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ボールドの秘策

 サビアの首輪で自分の制御下に置いたサキュバスのレイカに証言をさせると言う、サビア屋のオーナーのボールド。


 あまりに自信たっぷりな顔だけど、俺はボールドのしようとしていることを既に俺の幼馴染のミントから情報を仕入れて対策済みだ。


 ミントから聞いたのは、俺からレイカを奪ったボールドが『サビアの首輪』でレイカを言いなりにしてボールドに有利な証言、具体的に言うと『俺がサビア屋からレイカを盗んだ』と言うことを証言させる偽証の訓練をしていたそうだ。


 レイカが証人として連れて来られても、裁判長はレイカの着けている『サビアの首輪』について一切の質問をしていなかったのでサビアの首輪がどのような効果をもたらす魔道具なのかなにも知らないんだろう。


 『サビアの首輪』はサビアを隷属(れいぞく)させる効果のある首輪。


 簡単に言うとサビアの首輪を着けられた者は、着けた者の言いなりとなる。


 今のレイカはボールドの言いなりだ。


 このまま証言されたらレイカはボールドが事前に吹き込んだ『ボールドに都合の良い証言』をし俺が犯罪者と確定してヤバいことになるが、対策が無いわけじゃないし既に対策済みだ。


 ボールドはレイカを証言台に引っ張り出した。


「レイカ、お前とアルクの関係を説明しなさい」


「わかりました、マスター」


 今のレイカには俺を好いていた頃の面影はどこにも無い。


「わたくしレイカと冒険者アルクとの関係は――――」


「ちょっと待ったー!」


 大声で割り込んだのは冒険者ギルド長のジャックスだった。


 突然の乱入者に裁判長は慌てる。


「な、なんですか! あなたは!」


 ジャックスは冒険者ギルドの職員であることを示す徽章(きしょう)を掲げる。


「俺は冒険者ギルドのギルド長であるジャックスだ」


「その冒険者ギルドの(おさ)が何の用ですか?」


 ジャックスの勢いに裁判長はタジタジだ。


 実はここまでの流れは既に俺たちで話し合った作戦だ。


 この後、レイカに『サビアの首輪』よりも支配力のグレードの高い『サビアの首輪』着けボールドの制御下から解放して本当のことを証言させる。


 それが俺たちの考え出した作戦だ。


 ジャックスが裁判長に言い放つ!


「そのサキュバスの着けている首輪は『サビアの首輪』と言って装着者の言いなりになる首輪だ。今のサキュバスのレイカはサビア屋のボールドの言いなりだ!」


「なんですと! それは本当ですか、ボールドさん!」


 秘策を指摘されてボールドは大慌てだ。


「悪気は無いんです……。サビアを売り物として扱っている以上……レイカとは主従の関係を結んでおりませんので『サビアの首輪』が必須でして……『サビアの首輪』を着けずに万一逃げられるような事態となりますと大損害となりますので着けていただけで……ここで『サビアの首輪』を外すわけにもいきませんので……」


 ボールドは禿げあがった頭頂部から滝のような汗を流し、耳の上に僅かに残った髪をびしょびしょに濡らしながらしどろもどろに言い訳をする。


 『勝てた!』と俺は確信する。


 困り果てた裁判長は提案をした。


「ならばサビアの証言は取りやめて、また『審判の宝珠』を使った尋問に戻りますか」


 ボールドは不正がバレて平謝りだ。


「そ、それでお願いします。ただ審判の宝珠を使っても真偽は判明しませんし、今度は証言する内容を相手に言わせて証言者は『はい』とだけ言わせるのはどうでしょうか?」


 ボールドも『審判の宝珠』の審判の穴に気が付いているみたいだな。


 それだとボールドから俺に投げかけられる証言内容はかなり厳しいものになる。


 『はい』とだけしか答えられないとなるとさっき見つけた証言の穴の『俺はツケの借用書を書きました』みたいな質問を回避できずにヤバいことになる。


 ここはなんとか『審判の宝珠』証言は避けないとならない!


 これはヤバいことになったぞ。


 そう思っていたんだがギルド長のジャックスからの援護射撃だ!


「サビアの証言を続けて構わないぞ」


「そうなのですか?」


 裁判長は明らかに容疑者の俺が不利になるサビアの証言を継続することを要請して来たジャックスに目を点にしていた。


 ボールドは冒険者ギルド長が味方と思ったのかニンマリと笑っている。


 一方、裁判長は公正な判断が出来なくなると狼狽えていた。


「いいんですか? 『サビアの首輪』を着けていたら公平な証言は引き出せませんよ?」


「それなら大丈夫だ。冒険者ギルドには便利なアイテムが有ってな……。『サビアの首輪』程度の並の魔道具なら隷属状態の支配権を完全に上書できる『サビアのバングル』と言う便利なアイテムがあるんだ」


「なんですとー!」


 胃が飛び出しそうになるぐらい驚いている裁判長。


「嘘だろ?」


 それを聞いたボールドは完全に取り乱している。


 裁判長の指示が出た。


「ではジャックス、サビア・レイカに『サビアのバングル』を取り付けなさい」


「了解!」


 ジャックスはレイカに手早く『サビアのバングル』を取り付ける。


 これでレイカの証言ですべてが終わる。


「ボールドさん。証言、いいですね?」


「わかりました」


 死神に首を掻かれるような表情でボールドがレイカに指示を出す。


「レイカ、証言しなさい。お前とアルクの関係を説明しなさい」


「わかりました。マスター」


 その時、俺は大きな違和感を抱いた。


 なんでレイカがボールドの命令を聞いている?


 なんでレイカはボールドのことをマスターと呼んでいる?


 レイカがボールドの支配権から解放されたまともな状態ならボールドのことをマスターと呼ぶわけが無い。


 『サビアのバングル』でボールドに掛けられた隷属状態は解除されたんじゃないのか?


 それなのに、なぜかレイカはボールドの命令を聞いている。


 俺は見てしまった。


 ボールドの口元が僅かに上がり笑っていたことを……。

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