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ワイルド・ボア狩り講習④ スタミナいっぱいの夕飯

 危なかった……。


 ライムは焦りまくっていた。


 今晩の料理はスタミナいっぱいのボア肉のスパイス煮(レバー&ウナギ添え)を出してアルクさんのハートを燃え(たぎ)らせるはずだったのに、全てのボア肉をバーベキュー串にされていて危うくアルクさんとの既成事実作成計画がとん挫するとこだったわ。


 1人2本分のバーベキュー串を残して、後は全て串から外して鍋に投入ね。


 これをニンニクとニラと玉葱とネギを入れたスタミナたっぷりの鍋で、ボア肉が柔らかくなるまでじっくり煮込んで仕上げは海外から取り寄せたスペシャルブレンドのスパイスよ。


 とっても辛いんだけど、とっても美味しいと評判のスパイス。


 ちょっと高かったけど、背に腹は代えられない。


 なんとしてもこの鍋をアルクさんに食べさせるの。


 仕上げに入れてみたら色が黄色になって言葉には出来ないとんでもない見た目になっちゃったけど匂いはとてもいい。


 味見したらちょっと辛かったけど、癖になる味わいね。


 そして味見しただけで、この身体の火照り。


 これは確実にアルクさんの血がたぎってエキサイトフレイム、バーニングハートね。


 そして、2人は今宵この場所でロマンチックに結ばれるの。


 男の人との夜の経験は生まれてこれまで一度も無いけど、あれだけ本を読んで予習したんだもん。


 絶対に出来るわ、ライム頑張るのよ!


 水浴びから戻ったみんなの声が聞こえる。


 行くわよライム!


 今夜、わたしの人生が決まるの!


 *


「あれ、いい匂いがするな」


「なんの匂いだろ? これ」


 早速ゼルさんとソラさんがスパイス煮に気が付いた。


 わたしは鍋を火から降ろす。


「夕飯にボア肉のスパイス煮を作っておいたわよ」


「今晩はバーベキューじゃないのか? バーベキューの口になってたんだけどな」


「生肉はしっかり焼かないと、寄生虫でお腹を壊すからスパイス煮に変更しておいたの」


「そうなのか」


 ゼルさんはあからさまにガッカリしていた。


「バーベキューを楽しみにしていた人もいるみたいだから、串肉も残して置いたけどね。しっかり火を通して食べるのよ」


「ライムの姉御、お気遣いありがとうございます」


 バーベキュー肉も残して置いたんだけど、圧倒的に大人気だったのはスパイス煮の方。


 スパイス煮はアルクさんの為に作ったのに……。


 あれだけバーベキューを食べたいと騒いでたゼルさんは一本食べたら「やっぱスパイス煮の方がうまいな」と言って全然食べてくれない。


 アルクさんは「バーベキュー串を残すと大枚叩いて買った岩塩がもったいない」と言ってみんなが残した串肉を食べて、全然スパイス煮を食べてくれない。


 アルクさんがスパイス煮を食べてくれないと、今夜困るんですけど……。


 結局、スパイス煮が大好評過ぎてバーベキュー串はアルクさんが一人で食べた。


「お腹が張り裂けそうで気持ち悪い。死ぬ」


 そんなことを言って青い顔をしているアルクさん。


 こんな状態で初めての夜は大丈夫なのかしら?


 はしたない女と思われるかもしれないけど、最悪アルクさんを下にしてわたしは上で頑張るわ。


 とにかく既成事実を作らないとね。


 食事が終わり、そして来ましたテント割り当ての時間。


 わたしはテントの割り当てを発表する。


「ソラ団の3人は3人用テントを使って下さい」


「はーい!」


「二人用テントだけど――――」


「はい! はい! はーい! わたしがアルクと寝ます!」とアイラちゃん。


 想定通りね。


 わたしはアイラちゃんの希望を却下する。


「ダメです」


「なんで?」


「男の人と女の人を一緒に寝かせて何か問題が起きたらわたしが責任を取らないといけないんですよ!」と一喝する。


「わかりました……」


 アイラちゃんは思いっきりしょげていたけど、わたしの未来の為に犠牲になってね。


「一つ目のテントはアイラさんとソニアさん。もう一つのテントはアルクさんとわたしで使います」


 よっしゃー!


 やったね、ライム!


 これでアルクさんとの愛の舞台は整ったわ。


 これでアルクさんと今夜結ばれる。


 そう思ったんだけど……。


「それはダメだろう」


「えっ?」


 異議を唱えたのはゼルさんだった。


「さっき、男女が同じテントで寝て(あやま)ちが起きたら問題だとライムの姉御がいったんじゃないですか!」


 なんでこんな流れになるの?


 わたしは必死にシナリオを想定に戻す。


「アルクとわたしは幼馴染だからそう言った問題は起きないです」


「起きますよ! アルクはこう見えても男だし、姉御はこんなに素敵な女性なんですから!」


 その時見せたソラさんのゼルさんを軽蔑したかのような視線が冷たすぎて怖かった。


 *


 結局、その夜はアイラちゃんと一緒に寝ることになった。


 ちなみにアルクさんはゼルさんと同じテントだ。


 テントではマジ泣きした。


 これが泣かないでいられるか。


 今夜の為にどれだけ準備に時間を費やしたと思ってるの……。


 泣き止まないわたしを見て心配したアイラちゃんが声を掛けてきた。


「ライムさん、ずっと泣き続けてどうしたんですか?」


「わたしの人生はもう終わりよ」


 涙を拭うけど、涙は止まらない。


「実は今夜、アルクさんと初めての夜を過ごすつもりだったのよ」


「それって大人の夜?」


「そうよ。スタミナたっぷりな食事に、こんなスケスケなエッチな下着まで用意してね」


 わたしは下着をアイラちゃんに見せる。


 軽蔑するならしてくれ。


 でもアイラちゃんは軽蔑をしなかった。


「それって……本気?」


「子どもの頃からアルクさんのことが大好きで、アルクさんと結婚するのが夢だったのよ」


 それを聞いたアイラちゃんは自分の胸をドンと叩く。


「そんな事ならお安い御用、このアイラにお任せ下さい」


 テントを飛び出るアイラちゃん。


 すぐにアルクさんを連れてきた。


「ライムさんが子どもの頃からアルクのことをずっと好きだったから結婚して欲しいんだって」


「ええー?」


 動揺しまくるアルクさん。


 これでわたしの恋心がバレてアルクさんの仲も終わりだと思ったんだけど……。


 でも予想してた反応とちょっと違った。


「マジですか?」


 明らかに喜んでいた。


 アイラちゃんが続ける。


「2人も3人も結婚するのは同じなんだから、ライムさんとも結婚しちゃいなよ」


 改まった表情でアルクさんが聞いて来た。


「ソニアとアイラも婚約してるけど、俺でいいんですか?」


「是非ともお願いします」


 なにこれ。


 こんなに簡単にプロポーズが受け入れられたんだけど……。


 今まで悩んでたのはなんだったの?って感じ。


 こうしてわたしはアルクさんと婚約することになりました。

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