サビア窃盗裁判
裁判が始まった。
長く白い顎髭をたたえた裁判長が起訴状を読み上げる。
「『冒険者アルクがサビア屋『ボールド商会』所有の金貨100万枚の価値のエルフのサビアを盗み出した』。これで間違いないな。告発者のボールド」
金貨100万枚の価値と聞いた傍聴人たちがざわめく。
そのざわめきの中、ボールドが答えた。
「はい。それで間違いございません」
「うむ、なお告発内容が偽証であった場合、法廷侮辱罪となりサビア落ちすることになるがかまわないな?」
「もちろんでございます」
「次に容疑者のアルク」
「はい」
「アルクはエルフのサビアを盗んだ事実は無いと主張するのだな?」
「もちろんです」
「では、購入した証拠を提出しなさい」
「それは……ありません」
裁判所の傍聴人がざわついた。
それを聞いたボールドはまるで裁判に勝ったかのようににんまりしていた。
裁判長が俺に聞いてくる。
「なんで購入した証拠の書類を提出できないのですか?」
「それは……ツケ払いで完済するまで領収書は貰えないからです」
「なるほど……。しかし、なんらかの書類を残さず金貨100万枚の価値のサビアなんて持ち帰ることが出来るのですか?」
「ツケ払いの借用書を残し連れ帰りました」
「なるほど、ツケ払いの借用書は残していたということですね」
「はい」
「で、そのツケの値段は?」
「金貨5000枚です」
裁判長が今度はボールドに問いただす。
「容疑者は金貨5000枚ツケでサビアを買ったと証言していますが……、本当に金貨100万枚の価値のあるサビアだったのですか?」
「無論でございます。当商会ではエルフのサビアは一体しかおりませんので取り違えることはございません」
「困りましたね。双方の主張が完全に食い違いますね……」
それもそうだ。
俺は死にかけのエルフを金貨5000枚で買ったのに、ボールドはケガをしていないエルフの価値で話を進めているんだからな。
俺が死に掛けのエルフを買って治療したことを証明できればいいんだがここには死に掛けの者なんていないし、ましてや目の前で置換を見せても裁判長や傍聴人はトリックだと言って信じてくれそうもない。
ここはレイカを治療したことは隠しておくべきだな。
困り果てた裁判長は事務官に指示を出した。
「宝物庫から『審判の宝珠』を持って来てください」
事務官が金細工の装飾の施された木箱を持ってくると、裁判長は中から占いに使う水晶玉ぐらいの大きさの透明な球を取り出した。
裁判長が宝珠の説明を始める。
「これは審判の宝珠と言いまして、これに触れながら証言すると真実なら青、偽証なら赤に光る魔道具なのです」
嘘を判別できる便利な魔道具があったんじゃないか。
これを使えばボールドの嘘は一瞬で暴かれ、俺の無罪が証明される。
そう思ったんだけど、ボールドはとんでもない証言で回避してきた。
ボールドは証言する。
「容疑者の主張する『ツケの借用書』と言うものは今現在世界のどこを探しても存在しません!」
「あ、汚ぇ!」
俺は思わず声が出てしまった。
宝珠は青く輝く。
そりゃそうだ。
ミントの書いたツケの借用書はボールドが燃やしたんだから、『【今現在】世界のどこを探しても』残っているはずが無い。
「容疑者アルク、静かにしなさい!」
裁判長から静かにするように怒られてしまった。
心象最悪だ。
次は俺の証言の番。
『俺はツケの借用書を書きました』と真実を言えば審判の宝珠は青く輝き俺の無実を証明すると思ったが、証言を思い止まる。
借用書ってミントが書いたんじゃん。
俺は書いてないぞ。
このまま証言したら宝珠が赤く光って俺終わりじゃん!
レイカを買った時は瀕死で治療したと言わないといけないのか?
そんな事、誰も信じてくれるわけないじゃん!
俺の頭は真っ白になり、なにを言っていいのかわからなくなる。
その時、アイラが耳元で囁いた。
「『金貨5000枚のツケでエルフのサビアを買いました』と言って下さい」
その通りに言うと審判の宝珠は青く光った、
わざわざレイカが瀕死の状態だったことを言うことは無かったんだ。
ボールドと同じように自分の都合の悪いことを隠して、事実だけを言えばいいことに気が付いた。
俺とボールドが3回ほど証言を繰り返すと裁判長が呆れる。
「審判の宝珠は青く光り続けてキリが無いですね……」
その時ボールドが提案した。
「この審判の宝珠という物は、容疑者の偽証も青く光りかなり調子が悪いようですね。そこで宝珠での証言をここまでにして新たな証人の召喚をしたいのですが……裁判長いかがでしょうか?」
遂にレイカを証言台に連れてくるのか。
それならば『サビアのバングル』で対策はバッチリと思ったんだが、 その時見せたボールドの自信満々な顔は嫌な予感しかしなかった。




