかもしれないのに」

 僕は薄焼きの小麦粉の皮にクリームを塗って、かぶりついた。


「うちの国民性かな。ちょっと楽観的なんだよ」

 ルファールが苦笑いした。


「それと、一見穏やかそうなのに、意外と好戦的だよね?」

 こちらで暮らすようになって、腰が低いのと頑固なのが両立すると知った。


「ああ……否定はしない」



 僕たちがそんな会話をしていた頃、祖国ではアジールの農業が復活した理由を探っていたらしい。

 隠し事をしない大らかな人たちから、僕の情報が漏れるのは時間の問題だった。


 さらに、国境に近い村から瘴気吸収機が盗まれたと報告があがった。

 すぐに予備を運んだが、馬車の荷台を占領するくらい大きな装置だ。簡単に盗めるものではない。

 なんだか嫌な予感がした。



 ある日、国際便が僕のところに届いた。

 父からの「帰国しろ」という催促だ。文章だけ読むと、家族思いの理想的な父親に思える。

 僕が命を守るために出国したことも、思春期の考え無しの家出と考えているようだ。

 継母がさっさと僕を貴族籍から抜くかと思っていたが、そこまではしていないらしい。


「なんで僕を探そうと思ったんだろう? 五年も経ってから」

 僕はルファールに手紙を見せながら首を捻った。


「瘴気吸収機が隣国でも発売されたせいじゃないか? 違った、空気清浄機か」


「え、輸出してないだろ? フィルターの廃棄物処理の目途が立っていないから」

 悔しいことに、まだ解決策が見つかっていない。


「盗んだ装置を分解して、勝手に作ったんだろ」


「やっぱり犯人はチェンミの人間か」

 祖国がせこいことをして、恥ずかしく思う。ちゃんと外交ルートで交渉しに来いよ。


「それじゃあ、安全装置の意味もわからずに……。満杯になる前に自動的に止める機能は、かさばるから省略してそうだな。あれをつけていなかったら、突然爆発するぞ」

 僕は顎に手をやり、祖国に何が起きそうかを考えた。


 実用化に時間がかかったのは、安全装置のせいだ。

「止めろ」という命令が周囲にも影響するので、フィルターから離れた場所に魔法陣を刻む必要がある。それで装置自体が大きくなってしまうのだ。


「爆発したら、凝縮された高濃度の瘴気が吹き出す。どのくらいの範囲にまで広がるかは、実験できないから仮説しか立てられないけど……」


「ユーイン。これ、チェンミで発売された空気清浄機の説明と普及台数の推定数だよ」

 ルファールは、極秘と書いてある書類を僕に手渡した。

 空気清浄機の購入を考えている人に渡すものなので、ざっくりとした説明だ。だが、僕たちの瘴気吸収機にそっくりで、安全装置をつけていないのは読み取れた。


 大きさは瘴気吸収機の四分の一ほど。王都の貴族たちが贅沢品として購入している。当然、王家も導入しているだろう。


「盗んだもので堂々と金儲けかよ。倫理観とかないのか。恥知らずめ」

 僕は思わず汚い言葉で祖国を罵ってしまった。


「父を通して、国境を閉鎖した方がいいと進言するか」

 彼の父親は、この装置のおかげで発言力が増した。国王の覚えもめでたく、研究費をもぎ取ってきてくれた。


「進言した方がいいと思います。

 瘴気に汚染された人間が逃げてきても、受け入れないようにしないと。また五年前に戻ってしまいますよ」

 一定量以上の瘴気を吸った家畜は、それ自身が汚染源になってしまう。高火力の火魔法で焼いて、拡散を防ぐしかない。

 ちなみに、使用済みフィルターを高火力で焼いてもらったら小さな爆発が起きた。



 アジールの国王は、チェンミの国王に抗議した。「我が国の瘴気吸収機を盗み、特殊技術を勝手に模倣した」という内容で。

 だが、それは無視された。

 アジールを小国と侮っているのかもしれない。

 あるいは、一部の商人の暴走ではなく、国が不正行為を認めているのか……。


 実家からの手紙は、一度も返事を出していないのにしつこく届いた。学生時代には一通も寄越さなかったくせに、と腹立たしい。


 僕の開発能力を褒め、帰国して嫡男としての務めを果たせと責める手紙。

 チェンミの国王に、僕が出国したのは実家のせいだとお叱りを受けたという手紙。

 戻ってこないと実家の爵位が剥奪されるという懇願の手紙。

 どれも自分の都合を並べ立て、空気清浄機の不具合には触れていなかった。



 アジールは期限を切って返答がない場合は国交断絶すると警告し、期限が来て国境を閉じた。

 周辺国には、チェンミの不正行為と瘴気爆発の危険性を知らせておいた。

 真剣に考える国も、真面目に取り合わない国もあるだろう。それは、その国次第。


 いつ瘴気にまみれて消えるかわからない小国だと、アジールを軽んじたままなら、チェンミから災難が飛び火するかもしれない。


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