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夜のサビア

ちょっと長くてごめん

 ソニアはまるで宴会の司会者のように場の進行を始める。


「それでは、第一サビアでありパーティー一番の年上であるこのわたくしソニアが、サビア代表としてアルク様の筆おろしをさせて頂きます」


 そして深く礼。


「ちょっと待ったー!」


 それに異議を挟むものがいた。


 アイラだ!


「元貴族のわたしの方がサビアとしての格は上であり第一サビアの地位は確定的! よって第一サビアであるわたしがアルクの初めてを貰う」


 元貴族であることを持ち出して勝ち誇っているアイラにソニアも負けてない。


「もうアイラちゃんは貴族じゃなくサビアでーす。サビアの上下に元貴族とかそんなの関係ありませーん!」


 アイラを子ども扱いした言い方をして、子どもをあやす様にめちゃくちゃバカにするソニア。


 アイラも黙っちゃいない。


「年上の方がサビアの女として明らかに格下」


「おこちゃまサビアの方が明らかに格下でーす」


 二人はベッドの上で取っ組み合いの低次元な罵り合いの争いを始めたので、さっきまでのメルティーでムーディーな雰囲気は吹っ飛んだ。


 元々未成年のアイラがいる時点でそう言うことをこの場でやる気はなかったが、なにかの間違いで……なんて考えた俺がバカだった。


 こりゃ巻き込まれてとばっちり食らったら堪らない。


 俺はほとぼりが冷めるまで夜の町を散策することにした。


 *


 夜中に町に出ても飲み屋以外やってねぇ。


 これが住民が桁違いに多い王都なら事情が違って色々な店がやってるんだろうけど、こんな田舎町じゃ夜中に店を開いても客が来ず開店休業状態なので店が閉まってるのもわかる。


 飲み屋で時間を潰すことも考えたけど、また酔っぱらって馬に喧嘩を売るのは懲り懲りなので他の店でやってるとこを探すことにした。


 すると見つけました、24時間営業のサビア屋。


 ミントが店番をしてたら……なんて考えが頭を(よぎ)ったけど、昼間からこの時間までは働いてないだろう。


 そう思ったんだけど、俺の予想は思いっきり外れた。


「いらっしゃませって……アルクじゃない。こんな夜遅くにどうしたのよ? さては夜のお供のサビアが欲しくなったのね」


「ちがわい! ちょっと時間潰せる場所が他に無かったんで覗いただけだよ」


「なんだ……冷やかしか」


 あからさまに嫌そうな態度を取るミント。


 疲れ果ててるのがその姿からもわかる。


「元気ないじゃん」


 こんな夜中まで働いてたら元気も無くなるわな。


「あんたこそ元気じゃない。夜はサビアたちと毎日お楽しみなんじゃないの?」


「今日は初めてそういう雰囲気になったんだけど、どっちが先に済ますかで取っ組み合いの喧嘩を始めちゃってね。それで逃げて来たんだ」


「ふーん」 


サビア同士の揉め事が起きた時の解決方法を聞けたらと思ったんだけど、ミントは全く興味が無さそう。


 仕方ないので時間潰しにミントの愚痴でも聞いてやることにする。


「お前こそ、夜遅くまで頑張ってるじゃないか」


「基本サビア屋の勤務時間は16時間の交代制よ」


「そんなに勤務時間が長いのか?」


「わたしもこんなきつい仕事とは思わなかったんだけどね。店番以外にサビアのご飯作ったり、掃除したり、病気をしたら看病もしないといけないし、一般常識を教える教育係もしないとね……。9時5時の仕事と思ったら、思ったより重労働だったわ」


 単純な接客業と思ったら、なんでもありの病院の看護師みたいななんでもありの仕事なんだな。


 その話っぷりから、ミントの疲れ具合が感じ取れる。


 ミントは大きくため息をついた。


「あんたが天職の儀で『チカン師』みたいな怪しい天職を引かなければ、わたしの人生はもっとイージーモードだったんじゃないかと今でも思うわ」


「そうか? チカン師を引いた当の本人の俺は毎日楽しくやってるぞ」


「はいはい」


 ミントは俺の現在の状況を信じていないようだった。


 そういや、ライムと婚約したことを報告してなかったな。


 ライムと親友らしいし一応言っておくか。


「もう聞いているかもしれないけど、お前の親友のライムと婚約したんだ」


「あの子も、もの好きよね。あんたみたいなのが好きだったなんて驚きよ」


「失礼な」


 俺がムカついているとライムは笑っていた。


「ところでライムとの結婚はいつなの?」


「式に来るつもりなのか? 呼ぶ人も居ないし、俺たちは結婚式はやらないぞ」


「そうじゃないわよ。ライムが結婚したら結婚退職するんでしょ? 受付嬢の席に空きが出来たらそこで働きたいんだよね」


「どうだろ? 仕事は続けるんじゃないかな? なんでサビア屋を辞めようなんて思ってるんだ?」


「この仕事はキツいから、冒険者ギルドの受付嬢の方が向いてるかなと。ほら、わたし計算士の天職もってるでしょ? だから絶対に事務仕事の方が向いてると思うんだ」


「受付嬢も受付の仕事だけじゃなく、夜遅くまで仕事が有って大変らしいぞ」


「そうなんだ」


 受付嬢の仕事に期待していただけに、実態を知ってひどくあてが外れた感じがミントから感じ取れる。


 ミントはなにかを思い出したのか突然別の話を振って来た。


「そうそう、サビア買っていかない?」


「なにをいきなり。サビアを買うほど金を持って来てねーよ」


「勉強しとくから、おねがい。見るだけでもいいから」


「見るだけだぞ」


「やった! 早速見に行くよ」


 ミントはそう言うと強引に俺の腕を引きサビアの部屋に連れて行く。


「見に行くって……普通、サビアは受付に連れてくるもんなんじゃないのか?」


「訳アリでね」


 サビアの部屋はペットショップの檻が並んでる感じじゃなく、シェアハウスみたいな綺麗な個室だった。


「檻じゃないんだな」


「猛獣じゃないんだから……どんなの想像してたのよ」


「ペットショップみたいなの?」


 それを聞いてミントは笑っていた。


「着いたわよ」


 俺が部屋に入ると異臭が鼻を突く。


 消毒のアルコール臭だ。


「特級サビアの売れ残りのセール品よ!」


 そうして紹介されたのはベッドの上に寝かされた身体中包帯に巻かれたサビアだった。


「種族はサキュバスなんだけど、魔物に襲われてね……」


 右腕、両翼、両足が無かった。


 さすがにこれは見てられない。


「買い手がつきそうなので、先にアルクに買って欲しいのよ」


「買い手がつくならそれでいいじゃないか」


「普通にサビアとして買ってくれるのならね」


「普通じゃないのか?」


「うん。義手とか義足を付けてメイドとして買ってくれるならいいんだけどね。錬金術の素材として商談が来てるの……」


「それって……」


「解体されちゃうのよ。さすがにこの子を1年ぐらい世話してたから情が湧いちゃってね。アルク、一生のお願い。このサビアを買って!」


「買えって言われてもな……」


 サキュバスと言えば人間に限りなく近い魔族で、魔族に限りなく近い人間のエルフと同じくとんでもない価値が有ると聞いた。


 こんな状態でも、素材としての価値が金貨5万枚ぐらいは有りそうだ。


「金貨5000枚でいいわ。これなら買えるでしょ?」


「安いな」


「満足に生活できるようにするには、精巧な技術で作られたドワーフ製の義手とか義足が必要だからね……。そこまでしても夜のお供ぐらいしか出来ないと思う。でもお願い、買ってあげて」


 義手は買えないけどチカンすればなんとかなるかな……。


 ダメだったら一生面倒見ないといけないけど、話を聞いちゃったんで見殺しにする訳にもいかない。


「いいよ。買うよ」


「ほんとう?」


 俺は金貨5000枚をつけ払いすると、そのサビアを背負って連れて帰ることにした。


 *


 俺が宿に帰るとアイラとソニアは喧嘩が済んだのか俺を心配そうに待っていてくれた。


 ソファーに寝かしたとんでもないお土産をみてソニアとアイラは驚いていた。


「アルク、サビアを買って来たの? しかもとんでもない状態」


「俺なら治せると思ったんでな」


「アルク様ならこの程度のケガ、すぐに治せると思います」


 それを聞いたサキュバスは驚いていた。


「義足を付けるんじゃなく、このケガを治せるんですか?」


「まあな」


 状態を鑑定してみると、どの欠損部位も『チカンカノウ』だった。


 こりゃ、掘り出し物だ。


「チカン出来そうなので明日の昼ぐらいには治せると思う」


「さすがアルク様」


「アルク凄い」


 そして当のサキュバスは治療出来るとは思ってなかったので嬉しさのあまり涙を流していた。


 *


 翌朝、サビアを連れて草原へ行く。


 ホーン・ラビットを狩り足と手を、そして鳥で翼を再生した。


 簡単なお仕事だった。


「ちゃんと治すのは、後でな。あんな状態じゃ日常生活もままならないから応急措置だ」


「完璧な治療です、ありがとうございます」


 こうして俺はサキュバスの『レイカ』を仲間にしたのだった。


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