牢屋への来訪者
俺はミントに噛みついた。
「俺がこんな所に入れられたのを見に来たのかよ。俺が牢屋に入れられたのはすべてお前のせいなんだな!」
「あんたを助けに来たのに、なによその言い草は!」
その目は真剣で嘘を言っているようには思えなかった。
「本当なのか?」
「あんたがレイカを助けてくれたことはわたしも感謝しているのよ」
「感謝してくれているのに、なんでこんな豚箱に入れられるようなことになっちまったんだよ?」
「それはね……」
ミントは俺の耳に口を寄せた。
「看守に聞き耳立てられると厄介なので、ここからは小声で話すわ」
俺は声を出さずに頷く。
「一言で言えばお金に目が眩んだのよ」
「お前のせいか!」
俺が声を荒げてミントの胸倉を掴むと、衛兵がすっ飛んでやって来た。
「そこ! なにをやってる!」
俺が言い訳する間もなく、ミントは俺の両頬を掴むとそのまま引っ張りいきなり唇を重ねてきた。
あまりのことに俺は息が止まる。
そしてミントが衛兵に怒り気味に言った。
「別れのキスなんだから、静かにさせてよね」
「これは邪魔をした」
衛兵は気をきかせたのか元の位置に戻る。
「いきなりキスすんなよ。息が止まるかと思ったろ」
おまけに初めてのキスだったし……。
「こうでもしないと衛兵を追い払えなかったでしょ。もう騒がないでよね」
「すまん」
俺は冷静に話し始める。
「俺は間違いなく、レイカを金貨5000枚で買ったよな? ツケだけど……」
「ええ、間違いないわ」
「じゃあ、なんで俺がレイカを連れ去ったことになってるんだよ? ツケの借用書を書かなかったから誘拐したことになってるのか?」
「借用書なら、あんたの筆跡を真似してわたしが書いておいたわ」
「偽造したのかよ?」
「偽造言うな!」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「あんたは借金を組み倒すような奴じゃないのはわたしが一番知ってるから、形式的な物でいいと思ったのよね」
「その書類の偽造がバレて誘拐したことになったのか……」
「いや、バレて無いわ」
「じゃあ、なんで誘拐したことになってるんだよ?」
「昨日、冒険者ギルドからの使いが来たのよね。『サキュバスのサビアを買ったと言ってる駆け出し冒険者がいるんですけど、本当ですか?』との問い合わせでね」
冒険者ギルドでの尋問の時のギルド長の部下のギルド職員か。
ずっと息を切らしていたな。
「最初はわたしが対応してたんだけどね。商談かと思ってお金の匂いを嗅ぎつけた、店主の『ボールド』が無理やり話に割り込んできたのよ」
「店主が対応したのか」
「ええ。わたしが借用書を店主に渡すと、それをギルド職員に見せながら最初は『ケガをしたサキュバスを売った』と言ってたのに、職員から『駆け出し冒険者が買ったサキュバスは怪我をしていない』との情報を聞くと儲けに狡い店長の態度が豹変してね……。そのサビアは盗まれた物だと言い出したの」
「ということは、レイカの治療が済んだことで価値が爆上がり、金に目が眩んだ店主が俺とのツケ売りを無かったことにして俺を窃盗犯呼ばわりしたってことか」
「そうね。ケガのないサキュバスは金貨100万枚の価値はあるわ」
さっき、サキュバスの価値は金貨1億枚と聞いたんだが、あれは一体なんだったんだ?
もしかしてハッタリかまされた?
まあ、値段なんてどうでもいい。
俺は話を続ける。
「それならその借用書を裁判で提出すれば、この話は全て終わるんじゃないか?」
「それがね……、その借用書は証拠隠滅とのことで店主が破いて燃やしちゃったのよ」
「なんだと? それじゃもう、この世にもう証拠は残ってないのか?」
「そうなるわね……。そして店主から裁判で絶対に勝てる戦略を聞いちゃったの」
「なんだよ、そりゃ?」
「裁判でレイカ本人に証言させるそうよ」
「それなら俺に有利な証言をしてくれるんじゃないか?」
これはワンチャンあるぞ!
と思ったんだが……。
「あんた、レイカの首になにが付けられているか知ってるの? 『サビアの首輪』よ。今やレイカはあんたのことを忘れて店主の言いなり。あんたが有利になる証言なんてパン粉一粒たりとも言わないわ。もう終わったわね」
「マジか?」
「マジよ」
どうやら、俺の人生はここで終わりのようだ。
だけどレイカは言う。
「でも、こっちも黙ってやられるわけにはいかないわ」
レイカは俺の耳元で秘策を語り始めた。




