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アイラの覚悟

 その時、アイラが立ち上がった。


「アルクとはなにもしていない」


 おっさんが鼻で笑った。


「証拠なんて無いからと適当なことを言ってるんですよね?」


 アイラはその笑いを吹き飛ばす勢いで答えた。


「ある!」


 アイラはおっさんの耳元に口を寄せるとなにかを囁いた。


 それを聞いたおっさんは顔色を真っ青にする。


「それは本当ですか?」


「うん!」


 店員の格好をした部下を捕まえると叫ぶ。


「大至急、確認して来い!」


「はっ!」


 しばらくするとアイラを連れて店の外へと消えて行った。


 アイラが嫌がりもせずに部下に連れていかれた様子を見ていると酷いことはしないと思うが……。


 俺は相変わらず机に押さえ付けられたまま問いただす。


「アイラになにをする気だ」


「もうしばらく待ってろ」


 部下が戻ってくると、おっさんに報告書を渡す。


「間違いなく、お嬢様はいかがわしいことをしてない様です」


「なんだと!」


 慌てて報告書を読むおっさん。


 俺とソニアの拘束は解かれ、そこからおっさんの態度が一変した。


「わたくしだけでなくお嬢様の命の恩人なのに大変失礼なことをした。申し訳ない」


 お礼の金が貰えなくなるのは困るからな。


 俺は腹が立ちつつもぐっと堪える。


「わかって貰えればいいんです」


 ここまでおっさんの態度が豹変する報告書とはアイラはいったいなにをしてきたんだろうか?


 謎過ぎる。


「アルク君はこの診断書によりお嬢様を襲ってないことが、証明された。君が真正の童貞であることを認めよう」


 部下も納得して頷いている。


「童貞顔だと思ったらやはり童貞だったか」


 童貞童貞うるせーよ!


 童貞顔ってどんな顔だよ!


 おっさんが童貞童貞騒ぐから憐みの目で厨房のコックたちが俺の顔をガン見しているじゃないか!


 俺はモテなくてエッチが出来ねーんじゃないの!


 結婚するまで清い身体でいたいだけなの!


 そう心の中で下手な言い訳をする。


 それにしてもアイラの診断書で俺の童貞がわかるとか謎でしかない。


 おっさんは俺が童貞だったことでかなり困った顔をしていた。


「アルク君が童貞となると困りましたな……」


「俺が童貞だと、なにが悪いんだよ」


「婚約者からクレームが来たことで、旦那様が大層お怒りになりまして……。『政略結婚の道具に使えなくなった()()など要らん!』だの『結婚前に行きずりの男と関係を持つような(めかけ)のビッチな娘などサビア屋に売り飛ばして来い!』とか『あれだけ金を掛けてやっと辿り着いた結婚を台無しにするクズの顔は二度と見たくない』と言われててまして……このままではお屋敷に帰れないです」


 妾の娘でも自分の血が流れてるんだから、実の娘を道具とかモノとか言うなよ。


 なんという父親だ!


 俺は心の底から怒りが込み上げてきたが、それを顔に出さないように冷静を装った。


「アイラはなにもしていなかったと誤解を解くのじゃダメなのか?」


「旦那様は頑固で、一度お怒りになるとなにも進言を聞いてくれなくなるのです」


 そこまで言われるんなら、俺にも考えがある。


「アイラを俺に引き取らせてくれませんか?」


「お嬢様もアルク君に懐いているようだし、そうしたいとこなんですが……お嬢様のサビア屋への売却証明が無いと旦那様は納得してくれません」


 なんだと……。


 アイラはどうあってもサビアにしないとならないのか?


 俺たちは頭を抱えているとアイラがいい案があるという。


「全てを私に任せて!」


 *


 アイラはサビア屋に俺たちを連れて行く。


 サビア屋の受付にはあのムカつくミントがいた。


「角の折れたオーガサビアがポンコツ過ぎるとわかったとしても返品はお断りよ。ぷーくすくす」


「そんな用事で来たんじゃねーよ」


 こいつ、ソニアの角が折れてて力の出ないポンコツだったのを知っていながら俺に隠して売りつけたんだな。


 許せねぇ。


 まあ、そのソニアは折れた角も治療して、今や俺の大切な戦力いや相棒だ。


 大金積まれて返してくれと土下座されても売るもんか。


 アイラはミントを相手にしないで話を進めた。


「まず、執事さんがわたしをサビア屋に売る」


「売っていいのですか? お嬢様は貴族で無くなるのですよ?」


「全ては覚悟の上のこと。売却証明が無いのならば本当に売って作ればいい」


「なるほど……お嬢様の覚悟、この私が見届けます」


 アイラの買取価格をミントが示した。


「値段は金貨50枚ぐらいかな」


「安いな」


「わがまま放題に育てられた貴族の娘なんてサビアに欲しがる人なんていないからね」


 ソニアの買い値が金貨500枚だったので、それに比べると相当に安い。


 執事のおっさんも頷いていた。


「サビアの買取の値段の相場はそのぐらいのはずですな」


 無事にアイラの売買が成立して、おっさんは金貨50枚と売却証明を手に入れた。


 今度はアイラを買い戻す俺の番だ。


「今度は俺が売った値段の金貨50枚でアイラを買い戻せばいいんだな」


 俺が金を払おうとするとミントは拒否した。


「バカ言ってるんじゃないわよ。買値は売値の10倍、金貨500枚が相場よ」


 この強欲め。


 俺が困る顔を見て喜んでやがる。


 でも残念~!


 俺が金貨500枚なんて大金は持ってないと思ってるんだろうけど、今の俺にとっては金貨500枚なんて端金だ。


 って、嘘言いました。


 婚約者から貰った金貨500枚を丁度持ってるだけです。


 俺はミントにそれっぽい演技をしてぬか喜びさせる。


「500枚かよ……。高いな……」


「ピッタリ金貨500枚、ビタ一文まけないわよ! 一週間で金貨500枚を用意できなかったら、そのサビアは他の客に売っちゃうからね」


 ミントはとても意地悪そうな顔をしていた。


 「話が違うじゃないか!」とおっさんも大弱りだ。


 悪びれもせず、ミントは俺たちを挑発する。


「アルクの代金をおっさんが肩代わりする?」


「いえ、今回は急ぎの旅でしたので手持ちが一切なくて……」


 (はな)からサイクロプスから助けて貰ったお礼を払う気なんて無かったんじゃないか。


 とんでもないおっさんだ。


 今度おっさんがサイクロプスに襲われていても絶対に助けてやらん。


 おっさんのことは置いておいて…………俺は受付に金貨500枚を叩きつける。


 その時のミントの顔ったらあごが外れそうで笑えた。


「なんで、こんな大金もってるのよ! このまえオーガのサビアを買ったばかりでしょ?」


「今の俺は羽振りがいいんでな」


 アイラは無視して話を続けた。


「それで執事さんには売却証明が手に入り、私は晴れてアルクの物となる」


「なるほどです、お嬢様。みんなウィンウィンですな」


「そういうが、貴族じゃなくなったアイラだけが損をしてないか?」


「もうわたしは実家での居場所は無いし、アルクと一緒に居られるならそれでいい。アルクと一緒に居られるのがわたしのウィン」


「そうか」


 アイラの売却は滞りなく進み、アイラは俺のサビアとなった。


「よろしくな、アイラ。これから楽しくやっていこうぜ」


「うん!」


 こうしてアイラは俺の新しい仲間となったのであった。

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