ワイルド・ボア狩り講習③ 水浴び
狩りを終えたリプレイスメントのメンバーはもっとも簡単なキャンプ料理であるバーベキューの準備だ。
バーベキューと言っても野菜は全く使ってないので町の市場で買える焼き鳥に近い。
ボア肉なので焼き鳥というのもおかしいな。
やっぱりバーベキューか。
取り敢えず、肉を細かく切って、昨日市場で買って来た串にさして調味料を振る。
調味料はちょっとお高かったけどケチったら負けだ。
スパイスが肉の臭みを消して、塩が味を引き締める。
特に高かったのが岩塩なんだけど、生産地に激強な魔物が棲みついてしまったらしく小瓶ひとつ買うのに勇気が必要だったのは内緒だ。
俺たちリプレイスメントのメンバーがバーベキューの下ごしらえをしてる一方で、ソラ団のメンバーはライムに教わりながら干し肉の作り方を習っている。
干し肉と言っても干しては作らない。
本当に天日で干す作り方も有るけど、それはジャーキーと呼ばれている酒のつまみの作り方だ。
塩をたっぷりとまぶして香草を乗せ、大きな葉で包むのが干し肉。
本当は塩漬け肉なんだけど、なんでこっちの方が干し肉と呼ばれるようになったのかは謎だ。
まあ、干し肉関連の知識は全てソニアから聞いた受け売りである。
さっき言ったように岩塩が値上がりしているので干し肉を作っても儲けは皆無に等しく、俺たちは干し肉を作ることはしない。
まあ、知識として持っているだけだ。
ワイルド・ボアの肉の下ごしらえをしながらアイラがぼやいた。
「今回の講習は得るものが殆どありませんね」
「そう言うなって。俺たちには熟練の戦士であり冒険者であるソニアがいるから何でも教えてくれて今回の講習で得ることがなにも無いけど、本来の俺たちのレベルだとソラ団の連中と一緒に干し肉の作り方を教えて貰うのが一緒だろ?」
「確かにソニアさんのお陰ですね」
アイラに褒められたソニアは普段から大きな胸が更に張ってるように見えた。
そんな鼻高々なソニアにアイラが聞く。
「ソニアさんのレベルっていくつなんですか?」
「この前、グレート・サイクロプスを倒した時に上がったので63だよ」
「そんなにレベルが高かったんですか? それだと、サビア屋のでの値段が高過ぎて買い手が付かなかったんじゃないですか?」
「確かに売れなかったんだけど……金貨500枚……」
「えっ? なんでそんなに安いんですか!」
「前にも話したけど、角が折れてるから力が出せなくて完全な役立たずだったから……。処分価格だったんだ」
「ソニアさんみたいな凄い人を金貨500枚で売る店はバカですね」
「そうだね。でもそのお陰でご主人様のアルク様と出会えたんだから店には感謝してるよ」
「ですね。わたしもアルクがご主人様、いや未来の旦那様で良かった」
照れること言いやがって。
でも、俺にアイラはもったいないよな?
俺はアイラに前から思っていたことを聞いてみる。
「俺が婚約者ってアイラをサビア屋で買ったからなんだと思うけど、今でも有効なのか?」
「一生有効です」
「俺がサビアから解放したら、貴族との結婚は無理でも大金持ちの商人とか役人と結婚できるんじゃないんじゃ?」
「結婚するならアルクとじゃないと嫌だよ」
嬉しいこと言ってくれるけど、本当に俺でいいのかよ?と思ってしまう。
そんな話をしていると、干し肉作りの講習を終えたソラ団のメンバーとライムが戻って来た。
「おし、飯だ! 夕飯だ! バーべキューだ!」
夕飯を催促するゼルをライムが引き留める。
「料理はわたしがやっておくから、ご飯の前に今日一日頑張って泥だらけで汗まみれになったその汚い身体を川で洗ってきなさい」
「腹減ったし、めんどくさいから風呂はいいわ」
「お前は風呂キャン界隈の人間かよ!」
俺が思わず突っ込むとライムも援護だ。
「冒険者をしていると必ず水浴びが出来るとは限らないのです。風呂に入れる機会は毎回じゃないのでは入れる時は入っておきなさい」
「でも……」
「汗の臭いがすると魔物を引き寄せる原因になります。第一、彼女のソラさんに嫌われてしまいますよ」
「わかった、わかった。そこでソラの名前を出すのは反則だぜ」
ゼルはライムの姉御がそこまで言うのならばと、水浴びに向かうことにした。
「女の子から先に水浴びをして、男性陣はその間護衛するのよ」
「ほーい!」
*
川からはキャッキャッと騒ぐ楽し気な声が聞こえてくる。
魔物が近づかないよう一緒に護衛をしていたゼルが興味津々だ。
「なにをしてるか気になるな」
「水浴びだろう」
「ちげーよ、そういうことじゃねーよ!」
ゼルは耳打ちをしてきた。
「女どもの水浴びを覗きに行かねーか?」
「いかねーよ。覗きなんてして愛想を尽かされたら困る」
「なにビビってるんだよ」
「お前だってソラに振られるぞ」
「お前、覗きで振られたのか?」
「ああ。振られた」
俺が降られたのは天職にチカン師を引いたからだけど、ゼルを止められるなら誤解されても構わん。
俺はトドメの一撃を加える。
「お前だって、いつソラに振られるかわからないぞ」
「ソラに関しては幼馴染だし、なにが有っても絶対に振られることは無いと思う……」
「本当にそう言い切れるのか?」
「た、多分……」
「いや、覗きがバレたら絶対に振られると思うぞ!」
「経験者の忠告は素直に聞いておくか」
ゼルは大人しく護衛を続けることにしたようだ。
*
一方、キャンプ地の調理場ではライムが暗躍しているのであった。




