(27)最終確認
「カイル様。到着しました」
「ああ。設営や警備も問題ないようだな」
ほぼ予定通り、夕刻前に野営地に着いたカイルは、馬から下りて慎重に周囲の様子を観察した。すると先行して諸々を準備していたロベルトとアスランが、早速報告にやって来る。
「カイル様、お待ちしていました」
「無事の到着、何よりです」
「避難民とイーサン達とすれ違ったぞ。早速だが、状況を確認しておきたい」
「それではこちらへどうぞ」
挨拶もそこそこに、カイル達は連れ立って移動した。そこには簡易式の机を囲むように主だった部隊長が立っており、カイル達はそこに混ざる。そして、机の上にある周辺地域の地図を指し示しながらの説明が始まった。
「この地図をご覧ください。エンバスタ国クレート伯爵領から、こちらに入るルートは二箇所。今回はこのカディス峠経由で侵入してきたわけです。それでトルファン城に向けての進路上にあるベロール村とジェルトル村を占拠されてしまったわけですが、この二つの村を囲んで山が連なっており、ちょっとした盆地の形状です」
予め事前に地図で地形を頭に入れてはいたものの、カイルは周囲の山脈や前方にある起伏を確認しながら、真顔で頷く。
「あそこの坂道を登り切った向こうがその地域になるわけですが、左右の山に繋がる斜面を切り開いて作られた道なので、幅が狭くて一気に大人数を投入できません」
「それは向こうも同じで、向こうが下りてきたところを待ち構えて各個撃破すれば良いのですが、向こうが数に任せて攻めてきたら厄介です」
「こちら側の広さより向こうの方が遙かに広く、大人数の騎士や歩兵を配備できますからね」
「グズグズしているとカディス峠経由でどんどん兵士や物品が送り込まれて、物量作戦で来られたら確実に押し切られます」
「それに膠着状態になると見越して、ここに最大限の戦力を張り付かせている間に、ヴォール男爵がトルファン城を攻める、という密約でしょうし」
「短期決戦、かつこちらの被害は最小限にして向こうにできるだけの被害を与えて、講和に持ち込む。これしかありません」
「基本方針はそれで決まりだな」
口々に説明してくる隊長達の顔を見回しながら、カイルが最終確認を行う。それに周囲は、硬い表情のまま頷いて応じた。そこでサーディンが話を進めようとする。
「あとは、実際の戦法ですが……」
「失礼します。戻りました」
背後から控え目に声がかけられ、カイルが素早く振り返った。サーディンも口を閉ざし、声の主に視線を向ける。
「ああ、ディロス。無事で何よりだ」
「本番前に見つかるヘマはできませんよ」
「それで、どうだ? やれそうか?」
カイルが笑顔で迎え入れた後、サーディンは早速首尾を尋ねた。それにディロスが、顔つきを改めながら報告する。
「最終確認を済ませてきました。獣道に毛が生えた程度の道ですが、一応目的の場所まで馬を連れて通れました。とは言っても、体格の良い軍馬には少々厳しいかもしれませんが」
「例の場所まで気付かれずに到達できるかどうかはともかく、連中の喉笛を掻き切れるか否かが問題なんだがな」
ここで憮然としながら、ロベルトが口を挟んできた。そんな彼に向かって、ディロスは不敵な笑みを浮かべながら応じる。
「皆さんなら十分可能かと。ロベルトさん。僕の保証ではご不満ですか?」
「いや。危ない橋を渡るのは、お前も一緒だからな。この際、最後までとことん付き合って貰うぞ」
「任せてください」
ロベルトが負けず劣らずの物騒な笑みを見せたところで、サーディンが判断を下す。
「そうと決まれば、明日は準備と最終確認。明後日に動くぞ。ヴォール男爵側からの変な動きも、城に残してきた兵力だけで牽制できるうちにケリをつけたい」
「了解しました」
「周囲の警戒を怠るなよ!?」
「奴らの動向を探るため、偵察も定期的に出せ!」
机を囲んでいた隊長達は揃って頷くと、一斉に各所に散っていった。そこでカイルは、改めてディロスに声をかける。
「ディロス、苦労をかけてすまない」
その謝罪の台詞に、彼は笑顔で言葉を返した。
「元はと言えば、僕が言い出したことですから。騎士の皆さんに無茶ぶりをして、自分だけ高みの見物なんてできませんよ。この日のために、前々から場所取りは完璧に済ませておきましたからね」
「よろしく頼む」
「それより、カイル様の準備は大丈夫ですか?」
その問いかけに、カイルは真顔で頷き返す。
「ああ。この間に、しっかりイメージを固めておいた。そして目視できないくらい距離が離れても、加護の発動が可能なのも確認できている」
「具体的には、どの程度ですか?」
「私がトルファン城、相手がギレウス採掘場に居ても可能だった」
その報告に、ディロスは驚いたように軽く目を見開いてから、満足げに笑みを深めた。
「うん、その距離だったら十分いけますね。本当に、カイル様の加護は万能で助かります」
「本当に万能かどうかは、実際に試してみないとな」
「そうですね」
微笑み合いながら話を終わらせた二人は、護衛の騎士達に呼ばれて滞在用の天幕に向かって移動を始める。
(正直、不安要素がありすぎるが、事ここに至ったらやるしかない。皆の命は、私にかかっているのだからな)
くすぶっている不安を内心で押さえ込みつつ、カイルは決戦に向けての意気込みを新たにしていた。




