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不思議おもひで純喫茶『ナカマ』  作者: 初美陽一


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第2話 思春期男子高校生の苦いおもひで

「はぁ~~~~~…………」


 純喫茶『ナカマ』のカウンター席で、制服姿の男子高校生が一人、長い溜息を吐いた。

 いかにも陰鬱な雰囲気に、向かいのカウンター側に立っていた女性店長のナカマが、なんとなしに尋ねる。


「お客さま、随分と思い悩んでいるご様子ですが、どうか致しましたか?」


「えっ……あ、す、すいません。鬱陶しかった、ですよね。えっと……すいません」


「いえいえ、そう何度も謝られずとも。……何かお悩みがありましたら、口に出してみると、すっきりするかもしれませんよ。わたくしはここに立っているだけ、決して他言も致しませんので」


「あ、す、すいませ……じゃなく、その。……ええと」


 さすがに迷っていたようだが、少しばかりの逡巡を経て、彼は悩みを明かした。


「えっと、ぼくは……今年、高校生になったばかりなんですけど。その、こんな陰気なカンジで、話下手だから、クラスに上手く馴染めなくて……す、すいません、ほんと大した悩みじゃなくて……」


「いえいえ、悩みは人それぞれ、大小もその人次第です。それに、分かりますよ、周りと上手く馴染めないお気持ちも」


「ぅ。き、気を遣ってくれて、ありがとうございます。あ、えっと、それで……何て言うか、中学時代も、クラスメイトに話しかけることも、最後までほとんどできなくって……周りから変に思われてるんじゃないか、笑われてるんじゃないか、なんて思っちゃって……トラウマ、っていうか。……でも、こんなんで、中学だけじゃなく高校でも、同じになっちゃうんじゃないか……って思うと、その、憂鬱で……」


「ふむ……」


 本当に話すのが苦手なのだろう、たどたどしく事情を述べた彼に――ナカマはおもむろに、尋ねた。



「お(・)も(・)ひ(・)で(・)、温めますか?」



「えっ?」


 何を言われたのか分からない、とばかりに目をしぱしぱさせる男子生徒――と不意に、カランコロン、と入り口の鈴が鳴る。

 客が入ったのだろう、しかしその姿を見て、男子生徒は慌てた。


「!? え……あ、あれ、中学の時のクラスメイト……っ」


 目立たぬようにしているつもりか、カウンター席で背中を丸める男子生徒に、クラスメイトとやらは幸いにも気付かなかったらしい。四名の男女が、ソファのあるテーブル席に陣取る。


『いぇーい、お疲れ様~!』


 彼らは男子生徒の中学時代、存在感のあった仲良しグループだ。そんな彼らの楽しそうなおしゃべりの声が、カウンター席に座る男子生徒にも聞こえてくる。

 どこかで遊んできたのか、何かのパーティーだったのか、打ち上げ前という雰囲気で盛り上がる中、不意に声を落とした女子が呟いた。


『ていうかさ……うちのクラス、ほら、いたじゃん? 全然しゃべんないで、ぼっちだった男子』

「…………!」


 偶然、とは思えないほどピンポイントで話題に挙がり、まさか気付かれているのか、と男子生徒は肩を震わせた。

 が、それは勘違いで、続く言葉で呆気にとられる。


『卒業式ン時くらいさ~……声かけてあげれば良かったわ~!』


「……えっ?」


『あ~ワカル、ワカル~!』

『こ(・)の(・)打ち上げとかさ~、誘えばヨカッタんじゃね?』

『いやアタシ、聞こうとしたんだけどさ~、もう帰っちゃってたんだよね~……残念っていうかさ~』


「…………」


 彼らの意外な言葉に驚きながら、最後にもう一言、聞こえてきた。



『もっと早く、ちゃんと喋ったりできれば……仲良くなれたかもしんないよね~』

「……!!」



 その一言で頬を打たれたように、はっ、と男子生徒は顔を上げた。

 まるで憑き物が落ちたような晴れやかな表情で、彼はナカマへと頭を下げる。


「あ、あの、話、聞いてくれて、ありがとうございます。ぼく……勇気だして、クラスの人とかと、話してみようと思います。喋るの、苦手だけど……だ、だからって、何もしないと、何も変わんないって、なんか……気付いて」


「そうですか。ええ、お悩みが晴れたなら、それが何よりですとも」


「は、はい! ありがとうございます、それじゃこれ、お代……あっ、そうだ! あの、みんな……えっ?」


 椅子から立ち上がった男子生徒が、仲良しグループのほうへ顔を向けると――そこには誰もおらず、がらん、と空席のテーブル席だけが静けさを保っていた。


 思えば、まるで卒(・)業(・)式(・)の(・)直(・)後(・)のような会話も、何かおかしかった。とはいえ訳が分からず、顔中に〝?〟を浮かべる勢いの彼に、ナカマは問いかける。


「お客さま、どうか致しましたか? まるで何か、見えたような御顔ですが」


「あ、えっ、今、確かに……あれ、でも、誰も……ふ、ふ(・)し(・)ぎ(・)だなぁ……」


 結局、何も言えないまま、男子生徒が首を傾げつつ退店すると。

 ナカマは茫洋な微笑みを浮かべつつ、ぽつり、呟いた。



「ええ、ええ、ご安心くださいませ。決して都合の良い幻などでは、ありません。先ほどのような会話を、以前の御学友は、きっと何処かでなさったのでしょう。勇気を出して、きっと損など、ございませんよ。お客さまの今後のおもひでが、温かくありますように」



 ――――後日。


 どうやら男子生徒は、勇気を出して高校のクラスメイトに話しかけてみたところ、めでたく友達が出来たらしい。


 ……だが、またも「はぁ~~~~~…………」と深いため息を吐き、彼がナカマへと呟いたのは。


「気になる女の子がいるんですけど……どう話しかければいいか、わからなくって……はぁ~~~~~」


「思春期の悩みは、尽きませんねえ」


 ちゃん、ちゃん。


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