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加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜  作者: 如月 玲
第3章 策謀、紛争、ついでに縁談

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(25)火急の知らせ

 国境から侵攻の可能性があっても日々の業務を疎かにはできず、カイルはその日も朝から執務室で、部下達から上がってきた書類の精査と政策立案に勤しんでいた。


「ダレン、これを確認してくれ。それからシーラから、来年の街道整備の予算案は上がってきているか?」

「例の調査に時間を取られて、作成が遅れているようです」

「それなら急がなくて良い。余裕はあるからな」

 ダレンが立ち上がり、書類を受け取ろうとカイルの机に向かって近づこうとしたところで、廊下の方から微かに伝わってくる喧噪と慌ただしい足音と共に、勢いよくドアが開けられる。そして飛び込んできた兵士は、険しい顔つきで一気に報告してきた。


「伯爵! 緊急伝令! カディス峠経由で、エンバスタ国が我が領内に侵入! ベロール村が既に占拠、ジェルトル村で付近の部隊が応戦後、撤退したとの事です!」

 それを耳にした途端、カイルは勢い良く立ち上がりながら確認を入れる。


「騎士団には報告しているか!?」

「第一報を入れてすぐに、先遣隊が出発! ロベルト隊長が指揮を執っております!」

「分かった! 直ちにサーディンとアスランを呼べ!」

「了解しました!」

 時間を無駄にせずカイルは指示を出し、兵士は踵を返して廊下に駆け出していった。それを見送ったカイルは、険しい顔つきでダレンを振り返る。


「そういう事だから、全ての業務は一旦停止だ」

「心得ております。臨戦体制に切り替えます。ダニエル、各部署への通達と確認事項の徹底を」

「はい。城内を回って来ます」

 執務室内で打ち合わせと戦闘準備を進めていると、短いノックの後に忙しげにサーディンとアスランがやって来た。


「今、報告を受けたところだ」

 元通り椅子に座り、傍目には微塵も動揺しているように見えないカイルが、二人が何か言う前に話の口火を切った。それに小さく頷き返してから、サーディンも落ち着き払って告げる。


「それでは伯爵。明朝、ご出立をお願いします。ある程度の人数を付けて出したので、ロベルトなら万が一夜襲をかけられても、何とでもなるでしょう。念のため今からアスランに資材を持たせて、陣地設営をさせておきます」

 それを聞いたカイルは、アスランに顔を向けた。


「よろしく頼む」

「お任せください。あと、避難民もできるだけ保護して、後方に送ります」

「そうしてくれ」

 そこでアスランは、一足先に早足で執務室を出て行く。それに続いて、サーディンも踵を返した。


「兵站について、これからシーラに確認してきます。あとシーラには、この城の守備を任せる部隊と諸々を詰めて貰う必要がありますので」

「そうだな。任せる」

 簡潔に告げてからサーディンも執務室を後にし、室内に静寂が戻った。いつの間にか独りだけになっていた室内に、カイルの呟く声が響く。


「予想はできていたが、やはりこうなったか……。こうなった以上、仕方がないな。できるだけの事をしなければ……」

 目の前の机を凝視しながらカイルが独りで考え込んでいると、いつの間にかやって来たリーンが横からお伺いを立ててくる。


「伯爵、よろしかったらどうぞ」

「……ああ、貰おうか」

 彼がトレーを手にしているのを目にしたカイルは、僅かに表情を緩めて応じた。それを受けて、リーンは静かに主君の目の前にカップを置く。それに続いて、さりげなく報告した。


「城全体が慌ただしくなるのは、仕方がありませんね。ディロスはつい先程、話を聞くなり城を出ていきました」

 それを耳にしたカイルは、再びカップを口に持って行く動きを止めながら反射的に問い返す。


「ちょっと待て。単身でか?」

「ええ。独りで非武装で動いていた方が、見咎められないからと言っていました。身軽だという以前に、非戦闘職種なのに度胸が凄すぎますよ」

 それはどうしても戦闘職種としては働けない自分を幾分卑下しての台詞だったが、カイルは重い溜め息を吐いた。


「騎士でもないディロスまで前線投入とか。私は本当にろくでもない領主だな」

 そんなことを自嘲気味に呟く主君を、リーンが苦笑気味に宥める。


「本人が望んでしている事ですから。できれば私も一緒に付いていきたいのですが、戦場ではどう考えても足手まといになりますので。自由に動けて機転が利くディロスが、本当に羨ましいです」

 そこでいち早く早く気持ちを切り替えたカイルは、リーンに真剣な面持ちで告げた。


「人には、向き不向きがある。リーンには今回、城の内部監視を頼む。くれぐれも不穏分子を出さないように注意してくれ。不安要素がありすぎるから。用心するのに越したことはない」

「はい。ただでさえ領主不在で最低限の防衛人数、しかも城代権限を女が持っているなんて状態、普通だったら不平不満が噴出ですよね。カイル様が留守の間は全力で抑えますのでご安心を」

「頼りにしている」

 真剣に頷いてから、カイルは再びお茶を飲み始めた。それから彼は出立準備と、今後の計画の最終確認に時間を費やしていった。






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