表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜  作者: 如月 玲
第3章 策謀、紛争、ついでに縁談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/103

(26)覚悟

 侵攻の一報があった翌朝。早い時間に城内の広場に、騎士達や荷駄隊が整然と列を作った。そんな中、カイルは最終的な確認を兼ねつつ、城に残る面々と言葉を交わす。


「領内の各所に配備している騎士達とは、現地で合流予定になっています。城には二百だけ残して、他は全員出立させます」

「兵站準備は問題ありません。取りあえず一週間分を送ります」

「それではダレン、シーラ、後の事はよろしく頼む」

「了解いたしました。こちらはお任せください」

 そこでカイルは、この場に顔を見せていない義姉あねの事を思い出した。


「ところでメリアは? 具合でも悪いのか?」

 それを受けて、シーラが若干困った顔で事情を説明する。


「その……、具合は悪くないんですが、見送りに出てきたら泣き出しそうなので、今回は遠慮すると言いまして。出立前に、カイル様を困らせたくなかったみたいです」

「そうか……。昨日、アスランが出立した時も、随分慌ただしかっただろうしな。出産も近いのに、益々心細い思いをさせてしまうだろう。シーラ、メリアの事もよろしく頼む」

「お任せください。アスランにも頼まれていますしね」

 笑顔で請け負ったシーラを見て、カイルの表情も若干明るくなった。しかしすぐに気を引き締め、周囲を見回しながら宣言する。


「それでは出立!」

「行くぞ!」

「列を乱すな!」

「急げ!」

 それに応じる声が即座に周囲から上がり、軍勢は整然と、しかし素早く城門を抜けて街道を遠ざかっていった。そんな彼らを見送った残留組の最前列で、シーラが若干疲れたように呟く。


「はぁ……、本当に忙しなかったわねぇ……」

 それに、ダレンが即座に囁き返した。


「本当に忙しくなるのはこれからだ。それはお前が、一番良く分かっているだろう?」

「勿論です。従来の俸給のままで、普段の三倍働いて見せようじゃありませんか」

「それは心強いな」

 ダレンと不敵な笑みで応じたシーラは、カイルが立ち去った方向とは逆方向、ヴォール男爵領に繋がる方向に向き直った。そして遠くを眺めやりながら独りごちる。


「さて、あちらさんは、どう動いてくれますかね……」

 その呟きに返事が期待されていないのが分かっていたダレンは、彼女と同じ方向に視線を向けながら、僅かに眉根を寄せただけだった。 




 ※※※



 カイル達が国境に向かって道を急いでいると、そろそろ昼休憩を挟もうかというところで、進軍が止まった。カイルが騎乗したまま待機していると、前方から馬を駆ってきた騎士が報告してくる。


「伯爵! 国境付近から避難してきた一団と遭遇しました!」

「分かった。それではここで暫く小休止とする。そのように伝えろ」

「畏まりました」

 周囲の者に短く指示を出してから、カイルは再び前方からやって来た騎士に視線を向ける。


「その者達はどこにいる? 案内してくれ」

「それでは後に付いてきてください」

 カイルはそのまま騎士の後に続いて馬を進め、前方に移動した。すると少し進んだところで街道から外れ、草原の方に移動する。するとそこには、何台もの荷馬車や軍馬、その他に家畜用の馬などが囲んでいる中で、数十人の村人と思しき者達が地面に身体を投げ出したり座り込んでいた。


「た、助かったぁあああっ!」

「うわぁあぁぁぁ――ん!」

「まだ村に、家族がいるんです!」

「怪我人の処置を急げ!」

「毛布と食料の配布! 動かせる者は、通過してきた村に移送だ!」

「受け入れ体勢を整えろ!」

 ただならぬ喧噪が伝わってきた時点でカイルは馬を下り、同行してきた騎士に馬を預ける。そして泣き叫んでいる避難民や、負傷者の手当や受け入れに奔走している騎士達を眺めながら、密かに歯噛みした。


(無傷な人間はいないようだし、村の人員がこれだけの筈がない。現地で殺されてしまったか、捕虜になっているか……)

 改めて現実を認識させられた事で、カイルは自責の念にかられる。


(頭では理解してはいたつもりだったが……、やはりきちんと分かってはいなかったな。被害を最小限というのは、綺麗事に過ぎない。領民それぞれに生活があり、人生があるのに……)

 ここで、無言で佇んでいた主君の姿を認めた騎士が、顔を強張らせながら歩み寄った。そしてカイルの前で片膝を折り、深々と頭を下げる。


「申し訳ありません、伯爵。全力で応戦しましたが、これだけの人員を守りながら撤退することしかできませんでした」

 警戒のため配置していた部隊の長である彼に対して、カイルは詫びる気持ちはあっても叱責する気持ちは皆無だった。


「イーサン。君は十分努めを果たしてくれたし、命を落としてしまった部下もいるだろう。戦力差は明らかだし、君の落ち度ではない。君達の隊はこのまま城に戻って、怪我を癒やしつつ城の守備に専念してくれ」

 左肩から上腕にかけてかなりの深手を負っているらしく、血まみれの腕を吊っていた彼を、カイルは本気で労った。しかしイーサンは益々表情を険しくしながら言い募る。


「いえ、伯爵! これ以上、あんな奴らの好き勝手にはさせません! 是非、このままお連れください!」

「それは駄目だ。きちんと治療しないと、命にかかわる。ここは退くんだ。後日、存分に役に立って貰うつもりだからな」

「……了解いたしました」

 食い下がったイーサンだったが、カイルに語気強く言い聞かされたことで、何とか気持ちを抑え込んで了承する。するとここで人垣を抜けて、一人の壮年の男がカイルに近づいてきた。


「おい、あんたが伯爵なんだって?」

「そうだが。どうかしたのか?」

 その男のただならぬ気配に、イーサンがすかさず立ち上がってカイルを庇う体勢になる。周囲の護衛達も何事かと意識を向ける中、男は勢いよくカイルを指さしながら罵声を浴びせてきた。


「はっ! これが噂に聞く、加護無し王子様かよ! こんな能無しが領主になったから、俺達の村が滅茶苦茶になったんじゃねぇか!!」

 そんな理不尽な暴言を放った男に対し、カイルを護衛している騎士達は揃って顔色を変えながら怒鳴り返した。


「なんだと!?」

「貴様、ふざけるなよ!?」

「どうしてエンバスタが攻めてきたのが、伯爵のせいになるんだ!?」

「当たり前だろう! 攻められても楽に追い返せるような強い加護持ちだったら、エンバスタだって怖じ気づいて攻めてこねぇじゃねぇか!」

「馬鹿か、貴様!」

「それなら前の領主の時は、どうして攻めてこなかったと思ってるんだよ!?」

「領主が無能の上、領民から税を巻き上げていて領地全体が貧しくて、攻めても大して益がなかったからじゃねえか!」

「今度の領主様になってから色々景気が良くなったってか? それならやっぱりあんたのせいじゃねぇか! 他の所でどれだけ儲かってようが、俺の知ったことか!! もう俺達の村は、無くなっちまったんだぞ!! 馬鹿野郎ぉ――っ!!」

 男はそのまま地面に崩れ落ち、「うわぁあぁぁぁ――っ!!」と号泣し始めた。さすがに騎士達はそんな男をそれ以上責めたりせず、無言で顔を見合わせる。そんな彼らの中から一歩前に出たカイルは、地面に蹲っている男に向かって静かに声をかけた。


「君の言いたいことは分かった。確かに君達の村は取り戻せないし、元通りにできないかもしれない。だが、領主として最善を尽くす事だけは約束する」

 むせび泣いている男はそれに反応せず、顔も上げなかった。しかし彼の反応を期待していなかったカイルは、イーサンに向き直る。


「イーサン、彼の世話を頼んで良いか? 他にも彼のように興奮状態になっている者がいるかもしれないが、よろしく頼む」

「畏まりました。私の隊にお任せください」

 これは最後まで自分達で責任を持たないといけないと思い直したイーサンは、顔つきを改めて真摯に頷いた。それに頷き返してから、いつの間にか至近距離に来ていたサーディンに声をかける。


「サーディン。小休止の間に諸々の手配が済ませ、完了次第出発する。暗くなる前に、野営地に着きたい」

「そうですね。ところで、大丈夫ですか?」

 先程のやり取りを目撃していたらしいサーディンに、カイルは溜め息交じりに告げる。


「ああ。彼の怒りは当然だ。領主として、領民の生活を守る事ができなかったのは事実だからな。どうすれば良かったのか正解は分からないが、これから自分にできることをやるしかないだろう」

「その通りですね」

 主君がしっかりと気持ちを切り替えているのを確認できたサーディンは、微笑を浮かべながらそれに応じた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ