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ドアマット令息、技術を盗んだ祖国が滅びかけているようです?  作者: 紡里


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3/3

光明

 チェンミとの国境を閉鎖してから五年が経った。

 僕は三十歳になり、結婚して子どもも生まれた。瘴気吸収機の功績で、男爵に列せられた。


 チェンミがどうなっているかは、わからない。

 伝書鳥が飛ばなくなり、郵便が届かなくなった。商人の行き来もなくなった。


 チェンミの方角を見れば、空がどんよりしている。自然発生の雲ではなく、瘴気だろう。

 高確率で、「空気清浄機」なるものがいくつか爆発して瘴気まみれの国になっていると思う。

 母の墓も瘴気に汚染されていると考えると、少し切なくなる。


 生存が気になるのは、魔術研究会の中の数人くらいだ。彼らには悪いと思うが、違法に複製を作った人たちを恨んでほしい。

 ――いや、むしろ、複製に加担していたかもしれない。

 学生時代に研究に接していたので、協力しろと言われる姿が想像できる。それなら泥棒の共犯者だ。

 安全装置に気付かなかったなら、研究者としての危機意識がなかったと――僕を恨まないでくれ。



 晴れた日に子どもと散歩しながら、小高い丘に来た。

 子どもはシロツメクサとアカツメクサで花冠を編み始めた。


 僕はその側に座り国境の方角に向かって、手を合わせる。

 間に山があるので、祖国チェンミの景色は見えないけれど。


 ずるいことを考えないで、ちゃんと国同士で話し合おうとすれば良かったのに。そうしたら、危険性もちゃんと伝えられた。

 こちらの提案を蹴って、現物を盗んで自分の手柄のように振る舞ったせいだ。自業自得だ……と言ったら、人道的に非難されるだろうか。


 だけど研究成果を盗まれたことを、僕は許せない。

 そして開発者に話を聞こうともせず、危険性を軽視して模倣品を作った人間も、売買した人たちも……。



 来月になったら、反対側の山を挟んだ国から解決の糸口が来るかもしれない。

 その国では、光魔法で瘴気の元を浄化しているそうだ。

 その人が我が国にやってくる。


 曰く、国中を旅する生活をやめたいと。各地に装置を設置してフィルターを浄化すればいいのなら、そうしたいそうだ。

 人は瘴気を避けて定住するから、僻地で野宿ばかりの生活なのかもしれない。


 ふいに、実家の使用人たちの顔が浮かんだ。そういえば、優しくしてくれた彼ら、彼女らはどうしているのだろう。

 今まで思い出さなかったのが、不思議なくらいだ。


 指が震えた。


 上に立つ者が愚かだと、下の者たちが犠牲になる。金儲けのために装置を盗んだ奴はどうなってもいいが、被害は本人だけに留まらない。貴族は家族だけを守り、使用人を見捨てるだろう。状況がわからない平民たちは――


 そんな事態に対して、権力のない研究者ができることはない。だから、事前に危険性を説明して安全対策を取る。


 自分のせいではないと思いたい。だが、無関係だと言い張るのは、無理があるような気がする。


 直接、加害したわけじゃない。冷たかった父や人でなしの継母に、仕返しをしようと意図したわけでもない。

 僕は技術を盗まれた被害者なんだ。

 そう考えようとしているのに、心臓が締め付けられるように苦しい。


 父は愛情をくれなかったが、衣食住と教育のための金は出してくれた。

 恨みが先に来て今まで感謝できなかった。利用しようとする態度に腹が立った。

 けれど――


「ごめん」

 そう呟いて、今度は心から手を合わせる。


 子どもができたばかりの花冠を、僕の頭に乗せてきた。

「父さま、あげる。上手にできたでしょ?」


 十二年前には草も生えていなかった丘に、爽やかな風が吹いた。


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― 新着の感想 ―
昔のサークル仲間が盗作グループにいるかもとか、一国が滅亡しかけてるからざまぁで終わらず罪悪感を抱くとかリアルな心情だなと思いました。 パパは嫡男にする気があるなら嫡子教育をチェックすべきだったし、家…
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