草原のサイクロプス
単眼の巨人タイプの魔物がサイクロプスである。
サイクロプスと言えば草原の王者とも言われる存在の魔物だ。
知能は低いが時々森から出てきて獲物、主に人間を圧倒的な腕力で狩る。
そんなサイクロプスが馬車を襲っていた。
馬車はサイクロプスの攻撃を受けたのか屋根の大半が吹き飛び、馬もサイクロプスの一撃を食らったのか落石でも直撃したかのように首があらぬ方向を向いて死に絶えている。
馬車の残骸の中にはまだ生存者がいるようで、サイクロプスが好物の人間を捕らえるべく指を突っ込んで掻き出そうとしていた。
ここで俺が取るべき行動は二択だ。
(1)音を立てないように忍び足で逃げる。
(2)音が出ようが構わず一目散に最速で逃げる。
のどちらかだ。
クズと言うなら言ってくれ。
あんなのと戦っていたら命がいくつあっても足りやしない。
命大事に、俺の命。
変な気を起こして勇気を奮い生存者を助けようなんて思うのは愚の骨頂だ。
俺が事故現場を立ち去ろうとしたら生存者の少女と目が合った。
たぶん、歳は俺と大して変わらないが身なりはいいのでお貴族様かもしれない。
少女は俺に助けを求める。
「見捨てないで助けて下さい!」
俺が目を逸らすと逃げられると思ったのか少女はさらに大きな声を出す。
「逃げたら遺書に『犯人はオーガ女を連れた男』って書きますよ!」
ふざけるな!
オーガ女を連れた男ってこの辺りじゃ俺しかいないじゃないか!
とんでもない冤罪を押し付けられそうになった俺は憤慨した。
少女が騒ぐもんだから、事故現場を避けて遠巻きに見ていた野次馬の視線が痛いほど刺さる。
でも、少女はそんな俺の気も知れず更に必死に俺に縋りついて来た。
「助けてくれたら多額の報酬を支払いますから、お願い助けて!」
ソニアが耳元でささやく。
「アルク様、サイクロプスならわたしが余裕で倒せますよ」
「本当か?」
「ええ。背後から頭をカチ割ればイチコロです」
オーガってあんなデカい魔物も一撃で倒せるのかよ。
スゲーな。
ソニアは得意気な顔をしたあと俺の耳元で再びささやいた。
「それに食費も厳しいようですし、人助けをして報酬を貰ったらどうでしょうか?」
食費が生活を圧迫しだしたのは俺のせいじゃなくソニアのせいだぞ。
ソニアも食費を浪費していた意識はあったらしい。
「じゃあ、囮役は俺がするから倒すのはソニアに任せた」
「了解です」
ソニアはそう言うと、腰を落とし茂みに紛れてサイクロプスの背後に回った。
サイクロプスに石を投げると頭にあたったけど、馬車の中をほじくるのに必死で全然気が付かねぇ。
俺は全身全霊でサイクロプスの注意をひく。
「おいこらサイクロプス! 俺はこっちだ!」
再び石を投げると目に当たる。
サイクロプスは腹が立ったのか馬車から離れ突進で俺を襲ってきた。
よし、囮成功!
後は逃げていればソニアが倒してくれるはずなんだけど、いつまで経ってもソニアが現れねぇ。
もしかして俺を捨てて逃げたのか?
食費のことでお小言を言ったことは無いんだが、俺、思いっきり嫌われてた?
勝手に所有物にされた上に、給料を一銭も払わないんじゃそうなるか。
俺は半べそをかきながら逃げまくる。
「た、助けてー!」
遠巻きに野次馬が笑っててムカつくが、あいつらに文句を言ってる暇なんてない。
俺は必死に逃げるが、草原にぽっかり空いた穴に足を取られ転倒。
で、サイクロプスに追いつかれた。
マジかよ!
サイクロプスは俺にトドメを刺すべく、大きく拳を振り上げる!
もう、ダメ!
そう思っていたら、サイクロプスが断末魔をあげてぶっ倒れた。
助かった……。
ソニアの攻撃が決まり、サイクロプスを仕留めたようだ。
ソニアは仕留めるのが遅れたので頭を下げまくりだ。
「足が遅いのでなかなか追いつけなくてすいませんでした」
ここで「死ぬかと思っただろ!」とか「おせーよ!」と怒鳴り付けたらさらに嫌われてしまうので、俺はサイクロプスを倒したという成果に対してのみ感謝の言葉を述べた。
「ソニア、よくやった」
でも俺が褒めてもソニアの表情は暗い。
「仕損じました」
「倒せただろ?」
どう見てもサイクロプスはソニアの一撃を受けて息を引き取っている。
「一撃で頭をカチ割れず袈裟切りになったので断末魔で仲間を呼ばれたんです」
その時、つんざくような咆哮と共に、大ジャンプで森からなにかが飛んできた。
現れたのはサイクロプスの群れのボス、グーレートサイクロプスであった。




