サキュバス窃盗容疑の取り調べ
俺はサキュバスのサビア誘拐容疑で捕まり、衛兵の詰め所の豚箱に放り込まれた。
正確な容疑はサビアの『誘拐』ではなく『窃盗』だ。
サキュバスのレイカは、持ち主に完全服従を誓うという『サビアの首輪』を付けられてサビア屋へ連れ戻された。
俺はとっ捕まり牢屋に入れられているので外の様子が全くわからないが、ソニアとアイラが豚箱に連れて来られてないことからみるに、二人は無事だったようで胸を撫でおろす。
どうやらサビアの窃盗事件は俺の単独犯と言うことらしい。
槍を持った衛兵が叫ぶ。
「出て来い!」
衛兵が出て来いと言うことは俺の容疑が晴れて釈放になったらしい。
無実の真面目な一市民を犯罪者扱いするとは文句の一つも言ってやらないと気が済まん。
「俺が無実の罪で捕まってたってことがわかったんですよね! 収監された無駄時間と檻に入れる時に蹴り込んだことに対する謝罪と補償を要求する!」
衛兵は俺の要求を聞くと頭を抱えた。
「謝罪と補償? お前はなにを言ってるんだ! これから取り調べだ!」
そう言って俺を檻に入れる時と同じくまた俺の尻を蹴った。
「刑が確定するまでは無実なんだから、もう少し丁重に扱えよ」
「明日の日没には有罪確定なんだから細かいことは気にするな」
そう言ってニタニタと笑う。
この衛兵、絶対に許さねぇ!
無実が証明されてシャバに出たらタダじゃおかねーからな!
俺はこの糞衛兵の顔を一生忘れねぇ。
取調室へ入ると椅子に後ろ手で縛られ、衛兵は取調官と入れ変わった。
この取調官も性格が悪い。
「明日の日没には判決が下り即日死刑が執行されるんだから贖罪の意味を込めて洗いざらい吐いてしまうんだ」
これが取調管の第一声だ。
「マジかよ!」
免罪で死刑になるのかよ。
ありえねぇ。
俺は泣き声交じりで取調官にすがりつく。
「俺は本当になんにもしてないんです! 許して下さい!」
「『許して下さい』ということは、己の犯した罪を認めるんだな」
「ちがーう! いや、ちがいます! 俺は悪いことなんてなんにもしていないんです!」
「サキュバスを盗んだろ? 洗いざらい罪を吐いちまえ」
「サキュバスは金貨5000枚で買ったんです」
取調官はそれを聞くと大笑いだ。
「サキュバスのサビアの相場を知ってるか? 金貨1億枚の価値だ!」
「い、いちおく?」
俺は驚きのあまり顎が外れるかと思った。
そんなに高価だったのかよ……。
「とんでもない価値だろ? そんな高価な物を盗んだらどうなるかはガキだってわかるよな?」
「でも、本当に金貨5000枚のツケ払いで買ったんです」
「嘘コケ! サキュバスがそんなに安く買えるわけが無いだろ! それにツケで買ったというならツケ払いの証明になる借用書は?」
「書いてないです」
「ほら嘘じゃないか。サキュバスが金貨5000枚で買えるわけがねぇんだよ」
「死にかけのサキュバスだったから金貨5000枚にまけてくれたんです」
「俺が知らないと思っていいかげんなことを言うな! あのサキュバスを見てきたがどう見ても死にかけじゃなかったぞ」
「サキュバスの怪我は俺のスキルで治しましたから」
「お前の天職は治癒師なのか?」
「チカン師です」
「なんだそりゃ? 聞いたことが無い天職だな」
思わず取調官は大笑いだ。
またこのパターンかよ。
でも気にしたら負けだ。
俺はスルーして話を続ける。
「まあ、治癒師みたいなものと思ってもらって問題ないです」
「で、不治の病でも治したのか?」
「いえ、右腕、両足、両翼を治しました……。あと、牙もでしたね」
「骨折でも治したのか。でもその程度の怪我だと金貨5000枚にはならんぞ。嘘を吐くならもう少し上手く吐け」
取調官はバカにするように大笑いをした。
俺はムカついたが気にしないで話を続ける。
「右腕、両足、両翼、そして牙が無かったんです」
「無いって……」
「欠損です。だから動けるように俺のスキルで再生しました」
「うそこけ! そんな大けがを駆け出しの治癒師が治療できるわけがない。ましてや再生するとか、この国のトップクラスの治癒師でも10年単位の長い時間を掛けても腕一本生やすぐらいがやっとだ!」
取調官はそれ以降、俺の言うことは嘘ばかりだと断じて話を聞いてくれなくなった。
俺が欠損部位の再生を出来るなんて信じてくれないよな。
俺は豚箱に戻されたが、寝てる暇はない。
これから一人作戦会議だ。
裁判の中で証言に賭けるしかないか……。
…………。
でも、待てよ?
あれだけの時間を掛けても取調官を納得させられなかったのに、裁判という限られた時間の中で裁判官を納得させられるわけが無いじゃないか!
金貨5000枚でレイカを買った証拠も無いし、俺が欠損部位を再生できることを裁判官が信じてくれる訳もない。
ソニアやアイラに証言してもらうって手もあるが、俺のサビアなので証言しても信用されないだろう。
裁判官が信用してくれなかったら、俺終わりじゃね?
俺、死刑確定だよ!
死にたくねぇ! 死にたくねぇ! 死にたくねぇ!
必死に考えるがなにもいいアイデアは浮かばねぇ。
諦めて泣きぬれながら寝ていると、明け方になってミントが面会にやって来た。
「様子を見に来たわよ」
俺の無様な姿をバカにしにやって来たのか?
いや、それ以前に俺はサビア屋と結託したミントに嵌められたんじゃないのか?
疑心暗鬼になる俺。
でもミントが裁判の勝利への突破口になるとはこの時の俺は思っていなかった。




